『マドリード戦記』 王女革命編 23 革命①
『マドリード戦記』 王女革命編 23 革命①
ついに革命戦の最初の火蓋が切られる!
交戦するザール軍とクレイド軍。
さらに首都シーマでも小競り合いが発生する。
首都中央のセントラル駅を制圧したミタス軍に対し、狼狽を隠せない貴族評議軍。
そしてその頃、アリアはヴァームの最後の贈り物を手にしていた……。
13/革命 1
マドリード国首都シーマは、過去は城塞都市であった。
2115年、女王クエス=フォン=マドリード=パレが新国家マドリードを建国した際、8年間本拠地として彼女を支えた城塞都市シーマ・クラノは建国後シーマと名を変えマドリード国首都となった。その当時の人口は8万人であった。
約220年後の2337年、シーマの人口は約30万人である。当時の城塞都市の壁は北、北東部分は完全に撤去され街は拡張されたが、完全に壁がなくなったわけではない。歴史上主な城塞都市と同じくシーマも一種の二重構造になっている。壁の内壁側は貴族や高級商店が並ぶ高級街で、その外は雑多な町が広がっている。シーマの場合北の大街道沿いまで町が形成され、マドリード鉄道は城壁を出て北東部に巨大な駅が作られその地域の経済は発展している。逆にシーマの西側から南にかけては大きな森が広がり、西の森の一部は幻獣の棲む「迷いの森」で一般人はほとんど住んでいないが、その「迷いの森」のギリギリまで人は居住していてこの北西周辺は主に貧民町である。
さらに王城ハーツティスは二重に城壁を持つ要塞城である。
都市の造りは元の設計では東西南北に大きな道がありそれらは全て王城に通じている。そして王城をぐるりと円で取り囲む様に大通りが10本環状を成している。東西南北の4本と環状の10本がシーマの動脈だ。そしてそのうち王城とシーマのターミナル駅に繫がる東大通り、マドリード大街道に直結する北大通りの二つがシーマの生死を分ける大動脈である。
だが、すでに戦端が開かれた場所がある。シーマ・ターミナル駅と東大通りは4月1日、ランファンから戻ったミタス指揮の下、ミタスの直接指揮する歩兵部隊とアーマー部隊40機が、市民たちはまだ普通に生活する中、察知されるより早くシーマ中央のセントラル駅を完全占領し、そのまま東大通りの中間地点まで完全に占領してしまった。北大通りもほぼアリア軍の掌握圏内に入っており、点という形だが大きな戦いが発生する前段階ですでに町の1/3はアリアが掌握しているといっていい。
「いくら駅や通りを占領したといって何だ! この王城には何のダメージにもならん」
現『首都憲兵長官兼国防軍軍務長』バロウズ=フォン=コクラン伯は意にも介さず王城の守備だけは強固に固め余裕の笑いを周囲に振りまいたが、そのバロウズ伯の虚勢を一番失笑していたのはレミングハルト侯であった。駅と大通りを占領された以上首都シーマの物流や経済はアリアが掌握したといっても過言ではなく、貴族評議軍は自覚のないまま篭城させられたようなものだ。制空権も握られている以上もはや長く交戦することは不可能であった。とはいえバロウズ伯はある意味全くの無能でもなかった。彼は防衛策として貴族評議軍の軍勢を連れ王城ハーツティス周辺にある高級住宅地の半分以上を「王城の防衛のため、軍の宿営」として接収しその財産も没収し迅速に戦争陣地化させ、男は強制的に軍に引き込まれた。反抗して数十人殺害されたがそんな事気にするバロウズ伯ではない。その図太く乱暴な神経は1000年前であれば勇者と呼ばれたかもしれない。
この日、レミングハルト伯の元にもう一つ別の情報が届いた。発信者はクレイド=フォン=マクティナス伯爵であった。その報告文は簡潔、『我が戦域に<アインストック>現われる』である。
クレイド軍とアリア軍別働隊ザール軍(以後ザール軍)が散漫的に交戦状態に入ってから二日後、戦況を一変させる出来事が起きた。ザール軍の援軍としてアリア軍の旗艦、大型戦艦<アインストック>が姿を現したのだ。この艦はすでに述べたが現段階では恐らくクリト・エ大陸一の戦闘力を誇る高性能戦艦で、一隻で飛行石型飛行艇戦艦10隻を凌ぐといわれてきたし現にこれまでのアリア軍の常勝を支える要素のひとつだ。
これはクレイド伯の行動に異質な不安を感じたザールが短期決戦でクレイドを蹴散らすためアリアに要請して送られてきたものだ。艦長は今や歴戦の指揮官レイトン中佐である。アーマーは10機しか搭載していないが戦艦の戦闘力だけで十分な援軍である。
「まさかあれにアリアちゃんは乗ってないんだろうなぁ~」
幕僚たちが顔を見合わせてしまったほど、クレイド伯の反応は素っ気無いものだった。
クレイド伯は奇人ではあるが貴族評議会軍の戦闘指揮官としては唯一アリア軍に対抗できる能力を持っている。
クレイド伯はこの戦況を大きく変える事態に直面しても驚く様子はなく、別に神経が鈍っているわけでもなかった。彼は<アインストック>出現の報を受けると「歩兵をさらに4000、二陣にして展開、先に展開している第一陣の後方で防衛陣地を構築させろ。敵が攻撃してきたら第一陣が応戦して現状を維持」と命じた。適切な指示だ。
その動きを見てザールは多少クレイド伯の軍人としての才を見直した。
「成程、ただの策謀家ではない。が、かといって勝算はない。いつ行動に移す?」
ザールは艦橋で一人呟いた。
ザールは基本軍略と参謀が本職で前線司令官としては守勢を重視する傾向があり即断即決の勇猛型ではない。そんなザールが選んだ作戦は、展開している歩兵部隊を若干後退させ、かわりに<アインストック>を橋頭堡として前面に置き砲撃戦を有利に進めるという無難でありきたりの戦術だった。クレイド軍を撃破しなければならないが、自軍を無駄に消耗させないためにもまずクレイド軍が先に動くのを見定める必要があった。こういう両者が積極的な対陣を採っている場合先に動きを見せたほうが負けるのが戦争の定石だ。最も、その定石を打ち破る天才的な奇策が生まれれば別だが。
こうしてザール軍は大きく動くことができぬまま時間だけが過ぎていった。
この時期、様々な事が同時に起きていて中々タイムライン通り書き進めるのは難しい。よって各事件ごとに書き進めていこうと思うが多少タイムラインが前後するのでその点、了解いただきいたい。
まず<アインストック>が現われたという報告とアルファトロス代理交代の報がほぼ同時にレミングハルトの耳に入った。この報はレミングハルトにとって重要な事であった。<アインストック>がシーマ空域から離れたということは制空権に緩みが出来たということであり、アルファトロスの件はヴァームがアリアに対し限度を超えた協力をし、その罪を問われ毒杯を煽ったということだ。アリア軍はもうこれ以上科学機動兵器が増えることはない……それはレミングハルトにとって僅かに心安らぐ情報だった。アリア軍の戦闘力はリィズナ会戦からの分析で大体分かっている。もっとも現状戦力でも、とても貴族評議軍はアリア軍には勝てないのだがそれはもうレミングハルトの問題ではない。
レミングハルトも決戦の覚悟を決め、1万の兵力を王城ハーツティス内に入れ、領地から旧式だが二隻の飛行戦艦を運び入れた。<アインストック>が去った間隙を運悪く利用された形になった。しかしこの情報はすぐにクシャナからアリア軍に伝えられた。
実際はレミングハルトの予想を大きく裏切り、ヴァームが毒杯を煽ることによって、アリア軍の軍事力はほぼ倍になった。
そのヴァームの贈り物は4月5日、タニヤにて受け渡された。
アリア軍からはアリアとナディア。アルファトロス側は彼の首席秘書官であったスワマン=セージだった。引渡しに際して彼は小さな不幸……災難が舞い降りたが、別の見解からすれば誇りに思うべきのことかもしれない。意外にも自分の仕えていた奇人が好かれていたという事に。というのも、彼がアリアたちの前に姿を現した時、アリアが止めるより早くナディアの平手がスワマンの頬を思いっきり殴り、ナディアはすごい剣幕でヴァームを見殺しにした事を責めた。慌てたアリアが引き止めたのでそれ以上暴行を受けることはなかったが、スワマンは心中、ヴァームを天敵のように接していたナディアから意外に愛されていたことを知り少し愉快な気持ちになれた。もっともヴァームから「仮面男」と言われ普段から感情を顔に出さない男なので、この時も殴られたときも殴られる前と表情は一分も変らなかったが。
アリアの心中はもっと複雑だっただろうが、さすがは人の上に立つ人間でヴァームの件や自戒の念など一切口にせず、簡単にナディアの無礼を謝し事務的に本題に入った。
「<ナイアザン>というオリジアル・アーマーの説明をしていただけますか?」
「仕様書はこちらになります」とスワマンは鞄から分厚い紙の束を取り出した。それをナディアが受け取り目を通していく。ナディアが同席したのは護衛と言う事もあるがアーマー部隊を運用するのは彼女だからだ。
「<ナイアザン>は先代代表が個人的に輸入した大陸連邦最新量産隊長機用アーマーの名称でございます。性能はマドリードの量産隊長機<アージェンス>より上かと思います」
「大陸連邦の量産隊長機ですか」
オリジナル・アーマーにもいくつか種類がある。古代文明の技術を回収し新しく作り直す点は同じだが動力源の違いや再利用度の差で様々な種類が存在する。
<ヒュゼイン>……そして本作ではないがフィル=アルバートの愛機であり世界最強のアーマー<ギャム・フィン>などは俗に<国宝機>と言われ、一機から三機くらいしかなくその多くは王家専用機である。広く使われている<アージェンス>や<ナイアザン>など各軍が使用する部隊隊長機の動力やコクピットの基礎、武装の一部は古代の先進科学の遺物を使い後の骨格や外装、操縦系などは現代科学技術で作り上げる。
<アージェンス>はクリト・エ大陸諸国で最も使われているオリジナル・アーマーで、量産されているオリジナル・アーマーの中では最下層の性能だ。それでも<ガノン>の倍の性能はある。
「すごいよアリア様。コレ、<アージェンス>より40%は能力が上。火力は30%くらい上……実際の運用上は180%くらい上だよ!」
と、ナディアは説明書を見ながら感嘆する。使いこなせば倍近い性能差がある。
「どういう事?」
「多分実物を見たほうが早いよ」
そのナディアの提案でアリアたちはすでに着陸している小型戦艦<ミカ・ルル>に向かった。
<ナイアザン>は10機全て<ミカ・ルル>に収容されていた。外見は装甲が灰色で稼働部分は黒い。右腕には白兵戦用の鋼鉄の爪がつき左腕には小型ビーム砲内蔵した楕円形の小さなシールドが標準装備としてついている。全体的にフォルムは流線型でほんの少しだが<アージェンス>より大きいようだ。
実物を見てみてすぐにアリアはナディアの言った意味が分かった。
コクピット内は<アージェンス>より広く、モニターも大きく操縦機器は<ガノン>とよく似ている。これは<ガノン>のほうが意図的にのほうが合わせるように作っているのだろう。操縦空間が広いということは長時間の戦闘でもパイロットの疲労は少ないということだ。戦闘可能時間が長くなればそれは戦術的にはアーマーの数がその時間分増えたという計算が出来る。最大の問題点である操縦方法だが、この点も<ガノン>とよく似ていて難解ではない。今のアリア軍アーマー部隊ならすぐに運用できるだろう。
この点、アリアは大陸連邦の合理性に感心した。オリジナル・アーマーは種類によって操縦法が違うことがままあり、アリア、ナディアの乗る<ヒュゼイン>は、同じクリト・エのアーマーでも<アージェンス>はまるで別物だ。
「<ガノン>に乗り慣れた人間ならすぐにでも戦えると思うよ」
「<アージェンス>とは違う?」
「これだったらすぐに慣れると思う。ミネルバは悔しがるだろうな♪ アリア様、これ全部あたしが貰っちゃっていいの?」
「いいわ。ナディアが全部持っていって」
「じゃあ、こいつは<アリア様親衛隊特別機>ってコトにしちゃおう♪ 士気も上がるわ」
各戦闘部隊に配分するのではなくアーマーはアーマーで集め運用する……それがアリアの電撃作戦の要だ。ナディアは親衛隊及びアーマー部隊司令だ。この新鋭機が加わることで戦闘力は大きく跳ね上がる。
最後にスワマンは、譲渡書類と<ミカ・ルル>の機動鍵を手渡した。
受け取ったアリアは何か言いたげだったがその言葉を飲み込むと静かに頷いた。
スワマンも無言で拝礼し、用意された馬車に乗りこの場を去った。彼は列車でアルファトロスに帰国する。彼を乗せてきた<ミカ・ルル>はすでにアリアの所有物であり、彼のものでもアルファトロスのものでもない。<ガノン>を搭載した飛行船はすでにリィズナに入っている。
この機動部隊がタニヤを離れたのはその日のうちで、ナディアは一日まるまるかけて貴下のアーマー部隊の訓練と編成に費やした。自然アリア軍の行動力はやや低下した。
しかし戦争というものは全て予定通りに起きるものではない。
『マドリード戦記』 王女革命編 23 革命①でした。
ということで本章からついに革命戦が始まります!
戦争描写が続くのでキャラクターたちも入り混じっていきます。
アリア様の活躍もそうですが、ミタス、ナディア、クシャナ、シュナイゼンらの個別の活躍も目が放せません。まさに英雄群像劇!
今回、マドリードの地図もはってみたので、よかったらご覧ください。
これからが本当の本番、『マドリード戦記』を宜しくお願いします。




