第六話「前途多難」
熱い
まるで体が燃えているように熱い・・・・・・
「!?」
最初に目に入るのはパチパチと音を立て燃える焚火の炎。
木から宙吊りにされ絶賛燃やされている。
「起きたか恩知らず」
辺りは夜遅くなっており、焚火のすぐ近くには軽装備の女性。
奥の木の幹には縛りつけてあるのが見える。
「・・・・・あっ」
「思い出したか恩知らず」
夢ではなかったらしい。
夢であってくれればどれだけ良かったか.....
「と、とにかく降ろしてくれないか!頭が燃えてしまう!」
「今日は少し冷えるな、薪を足すとしよう」
「す、すまなかった!金はやるから降ろしてくれ」
最初からそう言えばいいんだよと山賊とほとんど変わらない所業さに内心ため息を吐く。
さっと縄をほどき、俺の襟首を掴み軽々と持ち上げホイッと投げられる。
「んじゃ約束の500ニルくれ」
「あ、あぁ」
もっと巻き上げらっれると思ったら入門にかかる税ピッタリの請求に少々面食らってしまう。
「夜は門が閉まってるし、もう寝るわ」
「わ、分かった」
「後寝込み襲ったら股間にぶら下がってる息子さんと永遠にさよならだからな」
「む、息子?」
「おやすみ」
こちらのことは無警戒にスヤスヤと眠るこの娘は一体何者なんだ?
それにしてもかなりの美人だ。
色んな貴族や娼婦を見たことはあるが、ここまで美しい人を見たのは人生で初めてかもしれない。
かのバルトミア皇国の皇女様に匹敵するのではないかと思えてしまう。
(いかんいかん見た目はあれでも中身が乱暴者だ。油断してはならない)
頭を少し振り、彼女と少しばかり距離を取り目をつむる。
(確かに不殺であったがこの娘の目には憎悪の火が見えた気がした。あの場で一番恐ろしかったのは間違いなく彼女だったのは間違いない。)
=====
王都・ガルディア東口にて
「ふふーん」
ドヤ顔で門番に金を払う彼女の姿はまるで子供だ。
門番も呆れ顔でどうぞと通してくれる。
(何かあったのか?)
彼女の事だからしょうもない事だと思うが。
苦笑いで会釈し門をくぐる。
「おおおおおぉぉぉぉ!!」
「んじゃ俺はこれで」
ぐるりと王都の周りを囲む高壁を抜けると、そこに広がるのは果物屋に武器等がずらりと並んでいる。
東・西・南・北の門からまっすぐ大通りが通り十字の形になっている。
中心には鋼鉄の城とまたその周囲にも高壁が存在する。その周りを城下街が囲っている形になっている。
危うきには近づかずだ。
早く商会の組合に逃げ込もうと、街の光景に感動する彼女をしり目にその場を去ろうとするが.....
「まぁ待て」
あっさり肩を掴まれ逃げ場がなくなる。
「約束通りしただろう」
「いや流石に名乗らないのは失礼かと思って、俺はヴェルティアという。森育ちで世間知らずだが、困ったことがあったら頼ってくれ、これも何かの縁だしな」
「そ、そういうことか。俺はジル=ベルコリアム。見ての通りただ三流商人だ。まぁ、またどこかでな」
あぁ!と笑う姿は街の生娘のように純真そうに見える。
街行く人も見惚れる者も少なくない。
(中身がなぁ)
「さいなら!」
「じゃあな」
手を振り駆け出したヴェルティアの背中を見送り、ゆっくりと歩き始める。
ヴェルティア程の腕なら騎士にでも冒険者にでもなれるだろう。
特に心配することはないな。
・
・
・
「助けてくれジルーーーー!!」
泣きながら足にすり寄るヴェルティアの姿に目の前が暗くなる思いだ。
何故に半日足らずでこうなるのだろうか。
「お前と俺の中だろ?見捨てないでくれ」
周りからは白い目で見られ、逃げ出したい気持ちになるがすぐに捕まるのがオチだ。
(((((泣かせてるぞあのクズ)))))
「とりあえずこっちに来てくれ」
彼女を引っ立て行きつけの酒場に入る。
奥のテーブルに座り、今だすすり泣く彼女に訳を問う。
「冒険者組合に行くつもりだったんだがな。街のキモイ男どもが娼婦にならないかとか、良いところ行こうとか、結婚しようとか意味不明なこと言ってくるし.....やっとの思いで着いた組合には登録料払えとか言われるし.....」
「最後は自己責任だろ」
確かに外面は完璧な彼女だから変な奴が近づいてくるのは分かるが、その程度で泣くほどか弱いわけでもあるまいとまだ理由があるのだろうと踏む。
「次に鎧を着たおっさん共に追っかけられたり」
「ん?」
鎧を着た?
「その鎧には獅子の紋章がなかったか?」
「あった気がする、弱くてよく覚えてないけど」
カチリと体が石の様に硬直する。
それはひょっとして王国騎士ではなかろうか。
王国騎士は端的に述べれば国民の安全を守る存在だ。
「言い寄ってきた男たちはどうした?」
「しつこいから全員地面にめり込ましたけど?」
「なんで当たり前みたいなこと聞いてるのみたいな顔してるんだお前は」
はぁぁと深くため息を吐き出し頭を抱える。
・・・・・待てよ、騎士も弱かったならなぜそこまで泣いているんだ?
「それでね最後に追っかけて来た奴が「見ぃぃぃつけたぞぉぉぉぉ!!!」ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」
酒場に入ってきたのは巨人族と思えるほどの巨体に銀色の甲冑を着た大男、顔の堀が深く黄金に輝く短髪は逆立ち、その形相はまさに鬼の様に歪んでいる。
この人物を知っている王国巡察部隊隊長アルカード=ゴディアム。
オーガも泣いて逃げ出す鬼の隊長と呼ばれるお方。
「逃げるぞジル!」
「なんでだぁぁぁぁぁ!!」
ヴェルティアに手を引かれ窓ガラスをぶち破り、何故か一緒に逃走するはめにあう。
「待てやおらぁぁぁぁぁ!!」
闘牛の様にズンズンと追いかけてくる姿は、昨日の山族がかわいく思える程だ。
俺は半ば引きずられ、もうどうにでもなれ諦めモードに入っていた。
ミニタイトル「お前は・・・・」
「お前なんで俺の居場所分かったんだ?」
「え?そんなの聞かなくても分かるでしょ?」
「商会の組合に行くの分かったのか、その辺の常識はあったんだな」
「は?何言ってんの?」
「え?」
「匂いを追ったに決まってるじゃん」
「犬かお前は」