第一話「初エンカウント」
この世界に来て元の世界で換算して約三年の月日が流れた。
俺の名前はヴェルティアらしく。
育ての親である老婆の名はミト=グレリクス。
落書きにしか見えない文字の読み書きから森の植物の知識、少し前からは獣の狩り方も教わっている。
護身術にとミト婆ちゃんが槍術を指南してくれている。
ちゃんとした武術はこれしか知らないらしい。
実は結構めんどくさいと思ったのだが・・・・・
投げ出さずにやり続けられているのには簡単な理由がある。
それは気づいたら愛読している『パキストの英雄譚』の主人公パキストは槍の使い手であったということこの一つだけである。
子供心なのか物語の主人公と同じものを持つというだけで興奮し血が滾るのだ。
心が体に引っ張られているのかもしれない。
今の俺の相棒は木から削り出し素朴な槍で所々古い汚れや傷はあるが、腐ってはおらず適度に手入れされているのが分かる。
ミト婆ちゃんには「大切に使うね!」と言ったら「そうかい」とそっけない口ぶりだったが、どこか嬉しそうに見えた。
まだ自身より遥かに長いこいつを使いこなせる日は来るのだろうか?
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今日は自力で獲物を取って来いとの命令で、太陽が昇ると同時に家から弓と矢だけ渡され叩きだされた。
「獲物はどこかなー?」
茂みで気配を殺しながらキョロキョロと辺りを探索しながら進む。
この森にはゴブリンやオーガ等の魔物は存在せず、人もここには滅多に迷い込まないとミト婆ちゃんが言っていた。
実際にミト婆ちゃん以外の人間や魔物にあったことは一度もない。
「!」
だからと言って安全なわけではない。
熊によく似た獣のベックの姿を確認すると素早く後退を開始する。
ベックは普段大人しいが寝起きと寝床に侵入、朝方に目を合わせる等するとかなり獰猛になる。
一瞬で間合いを詰め鋭利な爪で急所を狙う、こげ茶の毛並みは戦闘態勢に入ると同時に鋼鉄の針に変わる。
そのくせここにはほとんど外敵はいないからと、その辺で寝てたりするのは勘弁して欲しい。
「あれはダメ。まだ勝てない」
パキッ
「・・・・・」
「・・・・・」
「お、おはよう」
枯れ枝を踏みベックと目が合ってしまう。
友好を図るために朝の挨拶をしたのだが・・・・・
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そんなに自然は甘くないらしい。
踵を返し猛ダッシュして木に登るがあちらさんもスタスタ昇ってくる。
「ヒィィィィィィィィ」
服も体も泥だらけになりながらも逃げて逃げて逃げ続ける。
急いで家の扉前まで逃げ帰る。
我ながら情けない限りだ。
この家の周辺は獣除けがしてあるのでベックも慌てて引き返していく。
「ぜぇーぜぇーあの低血圧熊のあんぽんたんめ」
肩で息をし、額の汗を拭う。
「あんぽんたんはお前じゃ」
ミト婆ちゃんに窓から槍で頭を小突かれる。
「む、無茶言わんといて」
「早く朝飯持ってきな」
俺の話など聞く耳持たずで家の中に顔を引っ込めてしまう。
「迂回して探そう...お腹減った...]
ギュルルル
腹の虫がなり余計に腹が減る。
お腹を摩りながらも再び森へ入る。
とりあえず湖の水を飲みに来る奴を狙う作戦だ。
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「これだけ取れれば大丈夫だよな?」
ウサギほどの小動物を捕まえ、数束の薬草と木の実を少量手に入れた。
既に日は完全に登り切り、ペコペコな腹を満たすために急ぎ家へ戻る。
「!?」
湖の淵で半身だけ乗り上げた甲冑を着た中年の男がぐったりと気絶している。
よく見れば怪我をしているのに気づく。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ううっ」
道具や獲物を外し急いで陸に引き上げようとするが、甲冑が重すぎて引き上げられない。
「ええい!」
湖に飛び込み腰に携わている剣やら何やらの装備を引ん剝く。
当然重くて全部湖の中に消えていくが背に腹は代えられない。
「野生児なめんなぁぁぁ!!」
陸に戻り歯を食いしばり気合で引き上げる。
「はぁはぁ...運ばなきゃ」
このままにしては置けない。
ここまでして死なれても後味が悪いなんてもんじゃない。
中年の男をパンツ一丁にまでひん剥き、おんぶする形で背負いとことこと歩き始める。
「このままだと昼飯も抜きかこりゃ...」
今にも倒れそうな足に力を込めて一歩また一歩と踏みしめる。
(獲物と得物も置いてきてしまった・・・ふふ、上手いな俺)
しょうもないことを考える余裕はあったりしたりなかったり。
※性別は女の子です