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疾風迅雷乙女伝  作者: まろやか餅味
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プロローグ|ロストライフ|

カーテンの隙間から差し込む朝日。

うっと気だるげに目をこすり、同時になる目覚ましを素早く止める。

体をゆっくりと起こし、のそのそと洗面所へ向かう。


部屋の中は綺麗にしているが物が少ない為、殺風景な部屋になっている。

家具や装飾品など買う経済的余裕はない。


朝食は取らず身支度を整え、そそくさとアパートを後にする。

階段下で掃除をする大家さんに会釈し、原チャリに乗り込む。


早朝で空いてるにも拘らず、一時間近い通勤時間にも既に慣れてしまった自分がいる。

残業代も出ないうえに毎週のような休日出勤で碌な休みなどない。

今の仕事が好きなわけでもやりがいがあるわけでもない。

ただ単純にこの職を失ったら生きていけないからだ。

車の免許はあるが運転方法など憶えている自信がない。

それ以外の資格は何も無く。学生時代もこいつらとは馬が合わないと部活をやめ、勉学も自分は馬鹿なのだからどれだけ努力しても意味がないと投げ捨てた。


仕事して風呂入って飯食って酒飲んで寝るだけの毎日。

気づいたら三十代が目前に迫っている。

定期的に来る母親から良い相手はいないのか?というメールは既に見飽きてしまった。


信号が黄色に変わり、減速し白線の前で止まる。

ふと視線を空へと移す。

雲一つない快晴、眩しさにくっと目を細める。


「やり直したいな.....はぁぁ」


ぼそりと漏れた言葉に思わずため息を溢す。

頭を軽く振り余計な事は考えないようにする。

こうして心の平穏を保たなければ、既に決壊していた事だろう。


視線を信号に戻すとまだ赤いランプが灯っている。


(この信号長いんだよなぁ)


今日は朝からじりじりとした嫌な暑さに額を拭う。


(こんな毎日が永遠に続くんだな、これじゃ生きてるんだか死んでるんだか。)


「          」

「え?」


誰かの声が聞こえ、思わず振り返ろうとするが...


ズドンッ!!


「!?」


背後から強い衝撃に息が止まり、前へと体は投げ出される。

全身が固まってしまったかの様に動くことは出来ず、痛みで呼吸も出来ない。

俺は後ろから車に衝突されたのか?

頭を持ち上げ、薄れゆく意識の中見えたものは


白の古いモデルの自動車とハンドルを強く握りしめ表情は真っ青で目の焦点が合っていない、同い年くらいのスーツを着た男。


『あぁお前も俺と一緒か。』


何故か最初に感じてしまったのがこんなことだった。


そして交差点に突然飛び出した俺に気付き、大型のトラックの運転手は急ブレーキをかけるが間に合うわけもなく。

数十メートルほど俺の体は引きずられる。


脳の中が痛みに支配されていく中で声が聞こえた気がしたが、それが誰なのか分かる前に命の灯は掻き消えてしまう。



=====



「え?」


瞼を開くと一面の巨大湖が広がっている。

俺は死んだのか?


周囲の木々もだがかなり大きい・・・これは俺が縮んでいるのか?

恐る恐る湖の水面を覗き込む。


そこに映るのは幼児である。

加えて大事なことに気が付く。

息子が行方不明・・・

女の子...だと....!?


真黒な黒髪と夜空の様に澄んだ藍色の瞳。

切れ長な目と綺麗に通った鼻筋、小さな唇に明るい陶器のような艶やかで滑らかな白肌。

子供ながらにどこか大人びて感じる容姿にごくりとつばを飲み込む。


(これは一体どういうことだ?確か車に吹っ飛ばされて、その後トラックに引きずられたはず。夢でも見てるのか?)


「また来たのかい」


背中越しに聞こえた老婆の声にばっと振り返る。


「なんだい、ヴェルが血相変えるなんて珍しい」


長くとがった耳の白髪の老婆。

顔や手にしわが目立つが腰は曲がらずピンと伸びており、淡い青色の瞳の力強さはどこか品を感じさせる人だ。


「ぁ」


ん?

まだこの体では喋れないのか?


「!・・・ほら行くよ」


老婆はさっと踵を返すと、速足で歩き始める老婆にとりあえず付いていくしかない。

どうやらこの娘を知っている方だ、ここで逃げ出すよりはいい・・・はずと思うしかない。


老婆について行きたどり着いたのは大樹の根元に建てられた小さなログハウス。

中は木製のテーブルが1つに椅子が2つと釜戸らしきもの、後は2つある窓には植物を宙吊りで干してある。

奥にもう一部屋あるがここからじゃ見えない。


「何ボケっと立ってるんだい。早くしな」

「???」


(いつも日課か何かか?薬草でも擂るのか?それとも巻き割り?肩もみ?)


頭の中でグルグルと思考が迷走していると老婆ははぁとため息を吐き


「今日から読み書きを覚えてもらうよ。昨日言ったというのにもう忘れたのかい?あんまりお行儀悪いとオーガの口に放り込むよ。分かったなら早く座りな」


鬼の形相に背筋が凍る思いをすると同時に衝撃を受ける。


(この世界はやっぱり別世界だったのか、オーガって確か人を喰うデカいモンスターだよな。それにしても怖すぎて漏らすところだった...)


大人しく席につき手を膝の上に乗せお行儀よく待機する。


「分かればよろしい。それじゃあまずわね・・・」


老婆が取り出したのは一冊の古びた本。

分厚く付箋のようなものがいくつも挟まれており、表紙にはドラゴンらしき紋様が記されている。


「これは『パキストの英雄譚』ってもんだ。まずはこんなもんでいいだろう。」


最初のページを捲ると一枚の挿絵が目に入る。


「ぁぁ」


空へと昇る龍に乗る騎士が剣を掲げる白黒の絵。


「それが英雄パキストと守護龍イグノートだね。」


地味な絵だが引き込まれる謎の魅力を感じる。

そんな俺を見て顔をほころばせるが俺にそれを知る由はない。


「お気に召したようで何よりだ。ほら勉強始めるよ」


コクコクと頷き、すぐに本へ目を戻す。


「それじゃあまずわ・・・」


現状気づいたら幼女になって異世界来てしまったが・・・

もう一回位頑張ってみますか。







異世界言語の勉強中


(ふむふむ)


「これの書き順はこうで・・・それはこうして・・・」


(全く分からん)



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