【オマケ話】鞠愛凶暴化
東京で初めてデートすることになった
4月は鞠愛も勤め初めで神経すり減っていて会えなかった
なんとなく気を使っちゃって連絡もあまりできなかった
5月のゴールデンウィークは鞠愛が地元に帰ってきて久しぶりに会った
そのときは「ほんとお勤めってたいへん〜」「一人暮らしは自由でいいけど洗濯とかご飯作るのめんどくさい〜」って言う鞠愛の愚痴を聞いて過ごした
で、6月
今度は俺が東京に会いに行くことになった
わかりやすいように東京駅の丸の内中央口で待ち合わせ
皇居を少し散歩して、丸ビルあたりでランチしてから私の部屋で過ごそうって鞠愛が言うから
十時に待ち合わせだけど九時五分に着いてしまった
もう二、三本あとの新幹線でも良かったンだけど、トラブルでダイヤが乱れると困ると思って早いので来た
一時間前に待ち合わせの場所に来るなんて、なんかすごく張り切ってる人みたいだ
いや、実際張り切ってるんだけどさ
こうやって鞠愛と会えることにすごく安堵している
ほんとに遠距離になったけど俺と会ってくれるんだって
驚いたことに鞠愛は九時半に待ち合わせ場所に来た
三十分も早く
あれ鞠愛だよね?
改札でピッてやってから構内の出口付近に立ってる俺のところに一直線に来たけどなんか顔が恐い
「鞠愛」って小さく手を上げて小声で呼びかける
「鞠愛、早かったね…」
「どーせ貴ちゃんのことだから早めに来るだろうと思ってさっ」
「鞠愛?なんで…怒ってんの?」
なんかすごくツンツンしてる
久しぶりに会えたのに
昨日来たラインにはハートマークやニコニコマークがいっぱいついていたのに…
「ねえ、見たことのない服着てるんだけど、それどうしたのっ」
「あ…これ?」
「鞠愛に会いに東京に行くって言ったら親方の娘さんがちょっといい服買えって」
「洋服屋さんに連れて行かれた」
「で、選んでくれた」
「ふーん、それでVネックのカットソーなんか着てるんだ、貴ちゃん今までポロシャツしか着てなかったのにっ」
「私と会うのに他の女が選んだ服着て来たんだっ」
「え…いや、あの」
「脱いで、今ここでっ、その服!」
ま、ま、ま、鞠愛、落ち着いて!周りの人が見てるじゃん
「ほ、他の女って親方の娘さん四十代のおばちゃんだよ?」
「関係ないっ、貴ちゃんむしろおばちゃんに強いじゃんっ」
「…いくら…持ってるの?」
「は?」
「財布にいくら入ってるのかきいてんのっ!」
鞠愛の迫力に慌ててポケットから財布を取り出し中を数える
「三万六千円です…」
なぜか敬語になる
鞠愛…周りの人が恐喝かって目で見てるよ…
鞠愛は黙ってスタスタ歩き出した
鞠愛、待ってどこ行くの!?
構内を出てコの字に交差点を渡って鞠愛は開店前の丸ビルの前で止まった
だから鞠愛を追いかけていた俺も丸ビルの前で止まる
そのまま開店時間までお互い無言で過ごした
ひどく心臓がドキドキして指先が冷たくなっている
開店すると鞠愛はスタスタビルに入って行きそのままメンズのショップに入った
しょうがないから俺もついて入る
棚の商品を見ていた鞠愛が、「これ買いな」と言って白いポロシャツを手渡してきた
そっと値段を見る
こんななんの変哲もないポロシャツが一万二千円…
お会計を済ますと鞠愛は店員さんに「これ、着ていきます」と言った
店員さんに案内された試着室でそれに着替える
そして今まで着ていたカットソーは鞠愛に没収された
良かった、ズボンはいつもの履いてきて
ズボンまで買わされたら無一文になっちゃうとこだった
ビルを出てから鞠愛は俺を上から下まで眺めてうん、うんと頷いた
あ、いつもの鞠愛の顔に戻ってる
「鞠愛…さっきまで鬼みたいな顔してたよ」
「ふん、貴ちゃんが悪いんじゃん」
「デリカシーのないことするから〜」
あ、喋り方もいつもの鞠愛に戻った
「俺、鞠愛と散歩するの楽しみにしてきた」
「皇居…いこ?」
そう言ったら鞠愛は黙って手を繋いできた
これは…一見落着と受け取っていいのかな?
あーでも恐かった
鞠愛ってヤキモチ焼きなんだな…
懲りた懲りた
これから俺の服はぜーんぶ鞠愛に選んでもらおう
…前もって予算を伝えて
おまけ漫画
鞠愛ほくそ笑む
「えー、すっごく貴ちゃんに似合ってるのに〜」
「私それ着ている貴ちゃんが一番好き」
「えっ、ほんと…?」
「うん」
「あ…じゃあ俺これ一生着る!」
「うん、そうして」