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人生ゲームの攻略法  作者: 七瀬
2/2

大雨注意報


家から出るなりスラックスの裾がじんわりと湿る

吹き付ける雨に憂鬱になりながら傘を開いた


徒歩20分、バスだと10分

それが今日から使う通学経路だ


通学で電車を使わなくて良くなったのが嬉しかったが、快適な通学という夢はバスに乗り込んだ途端に崩れ去ったのだった



教室に着いたのは9時20分 予定時刻を30分ほどオーバーしていた

いうまでもなく遅刻だ


「…で、なんで遅刻?実家より短距離だろ?」


休み時間になるなり慧が近付いてくる

その問いかけに思い出すのも嫌だと言わんばかりに溜息を吐いた


「それが、バスは遅延するわ雨で大混雑するわで辛いのなんの…」

「なんだそれ、もう走ってきた方が良かったんじゃねーの」


吹き出した慧を司は睨みつけた


「朝から雨降ってるし…走りたくなかったんだよ」


帰りてー、とぼやく司に夏希が近付いた


「なになに?司の遅刻話?」

「そーそー、こいつ学校から割と近い場所に引っ越したのにさあ…」


そんな話が始まるのを横目に席を立つ

どこに行くのかとの慧からの問いかけに「気分転換」とだけ返して教室から出て行った



「…でも良かったなあ、引っ越しって聞いたときはびっくりした」


司が出て行った教室

少しの沈黙の後に夏希が呟く


「本当にな、正直俺も焦ったしさ。転校とかじゃなくて良かった」

「引っ越すから遊べないって話になった時松山君驚きすぎて飲み物こぼしてたもんね」

「うるせーよ、夏希だってちょっと泣きそうになってた癖に」



「…でもなんで急に家出ることにしたんだろ」

「さあな、何かあったんじゃねーの?俺もその辺は聞いてないわ」


「…いつまで俺の話してんの」


いつの間に背後に立っていた司が紙パックの角を慧の頭に振り落とした

「いって、お前それ意外と痛…って何?もしかして俺への差し入れ?」


そう言いながら伸びる手を避け紙パックを開ける

「アホか、なんでお前にやらなきゃなんねーんだ」


そんなやり取りを見ていた夏希が口を開く

「…あの、さ、司はなんで一人暮らしすることにしたの?」


その言葉にピタリと司が動きを止めた

数秒の沈黙の後笑みを浮かべる

「あー…まあ、色々あってさ」


どこか濁すような言い方に慧は不満げに口を尖らせる

「えーなんだよそれ、教えてくんねーの?」

「また今度な」


タイミング良く鳴るチャイムの音に席に戻るように促し、司自身も席に着く

始まった授業に何となく身が入らず、ただただ夏希の言葉が脳内をぐるぐると回っていた




終業のチャイムで我に返る

眠っていたのか、起きていたのかも記憶に無かったが、どこかモヤモヤとした気分だけが残っていた


「司、飯行こうぜ」

肩への軽い衝撃と共に声が掛けられる

ああ、と短く返事を返しながら立ち上がり教室を出た

食堂へ向かう途中で見慣れた姿を捉える

「誠ー、今から飯?」

「ああ、うん。今から。」

誠と呼ばれた眼鏡の男子生徒が振り向き応え、それに対し慧が続けた

「んじゃ一緒に行こうぜ、お前の彼女はどうせサボりだろ?」

「うん、サボり。そろそろお仕置きしなきゃなあ、卒業できなかったら困るし」


そんな話を聞きながら司は窓の外へ視線を向ける

朝から降り続いていた雨は激しさを増し、遠くの方では雷が鳴っていた



食堂に着き食券を購入する

盆に盛られた昼食を手に人気の少ない席へと腰かけた


やがて自分の両隣と前の席が埋まる


「…夏希?お前が学食なんて珍しいな」


前へ座った人物を確認しては口を開いた

「ああ、私はお弁当なんだけどね。日向が…」


そう言って学食の列に並ぶ一人の女生徒へと視線を向けた

小柄で黒髪ショートの女の子

中学で知り合い、今でも仲良くしているらしい


「ああ、あの子か。まともに話したことないんだよな俺」

「お前のその目つきのせいで避けられてんじゃね?」

会話の中に慧が茶々を入れる

はいはい、と流すとつまらなそうに昼食を口へ運んだ


食を進めていると日向と呼ばれた少女がこちらへ向かってきた

「どうも」

そう短く挨拶をして席に着く


「どーも!松山慧でっす!こっちの目つき悪いのが九条司で、こっちの眼鏡が東條誠!どう?この中だと俺が一番イケてるだろ?!」


噛みつかんばかりの勢いで身を乗り出して紹介を始める慧を冷めた視線で見つめる日向

暫しの沈黙


「…終わったな」

「…がっつきすぎだっての」


司と誠がぽつりぽつりと呟く

その後、昼食を終え教室に戻るまで慧は口を開かなかった




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