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一話その3

「災天夢層豪雷斬…!」スラッシュがランサーの肩を小突いた「一年ぶりか…?」

「そうだね」ランサーはスラッシュににっこり微笑む。「見ろ、嬉しそうだよ」

ハリスは何が起こったかを確認することが出来なかった。

ただ耳をつんざく轟音と共に、気付けば敵の大将のいた場所半径3メートル位が、

雷が落ちたかのように焼け焦げている。

「…報告」ブレードは何処からか無線機を取り出して言う「大将撃破。帰投する」

「ブレードさん…それじゃ分からないですよ!貸してください」スラッシュがブレードから無線機を取って叫んだ。「【闇の騎士団】総司令ブレードが、相手の大将バリアントスタークを討ち取ったぞぉぉ!」

「まぁ、さっきのでもいつもの事だから分かるだろうけど…」ランサーが呟く。

「…まぁ、今日は特に楽しませて貰ったからな…ハリス…だったか?」

ブレードがハリスの前に立った。

「はい」

「…帰れと言ったのに帰りもせず、恋人とノコノコ敵の本拠地に来るとはな…。」

「すいません…」ハリスはうつむく。

「お前は何を欲している?」

「え?」ハリスは首を傾げた。

「名声、金、守りたいもの…お前をここまで動かしたのは一体なんだ?」

ブレードは穏やかな目でハリスを見た。

「ぼ…僕は…仲間と元いた世界に帰るために…仲間を守るために戦います…」

「元いた世界…?」

「ブレードさん、聞いてください。」

アニが今までの経緯を説明した。

その話を聞く限りでは、アニはこのゲーム前の記憶を【持っている】。

ハリスには何故記憶がないのだろうか?

「ゲーム…か…この世界が盤上だったとはな…。」ブレードは考え込んだ。

「ブレードさん、帰らないんで?スラッシュの奴はさっさと帰りましたが」ランサーが様子を見にやって来た。

「なぁ、ランサー。こいつらを団員に入れると言ったらどうする?」

「問題ないかと。自分なりのスタイルを確立してますし、磨けばすぐ強くなる。」

「そうか…」ブレードは再びハリスを見つめる。「…一度街に帰るか?」

「はい…あ、でも僕達…」

「分かってる。ランサー、アーチャー、案内してやってくれるか?」

「はいよっ!」ランサーは敬礼した。

「了解しました」いつの間にかブレードの背後から赤い髪の少女が現れた。

「俺は少し探索して帰る。…頼んだ」

ブレードはハリスに背を向けると、静かにランサー達を横切り森に消えていった。

「…さて、行きますかい?」

「準備は出来ましたか?」

「私は平気よ、ハリスは?」

アニがハリスを見つめた。

「大丈夫だ。行けるよ!」

「じゃあ…っと、まず自己紹介からか」

ランサーは立ち止まると、スラッシュのような人懐っこい笑みを浮かべた。

「俺はランサー、見ての通り機槍使いだ。職業は機械工の【メカニクル】。魔法は使えないが、火力で押すタイプだ。まぁ、スラッシュとは昔からの悪友でな!あいつ共々仲良くしてくれよな」

ランサーは確かに様々な種類の計器がついた不思議な青い鎧を身に付けていた。

成る程、機械工は戦闘で化けるんだな。

額の部分に時計の着いた奇妙な青いヘルメットのお陰で目は見えないが、

とても優しそうな人だった。

「私はアーチャー…よろしく」

アーチャーは物静かな印象を与えた。

セミロングに揃えた赤い髪は風になびき、深く赤い瞳でこちらを見つめつつ…。

ランサーに抱きついている。

「あ…えとアーチャーちゃん?誤解されるから止めてくれないかな…?」

ランサーがアーチャーの頭を軽く叩いた

「…あっ…!」アーチャーは自分のやっている事に気づくと、顔を赤らめてそれきり喋らなくなった。

「アーチャーちゃんはね」ランサーは一呼吸置いて言う「…鎧フェチなんだ」

ガッ!

ランサーの額の時計に矢が刺さる。

ガラスが割れる音がした。

「ぎゃあああ!壊れたぁあ゛!」

「…下らないこと言わないで下さい。次は首を飛ばしますよ…?」

アーチャーは前開きの白と黒のチェックの柄の上着に、白いフリルの服、赤いスカートを履いていた。一瞬見ると全くファンタジーではない格好だが、ここの人にとってはこれがコスプレなのだろうか?

「私はフェチではありません。ただ鎧が好きで…そ、添い寝とか、したり…重厚な鎧を見ると抱きつきたくなるだけで…」

…それはフェチではないのだろうか?

「鎧好きでも良いじゃない。私も薬品とか劇物、大好きよ」

「アニ、怖いこと言わないでよ…」

こうして、四人で楽しく話をしながらハリスは街に向かった。

四人パーティーだったので敵との遭遇率はかなり高かったが、楽しみながら戦うことが出来た。

「そろそろです…」

しばらくして平原の向こうに、巨大な城壁が見えてきた。

「うわっ!あ、あれ…!」

城壁の向こうからドラゴンが飛んできて、ハリス達の上を通りすぎていく。

ドラゴンの上に微かに手綱を握った人がこちらに手を振っているのが分かった。

四人は手を振り返す。

「ドラゴン便ね…あれで人や物資を?」

アニはランサーに訊いた。

「うん。メルハは一応、敵地のど真ん中に立てられた都市だからね…」

「そろそろ城壁に入ります」

城壁には検問所があり、入国者を厳しくチェックしていた。

「あ…何か身分を証明するものとか…」

ハリスは鞄を取り出した。

「いやいや、俺達がいるから平気。」

「私達は…公認されていますから」

「お疲れ様です!お連れの方もどうぞ」

成る程、すんなり検問所を通過した。

大きな橋を渡り、とうとう街に入った。

「さて…ようこそ!メルハへ!」

「正式名称はメルハルダ貿易王国です」

「すごい…」アニとハリスは同時に呟いた。

白い煉瓦模様の石畳はよく舗装され、その回りにところ狭しと屋台が並んでとても賑やかだった。

「ここが南地区【凱旋の商店街】です」

「戦いから帰ってきたやつはここで軽く買い物したりするんだよ。」

「らっしゃい!」どこからともなく、あちこちから声がかかる。

「パンホウ直産!メルトコーラだよ!」

「戦闘の前には家で用意しなよ!」

「美味しいよ!一口どうだい?」

「今回の狩りで入手した上等な武器だ」

「いーしやーきいも〜♪」

「踊ろうぜ!」「兄さん顔貸せや」

最後の2つ以外はどれも興味を引いて、特にアニが目を輝かせていた。

「ハリス!後で付き合って!」

「分かった、後で行こうか」

「やった……!」アニのこんなにも嬉しそうな顔は初めて見た。ハリスも安全な場所に着いて、安堵のあまり自分の頬が緩んでいるのに気がつかなかった。

「ところでランサーさん、僕達はどこへ向かっているんですか?」

「城」ランサーはニヤリと笑う。

「し…城ですか…?」

「目的は勲章の授与です。あなた方二人は一個中隊の師団長を倒し、本拠地強襲時も大いに貢献しました。」

「勲章…鍋にいれたらクラスアップするのかしら…?」アニがボケる。

「金属製だから、金にはなるかもな」

ランサーが軽く笑いながら言った。

四人は日陰に踏み込んだ。

「…高っ!?」ハリスが驚く。

これは城と言うより塔だと思う。

下層部分がドーム状に建てられ、上にいくにしたがって細くなっている。

周りの建物は城っぽいが、実際の城の部分は全く城に見えなかった。むしろ…

「剣だよね…これ…」ハリスは呟いた。

上空から見れば違うのだろうが、この建物はレイピアの剣先のようにも見える。

「…来たか」門の前にブレードがいた。

「あれ、もう帰ったんですか?ブレードさん?探索は?」

「一応これからの事について結論が出たからな。メースに用意させている」

「んじゃ、勲章受け取ったらそっち戻っていいです?」

「あぁ…書類を出すついでにそれだけ伝えたかったんだ、じゃあな」

ブレードは紙袋を小脇に抱えて笑みを浮かべながら戻っていった。

「ブレードさんは勲章無いんですか?」

ハリスは気になってランサーに訊いた。

「あー…あの人は戦闘に関してなら全ての勲章を手に入れた人だから…」

とてつもなかった。

四人は門をくぐり、城の中へ入る。

「勲章授与の方ですね。謁見の間へ」

案内の兵士が案内した先には、人が5人並んで入れる程の門があった。

兵士が二人やって来て門を開け始める。

「いってら!…俺は外で待ってるわ」

「終わったら城の入り口まで」

ランサーとアーチャーはここで手を振って二人を見送った。

「王…か…」ハリスは唾を飲み込む。

「…行きましょう」アニが手を差しのべた。ハリスはそれを掴む。

そして、二人を待ち受けていたのは…。

十歳くらいの少女だった。

ウェディングドレスのような形の赤いドレスに身を包み、長い金髪を玉座の腕置きに垂らしている。あ、今、欠伸をした。

一瞬目を疑ったが、玉座にいる以上、この女の子が…?

「やぁ!ご苦労様っ!」

女の子が軽く手を振って笑った。

「へ…?」ハリスは首を傾げる。

姫【?】の背後のドアがドンドン音を立てて軋んでいる。

「姫様っ!聞いていれば何ですか!ここをお開けくださいっ!これは式典ですぞ、そのようなご無礼を…」

「うるさいわ!今日何人目だと思ってんのよ!流石に疲れるわぁ!いいデルクロスト、こういうのは誠意を伝えりゃいいのよ!無礼なのは式典中に下品に扉をドンドン叩いてるアンタだぁ!」

「ぐふっ!」扉は静かになった。

「…」ハリスはこの事態にアニと手を繋ぎながら固まっているしかなかった。

「えーと…?他所の方かしら?」

「あ、はい…二人で旅をしています」

ハリスがアニの手をきゅっと握る。

「まぁまぁ!この初々しい感じは!…新婚さん?」王女は酷く機嫌が良さそうだ。

「えぇ…まぁ…」

「キャアアアアアッ!」王女は酷くご乱心だ。身をくねらせている。

「何事ですかッ!」兵士が二人入口から飛び込んできた。手には槍を持っている。

「…アンタたちこそ何事よ」

酷いお姫様だな…。

「し、失礼しましたっ!」

ヘルメットを押さえながら退室する兵士はだが、何故か笑っていた。

「ふふ…いつもの事だものね。ちゃんと私を護衛してくれて、ありがとね」

「はい!何かありましたらどうぞ!」

「…」なかなか勲章の方に話が行かないなぁと思いながらハリスは王女を見た。

「ふふ、聞き分けが良い兵士たちでしょ?…あれ八割がた私のファンだから」

これは苦笑いするしかない…。

「あ、そうだ忘れてた!」ひらりと玉座から飛び降り、とてとてと玉座の裏から何かを取り出す。見ると銀のバッヂだった。

「えーと…オホン」王女は咳払いをすると賞状のような物を開いて読んだ。「貴方は司令官クラスを破り、我が軍に大いに貢献しましたので、これを授与します。」

王女はそのままハリスの所まで歩くと、ハリスに賞状とバッヂを手渡した。

「ありがとうございます。」

失礼のないように受けとる。

「またよろしくね!じゃあ、気が向いたら遊びに来なさい!またねー」

王女様は玉座の後ろの扉を開けて謁見の間から出ていった。直後、

「姫様、ちょっとお話が…」

「私が下らないと思った時点で死刑ね」

「ぐはあっ!」

というやりとりが聞こえたが…。

「…か、帰ろっか?」ハリスが呟く。

「そうしましょう」

城の入口まで戻ると、ランサーとアーチャーが待っていた。

ランサーは近くの芝生に座り、アーチャーはランサーの膝枕で寝ていた。

「仲が良いのね…?」アニが言った。

「いや…重鎧を着ている人には皆こんな感じだよ…さ、起きてアーチャーちゃん」

「はっ!」アーチャーは飛び起きた。「きゃ、きゃわああぁぁ!」

「ぐほぉあっ!」アーチャーのパンチでランサーが吹き飛ぶ。

「ハリス、ひとつ言っておくけど…」

「どうしたの?アニ」

「重鎧着たら殺すからね…」「何故!」

「さて、この後は本部に戻るよ!君達も是非来てほしい」

ランサーの指示でハリス達は【本部】と呼ばれている場所に行くことになった。

【続く】


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