第九話「日常茶飯事」
「うー疲れたぁ」
「寄りかかんな」
気だるげに後ろから寄りかかるヴェルティアを引きはがす。
報酬はいいが馬車で丸3日以上はかかる程の遠方の村で、依頼をこなし王都に着く頃には日は落ちていた、
「もう宿に戻るか?」
「んにゃ飲むよ」
「お前の頭に貯蓄という言葉は載っていなさそうだな」
毎日酒場デーボックに通って貯蓄はゼロに近いが、皆目そんな事気にはしていない様子だ。
「金貯めて新しい槍は買わないのか?」
「思い入れがあるし、手に馴染んでるからなぁ......」
「歯切れが悪いな」
「ちょっと軽いんだよね」
ブンブンと槍を器用に回転させ、手足の様に自在に操る姿は武芸の心がないジルにも惹かれるものがある。
「明日鍛冶屋でも覗いてみるか?」
「見るだけ見てみるかな」
星空を見上げながら呑気そうに答える。
今はそれより酒の事で頭が一杯なご様子。
酒場に入るとマスターの開口一番がうげっと言うのは隣のまな板のせいである。
定位置となった奥のテーブルに座り、手を上げビインル二つ!と大声で注文するのも見慣れた光景だ。
「鍛冶屋ってどこがいいんだろう?ジル分かる?」
「有名どころなら名前くらいなら」
「ヘイお待ち」
ヴェルティアはどうもーと愛想よく返事するが、酒場のマスターの表情はげんなりした顔で戻っていく。
「「乾杯っ!!」」
木でできたジョッキ一杯に入ったビンイルをグッと飲み込む。
シュワシュワの泡と金色の水が乾いた喉を潤していく。
「おかわり!」
あっという間に飲み干して次を注文する。
相も変わらずのハイペースである。
「誰か他に詳しい商人の知り合いとかいないの?」
「いるにはいるが・・・・・」
「ん?」
「お前は合わない方がいい。うん絶対やめた方がいい」
ヴェルティアから視線を反らし、ジョッキに口をつける。
(気になる)
「アルカードさん辺りに聞いてみよう、そうしようそうしよう」
じー
ヴェルティアは酒を呷りながらジト目でジルを睨み付ける。
「ひょっとして元カノとか?」
「ぶぅぅぅぅぅぅ」
ジルはごまかしごまかし口に運んでいたビンイルを一気に噴き出す。
「汚いなー図星かー」
「違うわアホ、変なこと言うな」
「教えてくれよー」
ニヤニヤといたずらな笑みを浮かべながらまた酒を呷る。
「えーとだなそいつはだな・・・・・」
キイィと酒場デーボックの扉が開かれる。
扉を背にしているヴェルティアは気にもしないが、ジルには誰が入ってきたかすぐに分かる。
顔は見る見る青くなっていく。
「やっと見つけたわよジル=ベルコリアム」
ヴェルティアがその声のする方に振り返る。
立っていたのは赤毛の髪を一つに束ね三つ編みにしており、髪の色同じ炎の様な瞳を持つ同年代か少し年下に見える女の娘。
やや垂れ眼の瞳に長いまつ毛小さい鼻と小さな唇をしており、ヴェルティアの顔の第一印象は顔小さっ超可愛い!である。
淡い緑を基調とした綿生地の柔らかくしっかりとしており、袖の先には白いフリルがついている。
スカートは膝下まであり、そこそこいい物を着ている為にただの街娘には見えない。
背は王都では平均的でヴェルティアより少し低いが・・・・・
顔の次に吸い込まれるように体の一部に視線が止まる。
周りの男たちがチラチラと見る中、ヴェルティアは完全に固まり視線を他に移せない。
「リア、今日は大人しく帰ってくれ。今はまずい、こいつがいる時は非常にまずい」
「なっ!?この女性とどういう関係なのジル!なんで帰ってきたら商人辞めて冒険者になってるのよ!」
リアと呼ばれた女性の肩に手を置き、説得を試みるが逆効果で逆に一歩踏み込まれてしまう。
その瞬間揺れる双丘、ジルは本能的にすまんと心の中で謝罪する。
「ひゃぁあ!?」
背後からリアの双丘が鷲掴みされる。
背後に張り付いているのは見た目だけ美人ことヴェルティアである。
目からは光は消え、掴む力を強めていく。
「ダ、ダメ.....あな...た何を.....んんっ」
男どもは歓声を上げる者よ泣くものなど千差万別な反応をしているが、約一名を望む者以外は歓喜からくるものである。
リアの体を反転させ顔と顔を突き合わせる。
リアは高揚し赤面しじんわりと汗ばんだ額とはぁはぁと呼吸も荒い。
腰に手をまわし一気に引き付ける、数センチで唇が触れ合う距離だ。
「わ、私は.....」
「そこまでだぁぁぁ!」
ジルが無理矢理間に仲裁に入る。
男共のブーイングを無視し、ヴェルティアの方に顔を向ける。
「おっぱいフェロモン寄越せやごら」
「病気を通り越して狂気だな、今日はおごってやるから帰ろうな」
呆気に取られているリアの方へ向き直り
「すまん、こいつ頭おかしいんだ。お前ももう帰れ、こんな夜に女1人でいるもんじゃない。また明日な」
「え、ええ」
奢ると言ったら素直に言うことを聞くあたり、本能的に金に目ざとい奴だなとため息を吐く。
マスターは今日は被害がかなり少なくホッとした表情だ。
あぁ頭痛の種がまたと頭を抱えながら、その場を後にした。
(もう一波乱来そうなのが恐ろしい)
ヴェルティアを宿に強制連行し、今日は見張るために隣の部屋に宿をとる。
言うまでもないが寝不足と腹痛も日常茶飯事だ。
ミニタイトル「あだ名」
「酒弱いくせにペースだけはアホみたいにペース早いのどうにかしろ」
「さーせん」
「・・・・・お前最近男に声掛けられないだろ」
「そういえばそうだ」
「皆に何と呼ばれてると思う?」
「ふふふ控えめに女神か大天使か」
「残念なまな板」
「人の形ですらないのかよ.....オエッ」
「うわっいきなり吐くな!」
「見捨てないでくれ!」
「人を汚物まみれにして言うセリフかそれ」
「てへぺろ☆」
「本当に残念すぎる」




