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たこ焼き

ホームパーティーの三日後、俺は年の離れた妹の命令により、たこ焼きを買いに近くのショッピングセンターに来ていた


お盆休み期間なので家族連れで賑わっている


たこ焼き屋の前には長い行列ができていた


その最後尾につく




妹…


その存在に憧れを持てるのは妹がいない人間だけだろう


この世の男のすべてに妹がいたら、アニメにしろゲームにしろマンガにしろあんなに可愛く妹を描けないはずだ


現実の妹って本当に凶悪なんだから


十も年の離れた兄にソファーに寝っ転がってスマホいじりながら命令する?


「貴ちゃん、たこ焼き食べたい」


買ってこいと言う言葉はつけないけれどあれは明らかに命令なのだ


職人の3日しかない貴重な夏休みなのに、ゆっく兄をり休ませてやろうという気はないのか


いや、今日は依頼のブツがたこ焼きだからまだいい


この前なんか生理用品買いに行かされたからな


俺がどれほどデリケートな人間か知ってるくせに


ほんと、妹ってヤツは…なんて妹考をしている俺の耳に前に並んでる女の子の会話が入ってきた


鞠愛まりあの…って…だったよ…ね」


鞠愛?!


あ、あ、この子達、この前ホームパーティーに来てた鞠愛の知り合いだ!


そういえばこのショッピングセンターでバイトしてるって言ってたっけ


「ほんと、しゃべりにくいヒトだったよねー」


グサ


気まずい


彼女たちに気づかれないうちに列を離れようと思ったんだけど、続く「ずいぶん前の彼氏と感じ違うよね」って言葉に意識が吸い寄せらてしまった


前の彼氏…


「あーあれはしょうもないやつだったから、女にだらしなくって」



「ハハ、でもまた大きく逆に振れたね」


「どこがいいんだ?あの職人の」



「フフ、学歴と顔じゃない?」


「鞠愛面食いだから」



「おばちゃんたちもヤツに食いついてたっけね」



「おばちゃんという生き物はイケメン好きだからねー」


「あ、おばちゃんといえばさあーうちの近所の迷惑おばさんがまたやらかしたんだよ…」


彼女たちの会話の内容が鞠愛から離れた時点で俺はそっと列を抜けた




鞠愛の前の彼氏、しょうもないやつだったんだ…


鞠愛面食いなんだ…




「貴ちゃんお帰りー、遅い遅い」


「あれったこ焼きは」



「売り切れてた…」



「んなわけないだろっ」


「あっ、ちょっ、貴ちゃん!おい無視するなー」


「貴ちゃんのくせに生意気だぞっ」


玄関のドアが開いた音を聞いて居間から顔を出した家庭内ジャイ○ンを無視して自分の部屋に向かう


頭の中では鞠愛の知り合いの会話がリフレインしている


そりゃいるだろう、元カレぐらい


なに傷ついてんだ、俺?




病院の待合室で声をかけてきた鞠愛


そう、あれは逆ナンだった


俺は熱で朦朧としてなかったらあの時アドレスの交換なんか絶対しなかっただろう


思いがけず彼女という存在を手に入れた俺がなるべく考えないようにしていることがある


鞠愛は卒業したら地元を離れ東京の企業に勤める


「遠恋になっちゃうね」って内定をもらったとき鞠愛は言った


ホームパーティーの日の初めてのキスの後にも




俺に待っているのは春からの『遠恋』じゃなくて『別れ』のような気がする


東京に行けば鞠愛にはいくつものも新しい出会いがあるだろう


無理して俺と付き合いを続ける必要なんかなくなる


社交的な鞠愛には新しい恋人がすぐにできる、きっと


俺にとっては多分鞠愛が最初で最後の彼女だろうけど


女の子が苦手って言うより人全般が苦手


人そのものが苦手というよりは会話するのか苦手


そんな俺を男として認めてくれて恋人として扱ってくれるのは、きっとこの世で鞠愛だけだ


やがてくる別れを思うと胸が痛くなる


いっそ知り合わなければ良かった


そうすれば昨日と同じ今日を積み重ね、平穏な日常を過ごせてた


定期購入している何冊かの数学雑誌を読み込んでこれからの数学の方向性を妄想しているだけで充分幸せだった


パーティーなんて名のつくものに参加することもなく、こんな風に心がざわつくことのない日々…



ベッドに寝転がってそんなことを考えていたら突然部屋のドアが開き、入ってきた妹が俺にエルボードロップを食らわせた


そして「たこ焼き買ってきな」と言った


グホッ、効く…


妹は…プロレス女子なのだ…


「貴ちゃんごときが私の頼みを無視するなんて百万年早い」


はい…すみませんでした


もう一度たこ焼き買いに行ってきます…







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