マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編20
マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編20
アーマー模擬戦に参加するアリアたち。
それを特別席で観戦しているヴァームとガルゼンフ。
この模擬戦は賭け試合でもあった。
アリアたちに強引に賭けるヴァームだが……。
こうしてレースは始まった。
***
一方、特別観客席。
恨めしそうな顔で晴天の太陽をヴァームは睨んでいた。インドア派の彼はどうも太陽が苦手だ。
ヴァームとルクレティアがいるのは貴賓者用特別観客席で、一般席より高い三階のテラス席だ。ここには屋根があり椅子と小さなテーブルがあって飲み物など自由に飲める。
「アリア様とナディアちゃんのオッズはどれくらいなの? ルクレティア」
「御二人共8.6倍です。中間よりやや上くらいです、代表」
「外国の令嬢……の割にはオッズがついているのね。<ベレッサ>のせいかしら?」
「パナトール伯爵家の<マクラリーノ>が準国宝級<ズベル>級で、パイロットも予備軍所属のクリストファー氏、これが民間では一番人気が高いようです。機体性能が明らかに高いのはこの方だけです。アリア様はこの方の次の次になります。<ベレッサ>の性能ありきは分かりますが、それにしては少し評判が高いようですが?」
「試験操縦したとき目に止まったんでしょ? そりゃあオッズは高いわよ。そのあたり胴元はちゃんと計算しているわよ。それが商売だもの」
胴元は大陸連邦軍だ。ただ祭りを盛り上げたいだけのはずがない、とヴァームは見ている。ちゃんと運営費の足しになるようオッズは上手く計算しているはずだ。
ヴァームが見るところ準国宝級である<マクラリーノ>は、いってみれば客寄せ用だ。そしてアリアたちもまた軍の客寄せ用だろう。でなければ飛び込み参加などさせるはずがない。客たちも先日『ムサイカ商会』で買われた高級機<ベレッサ>が参加するとなれば関心を持つ者もいるだろう。
しかし、彼らもまさか搭乗するアリアたちが戦争経験者だとは知るまい。
ヴァームは賭けの上限を確認し、上限一杯の1万ギルスをナディア機に賭けた。この祭りは賭け事がメインではないので上限が設けられている。
「アリア様にはお賭けにならないのですか?」
「アーマーの腕はナディアちゃんのほうが少しだけ上だって聞いているからね。ヒュゼインだったら分からないけど、先日買ったばかりの機体だとアリア様は少し不利でしょうね」
そういってヴァームは自分のカードをルクレティアに渡し、手続きを命じた。そして意味ありげな笑みを浮かべ、隣で緊張が御で座る男……ガルゼンフのほうを見た。
実はこの日、昼前から二人は合流し、この観覧席で祭りを眺めながら例の新型<ドルバール級>の戦艦建造についての打ち合わせを行っていたのだ。ヴァームは問題となっていた二基目のコア調達と戦艦への武装換装の許可を得たのでその事をガルゼンフに伝える用事があったのだ。
ついでに造船にあたって必要な根回しや部品、調度品の手配、材料の調達、技師の手配など、ガルゼンフの手に余る事は全てヴァームが対応するということで話はまとまった。ガルゼンフにとってはありえないような好条件となった。事実上半分はヴァーム製作といえるかもしれない。費用も多少ヴァームの財布から出ている。むろんアリアには秘密だし本人も言うつもりはない。
ヴァームの目線に、ガルゼンフは少したじろぐ。
「じゃあ俺も5000ギルスをナディアの姉ちゃんに。1000ギルスをアリアの嬢ちゃんに賭ける!」
そういうとガルゼンフは立ち上がった。ヴァームと違い手続きは自分でしなければならないからだ。5000……とさらりと言ったが、ヴァームのような人間ならともかく庶民が遊びで賭けるにはかなり高額だ。当時の庶民の平均月収の二倍相当である。
「一点賭けするほうがいいわよ? アーマーの腕はナディアちゃんのほうが確実に上よ?」
「いいんだよ! アリア嬢ちゃんに賭けるのは、俺なりの応援って奴だ」
「ま、いいわ。今のオッズだと8倍はついているから、ナディアちゃんが勝てばいい小遣い稼ぎになるわね」
クククッと喉を鳴らして笑うヴァーム。ガルゼンフもフンと鼻を鳴らし、そのままルクレティアと一緒に観覧席を後にした。
「アーマー性能もだけど、要は戦術。さて、アリア様のお手並み拝見ね」
ヴァームは楽しそうに笑う。思えばアリアの戦闘の才能を直に見るのは初めてだ。これはこれで非常に楽しみであった。
***
午後14時……ついに模擬戦闘ゲームが始まった。
20機のアーマーが模擬戦場に突入する。出発点はそれぞれ違うからすぐには格闘戦に入らない。コースは障害物のある外苑部二周し、その後は全域を利用した混戦となる。
なので、正攻法としては最初に二周し、行動の自由を得た後まだ周回を巡っている後続に襲い掛かるのがもっとも効率がいい。各連邦軍4機と<マクラリーノ>、そしてナディアの<ベレッサ>は他のアーマーなど気にも留めず、全速で外周部に入り走る。
出発地点もよく、メンテナンスも行き届いていたナディアの<ベレッサ>が先頭を取り、その後を連邦軍エース、ヴィクトレア=コスモ少佐の新緑にカラーリングされた<ザハルート改>、そして<マクラリーノ>が続き、その少し後に通常カラーの<ザハルート>、ミノール男爵家の<コロバス・レイ>が続き、その後ろにアリアの<ベレッサ>がついた。ここまでが先頭集団で、他はアリアの10~15mほど後ろで団子になっている。
最初は皆様子見だ。旗の取り合いは起きない。だがお互いよりいいポジションを取ろうと、各機動かしあっている。
その中で、ナディアは完全に独走状態で先頭を維持した。<ベレッサ>の高い機動力もあるが、並の操縦能力ではない。機体は最高速が出せてもそんなトップ・スピードで操縦できるような人間はいない。ここは障害物コースで、コースは目まぐるしく変わる。普通それらを避けつつ後続もいる状態で最高速など出せるはずがない……というのが常識だ。その常識を、ナディアは軽々と破ってみせた。この想定外の展開に会場はどよめき立つ。
が、ナディアのすぐ後ろを一機のアーマーが追従する。ヴィクトレア少佐の<ザハルート>だ。この二機が先頭を走り、その後<マクラリーノ>が続き、その後ろの先頭集団の団子になっている。
「やるなぁ……ナディアの姉ちゃん! ぶっちぎりだ!」
思わぬ結果にガルゼンフは立ち上がった。
「そりゃああの程度はやるでしょう」
ヴァームは驚かない。見て分かったが、確かに<ベレッサ>は優れた機動力を持ついい機体だが、二人が普段乗っているヒュゼインのほうが遙かに速く大きい。それに比べればあの程度の速度などなんということはない。
……しかしアリア様は突出しない。作戦があるようね……。
アリアは先頭集団の中にいる。そして他の機と違い自分の位置を何度も変え巧みに動き回っている。
一歩前に出たくても出られない風に見え、同型だがナディア機より操縦は劣る印象を受ける。
だがこれは擬態だ。
アリアの腕ならこの先頭集団を抜け出しナディアに並ぶ事はできるはずだ。
マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編20でした。
模擬戦はレース+旗取り戦なので危険はありません。
しかし移動しながら旗を取るのは大変です。技量も機体の性能も必要です。
火砲なしなので純粋な力量が問われます!
こういう乱戦はナディアが得意としていますが、アーマーがいつもと違いますし、大陸連邦の軍人も参加しているので甘い戦いにはならない……と思います。
ということで模擬戦編、試合開始です。
これからも「マドリード戦記」をよろしくお願いします。




