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『マドリード戦記』  作者: JOLちゃん
大陸連邦留学編
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マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編18

マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編18



温泉施設を観察、満喫するアリアたち。

アリアは色んな点を学ぶ。


そして大きな発想も。

それが、マドリードの発展に繋がる。



***


 それからは、好奇心旺盛な女王の本領……アリアの文化視察が始まった。


 アリアは他の湯も見てみたいということで、この後は全ての湯を巡り施設内を見て廻った。勿論全てを気持ちよく堪能した。


 そして一時間ほどして、一度温泉から上がり、休憩施設内の食堂で水分とアイスクリームを食べて火照った体を冷やした。こんな快適な経験は初めてだ。



「この施設内にいるかぎり温泉は何度でも入れるようです。つまり一日でもここで過ごせるようです」

「すごいね。お風呂屋さんとはとても思えない」


 ナディアも感嘆するばかりだ。


「成程。だからこのローブはタオル生地なんですね」


 アリアは自分が今着ているローブを触りながら頷く。このタオルローブも施設のレンタルで、しかも湿ればいつでも新しいものが受け取れる。王侯貴族のものとまではいえないが材質も着心地も悪くない清潔で気持ちがいい。何度も湯に入ったり出たりするには便利だろう。


「こういう清潔で安全な公衆浴場は、村に一つあるといいかもしれません」


 今、マドリードにはこういう公衆浴場はない。場所によって共用シャワーがある程度だ。昔はあったらしいが、貴族評議会によって治安が悪化し経済が滅茶苦茶になった今のマドリードでは失われた。


 しかし、今はもうアリアの治世となり治安も回復した。これまで生きるのに精一杯で娯楽どころではなかったが、これからは市民たちも娯楽を味わうゆとりができるだろう。


「映画館は無理です。映画を作る人がいません。職の安定もまだ保証できないけど、村に一つ、共同浴場を作るくらいはいいかもしれません。村人たちの親睦も深められますし」

「でもマドリード国内にはそんなに温泉はないよ? アリア様」

「中部と北部掘れば出る地方があったと思います。それに水は豊富にあります。マドリードは地下水も掘れば出るいい土地です。ならお湯を沸かすだけです。それに、汗だくになる農民たちにせめて疲労を癒し、仲たがいしないよう交流できるものが何かないか考えていたところなので」


 マドリード国内については、アリアは誰よりも詳しい。


「ま……まぁ、清潔になることはいい事だと思うけど」


 ナディアも反対しているわけではなく、アリアに考えがありそうだということで相槌を打った。この<デルン泉>のような一大温泉施設を作る、というワケではなく分相応の風呂屋を政府が作るのならば悪くない。特にこれまで貴族評議会が全く護民意識のなかったから、アリアが国民に対する愛情を形にする手段として、この程度の施政は効果があるかもしれない。


 実はこの時、アリアの中に天才としかいいようのない、身分解放事業と経済と国力全てを一挙に増強する施政案が浮かび上がっていた。そしてこの話は僅かにヴァームに漏らしただけで、その詳細はナディアですらまだ知らない、あくまでアリアの案だ。その案を進める一手として、共同浴場というのはいいかもしれない。


 しかし、その構想が固まったのは、この<デルン泉>での体験であることは間違いないだろう。幸せな入浴の中で閃いたのか、施設を楽しむ市民たちを見て閃いたのか……それはどちらか分からない。ただ感銘を受けたことは事実だ。


 結局アリアたちはステサルート・ホテルに帰らず、この<デルン泉>の宿泊施設で一泊することにした。市内のホテルには劣るが十分設備の整った宿泊施設で、食事も悪くなかった。



 こうしてアリアは一泊二日を、ただひたすら風呂を満喫する事に費やした。


 しかしアリアにとっては何よりも大きな至福の休息期間であった。




***




 そしてアリアは失念していた。ヴァームがホテルでアリアとの夕食を楽しみにしてまっていた事を。

 人との約束を破るなどアリアの人生でほとんどなかった事なのだが、その事にアリア自身気がついたのは、翌日の朝湯の中を満喫していた時だった。こんな事も前代未聞だ。余程温泉がインパクトがあったのだろう。昼ホテルでアリアはヴァームに平謝りに謝った。が、ヴァームは拗ねて中々許してくれなかった。



「<デルン泉>はボクが案内する予定だったのに」


 ということだから、怒っているのではなく拗ねているらしい。


 仕方がなく、アリアたちはまた図書館に詰める事にした。読書は変わらないが、アリアは調べたい事があり丁度良かった。


 晩御飯はヴァームと共に過ごした。思えばヴァームも忙しく、一緒に来たのに中々その機会は作れていなかった。なんだかんだ言ってもヴァームはアリアの事が好きで、会食するうちヴァームの機嫌も戻っていった。


 その席上で、アリアはようやく自分の考えをヴァームに語った。その話の気宇の大きさに、同席したナディアとルクレティアは呆然となった。


 ヴァームだけは驚かない。予め話を聞いていたせいもあるが、ヴァームだけはアリアの鋭すぎる経済観念と政治能力を知っている。



「アリア様、本気でうまくいくと思う?」

「いかなくてもマドリードは損しませんし、民も喜びますし」


 幸い投資するための費用が今のマドリードの国庫にはある。


「マドリードの国威も上がる、わね」


 そういうとヴァームはニヤリと笑った。



 ……たった数日で、そこまで世界情勢を見切るなんて……この娘は英雄というよりもはや化物ね……。



 いや、これはアリアの思考が解放されたのだろう。



 革命成就まではマドリード国内の事しか考える必要がなかった。女王になってまだ3カ月、マドリード国内にいると思考はどうしても内政にしか向かない。だが今回の旅行を機に、アリアは世界を認識した。その瞬間、彼女の思考は足枷をなくし、一気に世界規模へと花開いた。国内内政には限度がある。だが世界規模に動くのであれば収益と成長は格段に上がる。アリアはこの度で一気にその域にまで目覚めた。



 ヴァームは楽しそうに頷く。



「いいわ、アリア様の慧眼に賭けましょう。どうせアルファトロスが損を被る話じゃないから」

「ありがとうございます」

「じゃあボクは残りの滞在日はそっちの手回しをすることにするわ。最初は買い叩かれるでしょうけど、一年もすれば化けるかもしれないわね」

「私もそうなるよう、色々調べます」


 アリアも頷くとそっと頭を下げた。


 アリアの構想は、今の大陸連邦の内乱が大戦になると見越し、大陸連邦で物資不足が起きる事を見込んだ上での国家レベルの輸出政策だ。戦争特需を狙ったもので、現段階でここまで考えている者はいないし、それが海を越えたクリト・エ大陸からもたらされるとは誰も予想だにしていない。


 そしてアリアの予想は的中する。


 読者には説明はいらないだろう。2337年の内戦はその後一気に大陸全土に広がり第一次世界大戦という巨大な破壊と消費の激流が大陸連邦を襲う。ほんの数ヵ月後の事だ。



 時代が、アリアを世界へと羽ばたかせる。



 これは、そのアリアの小さな一歩かもしれない。






マドリード戦記 大陸連邦留学旅行編18でした。



<デルン泉>は、現代の日本でいうスーパー銭湯の大きなものみたいなものですね。巨大温泉施設です。これが民営でなく公営なのが大陸連邦らしさです。


今回の話て一番重要な話は後半の話です。

戦争特需を狙った輸出事業。

儲かる事は当たり前ですが、中々思いつく人間はいません。大陸連邦内は突然の大戦で混乱していますし、属領国家は輸出できるだけの規模はありません。これを国家レベルでやるというのがアリアの構想になります。

先にいっちゃうと、これでアリア様は大儲けして一気にマドリード経済を立て直してしまいます。

その詳しい詳細は「女王動乱編」にて。


この留学旅行も、残るは大陸連邦軍の軍イベント編だけとなりました。

まだちょっとした事件が待っています。


ということで、まだもう少し続きます。


これからも「マドリード戦記」をよろしくお願いします。

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