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002



 新瑞警察署。


「シキガワくん、君はまた何を仕出かしたのかねっ」


 警察署の玄関で待ち構えていたのは、スキンヘッドの上司、ヨミシマだった。


「課長。別に私が悪事を働いたわけではありませんよ」


 ヨミシマの言葉に弁解するシキガワ。

 ヨミシマは鼻を鳴らして、


「……なら、別にいい。君は良く独自行動をするからな。忠告しておかねば、と思ったまでだよ」

「私がいつ、独自に行動をとりました?」

「……取り敢えず、その少年をどこに連れていくつもりだ?」

「怪しい点が見られましたので、少し話を伺おうかと」

「任意か?」

「そりゃあもちろん。許可も頂きましたよ」


 そう言ってシキガワは少年の肩を、がしっ、と掴む。

 ヨミシマは咳払いを一つして、無言で頷き、立ち去って行った。

 ヨミシマが離れていったのを確認して、シキガワは溜息を吐く。


「……ったく、あの上司、結局私の行動がうまく行き過ぎているからっていちゃもんをつけたいだけなのよねえ。キャリア持ちって、ああいう口調しか出来ないのかしら」


 そしてシキガワはヨミシマが歩いて行った方向と逆に向かって歩き出す。

 少年も、シキガワに一歩遅れる形でついていった。



 ◇◇◇



 調査室。

 少年とシキガワの会話が行われた。

 会話内容はあたりさわりもない。ただの日常的な会話から、なぜ何回もスピード違反を繰り返したのか――ということについて。

 少年はずっと空ろな目をしていて、妄言に近い内容を話していた。それでも、意思の疎通は出来るようで、彼女の質問にも(若干の齟齬はあるようだが)答えてくれた。

 だがしかし。

 取り調べの最後に――それは起こった。


「ねえ、最後に一つ聞かせて。あなたはどうして――」


 ――スピード違反を繰り返した? と質問しようとしたシキガワ。

 しかしその時既に、少年の様子がおかしかった。

 ぶつぶつと何かを繰り返しつぶやいていたのだ。

 そのボリュームは微かだったが、耳を澄ますと、漸くその一言が何か、感じることが出来た。


「――死にたい」


 少年の一言は、それで構成されていた。

 それを繰り返し、延々と呟いていた。


「――死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい――――!」


 狂気ともいえる、その行動。

 彼は頭を搔き毟り、シキガワの抑止も聞かずに立ち上がり、壁に頭をガンガンと物始める。

 頭から血が流れて始めようとも、彼はそれを止めることはしなかった。


「死にたい、死にたい、死にたい……! 死にたい、死にたい、死にたい……!」


 ガン、ガン、と人間の頭がコンクリートとぶつかる音が響く。


「やめなさい!」


 シキガワは彼の背中に回り、彼を抑えつける。

 背中から抑えつけて、漸く彼は静止した。

 その後も延々と死にたい、と連呼していた。



 ◇◇◇



「……で、その少年の容体は?」


 報告書を見終わり、机の上に投げ捨てたヨミシマは問うた。

 シキガワは溜息を吐き、話を続ける。


「少年の容体は、現在こそ安定している。しかし精神安定剤をそれなりの量を使用したと言っていたから、おそらく病院としてもそれしか手の打ちようが無かったのでしょうね」

「私も調査室につけられていたカメラの映像を確認した。あれは確かに異常だ。おかしすぎる。精神病院に送ることを決定しているが……とはいえ、」

「とはいえ?」

「いや、何でもない。これは私が上に報告しておこう。君は普段の勤務にあたるように。いいね?」

「ちょっと待ってください。それではあの少年は――」


 シキガワは食い掛かるようにヨミシマに言った。

 だが、ヨミシマは表情一つ変えることも無く、


「命令した。『普段の勤務に専念しろ』と。それを違反したお前はどうなると思う? まあ、考えるまでも無いと思うのだが」


 シキガワはそれを聞いて、もう話しても意味が無いと判断したのか、踵を返し、乱暴に扉を開けて、出ていった。

 それをヨミシマは、不敵な笑みを浮かべて見つめるだけだった。


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