ホームパーティー
彼女の家に初めて遊びに行ったとき
「貴大くん、来週の日曜日にホームパーティーをするの」
「貴大くんも来てね」
って彼女のお母さんに言われた
ホームパーティーって何っ!?
人見知りの俺はやっとの思いで彼女のお母さんとも話しているというのに
「あ、来週の日曜日は親の代わりに法事に出る予定がありまして…」と辞退する
もちろん嘘
そしたらお母さん
「その次の週もゲストを変えてホームパーティーの予定なの、じゃあそちらの方にいらして」
と言った
二つ目の嘘がとっさに思いつかず、俺は彼女の家のホームパーティーに参加することになってしまった
「貴ちゃん、ごめんね〜」
「お母さん強引で…」
二人っきりになったとき毬愛が謝ってきた
「ホームパーティーかぁ…俺にはハードル高いな」
「でも、まあ頑張るよ」
毬愛とは付き合い初めて三ヶ月経つ
俺にとっては26歳にして出来た初めての彼女
毬愛は大学四年生、俺はメンバ職人
彼女とは評判の良いおじいさん先生のいる病院で出会った
熱の出る風邪にに罹ってヨロヨロ行った病院のドアの前で鞠愛と鉢合わせした
ドアを開けてどうぞってジェスチャーで鞠愛を先に入れた
その時すごく俺に好感持ってくれたようだ
毬愛は今でも「おでこに冷えピタ貼ってヨタヨタしながらもドアを開けてくれた貴ちゃんの優しさにやられちゃったの〜」って言う
毬愛は特別美人じゃないけれどすごく人当たりが良くて可愛らしい雰囲気
垂らした前髪と顎のラインで少し内側に巻き込む髪型がよく似合ってる
そして鞠愛にはなんとも言えない愛嬌がある
多分十人いればそのうち九人は好感を持つだろう
逆に彼女のお母さんは美人だけど…ちょっと癖のある感じ
多分好き嫌いが分かれるタイプ
言っておくけど毬愛の家は特別お金持ちってわけじゃない
ただお母さんが社交的なのだ
そして彼女の実家がお金持ちなのだ
ホームパーティーの当日
推定16畳ほどのリビングダイニングには十四人ほどの人数が集まっていた
内訳はお母さんの知り合い四人、毬愛の兄さんの知り合い三人、毬愛の知り合い俺を含めて三人、お父さんの知り合い0人
あと毬愛の家族四人
部屋における人口密度高すぎ
さらにこの家の飼い犬二匹も参加している
お母さんが「こちら毬愛のお友達の貴大さん」ってみんなに紹介してくれたけど、俺はろくな挨拶も出来ず「どうも」って言うのがやっとだった
がんばったけど毬愛の友達とは話が弾まなかった
お兄さんとの友達とも
どうしても二言以上の会話のラリーが続かない
って言うかホームパーティーで知らない人との会話を楽しめるような人間だったら旧帝大系の大学出た後フツーの企業に勤めてたよ、きっと
ほんと、俺、リア充苦手
…大丈夫なのは毬愛だけ
毬愛はみんなを接待しながらおしゃれな料理をつまみに赤ワインなんかを飲んでいたけど…
俺は酒が飲めないから、部屋の隅っこで果物酢を水で割ったものを飲んだりしていた
酒が飲めたら酔い潰れるという荒技ができるのに…
俺には理解出来ない、どうして初めてあった者同士がああやって談笑できるんだ?
鞠愛の友達とお兄さんの友達はすっかり意気投合している
しんどい思いをしている俺を救ってくれたのはお母さんの知り合いのおばちゃんたちだった
マニアックな話しか出来ない俺の話を興味深げに聞いてくれて、持ち寄った料理をせっせと取り分けてくれた
日ごろおばちゃんたちの図々しさに戸惑っていた俺だけど…
おばちゃんたちにはおばちゃんたちの良さや、社会における役割があるんだなってしみじみ思った
パーティーが始まって一時間半ほどたったとき俺は集団から開放されて毬愛の部屋に行くことを許された
うー疲れた…
鞠愛のこの八畳ほどのピンク部屋が天国に感じる
…この前来たときは居心地悪かったけど
感覚的にこの一時間半で三キロくらい体重が減ったような気がする
うん、絶対減ってる
体重計借りて計ってみたい…
それにしても
俺の社交性のなさを毬愛はどう思っただろう
幻滅されたかな…
そんな心配をよそに毬愛は
「貴ちゃん、頑張ったね」
って言ってまるで親のように頭を撫でてくれた
そして次の瞬間ぎゅうっと抱きついてきた
う、わ
めちゃくちゃいい匂いがする
そ、それにどこもかしこも柔わらかい
俺はもし今、この部屋を毬愛の友達や親が訪ねてきたらどうしようとひどくドキドキしながら毬愛に抱きつかれたままになっていた
あー
もしかしてこのホームパーティーは踏み絵だったのかな
俺が毬愛のためにどれだけ頑張れるか
結果から言うと俺はがんばりが認められて、さらなる毬愛の好意を手に入れたみたいだ
しかし、この後俺どうしたらいいの
えっと、礼儀として鞠愛を押し倒したりしなきゃいけないのかな
うわっ
無理!
この新たなハードルどう飛び越えればいいんだ!?