プレゼン2
「カスミ…」
王妃様への挨拶のあと第一王子へと向き直ろうとした時、まさにその人から思わずと言うような声で呼ばれた。
それを遮るようにして私の前に立ったナーチルさんの手が腰に回りビクッと身がすくむ。
「殿下、本日はお招きいただきありがとうございます」
2人そろって頭を下げる。その間もナーチルさんの手は腰に回ったままだ。
何か意図があるのか思考を巡らせてみるが、私には全く分からない。
もう気にしないようにしよう、と改めて私も王子に声をかけた。
「殿下、お誕生日おめでとうございます」
なるべく、優しい声になるように意識してみるが上手く出来たか分からない。言い終わってから頭を上げて王子を見ると、ポカンと口を開けて私を見ていた。
え、なに?王子どうしちゃった?
失礼を承知で王子の目の前でヒラヒラと手を振ってみるとバッと我に返ったように反応した。
「殿下?少しお疲れですか?」
覚醒した王子に少し心配になって聞いてみると、彼はフルフルと頭を振ったあと、にこりと笑いかけてくれた。
「いや、すまない。カスミが美しすぎて呆けてしまったんだ」
「!」
あまりにもすんなりと王子の口から流れたその言葉に、私は目を目開いたあと少し遅れてボボボと顔に火が付くのが分かった。
「あ、ありがとうございます…その、お世辞でも嬉しいです」
「いや、世辞ではない。こんなに綺麗な女性は初めて見た。それでつい見惚れてしまったんだ。会場に入ってきた時から美しいと思っていたが近くで見るとずっと見ていたくなってしまってな」
も、もうこれ以上はやめてください…と言いたくなるほど立て続けに褒めちぎられてしまって遂に私は顔を手で隠してしまった。
だってこんなに赤面してるの恥ずかしい!!!
「カスミ…あの、」
「殿下、それでは私たちはこれにて失礼いたします」
王子がまだ何か言い募ろうとした時、腰に添えられていたナーチルさんの手にグッと力がこもって無理やり方向転換をさせられた。
慣れない高い靴にわわっと、よろけそうになる体をなんとか持ち直して優雅に見えるよう歩き出した。
王子はまだ何か言いたそうだったけど助かった。あのままあそこにいたら本格的に茹で上がってしまうところだった。
ほっと息をついて隣のナーチルさんを見上げると、何故か少し怒気のようなものを感じた。
「ありがとうございました。助かりました。」
「いえ、殿下はいつもああなのですか?」
「いやー私が城に居たころはそうでは無かったんですよ。王子とはこの間数年ぶりに再会したんですが、その時から若干あんな傾向はありましたね」
「…そうですか」
ナーチルさんは少し考えるような素ぶりをしたものの、それ以上は触れず何か飲み物を頂きましょうか、と近くの給仕さんにお酒を2つ頼んでくれた。




