快適新生活?
春の休日 昼
「では、司の一人暮らしを記念して…」
『カンパーイ!!』
アパートの一室にそんな声が響く
複数の男女がワイワイと騒ぐ様を、一人暮らしを始めた本人である司が遠巻きに眺めていた
「いつまでいるんだよお前ら、隣から苦情来たらマジで土下座させるからな」
「俺たちが折角祝ってやってんのにその態度は何だね司君?」
うんざりとした様子で愚痴を零す司に友人である松山慧が近づき、首へ腕を回して締め上げる
その腕を振り払うように脇腹へ複数回拳を入れる
「うるせーよ、引っ越し当日くらいゆっくりさせろ」
ダメージを負って倒れこんだ松山を足で踏みつけながら放ち、辺りを見回し溜息を吐いた
友人を追い出すことも出来ぬまま時刻は22時を指した
「もうそろそろ帰れよ、明日も学校あんだろ」
司は自分の足元に転がったまま菓子を貪る慧を再び踏みつける
その足を払いながらまだ帰らないと駄々をこね、終いには泊めてくれと言い出した慧に司は痺れを切らし部屋から引きずり出した
引き続いてその他のメンバーを部屋から引きずり出すと、「気ぃ付けて帰れ」とだけ言い捨て扉を閉めた
二度と開く様子のない扉に、追い出された友人は渋々帰っていった
人のいなくなった部屋
菓子の袋が散らかったまま司はベッドへと横になった
横になるなり疲れが全身を襲い、片づけることさえ億劫になった
いつの間にやら眠ってしまっていたようで、耳をつくアラームの音で目を覚ました
体を起こしベッドから足を降ろす
ぐしゃりと菓子の袋を踏みつけた
「…クソ、二度とアイツら呼ばねえ」
そう悪態をつきながら風呂場へと向かった
ざっとシャワーを浴びて着慣れた制服に腕を通す
引っ越しとは言っても学校が変わるわけではなく、見慣れた町で、見慣れた友人に囲まれたまま
ただ実家を出たというだけだった
濡れた髪を乾かしては散らかった部屋をそのままに、見慣れた道へと踏み出した