表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
王女革命編
23/109

『マドリード戦記』 王女革命編 22 革命戦中章③

『マドリード戦記』 王女革命編 22 革命戦中章③


アルファトロス、政変!


ヴァーム、断罪!!


事態、急展開!!

革命編 中章 3




 4月2日の昼……貴族対策と新しい戦略案を整え各司令官に命じ終えたアリアの元に、ヴァームから無線連絡を受けた。相手がヴァームだから、人は退かせている。


 予定外の交信だ。ヴァームは今アリアが多忙の極みである事は知っている。急ぎの用でなければ手紙でいいはずだ。


 何があったというのか……無線室で、アリアは緊張した。


『戦争突入前は知っているけど、6日以降に伸ばす気はないかしら? アリア様』

 まずいつもどおりのチャラけた挨拶とやりとりの後ヴァームは唐突に用件に入り、その内容がこれだった。アリアは当然困惑した。今、4月4日に全面侵攻を想定しミタス、ナディアの二人を中心に幹部総出で今作戦を調整している真っ最中なのだ。だがヴァームがわざわざ連絡してくるというのは余程の事だ。アリアは当然理由を尋ねた。


『実はね~ アーマー20機消えちゃったの』

「どういう事ですか?」

『ちょっと長い話になるんだけど、僕の方もきな臭い話がでてきちゃってネ。アリア様にも関係があるかもしれないのよ』

 ヴァームの話は、口調こそいつもの様子だが尋常な話ではなかった。ヴァームにとって思ってもいない不気味な事件が起こった。


 発覚したのは4月1日……ヴァームが把握していないアーマー40機の大型取引が大陸連邦科学都市と結ばれ、さらにすでに20機はアルファトロス政府名義で正体不明の誰かに販売されたという事だった。契約や引渡しは3月後半に行われていた事はわかったが、一体誰がそんな事をしたのか、調べてみたが判明していない。

『ま、アルファトロスは商人の町だし、僕の知らない取引は無数にあるわけだけど大陸連邦の科学兵器に関しては僕だけの専売特許、他の人間が知るはずもないしできるはずないのよね』


 アルファトロスは科学都市だ。自前で開発した科学技術を各国に売っている。ヴァームもむろんアルファトロスの科学力向上に力を注いできたが、一番の利益は大陸連邦からの兵器の輸入だ。これができたのはヴァームが元々大陸連邦科学都市ミルドラン出身の大陸連邦人であり強いコネクションがある。穿った見方をすれば、今のヴァーム=アルファトロスは大陸連邦科学都市ミルドランとの提携で成り立っており、大袈裟にいえば属国ともいえなくもない。この事は極々一部の側近しか知らない事で、その側近たちですらヴァームのようにミルドラン上層部にコネがあるわけではない。


 だがこのヴァームの知らない取引は実行された。ヴァームが考えるに、恐らくヴァームのふりか代理を装い契約を結んだのだろう。とすれば、行ったのは極々身近な側近の誰かということになる。


 これがただの闇取引であれば、ヴァームもさほど気にしない。ただ単に自分がダシにされただけのことだ。だがここに政治的陰謀が含まれており、ヴァームは代表として看過することはできなかった。


 なんと、40機購入したのはヴァームではなくアルファトロス政府の公金でもない出所不明金なのだ。だがそのうち20機分、クリト・エ大陸のどこかに売った分からなかったが、売上はアルファトロス政府の売上げになっていた。形だけ見ればヴァームの名を騙り、親切にも自費でアーマーを輸入し、そのうち20機はこっそりアルファトロス政府の倉庫に収め、残り20機を勝手に売ってその売上を全部アルファトロス政府に寄付したことになる。ヴァームからすれば20機のアーマー売上をタダで貰い、さらに残り20機は自分名義で置いて行ってくれたのだ。普通であれば「なんて奇特なファンがいたのだろう」と笑いが止まらないところだ。しかしヴァームはこの事件の内容を知った時、全く喜びを見せずむしろ恐怖を覚えた。これは確実に自分を嵌めるワナだ、と断定した。


 その話を、アリアは黙って聞きながら整理していった。

 つまり自分とヴァームの同盟はどこかに洩れたととっていいのだろうか? であれば戦争は早く進めた方がいいのではないのか?

だがヴァームは全く予想外の事を口にした。

「で、アリア様にとってはここからが本題なの。その残り20機と、僕が手持ちで残している15機、そして秘密で用意していたオリジナル・アーマー<ナイアザン>10機、丸ごと全てアリア様に譲るわ。支払いは出世払いでいいわよん♪」


「え?」


 一瞬アリアは呼吸が止まった。……ヴァームは今一体何を言った……?


この段階でアーマーを合計45機、しかも10機は名前も聞いたことのないオリジナル・アーマーだ。アリア軍のアーマー数は、それを足せば一気に100機を超える。100という数は、西の大帝国ザムスジルを除けば諸外国より多い。

「それらを僕が所有する飛行艇<ミカ・ルル>に他飛行船団に搭載してそっちに向けて飛ばした所よ。<ミカ・ルル>もアリア様にお貸しするわ♪ <ロロ・ニア>の姉妹艦で粒子砲4門、前面フォース・フィールド仕様だから戦艦としても使えるはずよ」


 その時、アリアは背中が凍りつく感覚を覚え、愕然となった。


 ……これはヴァームさんの全財産……!?


 ヴァームは彼個人の財産全てを吐き出しアリアに贈呈したのだ。それが意味する事をアリアは即座に理解した。わずかの間の後、氷結から解かれたアリアは思わず叫んだ。


「ヴァームさんっ!!! 早まらないでっ! すぐにそっちに行きますっ! 全軍挙げて! だから!!」

「何言ってるのお嬢ちゃん、ボクはいたって平気よ。まぁ華麗で凛々しくて可愛いアリア様とはいつでもお茶したいけど、でも今アリア様は一番大事な時。ボクも多忙だからいいのよ♪」

「ヴァームさんっ!!」

 取り乱すアリアとは正反対に、ヴァームはいたっていつもの調子だ。だがついにヴァームはごくさり気なく今後の予定を口にした。

『まぁ……同じ毒を飲むなら、グレーより真っ黒確定でのほうがボクらしいわ♪ さて、ということでアリア様、アリア様は……』


 そういつもの口調で語っていたヴァームだったが、ふと言葉を切った。



「…………」



 無線の向こうから、王女でも軍大将でもない、普通の女の子の嗚咽が聞こえてきたからだ。その声に、ヴァームは一瞬誰にもみせたことのない真剣な表情になり虚空を見た。


「…………」


 彼の眼には可憐で高雅で気高い少女が、多くの歓声と歓呼に包まれ王城のテラスで国民たちに演説している姿が浮かんでいた。


 彼女はきっと成し遂げるだろう。


 満足げに一笑すると、彼はまたいつもの彼に戻った。


『アリア様は、ちゃんとボクに支払いはするでしょ? ボクはただアーマーの押し売りをしただけよ、アリア様の懐事情につけ込んでね。願わくば、即位式に立ち会えたらいいけど』


 そこまでいうと、ヴァームは静かに目を閉じまるで悟りを得たかのような清々しい笑みを浮かべた。


『ボクの願いはね、アリア様。君がクリト・エ大陸のマドリードという小さな王国で、小さな王国なりの繁栄をして、王女としては型破りだけど自由な恋をして、幸せな結婚をして静かにその国と共に過ごしていくこと』


「…………」


『だけどアリア様。これはボクと君だけが知っている事だけど、君にはもっと大きな宿命が待っている、世界がそのように動いていくのは間違いない。だけどそれでも、ボクは君が王としての幸せと普通の女の子としての幸せを両方得られるよう願っているわ。じゃあ、ボクも時間だから、そろそろこのくらいにするわ。名残惜しいけど』


 これはヴァームの遺言だ。


 アリアは零れる涙を拭かず、それでも必死に泣き声だけは出ないように口元を必死に押さえていた。


 そう、ヴァームはこれから死の儀式に挑むのだ。このことは、マドリードでは恐らくアリアやアミル他レミングハルト……他各国の首脳だけが知っているアルファトロスの国是に秘められた儀式。


 独立都市国家アルファトロスは科学都市であり商業都市である。


 その国是は「自主自立独立」で、どの国とも同盟は結ばず、商売相手に私情は挟まず、特別な肩入れはしない。それが建国以来の国是で、特に商業を統括する代表政府にはその主義は憲法の如く神聖で乱してはいけない法だ。

 しかしヴァームはその国是をずっと破り続けた。そして今度の事件で、それは何者かによって知られた。ヴァームは罰せられることになる。

 アリアは、ヴァームのこれまでの行為があの都市国家で断罪されるべきものであると知っていた。だからヴァームは公平ではないが他国にも<ガノン>を売り関係を作っていたし、アリアもこの件は直属のミタス等三人以外には語らず、必死に同盟関係を隠してきたのだ。

 ヴァームは今回の事件によってアリアとの関係が露見し政庁政府や議会から追及を受け論議の末処刑を言い渡されるという滑稽な姿を嫌った。どうせ毒の刃が迫っているなら自らの意志で満足の中毒刃を受けようとしたのだ。彼の本性は意外なほど骨太く硬質で反骨の男子であった。

 このまま自分の立場を貫くための、毒酒の儀式だ。

 その儀式はいささか変わっている。彼は毒杯を煽らなければならないが、必ずしも死ぬわけではない。100%致死量の毒杯もあるが、最低一つは無毒の酒が満たされている。その無毒の杯を選べば、その罪状は消え、さらにアルファトロスの国是を完全に超越することができる。ただし杯の数はその罪によって変わり、極論すれば99の毒杯に1の無毒という比率だってある。

毒杯を飲まない、という手もある。引退した上財産を没収され国外退去か平民として一から出直すという選択だ。ヴァームにはその意志はない、その事はアリアだけが知っている。 


 のらりくらりと弁論し時間を稼ぐこともできる。彼が望めば、アリア軍によってアルファトロスを武力制圧し、完全に属下に置けばヴァームの命は助かる。だがそうすればアリアはアルファトロスを制服した無法者として諸外国に認識されるであろう。そうさせるわけにはいかない。ヴァーム自らがその選択肢を選ばせないため先手し行動を取った。

 全ての責任は、ヴァームだけが背負った。そして、革命戦における彼の役目も終わった。100機以上のアーマーと、純エルマ式戦艦を3隻所有するアリア軍に対し、周辺諸国は手が出せないだろう。


「……ヴァームさん……ごめんなさい……ごめん……なさい……!」


 アリアは泣き崩れながら、羽音のようなか細い声でそう呟き、無線機のある机に、土下座するかのように強く頭を押し付けた。彼女は一時間、無線室から出てこなかった。





 無線を置いたヴァームは、一瞬目線を虚空に上げた。


 後悔はない。泥沼にはまり込んだのは自分の意志で、そしてそれはとても充実して楽しかった。逆に今は自分を嵌めた者たちが誰なのかという好奇心のほうが強い。どんな蛇が出てくるか……それを考えるとわくわくする。


 傍では首席秘書官のスワマンが控えていた。ヴァームはいつもと変らず意味ありげな微笑みを浮かべたままスワマンに目で合図をした。スワマンも同じく変わらず頷くと部屋を出るべくドアのほうに向かった。その足が、ドアの前で止まった。

「本当に、宜しいのですか?」

「ヘンなこと聞くわね、相変わらず。ボクのこと、もう十分分かっているでしょ?」

 ヴァームは笑うとスワマンは表情を崩さず会釈し退室していった。


 待つ事15分……スワマンは数人のアルファトロス政庁の役人と共に戻ってきた。


 政庁事務長官ウルエルス=バトロが恭しく頭を下げ、懐から一枚の書面を取り出した。


「プレセア=ヴァーム代表。国是違反を確認致しました。議会にて反論を望みますか?」

「必要ないわ。さっさと始めましょう」

 スワマンの合図で、恭しくフルーツワインの入った5つの杯を政庁役人が運んできた。それを見てヴァームは苦笑した。普通、この断罪の儀式では4つの杯……というのが通例だと聞いたが自分の運は思ったより悪いらしい。

「代表の好みを考えて、甘みのつよいフルーツワインにさせて頂きました」

「フルーツワインだって同じよ。僕にとっては全部毒じゃない」と完全下戸なヴァームは苦笑する。

「で、配分は?」

「黒が一つ、白が一つ……あと三つはグレーでございます」

 つまり致死率100%の毒杯が一つ、三つは致死率50%、無毒が一つという事だ。この配分は少しヴァームの計算違いだった。もっと明確に黒白が分けられると思っていた。

「もし代表がお望みであれば杯二つでも構いませんが?」

 スワマンがいつもの調子で告げた。辛辣に聞こえるが悪意はない。

「最初の配分は?」

「2対2でございます。しかし、それは相応しくない、という私の意見が容れられこのような形になりました」

 そう、代表を裁く場合、その同意には首席秘書官の同意が必要で、首席秘書官は代表にとって唯一弁護士のような立場で議会に意見具申ができる。だがスワマンは彼の生存確率を下げる判断を下したことになる。

「貴方に見捨てられるとは、ボクはよほど無能だったようだね」とヴァームは自虐的に笑う。だがスワマンは無表情だが、はっきりと首を振った。


「いいえ。私は今でもヴァーム代表を傑出した才気の持ち主だと信じております。貴方であれば、たとえ100対1でも図太く生き残ると確信しております。どうせ行われるのなら、強い逆境を乗り切ってこそ、代表の今後の野望のためになるかと思いました。これは、貴方に乗り越えてもらうための試練でございます」


 ウルエルス=バトロが一瞬スワマンを見た。今、容易ならざる一言を口にしてはいなかったか? ただ単に仕えていた相手に対する敬意を述べただけか……?


ウルエルス=バトロはその詮議を口にする前に、ヴァームは話を次のステップに持っていった。


「で、ボクが幸運の一杯を手にしない限りアルファトロス代表の座は空いてしまうけど、当面どうするつもりなの? 一応これでもボク、仕事はちゃんとしていたと思うけど滞っちゃうんじゃない?」

 真剣に心配して言ったわけではなく、最後についでに確認……という感じで言った一言だが、それは結果的にもっとも大きな衝撃でもって返された。

「ワシが面倒みるよ」

 そういって人々の後ろに隠れていた男がヴァームの前に立ったとき、ヴァームは驚きと衝撃を隠す事はできなかった。


 すでに60歳半ば、髪も薄くシワだらけの顔をした老人がいた。そしてその男を目にした瞬間、ヴァームの顔から笑みが消え愛用のサングラスを外し、生の目で本当にこの場にいるのが自分の知る男なのか凝視した。それで事実が変わる事はない、ヴァームが理性でも感情面でもそう理解したとき、この男に珍しく表情に敵意が現われた。


「ユイーチ=ロレンクル。納得したよ、老人。全て納得した」


「随分とワシも嫌われたもんだな小僧。お前をその椅子に座らせたのはワシだぜぇ? ワシ等には他人に言えない秘密がこじゃんとあるじゃろがよ」

「だからだよ、爺さん。アンタの正体を知っているからこそ好きになれないんじゃないか、

ユイーチ=ロレンクレル」

「先代代表だよ、ワシは。歳も食ってる、もう少し敬意をもってほしいねぇ」


 ユイーチ=ロレンクル……ヴァームの前のアルファトロス代表であり、その在位は25年に及びこのアルファトロスの人間からも「怪異な人物」として気味悪がられた異色の元代表。議員一年のヴァームを突然代表に推挙し表向き政界から去ったと思われていた。筋からいえばヴァームにとっては政治・科学両方の師であると同時にアミルやアリアとも強い関わりのある男だ。何せこのユイーチがアリアの後見人の一人なのだ。あくまで系列だけ見れば、今アルファトロスとマドリード、二つを治める領袖の、双方の師匠なのだ。最もユイーチとアリアの関係は、アリアの親であるアミルとユイーチの弟子であるヴァームしか知らない。この意味からいうとアリアとヴァームは正しくは兄弟弟子なのだ。そして共通の弟子たちは師匠の能力を認めつつも人格面では全く敬意を持っていなかった。


 ヴァームはサングラスをかけなおし再び椅子に座った。


 もう自分におきた事件は全て理解した。ユイーチならばヴァームがマドリードと同盟もヴァームの個人的援助も知っているし大陸連邦科学都市ミルドランとの取引の一件も説明がつく。


 むしろ問題は、ユイーチが何故そのような行動を取ったかだ。


 ヴァームには、今は予想もついている。


 ヴァームはアリアに女の子としての一生の幸せを願った。だがユイーチは、覇道の運命の中にアリアを投げ込むため地下から這い出してきた。


「そうなんでしょう? ユイーチ」

 二人にしか分からない会話。ユイーチは「クククッ」と背中で笑っている。

「こう見えてもワシぁ弟子に愛情を持っているからな」

「どっちの弟子の事かしら?」

「どっちもさ。その点、そこのスワマンとかいう若いニーチャンと意見の一致もある。お前さんの運命の力、ちと試したくなったのサ」


「グラスを持って来てちょーだい」


 ヴァームはユイーチを殊更無視し、政庁職員に命じた。


 静かに5つのグラスが運ばれ、デスクの上に並べられる。琥珀色の液体に炭酸があわ立ち甘い匂いが広がる。


「肩入れしすぎじゃねーか。惚れたかよ」

 ユイーチはユイーチで自分とヴァームの会話を続けている。酷く奇妙な光景だ。

「そりゃボクは若いからね。あんな眩しい女の子造っておいて夢中になるなというほうが無理よ、アンタみたいに干からびたタマネギじゃないんだから」

「そりゃそうだ」

 ユイーチはそういうと大笑いし、どういうつもりか部屋を出て行った。


 この二人は何を言っているのだろう……ウルエルス=バトロ等は当然分からず、ただ困惑するだけだし、僅かに事情を聞かされているスワマンですら二人の会話はどこか酷く怪異なものに感じられた。ただ一つ分かるのは全てアリア=フォン=マドリードに関することで、この儀式も根本にあるのはアルファトロスの国是なのではなくこの二人の代表がアリア=フォン=マドリードを取り合っているような印象を受けた。


「感慨にふけるのも性に合わないし、さっさと始めましょう」


 ヴァームはもういつものヴァームに戻っていた。そして全く悩む事無く普段のように無駄話をするでなく無造作に一つのグラスを取ると、政庁職員が儀式前の文言を述べる前に一気に飲み干した。


「やっぱりお酒は不味い」


 ヴァームは、子供が風邪薬を嫌々飲んだ後のように不貞腐れたような表情をすると椅子に深く座り直した。あまりの形式のなさに飲ませた側のほうがキョトンとしてしまっている。さらにヴァームは普段と全く変らない調子で「ところで毒の効き始めってどのくらいなの?」と口元をハンカチで拭きながら尋ねた。

「約3分ほどで睡魔が襲い、その後痛覚が麻痺し吐血し死亡します」と、スワマンもいつもの口調でのべた。もっとも表情は何か言いたげで物悲しさが浮かんでいた。

「そう」と、まるで食後のデザートのメニューを聞いているかのようにヴァームは澄まして答えた。


 ……これは、無毒の杯を引いたのか……。


 ウルエルス=バトロやスワマンはそう直感した。それほどヴァームの応答は日常と変らず平然としていた。


 だが次にヴァームが口にした言葉が、彼等の認識を別のものとした。


「やはり不摂生な生活は間違いだわ……今更後悔しても……」


 その瞬間、彼の上体は崩れ、体は床の絨毯の上に落ちた。まだ1分とかかっていない。


「後悔……」


 ヴァームはか細い声でそう呟いた。口元は尚動いていたから「後悔」のあと、何かしら言葉を続けようとしたが、それを聞き取る事ができた者はおらず、本人の意識もそこで完全に闇の中に落ちていった。


 

 この日、2337年4月2日夜……。


 ユイーチ=ロレンクルが再びアルファトロス代表代理として歴史に登場する。その報は、2、3日でクリト・エ大陸東側の諸国の知る所となった。





『マドリード戦記』 王女革命編 22 革命戦中章③ でした。


ヴァーム、散る…………。


実はこうなる予兆はこれまで何度か伏線で触れてました。

「毒を飲むことになる」と何度か書いてました。比喩表現ではなく、事実そういう刑罰があったわけです。ヴァームは完全にアリア様の後援者で中立ではなかったので。彼もこうなる覚悟をした上での後援であり同盟だったわけで、それだけ彼はアリアに惚れこんでいたけです。


アリア様ももちろん承知し、警戒もしてましたが、ここに出てきたのがユイーチ=ロレンクルです。

彼はアリア様の育ての親の一人で、ヴァームの師匠。前代表。

彼は今後どう動き出すのか。これが非常に重要な鍵になります。


ついに革命本戦が始まります!


これからも『マドリード戦記』を宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ