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三話その4

ハリスはいつ裂傷ダメージが来ても良いようにバイタルリンクをかけた。

衰弱状態で最大HP自体が減っていく為、あまり意味は無いのだが…

つまり、ダメージが一定値を越えたところで作動するバイタルリンクは、対象が即死した場合は効果を発揮しない。最大HPが徐々に減っていく衰弱に、傷口が開くと大ダメージの裂傷…。ラフィーリアはいつ死んでも仕方ない状態にあった。

ただ気を取り戻す効果はあったようだ。

「…少しはマシになった…わね…?あぁ、なんか明るくて…焚き火かしら?」

「ラフィーリア」ハリスは呼び掛ける「バイタルリンクをかけたよ。大丈夫だ」

「…馬鹿…外しなさいよ。それ…貴方も死ぬじゃない…無駄死によ?」

「一人でクレバスで寂しく出口を探しながら死ぬよりは良いよ。」

ラフィーリアはバイタルリンクの効果を勘違いしているようだ…でもあえてそれは言わない。…精神的にも、彼女を一人にはしたくなかったからだ。

「ばか…」ラフィーリアは少し首を動かしてハリスの顔を見る。「ラミエもきっと…こんな気分だったでしょうね…」

「結果的にラミエは助かった。ラフィーリアだって…」ハリスは薪をくべながら言い聞かせるように言う。

その半分は自分に言い聞かせていた。

ラフィーリアが死ぬはずがない。

今こうして話をしているのだ。きっと助けが来るに決まっている!!

「あ…」ラフィーリアが自分の足元を見て力なく声をあげた「やば…」

ハリスはラフィーリアの状態を見る。

新たに【出血】が追加されていた。

一体どんな怪我をしたらこうなる!?

ハリスはもう泣きそうだった。

「…氷柱…かしら…」

「…!」そうか、氷柱による裂傷。

体を暖めたことにより氷が溶けたんだ。

とにかく止血しないと。

「ラフィーリア…ごめんっ!」

ラフィーリアの服を軽く脱がせる。

「はぁ…叫ぶ気力もないわ…」

裂傷がどれほどの物なのか分からない。

だがそれに触れないように応急措置をしないといけない!

…同然ハリスには医療知識など微塵も持ち合わせていないし、回復魔法が有るわけでもない。だが、やるしかない!

「…ねぇハリス…話を聞いてくれる?」

「…うん」ハリスは作業しながら言う。

「私ね…敵の気配を見つけるのが得意だったの…でも…ラミエのとき…私は目の前の事に夢中で索敵を怠ってしまったわ…」

「誰にだって間違いはあるよ」

ハリスは包帯を取り出しながら言った。

「ラミエは私が殺った様なものよ。…だからきっとこれは私への罸…ゲホッ!」

「ラフィーリア…」ハリスはラフィーリアの顔を見る。泣きそうな顔だった。

「…仲間を護ることも出来なかった…出来損ないなのよ…私は…」

「違うよ…」ハリスは声を荒げた「違うよ!ラフィーリアはずっと僕達の士気を上げてくれている!それに偽りはない!君がいなくなったら誰が…誰が…」

「…」ラフィーリアは黙りこむ。「でもこれ…助かるの?ねぇハリス…」

「ん…?」

「私を…殺してくれない?」

この一瞬が永遠に思われた。

ラフィーリアは虚ろな目で…しかししっかりとハリスを見つめている。

「…」ハリスは無言で地面に落ちた剣を拾う。ラフィーリアを…この剣で…「…【ブレイドバースト・シャイン】!」

ハリスの剣がまばゆい光を放つ。

「ハリス」ラフィーリアは目を閉じた。

「うおおぉぉぉ!!!」

救うんだ…!

「…」

食堂は静まりかえっていた。

皆俯いて静かに昼食を取っている。

こんなに早く戻るとは思わなかったので、山脈に向かった人以外にはラミエ位しか昼食を取るものはいない。

「ハリス…」アニが呟いた。

「…食い終わったら、迎えにいこう」

ブレードはそう言うと、席を立った。

「何でよ…」ノルイは我慢できず叫んだ「何であんなときに限って雪崩が起きるのよ!ラフィーリアもハリスも、悪いことなんてしてないのに!」

ノルイの持っていたコップが破裂した。

お手伝いのおじさんが慌てて箒を持って片付けに来てくれる。

「アニ…ハリスの場所は…?」

ラミエがアニに訊いた。

「魔法メールの届く範囲にはいない…だから現在地も、生きているのかも…」

「生きてるに決まってんだろ!」スラッシュが立ち上がる「お前らしけた顔してんじゃねぇ!これから迎えにいくんだろ!」

「そうです」アーチャーが呟いた。「まだ希望を捨てる訳にはいきません!」

【そうですね】ノルイが涙を拭きながらボードを掲げる【皆、頑張りましょう!】

「光の属性概念は【再生】…」ラフィーリアは呟いた。「一歩間違えば魔力枯渇による精神疲弊で死ぬかもしれない無茶苦茶な発想だけど…」

目の前にハリスが倒れている。

「はあ…はぁ…ラフィーリ…ア」

「まだ衰弱で動けないけど、ダメージはないわ。出血も裂傷も治癒したみたい」

「やった…!」ハリスは起き上がった。

「貴方のお陰よ。死ぬかと思ったわ」

「ははっ…そうだね」

ハリスは洞穴の外を見た。

薄くオレンジ色の光が見える…夕暮れに差し掛かっているのだろう。

「缶詰めくらいなら食べられそう。私の鞄から好きなの2つ出してくれる?」

「うん」ラフィーリアの腰の鞄からハリスは適当に2つ選ぶと、ラフィーリアに見せた。「これでいい?」

「えぇ。ひとつあげるわ。…多分よく冷えてるわよ?」

「うわ…暖かい飲み物が欲しいね…」

ハリスの水筒は落下の衝撃で粉砕した。

ちなみに今になって見てみると通信機も粉砕していたので外に捨てる。

「私のキャンプ用の薪も使っちゃって。…切れる頃には回復してると思うから」

「わかった」ハリスは剣で缶詰の蓋をこじ開けると、改めて火のオーラを纏わせ剣の上に缶詰めをのせた。

魔力が足りないので短時間だけだったが、肉の缶詰めは見事に熱々の肉になる。

「こらこら、無理しないの!」ラフィーリアに怒られてしまった。

ラフィーリアに缶詰めを食べさせながら自分も食事を終わらせる。

「もうちょっと…かな」

ラフィーリアが自分の手を握ったり開いたりしながら言う。

「助けられて本当に良かったよ…」

ハリスは空き缶を片付けて、ラフィーリアの隣に座った。

「…ふふ、襲うなら今よ?」

いたずらっぽい笑みを浮かべてラフィーリアがこちらを見つめる。

「な…何言ってるんだよっ!」

「あはは、少なくとも女の子を半裸にしてるのに普通に治療に集中出来るような子に言っても駄目かぁー」

「あ、あれは非常事態で…い、今は…」

もう自分で何を言っているのやら。

「何だか気も軽くなったみたい。私ね、帰ったらきっと皆に責められると覚悟してたの。でも皆は触れないでいてくれた。」

「うん…」ハリスはうなずく。

「責められる方が良かったわ。だから皆に見捨てられたと思った。私の代わりなんていくらでもいるんだと思った。」

「うん…」ハリスはラフィーリアを見つめる。ラフィーリアが笑いかけた。

「でも、私は私なのね。慣れないことをするとろくな事になんないわ。それはもう反省…そして、私は私らしく!」

「そうだね…」

「よしっ…えいっ」ラフィーリアはゆっくりと立ち上がった。「さあ、出口を見つけま…うわわっ!」

よろけるラフィーリアをハリスは慌てて支え、肩を貸す。

「よし…帰ろう!ラフィーリア!」

「ええ!」

ハリス達は…洞穴から出…

「あ、忘れ物しちゃった。…悪いけどUターンして戻れる?」

「ああ゛!ラフィーリアの鞄だっ!!」

改めてハリス達は洞穴から出た。

「さて、基本的にクレバスは徒歩での脱出は困難よ。更に深い所まで落ちる可能性があるしね。だから…」

ラフィーリアは上を見た。

「まさか…登っていくの…?」

ハリスは頭をポリポリ掻いた。

「冒険者なんだから、ロッククライミングぐらい出来ないと!」

ラフィーリアはガッツポーズする。

「うわ…マジか…」

「よし、見てなさい…!」

小さなナイフを二本使ってラフィーリアはずるずる岩壁を登っていく…

「おぉ…いやラフィーリアちょっと待」

「…うわぁ!」落ちてきた。

「え…ぐほああぁっ!!」ハリスはラフィーリアの下敷きになった。

「…ごめん…やっぱり無理みたい…。」

「はやく…退けてくれないかな…」

ハリスは地面をバンバン叩いた。

「…なら次は助けを呼ぶわね!声は届かない訳だから、狼煙を上げましょう!」

「キャンプ薪は全滅したけど…何を燃やす気…?」

ラフィーリアは固まった。

「あ…えと…ハリス君…かな?」

「お巡りさんここに命の恩人を燃やそうとしているアブない人が!」

…しかしどうしたものか…。

「誰か落ちてこないかなぁ…」

ラフィーリアは呟いた。

「そんな不謹慎な…」

それから二人でしばらくその場に座って、空を見ていた。

お腹が空いてきたので缶詰めを食べ、ラフィーリアに熱したハリスの剣を与える。

「…暖かい…寝そう…」

「そうだね…」

朝日が差し込む…ん?朝日?

「…寝てたっ!!」

ハリスは飛び起きかけた。

しかし体の上に何かが乗っていて…。

…なんだ…何が…

「ん…」その何かが動く。

あ、ラフィーリアか……え!?

「ちょっ…この状況は…」

ラフィーリアは自分のローブを布団のように自分の上にかけ、ぴったりとハリスにくっついて寝ている…。

右腕はなぜかハリスの首に回して。

…当たっちゃいけない物が当たってる…

まずい、これはまずい!

いや待て、なぜこんな事になった!?

何故だ!

「ぐぅ…」右腕が心地よく首にきまる。

…駄目だ…動けない…。

「…あ…れ?私…あっ!ハリスっ!?」

「ラフィーリア、一体この状況は…」

「…昨日の事を忘れたの…?」

ラフィーリアはニヤリとして言う。

「いや待て、確かに昨日寝たのか知らないけど記憶がないぞ…まさか…」

「やーね、冗談よ」

ラフィーリアがハリスから離れた。

「いてて…」ハリスも起き上がった。

「貴方が寝ちゃうから寒くなって、やむおえず貴方の暖かさに頼ったって訳」

「う…ごめん…」

「まぁ仕方ないわ。あれだけの魔力を使ったんだからね。」

「…これからどうしようか」

ハリスは真上を見て言った。

「うーん、やっぱり危険かもしれないけどクレバス自体を横に進んで出口を見つけるしか無いような気がするわ…」

「一歩間違えば更に深い所まで…」

ハリスは体をぶるっと震わせる。

「そうなったら、ハリスが暖めてくれるわよね?」ラフィーリアはウインクした。

「…善処するよ」

こうして二人は歩き始めた。

かなり雪が積もっていて非常に歩きづらい。それどころかこの地面に穴が空いていたとしても多分気づくことは出来ない。

…非常に危険な旅になりそうだった。

「…何分歩いたのかしらね?」

しばらくしてラフィーリアが口を開く。

「時間感覚は分からないなぁ。時計も壊れちゃってるし…」

「ランサーがいたらおでこ見たらわかるんだけどな…」ラフィーリアは軽く溜め息をついた。

「休憩しようか?」ハリスはラフィーリアに問いかける。

「いや、まだもう少し行きましょ。…あと少し歩けば…」

「おつかれー」

突然前方から声が聞こえた。

はっとして声のした方を見ると水色に輝く胸当てと、旅人のような青いマント服に身を包んだ男が歩いてきた。

隣には長い琥珀色の髪を風になびかせながら上半身にサラシを巻いて下半身にゆったりしたズボンを履いた女性がいた。

二人は何の疑いの表情もせず、ハリス達の横を通り過ぎようとする。

「あ…あの!」

ハリスはその男に声をかけた。

【続く】


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