第八話「最初の依頼」
酷い頭痛と吐き気で体を起こすのがかなりだるい。
確かあの後気持ちよく気絶していたというのに叩き起こされて、アルカードさんも交えて酒を呷るはめに遭って隣でヴェルティアが俺に抱き着きながら嘔吐して・・・・・
もう昼か?
水でも飲んで今日は絶対ゆっくり過ごそう。
ここ数日でだいぶ疲れたし、自分へのご褒美だ。
ゆっくりと瞼を開く。
どこかの宿だろうか?
なにか絡まってるな暑苦・・・し・・・いな・・・・・!!??
「むにゃむにゃジルーーむにゃむにゃ」
俺の隣で眠るトラブルメーカーことヴェルティアの姿が目に入り、一気に眠気が吹き飛んでいく。
「な!?なんで服を着とらんのだぁぁぁぁぁぁぁ!?」
一糸纏わぬ生まれたままの姿で俺の体に絡みつく女体がそこにある。
そして俺も同じく下着すら履いていない状況。
顔が一気に熱くなるのが分かる。
「ままままましゃかまま間違いなんておおお起こしてないよな?なぁ!!」
艶やかな長い黒髪と上質なシルクの様にキメ細やかな白肌に鍛えられ引き締まった肢体。
平均より遥かに小さい胸部もこれだけ未着されると、確かな柔らかみを感じる。
無警戒にへらへらと笑う彼女の姿は無垢な乙女に見えなくもない。
「しっかりしろ俺!」
「んん.....もう朝かぁ.....ふぁああ眠い」
ようやく目覚めたヴェルは何事もなかったように、俺の顔を見てもおはようと当たり前の様に朝の挨拶をし眠たそうに眼をこすりながら体を起こす。
「どうしたの耳まで赤くして?もしかして朝から高血圧な方ですか?」
「おま、お前この状況に少しは同様しろ!!」
「あーやっべ、ミトお婆ちゃんにも散々怒られてもう治ってると思ってたわ」
ヴェルティアは頭をガシガシと掻きながらベットをよいしょとのんきに下りる。
「なんだ相棒、私の裸がそんなに気になるのか?案外初心なんだな」
「なんだこの敗北感は.....いいから服を着ろアホ」
くすくす笑いながらはーいと服をパッパと着始める。
後ろを向き着替えが終わるのをひたすら待つ。
「もういいぞ」
振り返るとボロボロの薄い布服だが大事な部分はしっかり隠れていることに安堵する。
だが愉悦に浸る彼女の顔にはかなりイラッとする。
「安心しろ私はまだ未貫通だ!!」
「くたばれこのアホ女」
そんなことを胸張って言う彼女を見て、考えすぎた自分がアホらしいとため息を吐いた。
=====
「まだ怒ってるのか?」
「怒ってない」
王都を旅立ち、馬車台をケチり徒歩で現地へ向かうヴェルティアとジル。
商人から冒険者にまさかの転職するなんて、昔の俺が知ったら心臓飛び出してたかもしれない。
登録料も宿代も俺が支払いをしているが、こいつに返す気はあるのか心配になってきた。
「気を取り直して依頼をこなそう!」
「誰のせいだと......えーと農地を荒らす魔獣の討伐で標的がビックルサか。最低でも五匹で討伐数によって報酬上昇か、お前がいれば余裕だな」
「まぁパパッと稼いでやんよ」
ビックルサは手足が長くこげ茶色の体毛と二メートルを超える図体の割に動きが俊敏な魔物。
見た目はオラウータンの目つきを悪くして巨大化した姿をしている。
王都を出て太陽が丁度頭上に来る頃、漸く目的の村へ到着する。
「んじゃ村長に挨拶してから討伐開始だな。暗くなる前に帰りたいな」
「せやな」
村長に挨拶を交わし農場へ行く途中ヴェルティアは突然足を止める。
「どうした?」
「近くまで来てる数は6~7匹ってとこかな」
「相変わらず獣じみた嗅覚だな」
「先行く」
「たんまり稼いで来い」
「あいあいさー」
ジルの目では到底追いつけない初速で走り出すヴェルティアに目が点になる。
「これは早く慣れたいな」
焦ることなくいつも通りの足取りで農場へと向かう。
=====
突如突風が吹き荒れ現れた外敵にビックルサ達は仰天し、すぐさま警戒態勢に入る。
だがそんな隙を逃すわけもなく、木製の槍が二匹の首を跳ね飛ばす。
「「「「「うがっ!?」」」」」
「もっと早く」
距離を取ろうと後退しようとする一匹の両足に穴が二つ空けられる。
体制を崩し転倒すしたところを馬乗りし、心臓部に一撃を与え暴れる前に絶命させる。
二匹が背後から飛びかかるようにして強襲をかける。
岩をも砕く拳は槍で塞がれる。
「ぐふ」
槍ごとヴェルティアの体を叩き潰せると嬉しそうに鼻を鳴らすビックサルだが、すぐに表情は硬くなる。
もう一方から襲った仲間の胴体だけが転がっているのが目に入る。
そして自身の拳もまるで力が抜けるように下へと落ちるのが分かる。
次の瞬間には拳は綺麗に切り飛ばされ、槍を回転させ足払いしわずかな間宙を舞う。
そのとき完全な無防備になった瞬間、ヴェルティアは槍を持ち直し強く握り投擲する。
ビックルサの胸を突き抜け、すでに逃げ出していた二匹の片方の背中に深々と突き刺さる。
最後の一匹は隣で突如絶命した仲間を見てしまい、体が一度硬直してしまう。
致命的なミスを犯してしまったと気づく前に死神はすぐ足元に現れていた。
槍を抜き下から切り上げる、なんとか後ろへ下がり皮膚の表面を咲かれる程度で済ませる。
しかし寿命が一秒伸びたかどうかの話である。
既に突きの構えが整い、研ぎ澄まされた音速に近い速度で放たれる一撃を躱す術はない。
「まだ足りない・・・・・」
魔獣の死骸の中で強く拳を握り、槍についた血を振り払った。
薄暗い森の中佇むヴェルティアの表情は酷く冷えきり、瞳にはまだ見ぬ敵への復讐の炎を絶えず燃え上がっていた。
ミニタイトル「嫌がらせ」
「惚れた?」
「黙れアホ」
「でも酒場にいた皆はお前が俺にプロポーズしたと思ってる」
「う、嘘だろ?」
「うん嘘」
「うざっ!!」