第七話「相棒」
追っての巡察部隊・隊長のアルカード=ゴディアムから決死の思いで逃げ切り、路地裏に息をひそめているジルとヴェルティア。
「あのおっちゃん私の一撃紙一重で躱すし、スーパーアーマーでも付いてんのか全く怯まないし・・・・・」
「そ、そうなのか。流石騎士の一隊長だ、お前より強いとは頼りがいがある。」
「・・・・・ジルは俺の味方だろ?」
「・・・・・・」
「薄情者!!」
「馬鹿!デカい声出すな」
ヴェルティアが立ち上がり、俺の肩を揺らしながらも大声で抗議する。
当然そんなことすれば結果は誰でも分かる。
「見ぃぃぃぃつけぇぇぇぇぇたぁぁぁぁぁぁ!!」
「「ひいいぃぃぃぃぃぃぃぃ」」
鬼に見つかってしまうのだ。
思わず二人で抱き合いながら情けない声を出してまう。
「そこで何をしているアルカード」
決して大きい声ではないがよく通り風格のある低い声が響く。
アルカードはその言葉に一瞬硬直し、路地裏の入り口に振り返り敬礼の視線を執る。
「はっ!街で暴れている小娘を確保の最中であります!」
「そうか」
アルカードの背中越し顔が見えないが、ヴェルティアの耳には聞き覚えのある懐かしい声。
「お、おい!その方はまずい!」
ジルの言葉も聞かず、アルカードの脇をすり抜け、声の主に向かって駆け出す。
アルカードは動く気配がない。
それはとっさの事で反応できなかった等ではなく、声の主がヴェルティアなどに後れは取らないという絶対の信頼の現れであった。
「ビルさぁぁぁぁぁん!!」
「やはりヴェルだったか。大きくなったね」
「「!?」」
ジルとアルカードの目玉が飛び出し、開いた口が塞がらない。
2人のリアクションは当然だ。
王国騎士・特等騎士兼親衛部隊副長ことビルムット=シュリフォンその人である。
異例のスピード出世で駆け上がり僅か十年で親衛部隊の副長になった男。
十年前の最悪の龍災の生き残りにして、剣豪として名が通っている。
騎士の憧れの一人だ。
「老けたね!」
「いきなりひどいな、君は少し子供っぽくなったね。」
「ぐはっ.....ぐうの音も出ない」
十年前よりもブロンドの短かった髪は少し伸ばしてあり、濃い緑の瞳と堀が深く歴戦の戦士といった顔立ちは更に凄みを増していた。
雰囲気は和やかな久々に再開した家族の様だ。
「ビルムット様!お知り合いなのですか?」
「あぁ昔この娘とある方に命を救ってもらったのだ。そうだミトさんはお元気か?」
ビルムットのその言葉に空気が一瞬凍りつくほどの冷たさを感じる。
アルカードは身構えるがビルムットが手で制止する。
その感覚をジルは憶えがある。
とっさにヴェルに視線を移す。
その瞳には憎悪の炎は見えない。
「・・・・・」
「軽率だった、すまなかった。そうかもういらっしゃらないのか.....」
「こっちこそごめんなさい、今度一緒に墓参り行こうね」
「あぁそうだね」
最後には2人は笑顔で路地裏を出ていく。
唖然として立ち上がらないジルにアルカードが手を差し出す。
「お前も来るんだろ?」
「は、はい」
アルカードも先ほどの勢いはなく、どこかヴェルティアを警戒しているように見える。
「あそこまで優しそうな笑顔を向けるのはご家族だけだと思っていた。」
「そうですか」
ジルとアルカードも2人の後ろについて歩き出し、僅かだが会話を交わしながら二人の背中を見続けていた。
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王都・ガルディア西大通り 酒場デーボック内にて
「なぜお前がここにいる」
「え?そりゃお願いがあって」
以前アルカードに追われてるときも利用した酒場で再び、最近見慣れなかった顔と対面する。
ビルムットのとこに行ったと思えば、数日経つとひょっこりこっちに来たのだ。
「それでお願いってなんだ?」
「お金頂戴♡」
「気色悪いな」
ぶりっこポーズでうっすら瞳を濡らしながら、下から見上げるようにしてこちら見つめる。
世の男性が見ればいちころかもしれんが、中身を知っていたら話は別だ。
「ぶん殴りたいけど今は我慢だ俺」
「声に出てるぞ」
「おほん!えーとですねそのーうーんと」
「冒険者組合の登録料以外にも何かあるのか?」
いつもより歯切れの悪い彼女に眉をしかめる。
「当てが外れたと言いますか、とりあえずこれ見て」
彼女の胸から取り出した小さな袋から、赤銅色の大きな鱗が一枚出すとこちらに見せる。
「なんだこの鱗は?」
「やっぱ分かんないよね.....この鱗の奴を私は追っかけてるんだけど、ビルさんの協力で調べてもらったんだけど手掛かりなし。参ったよ本当」
「その鱗の奴が分かったらどうするんだ?」
「・・・・・・」
ジルは三度目の感覚を味わう。
そして確信する。
「ミトさんが殺されたのはそいつのせいなのか?」
「うん。私がこの世で一番大好きな人で私の育ての親。私って捨て子らしくてね、ある日湖の上を籠に乗ってプラプラしているところを拾ってもらったらしいんだ。」
「そうなのか.....」
「その鱗の奴が殺したのか分からないけど、敵の手掛かりにはなると思うんだよねー」
無理やり笑っていごまかすように話すヴェルティアの姿にグッと拳を固くする。
「最後のプレゼントがこれってちょっと酷いよね」
やめろ
そんな顔でそんなこと言うんじゃない。
「時々思うんだ私の事をしていることは正しいのかなって、無意味なのかなって間違ってるのかなてさ。敵を討ってその後どうするかとかも考え付かないし、槍だけ使えても頭悪いし商人は無理だなー」
いつも感情より理性が先に働くのがジル=ベルコリアム。
しかしふつふつと腹の奥から煮えたぎるものが消える気配がない。
「本当復讐なんて虚しいだけなのにね」
その言葉に最後の糸が切れる。
ダンッ
テーブルが壊れんばかりに強く叩く。
「ふざけんなよお前、へらへら笑ってごまかすんじゃねえ。ムカついたんだろ悲しくて辛かったんだろ、お前は敵を討ちたくてそこまで強くなったんだろ?なのに今更手掛かりもなく、騎士の隊長クラスには歯が立たないと来たらもう諦めんのか?復讐が虚しいだって?あぁそうだな、世間一般ではそれが当たり前だしお前には田舎の町娘くらいがお似合いだろうよ。」
俺はこいつに何を伝えてやればいい、こいつがこんな顔しないようにすればどうすればいい。
「でも大好きな人を奪われて、しょうがなかったの一言で全部諦めて逃げ出してその先に何があんだよ!俺は!」
なんでこんなにムカつくんだ?
「逃げた先にはなんもなかったんだ!」
そうだ俺も逃げて来たんだ。
家族が盗賊に襲われて死ぬかもしれない、妹は俺に必死に助けを求めているのを知りながら一人だけ逃げ延びて。盗賊はすぐに騎士に確保されたけど残ったのは家からくすねた金とただ灰しかなかった。
「復讐が終わったら何しようとかはそんなん後回しだ!今お前が叶えたい願いにまっすぐ進めよ」
どこかこいつと俺は似てるんだな。
だったら今俺に乗せられるありったけを全部乗っけてやる。
「お前には俺がついてやる!次そんな顔したらその不細工な面をボコボコにしてマシにしたやるからな!」
ふんっと鼻息を鳴らしながら椅子にドシリと腰かける。
「・・・・・ふふ。やかましい!俺は別に諦める気なかったしー平気だしー。それにしてもジルのくせに生意気だぁ!誰が不細工だこらぁ!」
「んな!?この貧乳脳筋女がぁ!今ボコボコにしてやる!」
「お前が俺に勝てるわけねぇだろうがぁこのあんぽんたん!!」
周囲の客は異様に盛り上がり、やれやれ!と声援が送られてたりしたが・・・・・・
「おらぁぁぁぁぁあ!」
「今何発蹴り入った?」「空中から落ちねえぞ」「無限ループとか恐ろしいな」
その後顔の肥大化したジルが床に倒れ伏した姿と酒を呷りながら爆笑しながらテーブルの上に立ち、拳を掲げ勝利のポーズをとる姿があったとか。
「これからよろしくな相棒!!」
「お、おう......」
「次いくぞおめぇら!」
「「「「「おう!」」」」」
音頭をとるヴェルティアの姿を見て
「やっぱ間違えたかな」
ぐてっと眠るように気絶し現実から逃避する。
その後アルカードの怒声が聞こえた気がしたが、聞かなかったことにした。
ミニタイトル「これがホントの虚しさ」
「お前よく胸から落ちなかったなその袋」
「一度は不二子ちゃんに憧れてやってみたかったんだけど、無理だったから胸当てと胸の間に・・・・・」
「・・・・・・ドンマイ」
「こんなやつに同情されたぁぁぁ」




