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「……なるほど、どうやら夢じゃないのは本当のようだな。若干視界も低いし、十五歳の身体というのも、信じがたいが本当らしい」


 シャーリィという自称神様が移動させたのだろう、一回瞬きをしただけで俺が立っている場所はがらりと変わっていた。深い新緑が眼に眩しい森の中だ。ここから街に出るというのだけでもキツそうだと思わせられる。頭上を見上げると、太陽はまだまだ沈みそうにない――頃合的には昼か。夜になるまでにどこか拓けた場所へ降りるか、火を起こすかしないといきなりゲームオーバーの可能性もある。まずは水を探しつつ、山を下り……間に合いそうに無ければ昔ながらの方法で火を起こして野営か。合間合間に『鑑定眼』を使用して、自身のスキルについて確認もしなくてはいけない……。

 

「難易度は高めだな。とりあえず山を下るか水を探すかしなければいけないんだが――」


 足元に手軽な石が無いか探し、丁度掴みやすいサイズのものを拾い上げた。それを振り被ると、一番近くにあった木に撃ち付け、傷跡を刻む。これを続けて行けば同じ場所をぐるぐると迷う事もないはずだ。『鑑定眼』で自分のステータスとやらを確認しつつ、俺は果てが見えない森の中、出口を目指して歩き始めた。


「……おい。もしかして」


 歩みを直ぐに止め、『鑑定眼』の効果によって脳裏に浮かんだ情報を見ていると、気になるものがあったのだ。わざわざ石を拾い上げ傷を付けていたが、不要になる気がする。その考えに行き着いた元となるスキル、それは『衝撃』。どうやらこのスキルは意識する事で衝撃を起こせるらしい。直ぐ側に生えていた木に手のひらを当て、イメージを起こしてみる事にする。

 

「イメージだから……そうだな、名前でも付けるか。衝撃だし、『(げき)』でいいだろ。いくぞ……」


 想像しろ。当てた手のひらから衝撃が生まれ、木々を薙ぎ倒すシーンを。これは俺の生命線とも言えるスキルに違いないんだ、なんせ固有なんだから。最大火力を把握する事は悪い事じゃない、人の気配はないしここは森の中だ。木々の二、三本程度なら吹き飛ばしても問題は無い。

 

「――『(げき)!』


 当てた手のひらに、きゅうと何かが圧縮され――次の瞬間には轟音が轟いた。当てていた右腕が押さえきれない衝撃に跳ね上がり、踏ん張りが利かないまま背後へと吹き飛ばされる。めしめしという歪な音が目の前から聞こえ、咄嗟に顔を上げたが巻き上がる砂埃で視認が出来ない。咳き込みながら、じんとする右腕を摩り、砂埃が晴れるのを待つと、そこには予想外の光景が在った。

 

「最大火力をイメージして、これか――」


 今まで木々で茂っていた筈の場所。そこは、木を根こそぎ引き抜き吹き飛ばして行ったかのような有様だった。目測で百メートル程、俺を起点として放射状に広がっていた。

 

「……む。あれは、村か。しかしこの身体、視界も広く見えるな、視力も回復したのか」


 以前とは見違えるほどにくっきりと映る光景に今更気づく。そのお陰で、晴れた景色の向こうに見えた村を見つけることが出来た。ただしこの森はどうやら崖の上に存在しているらしく、どうにかして降りないといけないみたいだが。歩み寄ってみるとこの崖は二十メートルほどか。この今の身体ならゆっくりと降りて行けばなんとかなるかもしれない。

 もしかしたら飛び降りても、スキルによって衝撃を生み出せば上手く相殺させ、無事に降りれるのかもしれないがそれを今試すのはリスキーだ。身体の調子を確認し、崖を降りるため、俺は一歩を踏み出す。

 

 ・・・・・

 

「しかし『身体強化』のスキル恩恵か、思った以上に簡単に降りれたな……生前じゃ考えられん。いや、生前というのもおかしな気分になるが……まぁいい。しかしこの村、生活感はある癖に妙に静かだな。すまない、誰かいないのか!?」


 村の入り口に立ち、声を荒げてみるが反応は無い。洗濯物が干してあるのも見える。人がいないと言う事はないだろう――。仕方がないと、村の中へ一歩を踏み出そうとしたところで、突如として背後から声を掛けられる。驚いたが、声には出さずに済んだ。

 

「……ここは戦場の近くだ。村人は全員我々の軍の元へ緊急避難をさせた筈だが……お前はこの村の人間か?」


 そこには馬の手綱を引き、呆けたような眼を向ける騎士の姿があった。そうだ、騎士なのだ。白銀の鎧に身を包み、腰には鞘に収まった剣まである。そんなモノを目の前にすると、なんて返事をすればいいか分からなくなった。漫画の中の世界にしかいないような奴が目の前にいるのだ、どう応えるのが正解だ――?

 

「『オープン』」

 

 考えを巡らせながら、俺は目の前の騎士へ『識別眼』を発動させる。


------------------------------------------------------------------------

<スキル>

 1.<剣術 Lv3>

 剣術の熟練度を示す。

 

 2.<魔術・火 Lv3>

 火属性の魔術に対する熟練度。

 

 3.<固有スキル:古龍の脈動 Lv5>

 古より伝わりし龍の力を扱う事が可能。


<ステータス>

 筋力/B(物理的な力の事)

 耐久/A(物理的な防御力の事)

 敏捷/D(素早さの事)

 技術/A(細かいことを行う力の事)

 魔素/C(本人が所持している魔素総量)

 魔術/C(行使できる魔術のレベルの事)

 精神/B (本人の精神力の事)

 固有/A(所持しているスキルのランク)

------------------------------------------------------------------------


「応えてくれないと私は君のことを軍へと拘留しなくてはいけないのだが……」

 

 俺はそのスキルを見て思わず思考が停止しそうになる。こいつに敵対はまずい。

 ならばどう取り入るか――一瞬でいくつかのパターンを考えたが、これだというものはないので、臨機応変にアドリブで答えていく事にする。

 

「……いや、覚えてないんだ。気づいたらあの森の下の崖で倒れていて、近くに人が住んでいそうな村があったから来ただけなんだよ。この近くで戦争をしてるのか?」


「ふむ……ちょっと待て、っふぅ」


 騎士は銀の兜を両手で脱ぐ。中に納まっていた金紗の髪が溢れ、吹き抜けた風に踊るように待った。この騎士、女だったのか。まるでルビーのような瞳が俺を貫くかのように見据え――ガントレットに包まれた指先が俺を指す。

 

「『汚染浄化(あんち・こんとろーる)』……なるほど、君は精神操作系の魔術を受けてはいないようだね。いや、失礼……我らの戦の相手とは、汚い手も平気で使うような奴らなんだ、君が洗脳されて我らの軍に取り入ろうとしてるのを危惧したのだよ。付いて来るといい、えーと……私の名前はアセリア・ローレストだ。君の名は?」

 

 どうやら俺は今、精神操作系の魔術を解除する魔術を掛けられたらしい。

 すっと爽快感が溢れるような気持ちになった。これが解毒系の魔術を掛けられた


「あ……」


 思わず浅間と名乗りかけ、口を止めた。記憶喪失の設定の俺が、名前だけ覚えていたら変かと思ったのだ。それにあの自称神様のいい様であれば、この世界に<俺以外の日本人>もいると考えておいたほうがいい。何と名乗ろうか、と迷っていると、騎士――アセリアは記憶喪失で思い出せないのだろう、と勘違いしたのか、どこかバツの悪そうな顔をし、口を開いた。

 

「……すまない事を聞いたな。君が嫌でなければ私が名を付けても構わないが、どうだ」


「構わないがいいのか? アセリアに取って俺は、偶然見つけただけだろう、そんな手間なことをする必要もないと思うが」


「あぁ、気にするな。何、君は私が戦で無くした身内に似ていてね――はは、こんなところでする話でもないか。そうだな、<クラース>なんてどうだ?」


「クラース……いい名だと思う。感謝する、甘えるようで申し訳ないが、常識的なものに関しても思い出せないことが多々あるんだ、俺を連れて行ってくれる間だけで構わないから、教えてはくれないか?」


「あぁ、構わないぞ。ここから半刻もかからない場所に我が軍の駐留地がある。そこへ向かう間、教えてやろう。……クラース、馬は乗れ……いや、この言い方はなかった。クラース、馬は怖くないか?」


「別に怖くは無いが……」


 答えを聞くと、アセリアは嬉しそうに微笑み、俺へと手を差し伸べてくる。無垢な瞳を向けられ差し伸べられた手を断れる訳もなく、握り返すと簡単に俺の身体は持ち上げられ、馬の上へと乗せられた。これがステータスの差か。そりゃそうだ、アセリアと俺じゃ一回りも二回りも基礎ステータスに差があるんだ。なんだか情けない気持ちになったが、これは仕方のない事なんだ……。

 

「そう顔を顰めるな、馬に乗れると色々と楽だぞ、移動にも苦労しないし、騎士への道も拓ける――」


 嬉しそうに語りかけるアセリアの横顔を見ていると、俺は何故か胸が痛んだ。いったい彼女は、俺に誰を連想して、語りかけているのだろうと――。

誤字・脱字などあればご指摘していただけると嬉しいです。

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