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三話その2

ハリスは気づくと一面が真っ白な部屋にいた。家具が皆真っ白だ。

今座っている椅子だって、ペンキを塗ったばかりのように真っ白。

やがて部屋の扉が開いて、白い髪をした若い男が入ってきた。

年は20くらい。この男も全身を白いローブに包んだ…魔術師のようだ。

「馬鹿か君はっ!?」

いきなり第一声で馬鹿にされた。

「馬鹿だろう?いや、馬鹿馬鹿言うと私も馬鹿になるな…いや全く…馬鹿馬鹿しいな!」男はかなり怒っている。

「貴方は…」

「ノルターと呼びたまえ」

「ノルターさん」首を傾げてハリスは問う。「この状況は一体…?」

何故自分はこんな場所にいるのか?

目の前のテーブルに紅茶が置かれた。

「君は今、意識と魂が離れた…いわば幽体離脱している状態にある馬鹿め」

「なるほど…」やっぱりハリスは自分が死んだんだと思った。

「だが一命は取りとめたようだ馬鹿め」

「で…?」だんだんイライラしてきた。

「お前に使命を与えにきた馬鹿め」

「うっさい!馬鹿馬鹿うるせぇんだよ馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁ!」

この剣幕にノルターは少しびびった。

「おぉ、馬鹿の馬鹿が天才なら、今の馬鹿は…」

「そんな事より使命って何ですか…」

「そう、世界の想像主たる私から君に偉大なる神の使命を…」

「…」もう返事をするのも疲れた。

適当な所まで聞き流すとしよう。

「ロキを止めてくれ」

「…ん?」どういうことだ?

「ロキという奴がいる。私と同じ全てを想像せし力を持つ者だ…だが…奴はこの美しい世界を、戦いで染めようとしている」

「実際戦いなら各地で起きてますが…」

「各地でならまだ良い。奴は【聖戦】を引き起こそうとしているのだ」

【聖戦】。 ノルターの歴史で最も巨大な戦い。モンスターと人間の戦い。

「そうなったら…人間じゃない種族が迫害をうけるじゃないか…!」動物に変身出来る能力を持つ人間より高い戦闘能力を持つハーフマンなどが敵に回ったら、それこそ人類の終わりだ!

そもそも歴史で習った第二次聖戦に人類が負けたのは、ハーフマンを味方に着けなかった為だと言われている。

「手始めにあいつは復活呪文の封印を行った。私にも手に負えない」

「でも、僕にどうしろって…」

「君はもともと神だからな…」

ハリスは絶句した。…はい?

「【ゲート】を破壊しろ…!ハリス!これは君にしか出来ない…使命だ。」

「あの、意味がわからな…」

「ゲートの魔力は神の魔力で消せる…お前は自分の異世界での記憶を覚えていない筈だぞ?特に自分自身について」

「!」ハリスは息を飲んだ。

でも…だったら…

「僕はもともとここの世界の…?」

「そうだ。因みに私との面識もあるはずだが…?」ノルターは首を傾げた。

「いや、こんな変な人は知り合いに…」

「失礼なこと言うね君!」ノルターはだが真剣な顔をして考え込んだ。「…だが、私について覚えていない…まさかな…」

「…」ハリスはノルターを見つめる。

…自分は一体何者なんだろうか…

「…ん、まだいたのかね」

「あんたが呼んだんでしょうが!?」

「いや、すまんすまん…考え事をするとすぐ物忘れをしてしまう質でね…」ノルターは頭を掻きながら言った「一応君の仲間も心配してるだろうから、今は帰しておこうか。ただ、もう二度と無茶をしないこと。君が死んだら世界は終わる…」

そう言った瞬間、世界が黒くなった。

突然だった。意識が沈んでいく…。

ハリスは薄目を開けた。

小さい明かりが見える。それがランプの光だと認識すると同時に、今は夜なんだろうと思った。

窓から月の光が差し込み、室内は幻想的な空間になっていた。

「…ハリス!」アニがソファから立ち上がり、此方を見て…怪訝そうな顔をする。

「…ごめん。でも彼女を助けるにはあぁするしか無かったんだよ…。HPを共有するしか…」

「…いや…いいの…いいのよそれは…」

アニはため息をついてハリスを指差した。「…いつからその娘はそこにいるの?」

「え…おわああああ!?」

一緒の布団にくるまってラミエが寝ている!?密着してるのに気づかなかった…!

「…完全に熟睡モードね」

アニはそう言うとラミエをハリスから引き剥がそうとした。

「んー…!」ラミエは更にハリスにしがみついた。…うっ、この感触は…。

「ちょっと!ハリスも鼻の下伸ばしてないで手伝って!変態なの!?」

「違っ!…分かったよ…」ハリスは腕を掴んで引き剥がそうとした。

「くうっ…!」「…アニ、ストップ!」

「なによ?」アニはハリスを睨む。

「…これ以上引っ張ると、傷が開いちゃうかもしれない…き、今日はこのままでい…いいかな…?」

「…まぁ、確かに胸は私よりあるわよね…」アニは頭を抱えてため息をついた。「すごい敗北感…嫁なのに…」

とりあえずしがみついたラミエは放っておいて、夢での出来事をアニに話した。

「…あなた神だったの!?」

「違うよ!…多分…。でも、もしそうだとしたら僕の現実での記憶が無いこともつじつまが合いそうだよね」

「うー…あり得ない話でもないわね…」アニは考え込んだ。「いや…でもね、不思議なのは貴方がちゃんとゲーム時代に自分の状態が言えた…それってつまり向こうにいた証拠にならない?」

「それ、本当?」ハリスは耳を疑った。

「一時期あなたが、『キーボードにジュースをこぼした』騒ぎがあって…」

「あったっけ…」覚えていない。

「NとMが使えなくなったって言ってたわ。次の日には直ってたけど。」

「じゃあ確かにパソコンの前に僕はいた…ってことだよね。」

「えぇ。間違いないわ」

なんとなく頭の中に情景が浮かぶ。だが自分の顔を思い出すことは出来なかった。

「…この件はまた今度。次は…」

「ゲートについて、ね」

「聞いたことある?」

「んー…」アニは真上をむいて考え込んだ。「…聞いたこと、あるような…」

「明日、皆にも聞いてみるよ。」

ハリスはそう言うと欠伸をした。

「さっきまで気絶してたのに、また眠たくなるんだ…」アニは呆れたように言う。

「なんていうか、こんな物があるから、暖かくてもっと眠くなっちゃって…」

ハリスはラミエを指差した。

「むぅ…なら…」アニはハリスに近づくと、おでこにキスをした。

「うおぉぉあああぁぁ!?」

「なによ…その反応は」

「なによじゃなくて!またお酒!?」

「失礼ね。先制攻撃しただけじゃない」

アニはそう言いながらラミエを見下ろしてニヤリと笑った。

…なんか良くないこと考えてそうだ…

あまり寝れなかったが、朝はすぐに来てしまった…。どこかで鶏が鳴いている。

「ヘイ!ウェイクアップ!」

変な声で飛び起きた。

慌てて見ると、白い海賊服の変なお姉さんがこっちを指差していた。

白いウェーブのかかったセミロングの髪をなびかせ、肩で息をしている。

…誰だ…?

「お…お姉ちゃん!?」

そう叫んだのはラミエだった。

「オーマイシスター!貴方が任務中に刺されたって聞いてお姉ちゃんウォーリー【心配】にキルされるとこだったヨー!」

お姉さんはラミエに飛びかかった。

「ぐはあ痛い!痛いよお姉ちゃ…あ…」

ラミエは自室のベッドに横にされた。

「…傷が開いたが、命には別状ないぞ」

ブレードは腕を組みながら言った。

「…不幸だわ…」ラミエは嘆いている。

「ラミエにお姉さんがいたのね」アニがうなだれているお姉さんに言った。

「海賊やってるからネー。ヴィーズィーでなかなかカミング出来なかったのヨ!」

「俺も初耳だったな…しかし、玄関を大砲でぶち破り、メースを撒いてここにたどり着くとは…ただ者ではないな。」

ブレードがそう呟いて腕を解いた。

「悪い意味で肯定します」

アーチャーはお手上げのしぐさをした。

「まぁ出るとこ出てるし、あの絞ったようなウェストだし…」スラッシュが呟く。

「お、スラッシュ…分かってるねぇ」

ランサーがスラッシュの肩を叩いた。

…駄目だこいつら…

「…まぁ、折角来たんだ、食事でも一緒にどうだ?」ブレードが提案した。

「丁度ハングリーだったから助かるヨ!サンクユー!」

「いい加減恥ずかしいからそのあらゆる言語を混ぜた変な訛りやめてよ…」

ラミエが懇願するように言った。

「…さて、まずは昨日の件だが…」皆がある程度食べ、ラミエのお姉さんが帰ったのを見計らってブレードがまず話し始めた。「青の洞窟にはパルチザン…それも高威力の物を所持しているゴブリンはまずいない。」

「でも現にハリス達が遭遇して、ラミエちゃんがやられちまったんだよな」

スラッシュが口を挟んだ。

「あぁ。可能性としてはゴブリン側に武器を提供している何者かがいるか。もしくはゲートが開いたか、だ。」

「またゲートかよっ!」スラッシュがお手上げの仕草をして叫んだ。「あんなものが世界中に出現したら、狩りなんて出来なくなっちまうぜ!?」

「あの、ブレードさん。その事で少し話があるんだけど…」ハリスは緊張しながら手を挙げた。

「話してみろ」ブレードは腕を組んだ。

ハリスは昨日の夢について説明する。

「げ、ゲートを破壊…だって!?」

ランサーが驚きの声をあげた。

「確定出来ない事実ですが、もしそうなら安全に外で狩りが出来ますね」

アーチャーがトーストを片手に言った。

「…丁度いい、今日はパール山脈を調べに行こうと思っていた所だ。」ブレードがハリスを見て言う。「…同行してくれるか?もしゲートがあったら試してみよう」

「はい!」ハリスは首を縦に振った。

「編成メンバーはどうする?なんかシェイダーとシオンがいねぇけど」

スラッシュがブレードに訊いた。

「うーむ…シェイダーはラフィーリアを連れていけば誘えはするだろうが…」

「多分単独行動だけは絶対するだろうね…ラフィーリアがいても」

ランサーはそう言いつつ食器を下げに調理場まで歩いて言った。

「カリース!」「ぐはっ!ばれたかっ」

向こうで何やら聞こえたが無視。

「…シオンはアフターブラッディの集まりに出ているから今日は戻らない筈」

村雨丸はそう言いつつお茶をすする。

「そうか…」ブレードは考え込んだ。 「俺とスラッシュ、アーチャー、ラフィーリア、ノルイ…それとハリスとアニだ。」

「そりゃあ、三人と四人のレイドにするってことですか?」

スラッシュが首をかしげた。

「あぁ。俺とスラッシュとアーチャーはかなりレベルが高いだろうからな。効率よくまとめさせて貰った。」ブレードはメースに言う「メースやランサーたちは防衛戦が発生した場合持ちこたえてもらう。」

「わはっふぁ」カリースは口の中に大量に物を入れたまま調理場を出てきた。

「…。ハリスとアニは今からでも準備をしておいてくれ。出発は一時間後だ。」

消耗品などを近くの露店でアニと買い集め、作戦について語りながら戻ると、あっという間に時間になってしまった。

「一時間って意外に短いのね…」

アニが時計を見ながら言った。

「…皆揃ったか?」ブレードがハリスとアニに厚手のローブを渡した。「言い忘れていたが、パール山脈は氷山だからな。これは防御も高い。上に着ておけ」

「ありがとうございます」

ハリスは早速羽織ってみた。

…暑っ!?

「…街中で着る想定はされてないから、現地で羽織った方が良いと思うぞ」

ブレードが苦笑しながらそう言う。

なんというか、全身にカイロを貼り付けたような暖かさだった…。

「ハリス…これ確かフルレイドクエストの低確率ドロップのローブだった気が…」

アニが頬をひきつらせながらハリスにそう耳打ちした。

「突っ込んだら負けなんだよ…多分…」

ハリスはアニにそう返した。

ブレードはいつもの穏やかな顔で全員に声をかける。

「よし、準備出来たな。忘れ物をしている奴はいないか?」ブレードは全員を見渡して頷くと、叫んだ。「さぁ、今日の調査を始めるぞ!」

【続く】


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