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全員共通 神の救い

――――ブスりと耳朶が刺された。


『痛い痛いよ!!なんで……なんでこんなひどいことするの!?』

『百円と五十円の見分けがつかないからだ』



「起きなさいあでり!」


―――生まれてから変わり者と言われつづけ、バイトの面接に落ちた私、とうとう二十歳の誕生日を迎えてしまった。


「あでり”あんた仕事は?」


HEYカーチャン、今日も鬼のような形相してるね。


「いやだあああああああああ!働きたくないいいいいい」


面接に落ちてから、ぐうたら生活が染み付いた私にはまともな生活など無理だ。


「じゃあ金持ちの男でも見つけて結婚でもしなさい!!」


「絶対いやだあああああああああ!」


私は男が大嫌いである。

動物やロボの男ならいいが、人間が嫌いだ。


かといって女が好きというわけでもない。


「もう、そんなんでこれからどうするの!」


「どうにもならないよ!!」


抜け出せないニィィト。これはきっと不治の病なんだろう。


――――――――


父は銀行員、母は専業主婦。


私が八歳のとき、妹が生まれた。


それが切っ掛けか、わからない。


父は元から性格に問題があり、髪をつかんだり、頬を叩くなど、暴言と暴力が稀にあった。

首を絞められたことも一度あった。


父は妹のことばかりを可愛がる。

実の子ではないのか、疑うほど。

でも、写真にうつる幼い頃の父の顔は私と瓜二つだった。


私が10才になると、母は父と離婚し私と妹を連れて家を出ていった。


――――過去を思い出して、なんだか暗い気持ちになった。

気晴らしに外を歩こう。



「えぐ…うあああパパあああ!!」


迷子の少女がいる。話しかけて誘拐犯と間違われたらいやだ。


でも放って置くわけにもいかない。観ていることにしよう。


「パパ!」

「心配したんだぞ!」


迷子の少女を、見つけて、安堵した父親。


「ごめんなさいいい…!」



見届けて、気がつけば私は、その場を離れていた。


いつのまにか家に戻っていた。

部屋に入って、ドアをしめた。


どうして私には優しい父親がいないんだろう。


目から温かい何かが溢れて、頬をつたって床を濡らした。


どうしてなのか、わからない。


はっとして、泣くのを止めた。

もう10年前のことなのに、今更悲しむなんてくだらない。


ゲームでもして、気をまぎらわせよう。



――――むなしい。

物語が終わると、虚像であることを知る。


もう生きることすら嫌だ。

死にたい、殺して、誰か。


私は自分では死ぬことのできない臆病者。


邪魔、嫌い、なにもかも、消えろ。


憎しみも、喜びも、不安も、安心も、私はなにも受け付けない。


――――――無。



きっと私が死ねないのは神が私を生かしているから。


今まで私はトラックにひかれ、海で溺れ、台風、雷、自然災害が起きても死ななかった。


いっそ眠っている間に死んでいたい。

けれども私は今日も生きている。

なぜ、神は私を殺してはくれない?


いま、死ぬことすらできない。

他人が傷つくのはいい。自分が痛みを受けるのが嫌だ。


いっそ殺し屋にでもなろうか?

でも家族に迷惑はかけたくない。


私の存在を、消してほしい。


考えるのが嫌、自分の意思で動くのも嫌。

食事が嫌、何かを犠牲に取り込んで生きるのが嫌。

言葉が嫌、意思ある他人と話すのが嫌。

息をするのが嫌、生きるのが嫌。


「……誰か、私の存在を消して」


何度口にしても、神は聞いてくれない。


「――――その願い、叶えてあけようか?」


誰だ。音もなく異質ともいえる男がぼんやりとした薄暗い部屋に光をまとい現れた。


黒い布を纏っていて顔が見えないが声が男だ。

男は部屋の中を歩く。まったく足音がしない。


「ただの人間じゃないんですよね」

彼は普通ではない。そう思うから、確信を持って言った。


「そう、人間ではない。神だよ」


男はローブを取る。とても美しい顔をしている。



「神様、私をこの世界から消してくれるんですか?」


本当に神は私が待ち望んだ終わりを、与えてくれるのだろうか―――――――?



「小生は紬書〈つむぎのしょ〉神。人間の物語を紡ぐことが役目だ……神とは―――」


「とにかく消してください」


そういうのはどうでもいい。早く消してほしい。



「ただし、条件がある」

「条件?」

なんでもいい。その条件を飲むことにしよう。


「存在を消す変わりに、君はこの本の中で物語を紡ぐ必要がある」


「……?」


神の書というやつか。


「これは創造神ゴッドが寄越したものなんだが、まだ始まっていない」


「はあ」


「一応君が立つ舞台は軽く作られている」


「神はどうしてそんなものを……」


まあどうでもいいや。


「ゴッドが退屈だから。小生はそれを叶えるために要るようなものだからね……」


「じゃあその世界で主人公になって、結末になったら私の願いを叶えてくれるってこと?」


「そうだよ」


「わかった」


この世界から離れられるなら、なんでもいい。


――――本が開かれ、光が私を飲み込んだ。


挿絵(By みてみん)


◆共通・第一章 神書の世界へ



【神書の世界――フィラナデス】


あでりは白壁<はくへき>に囲まれた空間を見渡す。

少し歩き、壁の表面に手をやる。


(……本の世界っていうから、紙のようなさわり心地かと思った)


ザラリとした感触にハッとし、はなす。


(この世界に、他の人間はいないのかな)


あでりが家の中をたずねてまわっても、人の姿はない。


「異常はないようで、よかった。君にはやはり素質があるようだ」

――男の声に振り向く。そこには書神がいた。


「この世界は、きにいった?」

気に入ったか、否か。その問いかけに彼女は答えられない。


「……あの、神様。私はこの世界でどうしたらいいんですか?」

あでりはとまどいながら、きになっていたことをたずねる。


「どうするもなにも、君のしたいようにするだけだ」

神は柔らかな笑みを浮かべる。


「この世界に私以外の人はいないんですか?」

「いない。君が“一人目”だ」


(やっぱりそうなんだ。物語をつむぐことが条件。だけどそれを私一人でやるなんて……)


「―――なにも、君独りで物語を作れ、とは言わない」


神は懐を探ると、一枚の黒い栞を取り出し、それをあでりへ手渡す。


「なんですかこれ?」

何度裏表を視ても、何もかかれておらず。ただの黒い紙だといぶかしむ。


「これを使うと、この世界ではない世界、つまりは元の世界へ行き来できる……が」


「……へえ、なら早速使ってみます!」


あでりは神の話も聞かず、空間を切り裂いた。

―――――



「……って、本の話を進めないといけないのに、ここにいてどうするの私!」


来たばかりだけど、帰ろうかな。

神の話をちゃんと聞いてからまた出直す。ということで―――――――


「あれ?」


なんでだろ、栞が白くなってる。さっき貰ったときは黒だったのにな。


――――栞で空間をきって、ゲートを開く。


「え?」


できない。本の世界に戻れなくなった―――――?



◆共通・第二章 ウツツに似た世界と組織のハバツ


訳もわからずとぼとぼ歩き進める。

いたるところで人の多さにぶつかりそうになる。ここは来たことのない場所で、テレビで見たことがあるような気もするけどはっきりどこかは言えない。

私を知る者は当然おらず知らない人達が沢山歩いていた。

これを世間ではヒトゴミというんだなあ。としみじみして、誰も自分を知らないなら何をしてもどう思われても恥ずかしくない気になってきた。


以前の私は家があって家族がいて同級生もいた“月闇あでり”という一人の人間。

でも今は私を知る家族も誰もいなくて前とは違うんだ。

なんだかスッキリ、晴れやかで気分は爽快。そう思って横断歩道を渡っていると、青信号なのに車が来ていた。


―――ヒカレル。


それでもいいか、でも痛いのは嫌だな。私はそんなことを考えながら、目をあけ、逃げようともしなかった。


向こうの車に上から飛び降りてへばりついた少年が見える。



――――ガシャアアアン。


私に向かってきたはずの車が何かにぶつかって、大破する音がした。

炎上して煙が上がっている中、知らない少年が無傷で大破した車の近くから飛び去っていく。


あれはもしかしなくてもあの少年がやったのだろうか。

高いところから車に飛び乗って爆破して無傷、なんてどう考えても普通じゃないけどね。

それよりこれって神様の計らいで助かったってことかな。

―――それとも死に損なった?


私が歩道を渡りきるとさっきの少年が私に気づき、こちら見て歩いてくる。


「いたぞ!!さっさと奴を始末しろ!」


その一言をはじめに、集団がぞろぞろと現れて少年を取り囲む。

しかし少年は私に近づくのをやめて高く飛び上がって彼等からすり抜けた。


◆あの少年、私に何か用でもあったのかな。


《気にしてもしかたない》

《やっぱりないと思う》

《きっと用があった》



「おい、そこのお前!」


私は後ろからいきなり見知らぬ男に声をかけられてしまった。


「はい?」


その人は少年を追いかけていた謎の組織的な人達の仲間、クリーム色のスーツを着ている。

集団でも他の人より若く多分同い年くらいだろう。

目付きと態度が悪くて、初対面の人間をお前呼ばわりするようないかにも傲慢そうで関わりたくないジャンルだ。


「お前オレとどこかで会ったことないか?」


◆なにこいつ馴れ馴れしい。


《まったくしらない》

《憶えがない》

《アンタ誰?》


「……ないと思います。選択肢カードが選択の意味がないくらいに記憶に無い」


―――愛想笑いをして、さっさとここを去ろうと思った。


「オレの名は音津実(ねづみ)ルトウだ。お前は?」


音津実という名前、どこかで聞いた事がある。

思い出したくない記憶を遡って、たしかにいた。


「たしか卒園した後に引っ越しして……幼稚園のとき以来だったよね?」


彼がどんな顔とか覚えていなかったけど、結構珍しい名字だけは憶えていた。


「ああ、憶えててくれたか……」

「ごめんね私忙しいから、また会ったら話そう」


彼が何か言っていたが、私は気にせず適当に歩き進む。


「うわぁ!」


近くで転ぶ男性の声がし、私はその青年にかけよった。


「大丈夫ですか?」


男は総じて嫌いだけどもしも歩けないほど足に怪我をしていたら、触りたくない以前に女の力では大の男なんて運べないので人を呼ぶくらいはしてあげられる。


「あ……大丈夫です」


片方の目を長い前髪で隠していて、いかにも陰キャという感じの青年は、自力で立ち上がると深々頭を下げて走って去った。


さっきから印象的な人と会ってばかりいるけど、一期一会という諺があるくらいだ。

これっきりでもう会うこともないだろう。


「ねぇそこのキミ、面白い力を持ってるね」


その男は仮面で顔をかくし、不思議なオーラを放っている。ニコニコ笑ってこちらに歩いて来た。


「力?」


話しかけられても、答えたらいけないタイプなのはわかっていた。

けれど神様が姿を表して説明してくれない今、私という存在を消してくれる可能性があるなら誰でもよかったのかもしれない。


「うん、キミから普通の人間とは違う何かを感じるんだよ。……来てみない?」


まあ本の世界にいって普通の人間ではなくなったのはたしかだろう。


「……新しい霊感商法?」

「そんな警戒しないで、一緒にコチラ側に堕ちれば楽しい世界が待ってるよ」


私がどうしようか困っていると、後ろから人の気配がした。


「すみません、彼女は僕の連れなんで他を当たってください」


そう仮面の男に言ってから男性は私の前に出る。

それはどこかで聞いたことのある声だった。


「やれやれ……お嬢さん、またね」

「大丈夫?」


仮面の男が去り、私のほうを振り向いた男性、間違いなく彼だ。


「……棺コウヤ先生!?」

「え?」

「高校のとき私の担任だったじゃないですか!?」


―――もしかして人違いなんだろうか。


「えっと僕はたしかに高校で教師をしていたし、君が言う通り棺コウヤで間違いないよ」

「……はい」


彼は私の事をおぼえていないようで、とても困惑しているみたい。


「でも君のことはまったく知らないんだ。それに今は教師を辞めているし」

「ええ!?そんな……先生よく私に声をかけてくれていたのに」


もしかして彼から忘れられたのは神様に存在を消してと頼んだから、軽くその願いを叶えてたとか、本の世界へいった代償なのかな。


「……もし君を知っていてなんらかで忘れていたならごめん。思い出せるように努力するね」

「いいえ、べつにいいんです」


彼は高校のとき私が父親の件で一年のときから人から遠巻きにみられているのを気にかけてくれた。

お昼の時間、一人で屋上で食べていた私と一緒に食べてくれたりした。


でも先生にとって私は面倒な孤立した生徒の一人で卒業してしまえば記憶から抹消されるような、その程度でしかなかったのか。


『なんで一緒にいてくれるんですか?』

『君が気になったから』

『先生は忙しいのに、どうして私に構うんですか?』

『教師は生徒を贔屓せず平等でいたいものだけど……僕は失敗も意思もない機械じゃなくて感情のある人間だからね。

君の名前が印象的だったのと、一人でいるのがほうってはおけなかった』


世界から消えたがっていたのに、誰よりおぼえていてほしい彼に忘れられていた事がただ悲しかった。


「ところで君の名前は?」

「月闇あでり……です」

「そっか、響きの珍しい名前だね」

「名付けるとき母方の祖父がペンギンの名前からとったそうです」


ふと懐かしい気持ちになる。前にも名前の由来を聞かれたんだっけ。


「ところで君は何をしていたの?」

「わからない……目的もなく歩いていて、居場所を探しているのかもしれません」


神様は何もこなくてこの栞が使い物にならないから、本の世界に帰れない。


「それは帰る家がないってこと?」

「はい」


もちろんこの場所が何処かもわからない。

電車で家に帰ろうにも、お金もなく、第一に私は地図を読むのが苦手で極度の方向音痴なのだ。


「どうしてそんなことになったかは聞かないよ。でも困っている人を見捨てるのはなぁ……そうだ」

「なんですか?」


「一緒にいくよ」

「あの……警察沙汰は困ります」


私は昔クラスの奴から万引きの罪を被せられた事がある。

それを払拭してくれたのも棺先生だった。

しかし、警察にはあまりいい印象がないのは確かだ。


「大丈夫、警察と似てるけど違う場所だよ。……僕も警察には会いたくないし」

「先生、何かヤバイことでも?」


信じたくないが、警察から逃げるあの仕事とかだろう。


「いや、してないよ!?この言い方じゃ勘違いするかもしれないけど、仕事で顔を会わせることがあってやたらとライバル視されるからであって!」

「棺先生は真っ当な人ですもんね」


彼についていき、たどり着いたのは大きな建物だった。

それはホアイトハウスのような偉い人のいる建物の隣にそびえていた。


「ここは?」

「国直属の精鋭機関だよ。表だって行動はできるけど、警察とは違って国家の裏を守る組織」


「私のような一般人にそんな機密情報……」

「大丈夫、ワケありそうな民間人の相談ものっているんだ」


―――こういうのをバラしたら間違いなく死ぬ。

内部に入ると、沢山の人が歩いていた。


「あの、手続きは?」

「大丈夫、しなくていいよ」


自動ドアを通り、受付の女性の前を通る。


「彼女は僕の知人です」

「了解いたしました」


知り合いみたいだけど、棺先生は何度かここを利用しているのだろうか。


「棺さん!」


後ろから聞き覚えのある誰かの声がした。


「ああ、久しぶりだね音津実くん」


彼はつい数分前、私に声をかけた昔馴染み?


「なんで月闇がここに?」

「えっと……」


私たちはお互いの関係を説明しあった。


「そっか君は幼稚園のとき彼女と一度も話さなかったが名前は覚えていた関係なんだね」




間違ってはいないが、ストレートすぎる。


「帰る家がないなんて、お前これからどうするんだ!?」

「だからね、それをどうにかする為にここに連れてきたんだよ」


彼はそういって私を助けようとしている。だけど、これは人間の手に終えるような話ではない。


神様の世界へ連れてきてもらって、またこっちに戻ってきたら神様の世界へいけなくなった。


そんな意味不明の悩みなんて、話せるわけがない。きっと神に体よく放置されたのだろう。

また家に戻るというのも、なんだかおかしい。


―――もうこのままほうっておいてもらえないだろうか。

優しさは時に残酷で、何も返せないのに親切にされるのはとても困る。


「そういう話でしたら、ここに住んではいかがです」

「え?」


私の後ろから気配もなく現れたのは、一見女性と見惑う細身の若い男性。

長い髪を後ろでとめあげ、うなじを出している。


「孟虎<もうこ>管理長!」


棺と音津実はそくざに彼へ敬礼した。


「私は孟虎千剛<ちごう>。この組織の纏め役だ」

「あ、月闇あでりです」


私はぺこりと頭を下げる。


「さっきここに住めばって……」

「いい部屋空いてますよ」


「管理長、申し上げるようですが彼女は一般人です」


音津実が神妙な顔で言った。


「そうだね……じゃあキミ、ウチに入らないか?」


なんだか都合よくドラマチックで、まるで誰かに造られたお伽噺のような展開。

きっとこれは神が与えた試練というものなんだ。

私は行く当ても目的もなかったので、組織に入ることにした。


◆共通・第三章 敵とは誰か?


「ザックリ説明すると、ここでは悪い奴を月に代行して折檻したりするんだ」

「棺さんそれ混ざってます」


棺先生が大まかにこの機関の話をしてくれた。

ここの人間は警察のように罪人を捕まえ、裁きを下す事ができる。

しかし警察とは違って、裁判やら弁護制度などがなく罪人判定が出た場合は即刻死刑なのだそうだ。

裏で実権を握っていて当然、警察や司法側からは良く思われていない派閥。


『警察は仕事柄面倒だから~』


これで彼が言っていた謎が解けた。

彼はこの組織に所属しているから私を警察へ連れていかなかったんだ。


「やっぱりオレは反対です。こいつを危険な組織に入れるなんて……」

「大丈夫、入るっていっても事務とかだよ。それに適正チェックもしないと」


私は早速採用試験を受けることにした。

――――筆記はやだな……勉強とか苦手だなあ。


机においてあったのはタブレットで、画面には性格判断のようなものがあり、質問に答えるような簡単なものだった。


そういえば以前こういうやつで仕事の面接で採用されるように優等生の書きそうな嘘の答えにするか、正直に自分の思うまま答えるかで迷って結局落ちたんだよなあ。


◆jarnこの言葉の意味がわかりますか?


《わからない》

《わかる》

《どこかで……》


◆あなたは正直ですか?


《はい》

《いいえ》

《わからない》


筆記というより今時の人工知能システムに入力が終わって部屋を出る。


「結果が出るのは明日の午後くらいかな」


―――たった二問しかないのにそんなにかかるんだ。逆に考えるとそれだけでなにか違うものなのかな。


「そうだ、これから食事でもいかない?」


◆私お金もってないんですけど――


《いいんですか?とたずねる》

《だから遠慮する》

《もしかして奢りなんですか?なんか悪いです。と言いつつ楽しみだと思う》


「奢りだから遠慮しなくていいよ」

「……棺さんのオゴリですか?」


音津実も行きたそうにしている。


「うん、君もいく?あんまり高いのはナシだけど……。月闇さんはどこがいい?」


◆食べたいものは……



《特に好き嫌いはないのでお任せします》

《中華》

《ジャンクフード》


「この面子でイタリアンやフレンチはあれだよね」

「とりあえずジャンクフードはいつでも自腹で食えるからやめておこう」


私たちは中華、というかラーメンを食べにいった。


「……チャアハンが食べたかった」

「ラーメン屋にもチャーハンはあるよ」


私はどうせなら天津飯を食べたかった。あれを食べたことがないので、フカヒレは高いからダメだけどきっと許容範囲だろうと思っていたんだけど……。


「僕は味噌もやしにするけど」

「じゃあこのワンタンチャーシュー塩で」

「なら私は醤油を」


そういえばこういう店らしいラーメン屋なんて来たことないな。

外食も滅多になかったし、なんだか新鮮な気分。


「ごちそうさまでした。オレは今日昼で仕事終わってて、家も近いんで帰ります」


そういってユトリ……音津実は去った。


「僕は今日は休みなんだ。帰るなら送るよ」


◆彼は休みなのに私に気を使ってくれたんだ。


《大丈夫、一人で帰れますよ》

《私は方向音痴なので助かります》

《面倒かけてすみません》


「あ、ごめん……急ぎの用事ができて送れなくなったよ」


棺先生は携帯を確認してあやまった。


「きっ気にしないでください」


仕事休みなら、きっと彼女からのメールとかだろう。

私は一人で歩いていると、道に迷ってしまった。


「……」


なんだかヤバそうな場所、人通りもあまりない。


「おい」


後ろから声をかけられ、びっくりしつつ振りかえる。

そこにいたのは青い髪をした16才くらいの少年だった。


「なに?」

「こんなところで何してる。アンタみたいな女が来るとこじゃない」


少年は背を向け、まるで舎弟を引き連れる番長のようにカッコつけながら言った。


「……あ、君って車を爆破させてた少年じゃない?」

「やっぱりあの時、見てたのか」


少年は目を見開いて、私に詰め寄った。


◆もしかして私は口封じに殺されるの?


《悲鳴をあげる》

《様子をみる》

《即座に逃げる》


「声を出すな、逃げようなんてしても無駄だ」

「……お金なんて持ってないよ」


あげられるものなんてカーディガンか時計か、ピアスか栞くらいしかない。


「んな安物の時計とか、紙切れなんていらねぇよ」

「あ、そう」


やっぱりと言いつつ、物を取られなくて安堵した。

もしもこの時計の中には細切れにした紙切れが入っていてその紙切れが相手の名前を書くと地獄へ送れるならなんとかしたのに、これはなんのヘンテツもないただの時計だ。


「……アンタは俺のしたことを奴等に話したか?」

「話してないよ。何も聞かれていないから」


そんなことを聞きたかったのか、と拍子抜けした。


「どっちみち君は終われてたんだからどっちでも結果は同じなんじゃない?」

「まあ、そうだけどさ……」


少年は核心をつかれ、目をそらす。


「アンタ、怖くないのか?」

「なんで?」


怖くないとすれば嘘になるだろう。しかし、彼が私を殺す気があるなら確認もなく最初から死んでいた筈。


「変なやつ」

「よく言われる」


私は生まれたときから変なのか、それとも環境のせいでそうならざるをえなかったのか。

よくわからないがこういう冷めた考え方をしてしまう。


「ねえ君の名前は?」

「ジャック」


見た目は外人には見えない。流行りのキラキラネーム?


「もしかして、それは源氏名みたいなもの?」

「ストリートじゃ本名はいわねーよ」


―――そういうものなんだ。


「そっか……じゃあ私のことはシャヌって読んで」

「なんで?」


「本名を言ったらダメなんでしょ?」

「ダメっていうか暗黙の了解だな。そういう意味じゃなくて、なんでそんな名前にしたってきいてんだ」


……ニックネームの由来を知りたかったってことね。


「えっと……」


私がワケを話そうとしていると、とつぜん雷のようなものが彼との間にスパークした。


「なに!?」

「なんだお前は!!」


その衝撃を回避して、ジャックが睨み付ける。


「通りすがりの道化です」


現れたのは昼間の仮面男だった。


「……え!?」


彼は私を横に抱えるなり、上に飛び上がる。


「待て!!」


ジャックが下から呼び掛かけているが、そこにクリーム色の制服を来た集団が近づいていた。

彼は見つかる前に反対へ逃げていく。なんだかわからないけど―――


「貴方、私をどうする気なんですか?」

「安心して、あの少年からキミを助けただけだよ」


そんなこと言われても安心なんてできない。


「助けた?」

「さっきの少年は人間の皮をかぶった悪魔なのさ」


◆彼が悪魔?

《そうは見えない》

《たしかにそんな感じはした》

《仮面男を信じる》


「嘘だと思うならそれでもいいけど、優しそうな顔をしているからって簡単に信じたらだめだよ」


男は私を組織の建物の近くへおろして去ってしまった。


◆目的地についたけど、これからどうしよう。


《止まれる部屋ってあるのかな》

《少年のことが気になる》

《仮面男が気になる》

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