『マドリード戦記』 王女革命編 15 包囲網 ①
『マドリード戦記』 王女革命編 14 包囲網①
アリアは哀しみを乗り越え、そして誕生日を迎え15歳となった。
多くの仲間たちがアリアの誕生日を祝福し、プレゼントを用意していた。
その中には、ヴァームからの意味ありげな招待状も含まれていた。
軍を新たに制定し組織を一新させたアリアは、ナディアを伴いヴァームの招待を受け、科学都市アルファトロスに出向いていったが……。
10/包囲網 1
パラ歴2336年 2月4日……。
それは、今のマリードにとって特別な一日である。
この日、アリアは15歳となった。
その日、1万のアリア軍兵士と周辺の町や村から祝いに訪れた周辺の村民3000人が自発的に集まりリィズナ基地の飛行場で盛大な祝宴が開かれた。時同じく、アリアが支配下に置いた都市クロイス他の町村でも市民たちがアリアの誕生日を祝う祭りを自発的に行われた。これも情勢の一つであり、国民の意志だろう。
「こ……こんなのは、ちょっと。……私は……喜んでいいのか困っていいのか」
アリアの人生でこれほど盛大に誕生日に祝ってもらったことがなかった。これらは全てアリアたちが企画したものではない。自発的に沸き起こったこの現象……祭りには、困惑と嬉しさの混じった笑みを零していた。
個人的なプレゼントを用意してきた人間も多い。
ナディアは大きな白いクマの抱き枕を。ミタスはフルーツワインのボトルを。ユニティアは抱えきれないほどの花束を。シュナイゼンはどこで入手したのか金細工が施されたダガーを。そしてヴァームはわざわざアルファトロスから直径2m、深さ1mもある大きな円筒の箱4つに、チョコやクッキー、キャンディーといったお菓子を一杯いれて贈ってきた。それぞれの個性が出ているプレゼントだ。
こんな戦時であるのに不思議と皆アリアに秘密で揃えた。それぞれ相当苦労しただろう。
他にも兵士たちから花や菓子、果実などが贈られ、アリアとナディアの部屋はプレゼントで溢れ返ってきた。普段殺風景な部屋が今は女の子の部屋らしく賑やかで華やかだ。
「皆実用性考えてるのかなぁ~? こんなにあったってアリア様食べ切れるはずないじゃん。あたしのプレゼントが一番実用的だよね。ねー アリア様」
と、ナディアは自分がプレゼントした白クマの抱き枕に抱きつきながら言う。その様子を見てアリアは笑みを零す。抱き枕はナディアが欲しかったんじゃないのだろうか? そのことをナディアにからかい口調でいうと、ナディアはキッパリと否定した。
「これはあたしとアリア様、二人で抱き合って使うの。ね♪」
「もう~。ナディアは暢気なんだから。ホラ、ヴァームさんからお菓子、皆に分けるから手伝って」
「いいの? 一応あのヘンタイがアリア様にと、贈ったものだよ?」
ヘンタイヘンタイと毛嫌いはしているが、ナディアなりに気を使っているようだ。
アリアは苦笑する。
「こんな量、私一人では一年かかります。基地の休憩所や女性兵、それに遊びに来ている市民の人にも多少は配れるでしょう。私は一掴み分で十分です」
成程、とナディアは得心した。ナディアは自分たちの分を振り分け、後はアリアの言うとおり配りに行った。お菓子はヴァームだけでなく他の者からもあり、他に果実など入れ捌かせると長テーブル3つ分くらいにはなった。そこでナディアは独断で軍の食堂係に掛け合い、果物や簡単な軽食、ワインなどを用意させて、アリアへのプレゼントと合わせて長テーブル10つ分ほどの、ちょっとした量のパーティー食を作り、それを市民や兵士たで賑わうリィズナの基地広場に置くよう命じた。確かに市民を入れて1万以上いる中の10テーブル分だが、「アリア様のささやかな謝意と祝宴の礼」ということで皆も盛り上がるだろう。こういう祭り事を取り仕切る事は宴会好きのナディアの得意とすることだった。ユニティアは貴族令嬢として高い教養と女子力を持っているが、こういう点にはあまり知恵がなく、意外にも男だらけの環境にずっといたナディアの庶民感覚の女子力は高い。それだけ<年頃の女の子らしさ>があるのだ。
そして今回のこれには、ちょっとした政治効果もある。ナディア本人は否定しているがナディアも天成、人心掌握の才があった。アリアはこのことを後で知り「ナディアらしい」と褒めた。ナディアの性格と政治的行動、そのどちらもの事で、ナディアのこういう面を見ることはアリアにとっても嬉しい事だ。
30分後、ナディアは一枚の手紙を持って戻ってきた。
「どうしたんですか?」
「うん。実はお菓子配ってる時中から出てきたの。アリア様への手紙みたい。なんか封筒に『アルファトロスからの誕生日プレゼントです』って書いてあるの」
アリアはその封筒を受け取った。
封筒を開けると、1通の手紙が入っていた。それを見てアリアは思わず絶句した。
文章は簡潔だ。
『誕生日のプレゼントとして<ロロ・ニア>と追加武装一式無償にて進呈します。ただし戦艦への換装のため一度アルファトロスにお送り下さい』
とある。
ヴァームは、なんと中型の最新鋭艦<ロロ・ニア>をアリアにプレゼントしたのだ。これにはさすがのアリアも一瞬息を呑んだ。
今回の誕生日プレゼントの中ではもっとも高価な品物だ。純エルマ式戦艦は<アインストック>を持つアリア軍の他はアルファトロス(と、西の科学都市バース)にしかない。緊張状態にあるクリト・エ大陸において純エルマ式戦艦の相場は青天井で言い値が通る……といっても間違いではない。
さすがのアリアも、驚きですぐには感想が出なかった。秘密同盟関係にあるのは確かだが、ここまでの好意はどういうわけだろう。同盟の好みというには大きすぎる親切だ。
「近くアルファトロスに行くことになりそうですね」
アリアはそう答え封筒をテーブルの上に置いた。むろん、<ロロ・ニア>を再武装するためと、ヴァームに礼を言うためでもあるが、それだけではない。恐らくヴァームは重要な情報をアリアに伝えようとしている……アリアにはヴァームがそんな意図を持っているような気がした。
第二次リィズナ会戦以後、マドリード国内の情勢は一変した。
クレイドの貴族評議軍主力が破れた事で、貴族評議会は一気に勢力を失った。
アリアは完全にマドリードの東部を手中に収め、国防軍のほぼ全軍がアリア陣営に近い中立……事実上アリア軍の支配下となった。それだけではなく実際に国防軍を脱しアリア軍に参加した脱走国防軍は、7000名に及んだ。人だけではなく、アーマー(隊長用アージェンス)15機、中型飛行戦艦『サルバルド』がアリア軍に提供され、陣営に加わった。
アリアは、新たに増えた国防軍の指揮官には、大佐の階級が与えられたシュナイゼンが就任し、第三軍司令となった。と同時に、主な幹部たちも昇進した。
アリア軍の新しい軍制は以下の通りである。
総司令官 アリア=フォン=マドリード 大将
総参謀長 ザール=フォン=ザナドゥ 少将
司令部参謀 ユニティア=フォン=フォーレス 少佐
リィズナ防衛司令 サザランド=フォン=ウェールバルト 中佐
特別親衛隊及びアーマー部隊隊長 ナディア=カーティス 少将
アーマー第一部隊分隊長 ミーノス=サムン 大尉
アーマー第二部隊分隊長 コロラド=フォン=デフロム 大尉
戦艦部隊指揮官 レイトン=フォン=ローゼンス 少佐
第一軍司令官 トジーユン=ミタス 少将
第一軍分隊長 カルレント=フォン=バーダック 少佐
第一軍第二分隊長 シュラザン=ムードン 少佐
第二軍司令官 クシャナ=フォン=レーデル 大佐
第二軍第二分隊長 トドーレス=フォン=ライム 大尉
第三軍司令官 シュナイゼン=フォン=カラム 大佐
第三軍分隊長 ノーゼン=クライス 大尉
(※ ミネルバ=フォン=サーシャは大尉でシュナイゼンの副官)
クロイス代理長官 グドヴァンス=サードル 少将
アーマーの総数は、アージエンス系のオリジナルアーマーが25機、ガノンは46機。
飛行戦艦は<アインストック>が旗艦で<ロロ・ニア><サルバルド>。
総兵力は1万2000名となった。歩兵数はともかく、そのアーマー数や戦艦含めた陣容は、もはや革命軍レベルではなく正規軍隊レベルである。
この人選は、アリアの人選の妙というべきだろう。
今回、ザールが総参謀長となり、場合によってはアリアの代わりに指揮を執るということを明確にした事。クシャナを昇格させ軍中枢指揮官に列しつつ、新しく加わった国防軍の指揮官も広く採用しバランスを取っている。アーマー部隊や戦艦部隊、リィズナなどはアリアの総司令部直属となった。総司令部の実戦指揮官の中ではナディアがザールと同じく少将で別格なのが分かる。同じく今回、実戦部隊も再編されたが、クシャナ、シュナイゼンが大佐であるのに対し、第一軍を率いるミタスだけが少将で、彼が実戦部隊総司令官という事が分かる。レイトンやミーノスが昇格しなかったのは、レイトンに関しては第一次リィズナ会戦後昇格した事と、二人とも昇進内示を際辞退した、そういう理由がある。
国防軍から幹部入りしたのは5名おり、国防軍たちにとっても納得のいく人選だ。ただ一人、大抜擢された人物がいた。
若干22歳のトドーレス=フォン=ライム大尉。彼はアリアの人物眼によって見出された逸材だ。黒髪碧眼の見た目は少年っぽさの抜けない中背の軽快で明るい青年で、元々一兵士でしかなかったが独学で戦術論など研究し、アーマーにも乗れ、白兵戦でも模擬戦ではクシャナと互角の腕を持っていた。アリアやマドリードに対する忠義心で参加したというより、「自分の力を伸ばしたい」という向上心ある野心家タイプだが、そのくせ素直に先輩や上官にも従う従順な面もある。要は、才能ある若く爽やかな青年軍人なのだが、アリアは彼の中に指揮官の器を認め、抜擢した。トドーレスはこの処置に感激し、アリアに対し素直に尊敬と敬愛を示しつつ、かといって<アリア教>に染まるほどアリアにはハマりこまず、その点、第二軍の士気の上でもアリアへの傾倒が強くときに感情的になるクシャナとのバランスも取れる。
この人事発表後、彼はミタスやシュナイゼン、直属の上官であるクシャナに親しく付き合い、色々学んでいる。後にマドリード帝国少将となり、一時アリアの参謀を務めたり、親衛隊隊長を務めたりと軍の要職についていく。
……ただし彼はどうも女性にも関心が強く、クシャナやナディア、ユニティアは頻繁に食事に誘われ閉口したようだが……。
それでも漁色家というほどではなく、単に若い青年特有の博愛八方美人キャラで、周りから不評がでるほどではなかった。硬い雰囲気の国防軍よりアリア軍の方が彼自身ものびのびと出来ているようだ。
軍を新編成し、その運用が軌道にのったのを確認したアリアは、ナディアを伴いアルファトロスに出向くことを決めた。留守をザール、ミタス等に任せ、二人は<ロロ・ニア>でアルファトロスに向かった。パラ歴2336年2月14日の事だ。
<ロロ・ニア>であれば、リィズナ=アルファトロス間は5時間ほどで到着する。
<ロロ・ニア>がアルファトロスの飛行場に到着すると、すでにヴァームの秘書官、スワマン=セージが待っていた。下船したアリアとナディアは、彼に案内され<タワー>にあるヴァームの執務室に案内された。
アリアたちの来訪を聞くと、ヴァームは垂れる前髪を手でかきあげ、満面笑顔で手を振り、アリアたちを歓迎した。
「お・ひ・さ♪ 元気そうで何よりだわ♪ 殿下♪」
「ヴァームさんもお元気そうで何よりです」
「丁度一仕事終わったトコなの。スワマン、悪いンだけどお茶とお菓子の用意をお願いできるかしら?」
「代表。まだ机の上には未サインの書類があるようですが」
「そんなのは後よ。仕事は重要度高いものからやっていくものだわ♪ ……しかし、それにしても殿下、ボクは面白くないわねぇ~」
「はい?」
ヤレヤレと腕を組むヴァーム。だがアリアにはヴァームが何で面白くないのか分からない。アリアが尋ねると、「そんなこともわからないなんて!」とヴァームは大声で嘆き頭を抱えながら嘆き、アリアたちの服を指差した。
「もう! 何よ、その野暮でセンスのない服! アリア殿下、お忘れなのかしら? 今度ボクと会うときはもっと美人にって約束でしょ? どうして着飾ってきてくれないの!? 信じられないわ信じられないわ!」
と頭を抱え大げさに嘆くヴァーム。確かにアリアたちは軍服でもドレスでもなく、身分を隠して来訪してきたため質素な平民の平服であるチェニック姿だ。返答に困るアリアの後ろで、ナディアが冷たい眼で見つめる。
「あたしたちはお忍びで来てンのよ!? アンタそれ分かっているの? 第一! この服でも! アリア様はすっっごく可愛くて美人ですぅーっ!!」
えっへん、とナディアは胸を張り大声で答えた。アリアは恥ずかしくなり小さくなって赤面しているが、二人の会話はこれで終わらない。
「ボクのタノシミがぜんっぜん分かってないのね! ボクがどれだけ着飾った可愛らしい殿下の姿を楽しみにしていたことか! あのね。こういうのは会う度段々磨きがかかる、その成長を見守る……ボクはそれが楽しみで楽しみで! そのボクのお楽しみを!!」
「はー!? やっぱあんたヘンタイ! ヘンタイっ! アリア様に近づくな寄るなっ!! しっしっ!」
「なんでキミにそんなこと決められなきゃいけないの? アリア殿下はボクの大切なタノシミなのよ!」
「あのねぇ~お馬鹿なヘンタイ代表さん。アリア様はもう殿下じゃなくて陛下! 間違えてンじゃないわよ、バぁ~カ!」
「ボクがアリア様をなんと呼ぼうがボクの勝手。ボクにとってアリア様はまだ可愛い殿下なんだから殿下でいいのよ」
「それがおかしいのよ!! このヘンタイっ」
「さっきからヘンタイヘンタイって失礼な! ボクのどこがヘンタイなのかしら?」
「アンタの存在自体がヘンタイなのよ!」
「ナディア!! ……二人とも、いい加減にして下さい!!」
「…………」
「…………」
ついにアリアが仲裁……というより怒声を発し、ようやく二人は大人しくなった。もっとも反省は二人ともしていないが。ナディアは収まったが、ヴァームは完全にへそを曲げ、最初のハイテンションはどこへやら、仏頂面のまま無言でデスクもどり、さっきは後回しにした書類に目を通している。
「申し訳ございません。全く情けないことですが、代表は拗ねられたようです」
こういうことは慣れっこなのか、表情一つ変えずスワマンがアリアたちに告げる。アリアは「ヴァームさん」
と声をかけるが、反応はするが返事はしてくれない。本当に拗ねたらしい。
「あたしは悪くないわよ。アリア様」とナディアも反省する様子はない。
「仕方ありません、アリア陛下。少しお時間をいただけますか? 代表は少しほっておけばすぐに機嫌が戻りますので。ああみえて、アリア陛下が来られるというので今日一日非常に効率的にお働きになられていたくらいですから」
まるで普段はいい加減に仕事しているような口ぶりのスワマンである。
「わかりました。では一旦、失礼しましょう」
アリアは素直にスワマンに従う。ナディアは「バカバカしいっ」と文句を言いながら三人は退室していった。
廊下に出たとき、スワマンが再び恭しくアリアの前で傅いた。
「大変ご迷惑をおかけしました。もし宜しければ、幼稚な代表の我儘につきあっていただけませんか? そのための手配は、すぐに行います」
「…………」
アリアとナディアは無言で顔を見合わせた。この時はまだ、二人ともスワマンが何をいっているのかよく分かっていなかった。
一時間後……。
アルファトロス代表執務室内の応接用テーブルの上には零れんばかりのお菓子とジュースの瓶が並び、ヴァームは上機嫌に笑顔を浮かべていた。
「これ! やっぱコレなのよ♪ うふふふっ♪」
「…………」
「うん♪ あたしも何か楽しくなってきた♪ うんうん♪」
ヴァームの前のソファーでは、ドレス姿に着替えさせられたアリアとナディアがいる。ドレスは最高級の絹で作られ、アリアは白とピンク、ナディアは白と紺の色で、デザインは普通の貴族の娘も普段は着ないようなハデなパーティードレスだ。アリアは幼い頃はこういうドレスも着た事はあったが、それも幼い頃だけで、今になってドレスを着るなんて考えても見なかった。それはナディアも同様だが、ナディアはアリアのドレス姿を見て一変、一気にハイテンションになると、今はアリアに寄り添い楽しんでいる。
「こんな格好……物珍しいだけで……恥ずかしいですけど……」
アリアは真っ赤になって抗議したが、もはやナディアもヴァームの趣向に同調し、「すごく可愛い! 似合ってるわ♪」と二人口を揃えアリアの反対を押し切ってしまった。
「うんうん♪ なんかあたしも<アリア様成分>が満たされるわぁ~♪」
「でしょ? ふふふっ♪ これで商談も弾むってもんだわ♪」
自称保護者兼アリア愛好家であるヴァームとナディアは。アリアが本物の御姫様のように着飾ったドレス服姿を見るのが楽しくてしょうがない。アリアも少女である。こういう格好に憧れがないわけではないが、<革命軍大将の軍人であり国王>という立場上こんなドレスを着るのは不謹慎だと思っている。
「私は集中できません」
アリアはますます小さくなるばかりだ。ちなみにアリアは人生でドレスを着た数は極端に少なく、幼少期を除けばドレス姿は数えるほどしかない。普段は男性のようなチェニック姿だし、後も公式の場はほとんど軍服か、軍服にきらびやかな装飾を加えた将帥礼服で通したくらいだ。
もちろん、華麗なドレスが似合わないわけではない。今回はハデなドレスだが、それが自然に見えるほど着こなし、可憐さと美しさの中にも威厳を失っていない。街を歩けば10人いれば10人が振り返る事間違いない。そして、アリアのような威厳はないが、ナディアのドレス姿もよく似合っていた。抜群のプロポーションと整った小さな顔、ボリュームのある髪は、初々しさと色っぽさを兼ねそろえている。ナディアもアリアのようにあまり女を強調するような服は着ないが、それでもアリアと違い私服では活動的なデザインの女服は着るのでアリアほど抵抗感はなかった。ナディアの美しさはヴァームも認め、「あら♪ 意外。いや、失礼♪ ちゃんとレディーとして扱わないとねー」と感嘆したほどだ。
「両手に花ってこういう事ね♪ ふふふっ♪ 天才革命家として名の馳せるアリア殿下と武勇誉れ高い女将軍がこーんな可憐な美少女たちだなんて、誰が思うでしょうね♪」
「褒めたってあたしのアリア様には触らせないからね」
ベーっと舌を出し、ぎゅっとアリアを横抱きするナディア。ますます小さくなるアリア。
その様子を見て満足そうにヴァームは頷く。
「さて。じゃあこうやってだらだらおしゃべりでもしながら用件もすませましょうか♪ ね、殿下」
その言葉で、ようやくアリアがいつもの表情に戻った。元々、ヴァームには用件がありアリアを招いたのだ。
「まずは商談の話だけど……<ロロ・ニア>の件が一つ。後はちょっとしたお願いと、そして殿下にとって貴重な情報があるわ。無償プレゼントで教えられる情報と、代償の代わりに教える極秘情報……とね♪」
「色々……あるようですね」
アリアはナディアに目を配り解放してもらうと、二人はちゃんとソファーに座り直した。
ヴァームは、チョコ菓子をつかみながら、少し真剣な表情になり、笑顔を浮かべる。
「<ロロ・ニア>をプレゼントするのは、アリア様の誕生日だからもあるけど、本心はね、あれだけハデに軍で使われちゃったら貴族評議会も周りの国も皆<ロロ・ニア>はアリア軍所属だと思われちゃって……今更返してもらってもボクたちの同盟関係が確実にバレちゃうわ。それは今後、ボクの商売上困るから、特別ボーナスの意味も含めてプレゼント……ってワケ」
「それは……すみません。私の配慮が欠けていましたね」
確かに、第二次リィズナ会戦で<ロロ・ニア>は大活躍した。そのことは貴族評議会他、情報収集をしている各国も掴んでいるだろう。その<ロロ・ニア>がアルファトロスに戻れば、商談関係ではなく両者の密接な関係に気付くかもしれない。現在アリア軍とアルファトロスが軍事同盟を結んでいることは秘密だ。
「でもそれだけで戦艦一つプレゼントって気前よすぎじゃないのぉ?」
「大きすぎてリボンはつけられなかったけどね」
ナディアも広げられた焼き菓子を口に運びながらヴァームを睨むように見つめた。当然だ。<ロロ・ニア>は、大きくないとはいえ純エルマ式の船で、1億マルズ以上するはずだ。こんな気前良くプレゼントできるものではない。経済感覚がしっかりしているヴァームがこんな感情的理由でこうも気前よくを呉れるなんてまだ納得できない。
その事はヴァーム本人がよく分かっている、だから説明するため呼んだのだ。
「実はね。ちょっと大口の仕事がいくつか纏まりそうなのよ。その関係でアルファトロスで純エルマ式の船を二隻ほど購入予定なのよね。それで<ロロ・ニア>がどうしてもいるってワケじゃなくなったの」
「……ヴァームさんは、本当はどれだけ資産があるのですか? もう、ヴァームさんが以前いっていた資産では……」
「もちろん。だからこの一年で色々儲けさせてもらったわ。それに、今時代は動いているわ。こういうときは大きく儲けが出るときなのよ」
「マドリード……そして大陸連邦の政治不安……ということですか?」
「そうね。それも大きいわね。でも、殿下のおかげで儲けさせて貰った面も大きいのよ」
アリアとナディアは顔を見合わせる。その様子を見てヴァームは「クククッ」と笑った。
「今月もトリメルン政府と大口の取引が成立したトコなの。ガノン20機の取引、手数料いれて2000万マルズ♪ 他にもガエム共和国が30機は欲しいって言って来ているわ。値はもっと上げられるし、すごい儲けでしょ?」
トリメルン、ガエム共和国は共にマドリードの隣国である。彼らもアリア軍の戦果や戦争の状況を聞き知っている。このままアリアが王位を完全に継げば、この周辺一帯の国々の中でもっとも機動兵器を持つ軍事大国が出現することになる。他の国としても悠長にはしていられない。一方的な売り手市場だから、アルファトロスは値段を思うようにつけられる。
「一体、一機いくらで売ってるんですか?」
アリアは唖然と零す。アリアは<ガノン>60機をタダで進呈してもらったのだ。最初、ヴァームは大陸連邦から200機<ガノン>を仕入れたと言っていた。あれから半年、ヴァームはもっと仕入れているだろう。
「安心して殿下。マドリード政府からも打診があったけど売ってないから。そこはちゃんと弁えているわ♪」
「ありがとうございます」
「ちなみに……あたしたちが<ガノン>が欲しいっていったらどうなるの?」
ナディアも唖然としながら尋ねる。可能であれば20機から30機は追加したいとアリアたちは思っていた。
「いるの? 20機くらいならタダで進呈するわよ?」
「…………」
「別にパトロンだからじゃないわよ? それくらいの儲けがあるって事。そこは企業秘密、言えないわ」
そういいながら、ヴァームは、今度はフルーツ盛りの中から苺を取り出し口に運ぶ。
ちなみにヴァームが大陸連邦から追加で100機、この一年で約300機の<ガノン>を買い付けていた。<ガノン>は大陸連邦からこれまで一機あたり5万マルズ相当の純金で支払っている。<ガノン>は大陸連邦では型落ちで、戦争勃発前ということでいち早く新型機(初期型ゲドム)を導入し部隊に配置したいのでとにかく安く売り払われている。大陸連邦の総兵力数は300万(各公国守備兵を入れれば800万)、アーマーも3万機という膨大な量だから、クリト・エ大陸の諸国とは物量が圧倒的に違うのだ。この超巨大国家である大陸連邦が、その覇権をクリト・エ大陸にも伸ばそうという気配があるのだからクリト・エ諸国も「北の大陸の話」と客観視できるはずがない。もっとも大陸連邦の侵攻という最悪のシナリオは、史上最大の内戦、第一次世界大戦によって机上と消え現実にはならなかったが。
話を戻そう。
ヴァームはトリメルン政府には一機50万マルズで売っているのだから10倍の儲けだ。しかも、さらにヴァームは大陸連邦と追加で100機を3万マルズで交渉しそれが成立しようとしていた。<ガノン>は最初にアリアとヴァームが感じていた通り、大陸連邦では値崩れを起こしていた。
アリアはその時、自分のレポートを思い出した。
アリアはヴァームとの約束どおり、クロイス、リィズナでのアーマーの運用、戦果、そして戦術運用法をレポートにしてヴァームに提出している。そしてその情報をヴァームは大陸連邦に売っている。重複するが大陸連邦も戦争勃発前の沸騰期で、戦争の主軸は歩兵からアーマーに移行しようとしている時期で、アーマー戦の実戦データーは喉から手が出るほど欲しい。型落ちのアーマーと引き換えならばむしろ安いくらいだ。
経済感覚が発達しているアリアは、一つの結論に達した。
「<ガノン>は大陸連邦では、すでに旧式になってるんですね」
「ここだけの話にしてね♪」
最初にヴァームと一晩、寝話に話した時交わした会話、ヴァームはこの事を予言していたが、まさか一年でもうそれが訪れるとはさすがのアリアも思っていなかった。
「え? <ガノン>って問題アリなの?」
一人、話が見えないナディアがアリアに尋ねた。<ガノン>を含めアーマー部隊を直接指揮していたのは他の誰でもないナディアだ。ナディアは特に不満は感じていない。
だがアリアは気付いていた。
「<ガノン>はけして悪くないアーマー、このクリト・エでは十分通用します。だけど、欠点がないわけじゃない。一つは足回りです。<ガノン>はハードな戦闘を行うには下半身が弱い」
「……そういえば……下半身は一番故障やメンテナンスが必要だったけど……」
ナディアもそう言われて思い出した。完全に壊れるほどのことはないが、簡単な破損や動きが鈍くなったり、反応が遅かったりしたことがあり、戦闘前にメンテナンスは必須だった。一方ヒュゼインや<アージェンス改>といったオリジナルアーマーはそこまで気にしなくても戦闘に使うことができた。全ての機体にその症状がでるわけではない。
ただ、それが問題になるほどひどい問題ではない。
最も、それはマドリードだったからだ。その事をアリアも分かっている。
「クリト・エ……ううん、マドリードは比較的平地が多いでしょ? だからホバーリング機能でカバーできたけど、地形によってはアーマー本体の足で移動しないといけないわ。 足で移動するには、<ガノン>のあの下半身の性能だと不安要素なの。あとはコクピット内の環境の問題……ヒュゼインや他のオリジナルアーマーは空気清浄機や冷暖房機あるでしょ? でも<ガノン>は強化プラスチックのキャノピーで、夏は暑くて冬は寒い。長時間あの中で戦闘するのは無理だと思うわ」
「そっか……そういえばそうかも……」
第二次リィズナ会戦で、アーマー兵たちの疲労度が思ったより大きいことにアリアは気付いた。同じ時間戦っていても、<ガノン>に乗る兵士の疲労は目に見えて分かり、ヒュゼインに乗っていたアリアのほうは余裕があった。会戦後アリアは<ガノン>に実際に乗ってみてそのことに気付いた。
さらにアリアが気付いたのは、対アーマー戦での戦闘力だ。<ガノン>は確かに汎用性が高く手頃なアーマーだが、敵がオリジナル・アーマーだった時予想以上に苦戦した。アリアの立てた『三機で一体攻撃』の作戦が無ければ被害はもっと大きかった。
<ガノン>は汎用機として製造され、特化した部分がない。そうなればパイロットの錬度が勝敗を分けるが対アーマー戦を考えた場合、攻撃力もオリジナルに比べ若干弱いのだ。
……もし、<ガノン>とオリジナル・アーマーの一騎打ちなら圧倒的不利……。
これまでのクリト・エの運用法で用い戦いをしていたら、あそこまで圧勝はできなかっただろう……それがアリアの見解だ。
ヴァームはその報告を大陸連邦側に出した。そしてその仮定は大陸連邦側でも検討されていて計らずもアリアは実戦でその事を証明した形となった。これによって大陸連邦は新型トリエアーマーの開発が本格化し、すでにその試作機は出来上がっていた。それがプロトタイプ・ゲドムであり、この後さらに改良され2338年にトリエアーマー傑作機<ゲドム>が完成し、<ガノン>は短い制式アーマーの座から降りる。
大陸連邦の科学都市の研究者、ヴァームやアリアは、すでにその未来を予感した。だからこそ、大陸連邦は<ガノン>を処分したがっていた。これはアリアのアーマーによる戦術運用論とはまた別の問題だ。
ヴァームの商売の鍵はそこにあった。
「でも、このクリト・エではまだまだ十分需要があるもの。でも、アリア様のレポートで大陸連邦が動いたのも事実。その報酬として<ロロ・ニア>や<ガノン>20機くらい安いものよ」
「納得しました」
「ということで、<ロロ・ニア>は半月置いておいてくれればちゃんとした戦艦にして引き渡すわ。これがその契約書」
「半月かかりますか……」
その間は動けない。その点が少しアリアは気になった。もっとも常識的に考えてそれくらいの時間はかかるものだ。だがアリアは内心焦っている。リィズナでの勝利から一ヶ月ちょっと……軍の整理など準備を進めていたが、貴族評議会の反応が皆無なのだ。あれほど大敗したのだから、何かしらアクションがあってもいいはずなのだがそれがない。アリアにとっては、それが不気味であり歯痒い。
一つにはマドリード国民への負担がある。今は夏だが、このまま秋になれば穀物や果実の収穫時期と重なり国民にとって一番の収入の時期に入る。その時期までに戦争を終わらせたい……その焦りがあった。
ヴァームはそんなアリアの気持ちをよく分かっている。
「その点についても、少しは力になれる情報があるんだけど……」
フフン♪ と意味ありげに覗き込むようにヴァームは微笑む。
「ホントですか?」
「色々面白い話があるの♪ だから招待したのよ。だけど……ここから先はさすがにアリア様でも、タダでとはいかないわね♪」
「アンタ! またアリア様と一晩とか言うンじゃないでしょうねっ!!」
「ああ、それイイわね」
「え?」
思わずアリアとナディアは唖然と口を開ける。そんな様子におかまいなく、楽しそうにヴァームは指で音楽を奏でるようリズミカルにテーブルを叩いている。
「そうねぇ~今回は皆でパジャマパーティーってコトにしない? アリア様のパジャマ姿、もう一度楽しみたいのよね♪ それに元気のいいナディアちゃん……失礼♪ ナディア将軍がどんな可愛らしいパジャマ着てくれるのかすごく気になるわ♪」
「はぁーーっ!?」
信じられない!? と立ち上がるナディア。その様子を見てますます楽しそうに笑うヴァーム。アリアは、ため息をつきナディアの袖を引いた。ヴァームが言い出したら絶対に引かないは分かっている。
「ホントに重要な情報ですか?」
「ええ。もし売るとすれば1000万マルズはもらうところね。ああ、二人とパジャマパーティーの価値が1000万マルズしかないってワケじゃないわよ、 断っておくけど。まぁ……ボクの情報も一つじゃないし。大丈夫、手は出さないわ♪」
「それが侮辱なのよ!! あんな可愛いアリア様のパジャマ姿見て欲情しないなんてアンタもしかして男のほうが趣味なワケ!?」
「ナ、ナディア!」
ナディアはほとんど怒るように叫ぶ。どうも前回のことがいろんな意味でナディアは根に持っているようだ。ヴァームのほうは余裕で、クスクスと笑っている。
「手を出していいなら出すけど? ボク、別に男が好きなわけではないわよ? 僕にとって女性としてのアリア様より英雄であるアリア様のほうが好き、ただそれだけよ。 だから、今回はまだ手を出さないわ。皆でパジャマで騒ぐ……うんうん。楽しそうじゃない? ボクの情報はパーティーの肴っていうことでね♪」
ヴァームは上機嫌に言い、そのあとは再び菓子に手を伸ばし食べ始めた。アリアとナディアは顔を見合わせる。
ヴァームはアリアの革命戦全体の戦略予定を知っている。その上でこの明らかに意味ありげなヴァームの様子からすると、情報はかなり重要性が高いのだろう。
「ヴァームさん。ナディアにも手は出さない……と約束できますか?」
アリアは二度目だし、自分だけなら兎も角今回はナディアも誘われている。アリアは、自分は未成年だからヴァームが興味を示さないのだと思っている。だがナディアはもう成人(この時代は17歳で成人)で、ナディアの方が女性として魅力があり、ヴァームが魅了されるのではないかという危惧を抱いている。もしヴァームの気が変わりそういう行為を迫ったり、情報をネタに脅迫したりされると困る。それにそうなったら、ナディアがヴァームを殺すという可能性もある。
「大丈夫。ボクって紳士でしょ? ふふふふふっ♪」
ヴァームはそう答えるだけだった。
結局、ナディアはかなり不満を零したが、二人はそのヴァームの相変わらず突拍子もない要求を受け入れた。
『マドリード戦記』 王女革命編 14 包囲網①でした。
新軍制が今回の目玉です。
この新軍編成が、最終編成になります。この軍で革命戦終了まで戦って行きます。
新しいキャラが少し増えたり、若干ややこしくなりました。
これからはこの編成に出てきたキャラたちが今後アリア軍として活躍していきます。
そしてヴァームさんの密談編。
こちらの新の狙いは次回となります。
ヴァームさんが語る話は大体世界情勢編になるわけで、マドリード以外の国の動きというわけです。
派手さはないですが、世界観を構築する上で重要な展開になります。
ということで、これからもアリア様とアリア様を取り巻く世界を注視して楽しんでもらえればと思います。
今後も「マドリード戦記」を宜しくお願いします。




