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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
王女革命編
13/109

『マドリード戦記』 王女革命編 12 リィズナの激戦 ②

『マドリード戦記』 王女革命編 12 リィズナの激戦 ② です。


膠着状態となるアリア軍とクレイド軍。

しかし兵力差はクレイド軍に分があり、追い詰められるアリア。

レイトンとアリアは奇策によって部分的勝利を得るが大勢を覆すまではいたらない。

そこに現れる新たな兵力。

そしてついに舞い戻るミタス、ナディア、クシャナの三人。

ついに『第二次リィズナ会戦』決着!

リィズナの激戦 2



20日 午後13時00分。


 リィズナの激戦は依然双方決定的な戦機が得られず、消耗戦の様相を呈していた。


 双方砲撃を繰り広げつつ、地上部隊が衝突している。クレイド軍は基本攻勢、アリア軍は基本守勢だが、時折アリアは間隙を突きアーマー部隊を急襲させ、突出しようとするクレイド地上部隊を撃退することで、クレイド軍の大攻勢の機運を潰していった。戦いが始まって5時間以上経過しているが、クレイド軍は数の有利を全く発揮させられず、このような状況が続いている。


 俯瞰で見れば、アリア軍が優勢だった。アリア軍にはリィズナがあり、砲撃戦はアリア軍のほうに軍配があり、兵の消耗もアーマーを主軸に展開しているので被害は少ない。一方、クレイド軍は対陣が長引けば長引くほど損害がじわじわと増えていくといった状況だ。もっともクレイド軍の規模からいえば「面白くない雰囲気」といった程度で作戦転換が必要なほどではない。


 そのことはアリアもクレイドも共に把握している。


「何か戦況を大きく変えるキッカケがあればいいんですがね」

 ザールは司令室で呟く。


 司令官室には、ザールの他にユニティアとサザランドがいる。アリアはアーマー部隊をメインとした最前線部隊を直接率いてこの場にはいない。基本戦略は打ち合わせ済みであり、無線連絡も密に行われている。戦況が大きく変わらない限り全軍の指揮権はザールに預けられていた。

「要塞の被害もぼちぼち出てきたぜ、ザール大佐。どうするんだ?」

 敵の地上砲台は、前線に展開されていた前線砲台はほとんど叩いたが、クレイドが後方に配置した砲台陣地は強固で、遠いため命中精度は低いものの、この後方砲台はエルマ粒子の影響は薄く、休む間もなく砲撃を繰り出している。もっとも、リィズナ周辺はエルマ粒子が充満しているので榴散弾や榴弾の威力は半分以下で兵士やアーマーは直撃さえ気をつければさほど脅威ではないが、建物はそうはいかない。炸裂しなくても重量があり高速で飛んでくる鉄の弾は装甲化されていないコンクリートの部分にはダメージを受けるし、要塞の壁を飛び超えリィズナの施設の被弾も多くは無いが、無視はできない。

 ザールは被害報告書を、あいかわらず鉄面顔で、眉一つ動かさず見ている。

「我々は、今は防御に徹しとにかく敵白兵部隊を要塞内に近づけないことだ。要塞内に入り込まれれば数で劣る我々は一気に劣勢になる」

 サザランドも頷く。機動兵力に劣るクレイド軍がアリア軍を圧倒するとすれば、要塞内に乗り込み白兵で肉薄して乱戦を作り上げてしまうことしかない。クレイド軍は依然アリア軍の3倍の兵力を有し、そのほとんどは白兵部隊だ。

 それがクレイド軍の勝機である。その事はクレイド自身も気付いている。

 いや、そのための用意は着々に進めていた。 


「今度こそ、私の前に引きずり出してあげますよ。アリア殿下」


 クレイドの作戦準備が整ったのは午後13時25分のことだ。


 14時05分。ついにクレイド軍の大攻勢が発動された。


 猛烈な後方射撃を背景に、飛行戦艦<クレイモア>が白兵部隊3000人を乗せて飛び立った。


「ついに来たな。強襲揚陸作戦か」

 飛行戦艦で敵城や要塞に突撃し白兵部隊を上陸、内部から制圧する作戦で、古来よりある戦法だ。ただし砲撃によってその前に撃墜される危険も多く、リスクの高い作戦だ。

 だがクレイドは激しい後方射撃と、前線の歩兵部隊に総攻撃を命じ、アリア軍の耳目を分散させる手を取った。さらに<クレイモア>には秘密がある。


 <クレイモア>には、今回持ってきた砲弾1000発を積み込んだままだ。さらにあからさまに500発の砲弾を<クレイモア>の外壁にぶら下げている。撃墜すればそれら砲弾が大爆発を起こすだろう。むろん白兵部隊も全滅するが、兵士の生命や代償を気にする男ではない。これは、アリアの博愛主義を逆手に取った、先の北軍壊滅の要因となったアリアの戦術を真似た対アリア用の戦術だ。


 クレイドの思惑通り、この作戦に対し効果があった。


 ザールに呼ばれて司令官室に戻ったアリアは、めずらしく攻撃命令を躊躇った。ザールやサザランドはしきりに攻撃を進言したが、もし上空で撃墜した場合、敵軍はもちろん自軍への被害も大きい。

 そこにレイトンが無線で作戦を進言してきた。

「我々の被害なしに、あの飛行戦艦を無力化できます。アリア様」

「本当ですか?」

「任せて下さい」

 その言葉でアリアは決断し、レイトンに作戦の実施を許可した。


 直後、<アインストック>がリィズナより出撃し、前線に躍り出ると、真っ直ぐ<クレイモア>に突撃していく。<アインストック>は一切砲撃せず、真っ直ぐ向かっていく。


 レイトンが<アインストック>の艦橋で命令を下した。


「フォースフィールド・バリアーを全開! フル出力させろ!」

 <アインストック>のバリアーが、通常戦闘仕様からさらに強まる。放出されるネルギー波が肉眼でもはっきりと見えるほどだ。その時アリアたちはレイトンの策を理解した。


「<アインストック>で押し戻す気か」


 ザールが珍しく感嘆を零した。バリアー機能を搭載した戦艦が開発されたのは大陸連邦で僅か10年前……クリト・エ大陸ではこの<アインストック>しかない。最新鋭艦でこそできる方法で、史上初の戦法である。


 ついに<アインストック>と<クレイモア>との距離が100mを切った。レイトンは減速を命じ、<クレイモア>との速度差をあわせると、上空で二隻は激突した。

 だが直接接触はしていない。<アインストック>のバリアーが反発し、<クレイモア>の動きが止まる。

 両艦は、まるで人と人が組み合ったかのように、空中で二つの戦艦は静止した。

「馬鹿な!! あんな無茶があるのか!?」

 思わずクレイドは司令官席から立ち上がった。普通は双方ぶつかり合い大破するはずだ。それがこれまでの常識で、クレイドも<アインストック>の突撃は玉砕による抵抗だと判断していた。それなのに<アインストック>は壊れることなく、バリアーで<クレイモア>を押し返している。

「どうなってるんだ!! あれは!?」

 激突した両艦だが、しばらく静止した後、ついに<アインストック>に押されて<クレイモア>は後退……押し返されていく。それと同時に<クレイモア>のエンジンは過稼働の負担により、オーバーヒートを起こしたエンジンは火を噴いた後爆発し、さらにバリアーエネルギーの反発力によって、<クレイモア>の装甲は弾き飛ばされた。当然外壁にぶら下げた砲弾は落下、誘爆し、クレイド軍に降り注いでいく。


 白兵用語でいう<シールド・チャージ>にあたるだろう。盾を前面に押し出しぶつかる事で敵にダメージを与える攻撃方法だ。だがそれを戦艦で行ったのはこれが史上初めてだ。

ただ、この作戦はレイトンの独創ではなく原案となったのはナディアだった。先の戦いで、ナディアはヒュゼインのビーム・コーティングされたシールドでこのビーム・バリアーの反発力を利用した<シールド・チャージ>を行い、大きな戦果を上げていた。レイトンは、同じテクノロジーを持つ<アインストック>でも可能なのではないか、と考えたのだ。最も戦艦でそれを行えるのはレイトンの戦艦の操船技術あってのもので他の者では真似できないだろう。


「このまま敵艦を上から押す。地面に叩きつけるんだ」


 レイトンは機体を僅かに上昇させ、今度は斜め下に押していった。すでにエルマ式エンジンが使い物にならなくなっている<クレイモア>に抗う事が出来ず、ゆっくりと地面に落ちると、そのまま船体は半壊し崩れた。

 それを確認すると、レイトンはすぐに<アインストック>を急速上昇された。敵陣の真ん中に孤軍にある状態だ。すでに対戦艦攻撃力は低下していて危険は少なかったが、それでも用心のため上空に退避し、高度1000mからピンポイントに砲撃を始めた。


 この戦術はアリアが当初に立てた『アインストック戦術戦闘案』だ。


 ほとんどの飛行戦艦は、上空200m以上浮かび上がれない。搭載している飛行石の能力の限界だ。だが純エルマ粒子式の<アインストック>は上空5000mまで上がることが出来る。そしてそれほど高度にある戦艦を砲撃できる装備はない。あえて敵陣の上空で上がることで、敵の耳目も上空に釘付けにすることができる。


 クレイド軍は、完全に混乱状態となった。頭上を敵に抑えられた恐怖は圧倒的であり、そこから逃れる良案がない以上、兵は潰走する以外手がない。


 戦況が一変し、アリア軍最大の戦機が生まれた。


 アリアはこの機を捉え、満を持し、アーマー部隊を主軸とした攻撃部隊に全面攻勢を命じ、自らもヒュゼインで出撃しようとした。


 だがここで、アリア、クレイド、双方予想もしていなかった事態が発生する。


 突然の出現だった。リィズナの南に、15機のアーマーを先頭に凡そ5000の軍が出現したのだ。


「新手……!?」


 アリアは上空のレイトンからの報告に思わず振り向く。

「なんだ、あの軍は……国防軍か?」

 クレイドも突然現れたこの軍の報告に、立ち上がり自らの目で確認した。

 軍の様相、軍服から、マドリード国防軍なのはすぐに分かった。この軍はクレイドが掌握していた軍ではない。だが国防軍ということは、クレイドにとっては友軍である。

「はっ……はははっ! どうやら私は運がいいよ、全く。ははははははっ」

 クレイドは哄笑し、周りに笑顔を振りまく。両軍、そろそろ行動限界に近い。そこにきて新勢力の参加は、戦況を一変させ勝機をもたらすものとなるであろう。


 この国防軍こそ、独立部隊として命令を受け設立された遊撃国防軍であり、その司令官は、シュナイゼン=フォン=カラム大隊長であった。


 彼の参戦が、この『第二次リィズナ会戦』の勝敗の決定打となる。


 午後15時25分のことだった。





 戦場の雰囲気が一変した。

「一時後退! 要塞前で防御線を!」

 アリアはヒュゼインの無線で全軍に命令した。アリアも予期せぬ軍の出現だ。しかも無防備な横腹を突かれる形になっている。戦線を整理しなければならない。

 一方クレイドも戦線の再編を命じた。こちらは攻勢に出るためのものだ。横腹を突く形で現れた国防軍が攻勢に出たときこそ、全面的な大攻勢の好機となる。


 が……。


 両軍がそれぞれの戦線を整理に入っても、国防軍は動かない。


 国防軍側からは、アリア軍、クレイド軍の動きがよく見えているはずである。


「どうなっている!? 何をしてるんだ国防軍は! 馬鹿じゃないのか!?」

 クレイドは南に現れた国防軍を睨みつける。

 アリア軍が戦線修正に入った今こそ、攻勢の最大の好機ではないか。だが国防軍は、悠然と戦闘態勢の陣を取ったまま動かない。

 その直後……アリア、クレイド……二人が驚愕する宣言が無線機から届いた。


『私は国防軍大隊長シュナイゼン=フォン=カラム。貴族評議軍クレイド=フォン=マクティナス伯爵に告げる。今すぐ貴族軍の撤退を求める。撤退しなければ、この内戦を終わらせるため、我が国防軍はアリア殿下に協力する』


「ばっ……馬鹿なっ!! そんな馬鹿なことがあるかっ!!」


 クレイドは驚きと怒りのあまり自分の司令官席を蹴った。周りの参謀たちも、どう対処したらいいか分からず顔を見合わせる。それがさらにクレイドの癪に障り、彼はさらに叫びながら参謀たちに拳を振り上げる。二人の参謀に八つ当たりした後クレイドは叫んだ。

「何を言ってるんだ!! あのカラムとかいう隊長は!! 自分の立場が分かっているのか!? おいっ!! お前らも何か言えよ!! 馬鹿じゃないのかお前たちっ!!」


「シュナイゼンさん……」


 シュナイゼンの宣言は、アリアにとっても驚愕だった。むろん彼の名前は覚えているが、まさかこの場に駆けつけるとは思わなかった。そして、それはシュナイゼンを知るザールも同様だったが、ザールだけはシュナイゼンの行動が偽りではないことが分かる。


 貴族評議会がこのリィズナの会戦の前、政治、軍事的に独裁の色を強く布いた。その圧力は世間より、貴族評議軍を国防軍より上と定めたため、国防軍との間に大きな溝を作った。元々国防軍は愛国心が強く真面目な分、その反動力は大きかったに違いない。元々国防軍はほとんど限りなくアリア派に近い中立だった。評議会は彼等を軽視した。


 シュナイゼンは国防軍としてアリア派に転向した。彼はアリアを知っている。そして真に国のために戦っているのはどちらかということも分かっていた。彼をなんとか中立派に留めていたのは、国防軍としてのペンドル守備の職務だったが、その彼の去就を決定的にさせたのは皮肉にも貴族評議会自身だった。「アリア軍を討て」と貴族評議会に命じられたその時が貴族評議会と決別した瞬間だったと言っていい。


 シュナイゼンは途中、ファームより撤退中のカルレント=フォン=バーダック中隊長と合流。シュナイゼンの決断をバーダックも支持した。貴族評議軍はファームで敗れた国防軍のサポートを何ら行わなかった。それが、アリア軍と激闘を繰り広げ最後まで善戦した彼等の自尊心と尊厳を傷つけ、結果彼等の去就を決定させた。


 クレイド含め、貴族評議会は、国防軍を想像以上に甘くみていたことになる。


 確かに一部の隊長格は貴族評議会側についたし、総司令官のペニトリー将軍は中立を宣言してアリア派に走らなかった。そのため貴族評議会は、国防軍は内戦に関心がなく、政府に忠実な存在で、少なくとも独立し敵になることはない、と錯覚した。だが国防軍の将校たちもただ命令に忠実な犬ではなかった。今、そのツケが全て、クレイドに集中した。


 今、シュナイゼンたちは猛然と反旗を翻した。


「国防軍、進軍。貴族評議軍に突撃」

 シュナイゼンは静かに<アージェンス>部隊に命じた。彼等は隊長機の<アージェンス改>を先頭に整然とクレイド軍に向かっていく。

「こんな馬鹿な話があるか!!」

 ついにクレイドの主力部隊も交戦に入った。クレイドは、足元まで迫った敵軍……国防軍とアリア軍を見、吐き捨てる。もはや、彼をなだめる参謀もいなかった。彼等は全員、前線指揮をするため<パルモ・セルドア>を出た。前線といっても、正に<パルモ・セルドア>の足元だ。

 南側から進攻する国防軍に合わせ、アリア軍は北側に弧を描くように回りこみ、クレイド軍を挟撃した。この二方面の攻勢にクレイド軍は耐えられず見る見る間に打ち崩されていく。

 運命というものがこの世にはあるのかもしれない。

 そう思わせる出来事が起こった。

 <ロロ・ニア>が、ついにこのリィズナに姿を現したのだ。



「間に合いましたわね」


 <ロロ・ニア>の艦橋で、クシャナは笑みを浮かべた。

 <ロロ・ニア>は、上空3000mの高度から、<パルモ・セルドア>の真後ろ目掛けて突進していく。クシャナは帰還の報告と戦闘参加をリィズナに伝えた。

「敵旗艦に強襲揚陸し、敵将を討ちます! 乗員も白兵準備!」

 そう命じると、クシャナは格納庫に走った。格納庫では、すでにナディアとミタスがスタンバイしている。

 一方、敵戦艦が無防備な後方頭上に現れた事を、クレイドも知った。

「背後から戦艦だと!? ふざけるなよ! 一体どんなトリック使ったらそんなことが起きるんだ!?」

 クレイドには言葉荒く怒鳴り散らす。だがそれを答える参謀たちはいまや前線指揮官として下船し戦っている。それでもクレイドはまだ冷静に戦闘命令を出すゆとりはあった。 <パルモ・セルドア>、地上の砲兵に新たに現れた背後の敵戦艦を迎撃するよう命じたが、それも無意味に終わった。<パルモ・セルドア>の砲門は半分以上が破壊され、生きている砲門も前方に向いていて砲撃できない。地上部隊の砲では、高度、高速で迫る<ロロ・ニア>を撃つ事は技術的に無理だった。第一アリア軍と国防軍が間近に迫っていてそれどころではない。


 出現の報から僅か10分後……まるで<パルモ・セルドア>を貫くかのように<ロロ・ニア>は船体真ん中に突き刺さった。大きく揺れる<パルモ・セルドア>。

 <ロロ・ニア>は中型艦だが<アインストック>同様純エルマ式、外装は鋼鉄製の仮装戦艦だ。方向性バリアーもある。基本半分が木造で出来ている<パルモ・セルドア>とは防御力が違う。そして、突き刺さった<ロロ・ニア>から2機のアーマーが飛び出し、突撃で開いた穴から船内に入っていった。ナディアのヒュゼイン紅機と、クシャナの<アージェンス改>だ。そして、ヒュゼインの手の中に、トジーユン=ミタスがいる。


「暴れるわよ!!」


 ナディアは見事に船内にヒュゼインを滑り込ませた。続いて同じ穴からクシャナの<アージェンス改>も、ややグラつきながらも無事船内侵入に成功した。

「暴れるのはいいが、俺を巻き込むなよ!!」

 素早くミタスはヒュゼインの手の中から飛び降りた。

「了解了解♪ ちゃーんとミタスの道、作ったげるよ♪」

 その瞬間、ヒュゼインの全砲門が開いた。


 <パルモ・セルドア>の船内でいくつもの小爆発が起き、<パルモ・セルドア>はついに斜めになり地面に墜落した。ナディアたちが突入して僅か3分後だ。その光景は地上で戦闘指揮していたアリアも確認した。


「まったく……ナディアは無茶するんだから」


 アリアは苦笑したが、すぐに表情を引き締めると、無線機を取り全軍に向けて大攻勢を命じた。


「最終局面です! 全軍、攻勢を強めよ! 敵兵を一人でも敵戦艦に戻すな!!」


 アリアの命令により、アリア軍のアーマー、リィズナ、<アインストック>が一斉に砲撃を集中させた。特に射程の長い<アインストック>の砲撃は<パルモ・セルドア>にも及んだ。


 アリアは再び無線機を取り、回線をクシャナの<アージェンス改>に繋いだ。

「アリア様、遅れてすみません。でもご無事で何よりです」

 <アージェンス改>を動かしながら、クシャナはいつも通り落ち着いた口調で無線に出た。彼女もあまり状況に流されない性格で、大攻勢の最中、特に高揚した様子はなく、平静だ。

「皆も無事でよかったです。ところでナディアとミタスさんは?」

「もう奥に進みましたわ。私も周辺を掃討したら後を追う予定です」

 クシャナはまるで散歩にでもいくかのようにサラリと答える。

「敵将はクレイド伯です。必ずクレイド伯は殺さず捕縛して下さい」

「捕縛……ですね」

 クシャナは僅かに不満そうに復唱した。何度か述べたが、貴族に対して好戦的なのは、一にナディア、二にクシャナ……なのだ。それを知っているからこそ、アリアはあえて無線で命令を伝えた。


「殺してはこの戦闘に収拾がつきません。降伏させて下さい!」


 それだけの命令でクシャナは現在のアリア軍の状況を知った。被害こそ少ないが、アリア軍の活動限界が近づいている。この状況では、クレイドを殺しても戦闘は継続される可能性がある。負けることはないがアリア軍の消耗と被害も軽視できなくなる。戦闘を早期終決させるには、敵を降伏させるほうが早い。クレイドのような軽薄で人を食った性格の将は、滅びの美学に酔って最後まで戦って散る事など考えてはいないだろう。


「お願いします! クシャナ」


「分かりました。アリア様、もうしばらくお時間を下さい」

 そう答えクシャナは無線を切った。ナディアのヒュゼインは遠慮することなく砲撃によって穴を作り突き進んでいた。一方、ミタスも白兵で艦橋を目指しているはずだ。艦内には、クレイドにとって不幸な事に、防御兵も前線に狩り出され、ほとんど兵士を残していなかった。残っている兵士たちにヒュゼインやミタスを止められる戦力はない。

 特殊任務明けとはいえ、移動時間に休息を取ったので彼等の体力は十分回復している。さらにこの三人はアリア軍の最精鋭トップ3だ。留守兵など敵ではない。

「ミタスさんはともかく、ナディアちゃんは早く止めないとまずいわね」

クシャナはため息をつきながら、ほとんどスクラップとなった艦内の奥に向かっていった。




 事この状況に至った今、クレイドも自分の敗北を認めた。


 彼は司令官室で書類を燃やしている。その間も『パルモ・セアドア』は大きく揺れ続けているが、その揺れによって敵の進攻が予測できる。まだ数分の時間はある。

「まったく……踏んだり蹴ったりっていうのはこういうことだね。まいったよ」

 艦橋での激昂は嘘のように、今のクレイドは落ち着いている。どこか他人事のような雰囲気だ。

 やがて一枚の封筒を取り出し、それのみを懐にいれ部屋を出た。その後、戦艦乗員兵が司令官室に火を放った。クレイドは振り返ることも焦る様子もなく、さらに逃げる様子もなく、何事もなかったかのように艦橋に戻って行った。


 クレイドが艦橋に着いたとき、待っていたのは味方ではなかった。


「随分遅かったな。クレイド=フォン=マクティナス伯爵」

 ブンッ……愛用の戦斧槍が風を切り、刃の血が飛び散った。

 軍服を返り血と煤で汚した無傷のトジーユン=ミタスが笑みを浮かべている。

「『ランファンの英雄』トジーユン=ミタスか。勇名は耳にしているよ。思っていたより若いのだな」

 クレイドも、まるで動じることなく笑みを浮かべた。

 司令官席の傍で、ミタスとナディアが立っていた。突入から僅か5分だ。ナディアがビームによって木製戦艦の壁に穴を開けて道を作ったので二人はほぼ直線でこの艦橋に辿り着くことが出来た。

 クレイドは、余裕そうに一笑し、わざとらしく手を広げてミタスたちのほうに歩んでいく。それを見たナディアが静かに短剣の抜いた。だがクレイドは何ら怯える様子もなく、「残念だけど武器は持たない主義なんだ。殺したければどうぞ」と笑顔で答える。恐怖はないらしい。

「んじゃお言葉に甘えて殺してあげる。首か胸か腹かは選ばせて上げるわ」


 チャキリ……と短剣を身構えるナディア。アリアが心配した通り貴族嫌いナディアの目的は、敵将貴族の殺害だった。それをミタスが止める。


「ミタスっ! どーしてよぉ!」

「丸腰の男を殺すのはフェアじゃない」

「多分きっと間違いなくあいつは懐にナイフと銃とか隠し持ってるって!」

 すごく無茶苦茶な屁理屈を叫ぶナディア。それを聞いてミタスは目を伏せ、クレイドは明るい声で大笑いする。

「楽しい娘だなキミは。なんなら今度シーマの私の屋敷においでよ。招待させてもらうよ」

「悪いけど、あたしたちがシーマに行く時は、アンタの仲間の首を奪いに行く時よ」

「ほう……」

「アンタは今すぐにでも……」

 そういって身構えるナディアをミタスは押えると、静かにクレイドに降伏を勧めた。

 これまでは丁寧だが、ミタスだって大人しいほうではない。クレイドが拒否すれば即座に力づくで取り押さえられる気でいる。クレイドがもし武器を抜けば、即座に槍を投げる。別に生かして捕らえろという命令を二人は受けているわけではないし、そこまで優しくもない。

「困るなぁ……『ランファンの英雄』にそんなに睨まれちゃったら何もできないじゃないか」

 そういうと、クレイドは両手を挙げた。

「停戦し、撤退をしよう。この勝負は卿等の勝ちだ。悪いが捕虜で君達に囚われる生活は嫌でね」

「アンタねぇ~! この状況下でそんな駆け引きが成立すると思っているワケぇ」

「成立するさ。僕には最後の手段が残されているからね。僕の手の中には小さなリモコンスイッチがある。これを押せば、この<パルモ・セルドア>は自爆する。僕も死ぬが卿らも死ぬだろう」

 そういうとクレイドは右手を開いた。確かに小さな装置を握りこまれ隠されていた。


 ミタスとナディアが思わず身構える。


 クレイドは、軽薄な笑みを浮かべた。


「私の命は今となっては価値がないだろ? だけどこの爆発は<最後の一兵まで戦え>っていう合図なんですよ? それに……アリア殿下にとって卿等を失うのは大打撃じゃないかな?」

「アンタ!」

「これが策というヤツさ。私は剣もアーマーも苦手だけど頭脳だけは自慢なんですよ。暴れるだけの卿らとは違う」


「その頭脳とやらも高が知れていますわね」


「!?」


 背後から声がした……三人が振り返った瞬間、一発の矢が閃光となってクレイドの右手首を射ち抜いた。思わずリモコンスイッチが落ち、それを素早くナディアが回収する。

 ぽっかり開いた船体の穴の傍で、クシャナが弓を構えていた。彼女の弓は20m以内であれば銃より正確だ。

「さすがクシャナだな」と笑みを浮かべるミタス。

「クレイド伯。貴方の頭脳とやらも高が知れていますわね。そういうのはただの悪あがき、ただのこけおどしっていうのですよ? 下手な動きをすれば、今度はご自慢の頭を撃ち抜きます」


「…………」


 手首に刺さった矢を引き抜きクレイドは舌打ちした。これでクレイドの策は完全に手が潰えた。


 クシャナは構えながらミタス、ナディアに合流し、小さな声でアリアの命令を伝えた。それを聞いてミタスは頷いた。ナディアも嫌そうな顔でしぶしぶ頷く。そしてミタスが代表してクレイドに告げた。

「クレイド伯。アリア様からの提案だ。一度しか言わないから、よく聞いて答えてもらいたい。アリア様は貴公の自発的な撤退を望んでいる。聞き入らなければ生殺与奪はここにいる俺たちに任された。負けを認め降伏しろ。即答してもらいたい」


「…………」


 クレイドは苦々しい表情で手首の傷をハンカチで押えている。そしてハンカチで傷口を縛り終わると堂々と立ち上がった。


「仕方ないなぁ……いいよ、僕の負けだ、馬鹿共め。無線を借りられるかな? 全軍の停戦命令を出そう。あいにくこの飛行戦艦の無線は壊されてしまったようだし、船はもう使い物にならないしねぇ~」


 クレイドの神経も尋常ではない。彼は最後まで媚びもせず自信を失うこともせず整然としている。


「許可しよう」


 三人が顔を見合わせ、無線は<アージェンス改>の物が使われた。


 午後15時57分。

 スピーカー放送にてクレイド本人がクレイド軍の敗北、停戦、そして残った兵士全てに降伏命令を出した。これによって午後16時13分には戦闘が停止し、これによってアリア軍の勝利が確定した。


 最終的にこの第二次リィズナ会戦終盤戦は、アリア軍は独立国防軍を入れれば兵力約9000、クレイド軍は総勢2万8000……アリア軍の死傷が1000人ちょっとだったのに対し、クレイド軍の死傷者は2万3000人近くに上った。クレイドは完敗した。


 後に『第二次リィズナ会戦』と呼ばれるこの戦いは、ここに完全終結する。約一週間に及ぶ激戦であった。


 この『第二次リィズナ会戦』の結果、アリアの戦略戦術手腕がまぐれではなく本物で、その才能は驚嘆と畏怖を受け各国に知れ渡る事になる。







『マドリード戦記』 王女革命編 12 リィズナの激戦 ②でした。


『第二次リィズナ会戦』、ここで終了です。

 アリア軍の完全勝利ですね。

 まぁ……クレイド伯は破れましたが死んだわけではないし、彼も今後も出てくる重要なキャラなので、今後楽しみにしてもらえたらと思います。


ということで次の段階、事件になるわけですが……

多分、次の事件は予想外の出来事が起きます。

予想外ではあるがアリアにとって人生が変わるような大事件です。


実はよーく熟読した方は、この後何が待っているか分かったりします。ヒントはすでに出ています。

とはいえ多分それを予見することは難しいので、書き手として面白く公開できればと思います。


今後も『マドリード戦記』を宜しくお願いします。



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