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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
大陸連邦留学編
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マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編24

マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編24



ナディアとクガートの試合が始まる。

双方達人の領域。

互いに負けを知らない軍人だ。

だが、クガートの強さはアリアの予想を遥かに上だった。



***


 これは試合か? それとも一種の決闘になるのだろうか……。



「もう少し後先考えなさい。軍というものは何より面目や見得を気にするところです。その面子を潰せば報復をしてくることくらい想像できるはずですよ」



 この場にザールがいたら、彼は顰め面で安易に勝負に挑んだアリアやナディアをそう説教した事だろう。アリアも、そう思う。正直ここにザールがいなくてよかった、とアリアは素直に思った。


 思えばこの祭りはただの祭りではなかった。

 戦争に向けて士気高揚を狙ったイベントで、外国人が勝つのはまずいだろう。そこに思い至るべきであった。


 しかしアリアのそんな心配は他所に、どこか楽しそうだ。



 予定よりやや早い時間に軍広報部に行くと、話は通っているらしく、アリアたちは軍基地内にある室内体育館に案内された。



 体育館中央では一人の男が訓練用の竹刀を手に準備運動をしていた。他に士官服の兵士たちが50人ほど取り囲んでいるが、彼らは整然と正立し一言も発しないし動きもしない。



 クガート=パドドーテ少将。

 儀礼用の軍服ではなく動きやすいラフな服装に着替えている。


 こうして見ると、背も高いが筋肉もあり、引き締まった肉体が服を着ていても分かる。

 身長は194cm。見たところほぼミタスと同じくらいだろう。



 クガートはアリアたちが中に入ってくるのを確認すると、準備体操を辞め、二人の前までやってくると軽くお辞儀をした。



「私の我侭を聞いてくれてありがとう。部下たちが試合を観戦することを許して欲しい。竹刀は使ったことがあるかね? ナディア君」


 見るとヴィクトレア少佐が2本の竹でできた模擬刀を手にしている。ナディアは笑みを浮かべそれを受け取ると、いつものようにヒュンヒュンと手の中で回して見せた。


「うん! 紙剣とは違うけど大丈夫!」

「防具は女性用のものを用意した。ヴィクトレア少佐、彼女に渡してくれ。怪我をさせるわけにはいかない。服も気になるなら軍仕様の稽古服もあるから着替えるといい」


 ヴィクトレア少佐の足元に、プラスチックのプロテクターとフェイスガードが置いてある。

 今日はアリアもナディアもアーマーを操縦するということで、動きやすいズボンにシャツに薄い上着という格好で動き回るには不自由しない格好だ。


 だがクガートは身につけていない。


「閣下。貴方が着けないなら、あたしも着けない。あたしも軍人だからね」

「了解した。では防具はなしとしよう」


 そういうとクガートは愛用の竹刀を握り直した。通常の竹刀の長さをナディアたちは知らないが、長さは120cmもある。実は普通の竹刀の長さは90cmだから、クガートのものは他より長大なのだ。



「試合は三本。では儀式の乗っ取り、<ラナチ>を送る」

 そういうとクガートは竹刀を縦に立て、左手でコツンと柄の部分を叩いた。

「<ラナチ>とは何ですか? 少佐」

と尋ねたのはアリアだ。ヴィクトレア少佐は振り返り答えた。

「大陸連邦の剣術試合前にする挨拶のようなものです。<試合結果に遺恨なし>という意味です」


 それを聞いたナディアは、楽しそうな表情で同じように<ラナチ>を行った。


 そして、ついに二人は対峙した。もうアリアには止められない。

 審判役はヴィクトレア少佐だ。



 一瞬……静寂に包まれた。



 次の瞬間……二人が動いたのは同時だった。



 そして、二人が交差した瞬間何が起きたか確実に見ていた者はいない。気付けばナディアは薙ぎ倒されていた。だが、クガートの胸にはナディアの持っていた竹刀が当たり、ポトリと床に落ちた。


 ヴィクトレア少佐ですら審判に迷った。ナディアが薙ぎ倒されたのは明らかだ。

 だがアリアには分かった。



「相打ち」



「ああ、相打ちだ」


 とクガートは答え、足元に落ちたナディアの竹刀を取り上げ、そっとナディアの近くに置いた。


 その言葉に、大陸連邦軍の兵士たちは言葉には出さないが驚きの声がそこいらで漏れた。

 クガートが一本取られるなど、彼らは見たことがないからだ。


「どうやら相手を甘くみていたらしい」とクガートは言って笑った。「お互いにな」

「そーだね」

 竹刀を拾うナディア。その顔から笑みが消えた。


 ナディアは確実に左の竹刀で一撃を防ぎ、右でカウンターの突きを目にも止まらぬ速さで放った。だが防御は簡単に破られナディアの体を突き飛ばした。右の突きは当たったが、手応えは弱く到底致命傷を与えるには至っていない。


 が……自分の判断の甘さを後悔したのはクガートも同じだ。自分の強力で神速の薙ぎをナディアは受け止めたのだ。それを力で押し切り薙ぎったが恐らく致命傷には至っていないだろう。




 ……思ったとおり、相手は自分と同格の腕を持つ達人だ……!


 握手をした時感じた直感は間違いなかった。


 再び対峙した時……両者の気配ははっきりと変わった。それに驚いたのはアリアとヴィクトレア少佐だ。この二人は気配の正体が分かる。殺気だ。



「勝負、2本目! 開始!」


 ヴィクトレア少佐が宣言する。

 今度はお互いすぐに飛び掛ったりしない。

 ナディアは半歩、半歩、ジリジリと円を描くように足を擦らせながら動く。一方クガートは長い竹刀を正眼に構え、剣先が静かにナディアの動きを追う。


 ナディアが半周した時、クガートが仕掛けた。


 タンッ! と床を蹴り、凄まじい速度でナディアの脳天に竹刀を振り下ろす。当たれば竹刀とはいえ間違いなく怪我をする。その剣撃の凄まじさに、見ていたアリアのほうが血の気が引いた。


 この凄まじい一撃は、実は誘いだ。避けたり払った時、剣は翻り返す一撃で胴を払う。

 だが、クガートの予想は外れた。

 ナディアは二本の竹刀を合わせて、その一撃を受け止めたのだ。


「閣下の一撃を受け止めた!?」

と唸るヴィクトレア少佐。



「たあぁぁっ!!」


 ナディアは竹刀を弾くと、一瞬の内にクガートの懐に飛び込んだ。そして二刀で猛烈に斬りこむ。だがクガートは信じられないことに長い竹刀の不利を不利ともせず懐に飛び込んだナディアの攻撃をあしらっていく。


 二人の激しい打ち合いに、周囲は目を見張る。

 僅か5秒ほどの時間で、両者は15合ほども打ち合い、どちらの竹刀も相手に掠りもしない。


 双方、化物染みた達人だ。


 8秒のころ、ナディアがバックステップで後方に飛び間合いを取った。だがクガートは一切休ませることなく踏み込み打ち込んでくる。クガートは攻勢のほうが太刀筋は凄まじくナディアは防戦一方となるが、それでも全く隙は見せない。


 13秒が過ぎ、堪らずナディアは転がるように距離を取った。この距離は大きく、ざっと15mも離れた。これだけ離れなければクガートの追撃を受け意味がない。さすがのクガートもこれだけ離れられれば下手に追ったりはしない。



 両者構えなおした。二人共息が切れている。


 連邦軍兵士たちにとって、この光景は予想外であり初めてのことだ。クガートと対峙して15秒以上立ち会える人間はいないのだ。そしてその驚きはクガート本人も同じであった。まさかここまで出来る相手だとは思っていなかった。


 一方……ナディアのほうも相手の強さに舌を巻いていた。


 正直なところ、勝算が全く見出せない。



 ……ナディアが押されているなんて……と、ナディアの強さに絶対の信頼を持っていたアリアは、この試合の流れに驚きを隠せないでいた。

 アリアだけは分かる。この乱打戦の合間に三度ほどナディアは必殺の<首狩り>を放っていた。だがその全てを防がれた。




 ……ミタスさんでさえ、ナディアの<首狩り>を完全には防ぎきれないのに……!?



 得意技が決まらないとすれば、体力勝負となる。だが体力ではどうやってもナディアに勝ち目はない。体格が違いすぎる。


 まともに戦っては、勝算は薄い。時間が経てば勝算はもっと下がる。そして手の内を曝け出した後はもっと下がる。つまり次の三本目の勝負はナディアに勝ち目は薄い。



 負けたくない。


 アリアの目の前だ。


 ナディアはポンと右手の竹刀を逆に持ち直した。



「…………」

 クガートが僅かに反応した。


 ナディアの<首狩り>は短剣の逆手で掻き抉るほうが向いているし速い。だがそれは実戦本位のもので試合には向かないし、クガートのように俊敏でとてつもないパワー・タイプには向かない。それにクガートは経験も豊富だ。恐らくナディアが持ち替えたのを見て速攻の勝負に出てくる……と読んでいるに違いない。


 ナディアは三回ほど大きく呼吸し、そして地面を蹴った。

 高く飛ばず、床すれすれの低空を跳ねる。

 クガートは体を沈め、強力な横薙ぎでナディアを払う。

 ナディアは跳躍した。


 今度は高くクガートを飛び越え、クガートの後ろを取る。だがその時にはすでにクガートも反転している。さらにナディアは飛び、クガートの背後、反転を繰り返す。


 4回反転があり、5回目となった時、クガートの斬撃のタイミングとナディアの跳躍のタイミングに追いついた。それをナディアは左の竹刀で受ける。衝撃でナディアの体が空で崩れた。そしてすぐにナディアを両断すべくトドメの一撃を放った。ナディアは体を捩じらせなんとかその一撃を受けたが、体勢が悪く、ナディアは防御した左腕もろとも床に叩きつけられた。


 が……斬られる瞬間、ナディアは体を捻ると右手に持っていた竹刀をクガート目掛け突き出していた。届かないが関係ない。ナディアは竹刀を投げた。



「ナディア!!」



 強かに地面に叩きつけられるナディア。

 クガートの竹刀は的確にナディアの背中を叩いた。その直後、ナディアの投げた竹刀はクガートの首筋に当たった。

 勝負はあった。剣はクガートのほうが速かった。


 ヴィクトレア少佐はクガートの勝利を宣言した。




マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編24でした。


ナディアとクガートの試合編です。

事実上今回が留学旅行編のクライマックスになると思います。

あのナディアが、試合ですが負けました!

それほどクガート少将は強い剣の達人です。

ナディアも一人で並の兵士をバッタバッタ切り倒す達人なのですが、ほんの僅かにクガートのほうが上手のようです。世界は広いという話と、ちょっとした今後のマドリード戦記女王動乱編の伏線でもあります。


まだ勝負は1本残っています。が、ナディアはどうするのか。

ということで最後のクガート編です。


これからも「マドリード戦記」をよろしくお願いします。


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