『マドリード戦記』 王女革命編 24 革命②
『マドリード戦記』 王女革命編 24 革命②
首都シーマで、ミタス軍が進入。
それを出迎える民衆。
それを警戒し、動き出す貴族評議軍。
両者、ついに激突……革命が幕をあげる!
革命 2
ついに革命本戦というべき衝突がシーマ市内で発生した。
4月6日、午後の事であった。
発端は市民の大移動であった。
すでに戦争が間違いないという状況を感じ取った市民たちの大規模な疎開活動が発生し、それは瞬く間に膨れ上がった。シーマのターミナル駅は人でごった返し、大通りも街を脱出しようとする民衆で溢れかえった。この日の脱出組は約1万人であった。
元々避難民が出ることはアリア軍も想定していて、そのためにミタスの第一軍を派遣していたし、シーマとリィズナの間に避難村を作ってはいたが悠長に誘導できるレベルではなくなってしまった。
市内の指揮官はトジーユン=ミタス少将だ。ミタスはこれが大戦に繋がる戦端のキッカケになるのではないか、と直感した。この大移動でアリア軍も混乱し反応も遅い。何より大通りが埋まれば郊外の本陣との連携ができなくなる。そして悪いことにアリアはアーマー受け取りのため司令部にいない。
「司令部に連絡。歩兵でなくアーマー部隊を少し寄越すよう言ってくれ」
ミタスはターミナル前の広場で避難民を眺めながら命じた。ミタスの第一軍は歩兵主力の軍団だ。これまでとは違う雰囲気があり、一発触発の可能性をはっきりと感じた。避難する民衆たちも『戦争が近い』と肌で感じていた。戦禍に巻き込まれず生き残る、と決めた人間の本能的な行動は必死で、やはり特別の雰囲気を持っている。
この民衆たちは取り扱いを一歩間違えば暴徒となりかねない。それは両軍にとって言えることで、その点アリアは民を守る立場にありそのための手配も済ませ、その指揮を軍と民衆、双方の心理に長けたミタスに任せていた。そのミタスが「これは尋常ではない」と判断するような、そんな雰囲気が街中に満ちていた。
この手の予感は一級の戦士にとって遠い雨雲を見て数時間後の嵐を言い当てるようなものでそれほど特別なことではない。ミタスが司令部に報じた後だが、シーマ市外の中継地で陣取っていた第三軍シュナイゼンもアリアの本陣に同様の報告をしている。
<ミカ・ルル>でその報を受けたアリアはアーマー第二部隊、コロラド=フォン=デフロム大尉に出動を命じた。<ガノン>約20機が整然と避難民を先導しつつシーマ・ターミナル駅に向かった。そのこと自体、アリアにもミタスにも特別戦略的意図はなかった。ただ、予感はあった。でなければ思い切って20機というアーマーを出したりはしない。
しかしこの手の不幸な予感というものは何故か的中する。
民衆は、アリアの出した『誘導のためのアーマー部隊』を『自分たちの守護者』だと錯覚し、その登場に歓喜で迎え入れた。これで貴族評議会軍の危険から守られると思ったのだろう。ミタスの部下がそのようなことを多少民衆に伝えていたとも言われている。
政治と戦争は化学反応と似ている。水を加えて起きる反応でも、元になっている元素が僅かに違うだけで反応が大きく変わる。
この民衆の歓声に、まず過剰反応したのが王城近くに住む貴族、富豪たちだ。
彼等はこの革命戦の傍観を決め込んでいたが民衆の動きに「革命戦争が始まった!」と誤認した。彼等も静かに傍観していたわけではない、逃げる準備は万全であった。そして彼等はこれを機会と見、逃げ出した。
その姿は、民衆たちには何も影響を与えなかったが、間近で見ていた貴族評議会は騒然となった。
『首都憲兵長官兼国防軍軍務長』であるバロウズ=フォン=コクラン伯爵は、これまで自分たちに尻尾を振りひたすら平伏していた貴族たちが逃げたのを決定的な裏切り行動だと判断した。元々傲慢と蛮勇を看板にしている男である。これまでは上官にクレイド伯がおり、クレイドとバロウズは親戚関係でもあり、レミングハルトが推す若いクレイドの支配に甘んじて屈していた。
その欲求不満もあり、自由となった彼は暴発した。
バロウズは手にある騎兵500にすぐさま出撃を命じた。命令は「混乱の鎮圧」で、瞬く間に城下の貴族や富豪たちを力づくで沈静させていったが、その余波……80騎ほどが勢いあまりターミナル周辺の民衆にも襲い掛かった。彼らにしてみれば、逃げる貴族たちも民衆も敵であり見境などなかった。
大路に銃声と剣戟、そして悲鳴が響いた。
それはミタスの耳にも届いた。ミタスはすぐに手持ちの軍団の中からアーマー5機、騎兵100、歩兵300を出した。まだアリアの命令が下っていないので牽制と威力偵察で留めるつもりであった。
この大通りでの衝突は兵力差もありミタス軍の圧勝で、あっという間に蹴散らした。だが、それによる民衆の行動はミタスの想像を超えた。
助けられた貴族たちや逃げる事ができず戦火に遇った民衆たちは、アリア軍の強さを目の当たりにし、ほとんど暴徒となって貴族評議会軍に襲い掛かった。
武器などない。角材や鉄器などを手に、ほとんど本能的に貴族評議軍に抵抗を始めたのだ。
戦意と本能的行動力は高いが武装は違う。そして貴族評議軍のほうにも恐怖があった。その恐怖は暴力となって民衆に襲い掛かった。それは悲惨な虐殺と混乱の連鎖であった。
ミタス率いるアリア軍は数が少なく点在するような状態で民衆も貴族評議軍の暴力をどうすることもできなかった。
これにはさすがのミタスも事態が容易ならぬ流れになっていることを悟った。
一方、小部隊とはいえ初めてアリア軍とぶつかり、そして蹴散らされたバロウズは、元々の傲慢な性格もあり冷静さを保てるはずがなかった。
「愚か者ども全てをシーマから叩きだしてしまえ!!」
バロウズは猛獣の如く咆哮し、自ら陣頭に立つと歩兵3000人を町に放った。戦略も戦術もない、彼等は組織され武装殺人者の集団といってもよかったかもしれない。バロウズの命令も「民衆などいくらでも殺してしまえ!」という、到底作戦とは呼べないもので時代遅れの暴君さながらの命令であったため、兵士たちはミタス軍に激突する前に進軍に邪魔な民衆を一方的に攻撃した。
城下で悲鳴と怒号が巻き起こり、一方的な暴力が王城周辺に満ちた時見境のなくなったバロウズを『悪逆の将軍』にランクアップさせた。もはや彼は政府の正統な将軍などではなく、恐怖に怯え、その恐怖に対し虚勢を張り怒号するただの殺戮者であった。貴族評議軍の兵士たちも同じだ。彼らも自分たちがいつアリアに弾劾されるか分からぬ恐怖とアリア軍に対する純粋な恐怖があり、その恐怖が彼らを兵士ではなくただの殺戮者にした。
「各小隊、王城付近の屋敷を制圧して革命軍を迎え撃つ用意をしろ! この王城を囲むんだ!」
と命じた。そしてバロウズは王城から1キロのところにあるクメルギス子爵の屋敷に踏み込んでそこを自分の本陣とした。クメルギス準爵家は貴族としては何にも価値はないが、商売に成功に屋敷は大きく軍の本営としては十分だった。クメルギス家当主ミリ=フォン=クメルギスはこの時バロウズに反抗したため、兵士たちに殺害されている。
こうしてついにシーマに火の手が上がった。
厄介なことに、戦火が上がったのは4月6日、夕方の事であった。
そのためアーマーや飛行艇、火砲の出番はなく、バロウズ軍とミタス軍との市街戦が繰り広げられることになった。純粋な歩兵だけの市街戦で総兵力ではミタス軍に不利だ。この民衆が間に入った混戦状態ではアーマーが真価を発揮できない。
ミタスは戦闘指揮官というだけではない。アリア軍の軍団長である他に政治的でもアリアの代弁者でもあった。
ミタスは少数の士官に巧く駆使し、混乱する民衆たちをなんとかまとめると非戦闘員たちを諌め、それらを避難させながら同時にバロウズ軍と戦闘しなければならなかった。
ミタスがようやく民衆たちを制御できるようになったのは夜になりコロラド大尉が到着し、さらに第一軍分隊長カルレント=フォン=バーダック少佐貴下の混成部隊1000名が市内に入ってからだ。ミタスの第一軍軍団の約1/3は市内に入り交戦を始めたことになる。
4月6日……事実上の革命戦初戦は夜の市街戦に突入した。
革命戦の火蓋は完全に落された。
ミタスは分隊長カルレントと合流し、歩兵部隊をなんとかまとめ上げ、組織的な反撃が始まった。
しかし依然、シーマの街中は大混戦と大混乱である。ついに我慢の限界を迎えた民衆の暴徒はまるで伝染病が広がるようにシーマ全域に広がりつつある。
「何をやっているんだ!!」
一番この事態に驚いたのはレミングハルトのほうだった。レミングハルトはレミングハルトなりに戦略があった。彼の考えでは戦争になるのにはまだ早く、突然すぎた。
暴発したといっていい軍を呼び戻そうにも肝心の指揮官のバロウズ自身が飛び出していったため情報は錯綜しレミングハルト周辺も混乱の極にあった。ようやく事態を把握したのは夜8時を過ぎた頃で、もうこの頃には小規模戦闘が各地で起こり収拾は不可能であった。
一方、アリアのほうも小さな驚きと混乱はあったが、それははるかに軽度であった。元々民衆の恐慌や貴族評議会軍の暴発を想定していた。
アリアはついに決し、全軍に作戦実行を命じた。
夜だったので前線指揮はミタスに完全に任せ、アリアはまず戦略的作戦を先行させた。ナディアに出撃を命じ、迂回して王城ハーツティス襲撃作戦を開始させた。ナディアは貴下の親衛隊15機のアーマー部隊を引き連れ静かに西の森に入っていった。ナディアは城内にいるクシャナと連携し西側から攻める奇襲部隊である。これは首都攻略軍ではなく王城攻略軍だ。この混乱を最大限に利用する事にしたのだ。
その命令の後、アリアは軍議を開いた。
総参謀長であるザールがいないので作戦はアリア本人が説明した。
「シーマ市内に進出、制圧したシーマ駅を本陣とします。直陣後ミタスさんの戦況に合わせます。私たちはできるだけ民衆を刺激しないよう冷静かつ悠然と行動してください」
「急行しなくてもよろしいのですか?」
第二軍第二分隊長トドーレス=フォン=ライム大尉が発言した。
ちなみに最前線はミタスの第一軍第一部隊、カルレント率いる第二分隊が対応し、第二陣に第三軍司令官シュナイゼンが2500人前後を率い先発している。総兵力は3800人、アーマー37機……これがシーマ市内で今戦っている戦力だ。(両軍若干の予備隊を別に残している)
アリアの手元にあるのは第一軍第二分隊シュラザン=ムードン少佐、第二軍の第一分隊、第二分隊、第三軍第二分隊、約5000人、アーマー48機、そして<ミカ・ルル>他機動戦艦部隊である。
ナディアのアーマー機動部隊、クシャナが潜入したりシュナイゼンが先行したりしたため軍の組織としてはやや系統は崩れてしまっている。暴発戦になってしまった結果だがアリアの編成が市街戦用に再編戦しなかった点はアリアの落ち度であった。
最も、発案したアリアはもちろん、マドリードの軍人たちはまだこの大陸連邦方式の編製や運用は初めてだ。この程度の不測はアリアの才があってもどうにもならなかっただろう。だがアリア軍は大陸連邦軍をモデルにしたとはいえほとんどアリアを頂点に、その直属としてミタス、ザール、ナディアがいて命令を下す。階級が命令系統の上下を現していて各自その階級を見て命令を判断すればよく、また兵士たちは全員が【アリア様の兵士】という認識で団結力が強く協調性も強かった。革命軍らしさではあるだろう。ただし細かい階級はアリア軍の命令系統を明確にし、各軍各部隊が不規則に合流しても最上級命令者はすぐに分かったので混乱はなかった。
こうして最前線の市街戦はミタスが。後方の本陣はアリア自身が司令官となり、アリア軍全軍は動き出した。
アリア、レミングハルト侯、共に予期せぬ形でついに革命が始まったのだった。
『マドリード戦記』 王女革命編 24 革命② でした。
ついに本格的に革命のスタートです。
予定されていた会戦形式ではなく、双方とも予定外の不定期な混戦、乱戦から革命戦が始まりました。
ちなみにアリア軍と貴族評議軍の兵力はほぼ同数くらいです。
練度が高く、人材もいて、機動兵器が多いのはアリア軍。
ですが、貴族評議軍は城砦なので、攻めるのは大変です。
基本でいえば、三倍の兵力は必要なところですね。
しかもアリア軍は民衆を守らなければならない制約付き。貴族評議軍は別に民衆なんて気にしていません。
このあたり、戦記としての面白さと難題が含まれています。
ということで革命勃発!
これからも「マドリード戦記」を宜しくお願いします。




