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第一話「乱入」その1

Halis:よし、このへんにしとこうか

JUNE:まじでか!まだ行けんだろ!?もっと狩ろうぜ!

Any:ジュン、彼だって忙しいのよ。リアルで何もしてない貴方とは違うの

JUNE:アニ、もうちょいソフトに言ってくれよ!俺のハートにグサツと来たぜ!

Halis:ごめんな 最近忙しくて…

JUNE:ハリスが悪い訳じゃねぇよ、世の中ハリスみたいな忙しい奴を作るのがいけねぇんだよ!

Any:そのぶんジュンみたいな暇人が生まれるわけね。ほんと、おかしな世の中だわ。やれやれ…

Halis:じゃ おちるわ お勤め果たしてくる

JUNE:おう おつ!

Any:お疲れ様でした

20××年…。

終わらないMMORPGが発売された。

名前は【ノルターストーリー】

神の代表者ノルターと

十数にも及ぶ属性の神々が作り出した、

魔法世界、ノルター。他のネトゲにはない、【生活】を楽しめるゲームとして、かなりの注目を集めてきた。

普通のゲームでは冒険者となり世界を巡っていくものだが、このゲームでは生産者として、各街を回ることも出来る。

お金さえ集まれば、ドラゴンを操るドラゴン便などに乗って安全に旅をすることが出来るのだ。

このシステムは画期的で、これまでアクションゲームが苦手だった人でも、たとえレベルが1だったとしてもある程度の場所までは自由自在に動く事ができるのだ。

更に、ひとたび戦争が起こると、街を敵の魔物の部隊が占領したりするらしい。

この戦争は当然、冒険者も参加できるが、なんと生産者も参加することができる。

生産者は強力な武器を作ったり、必要な物資を作ることで、冒険者なりの経験を得ることも出来るのだ。

説明が長くなったが、大まかに言えばここまでのゲームは見たことがない。

世界観も恐ろしく広大で、運営は化け物か何かだとコメントする人も出ている。

そして何よりこのスペックで…

不具合の報告がない。

廃人が続出し、一時は社会問題にもなったことがあるらしい。

魔法剣士ハリスを操るこの男も、この世界もまた現実の一つだと認識していた。

…さて、何が起きた?

「…あれっ!?」

深い森の中にハリスは立っていた。

聞いたこともない綺麗な鳥の声。

カサカサとリアルに聞こえる木々のざわめき、そして…。

「この格好…」

自分が着ると何かダサいな。

所々土のついたままの白い法衣に金属製の胸当てを着けた服…。

あの、ハリスの服だ。

色もランダムパレットで決まるこのゲームで、こんな服を着てるのはまずハリス以外にはいない。

所持品に鏡があった。見てみた。

灰色の長髪をして金色の瞳をもつ、地味で内気そうな頼りない顔があった。

ハリスじゃねぇかよっ!

「いや待て…状況を確認しようか」

そうだ、まずは冷静に…

分かっていることを整理しよう。

知らない森でハリスの格好をされ、放置プレイされている。

「分かんないわぁ!」

何故だ!確かにハリスは俺のキャラクターだけど、向こうの…現実の俺の顔が思い出せない…!

いやいや毎日鏡の前でナルシストしてるバカとは違って最近は鏡を集中して見てなかったからかなとか思ったりする。

「いや、顔だけじゃない…」

向こうの記憶がすっぽり抜けている。

ただ、この世界で苦労してここまでハリスを成長させた記憶は、まるで自分が体験したかのように覚えている。

この状態はまさかとは思うけど…

「俺が…ハリスになっちゃった…だとそんなバカなぁ!」

はっ!

嘘でもハリスになったならキャラぐらい

立てないとまずい!ハリスのしゃべり方はもっとシンプルで…

「これは困った…」

そう、こんな感じだ。

「とりあえず、街を探そう」

俺がハリスになったなら、他の人はどう見えるんだろうか。

アニやジュンに会いたいとこだが…

…ピリリッポーン

特徴的な音楽が頭の中で流れた。

「魔法メール…!」

ハリスは頭の中でメールをイメージして出そうとした。

「…成功だ!」ハリスの手元が光り、小さな半透明の手紙が現れた。

宛先は【Any】…アニだ!

魔法メールは全ての冒険者が持てるスキルだ。申請すれば、暗号を知っている人に限りメッセージを送ることが出来る。

「アニ…」ハリスは泣きそうになった。

こんな訳のわからない状況で、もし自分ひとりだと思うと辛かった。

…でも、そうじゃなかった!

手紙にはこうあった。

【件名:現状報告】

『アニよ。さっきまでゲームしていた筈なのにこれは一体…一応現状を報告するわね。おそらくここは【原初の森】よ』

ハリスは読み終わると同時に返信する。

『ハリスだ 大変なことになったな。いわれてみれば原初の森で間違いないだろう。だけど問題は今いる場所だ。』

■原初の森■

推奨戦闘値1〜577

戦争時1200〜2353


このばらつきのあ数値が特徴の原初の森は初心者がまず行き着く場所だ。

ここで戦闘値1のプレイヤーは精霊に導かれ、初の戦闘を経て戦闘値が決まる。

戦闘値とはレベルのことだ。

レベルといっても戦闘値はあくまでも戦闘能力を示す指針にしか過ぎない。

生産行為をすると発生する経験を貯めていくことで【生産レベル】が上がっていき、更に複雑な物を作ることができる。

横路にそれたが、簡単に言うと戦闘値というのはレベルであり、レベルではない。

初の戦闘で一気に戦闘値が100を越える者もいれば、1のままの人もいる。

下がることはないが、より効率的に、鮮やかに敵を倒さなければ、なかなか上がらない難しいステータスでもある。

ハリスは魔法剣を主体とする【オーラセイバー】という職の、戦闘値が571だ。

この装備で571という戦闘値は、そうはいないのだそうだが…

問題はアニは【アルケミスト】で、戦闘値が400程度だったということだ。

【他の人の戦闘値は、パーティに入らなければ分からない。ハリスは先刻の狩りの時、アニの戦闘値を覚えていなかった】

原初の森の高レベル帯の場所にもし居るのなら、中衛のハリスならともかく後衛のアニでは太刀打ち出来ないだろう…。

ゲームだった頃は高レベルのプリーストに起こして貰えたが、実際の体が死ぬ危険のある今の状況では、命を大事にしなくてはならない…。

しばらくして返信があった。

『スカウトリキッドを使って辺りを見回してみたけど…敵の戦闘値が安全圏オーバーよ。私は435だったんだけど…敵は512…まずい事になったかもしれない』

ハリスは冷や汗をかいた。

『まずは合流しよう!スカウトリキッドはあとどれくらい持ちそうだい!?』

『あと持って二時間…【見破り】の敵さえ居なければそれだけ持つわ。ハリス、なんかしゃべり方が女々しいわよ?』

『じ…実際キーボードタイプするのと違って生声だとこうなっちゃうんだよ…』

『ふぅん。あ、そうそう、この前ね…』

いつものようにアニの連続トークが始まった。確かワープロを取ってたはず…。

タイプの速さなら誰にも負けない…

と本人は言っている。

ハリスは歩き始めた。

しばらくそうしてアニと手紙のやりとりで、次の狩り場、ジュンのこと等を話し、やがて一時間はたったんじゃないかと思われたときだ。

「北出口だ…!」ハリスは叫んだ。

そこだけ木々が抜け、向こうが平原になっている。その奥にはさらにそびえ立つほどにそびえ立つ城があった。

『アニ、北出口だ!ここから推奨レベル帯の場所へ行くことができるよ!』

『はやく、みつかりそ』

おかしな所で言葉が切れている。

「…!」嫌な予感がした。

『たすけて』


『アニ!どうしたの!?アニ!?』

『せんそう』

ハリスは硬直した。

戦争。まさか!

戦争とは、獣人などがとある地区へ攻め込んだり、味方の軍隊が敵地に進行したりする状態の場所を指す。つまり…

「せ…戦争情報は…!」

慌ててハリスは指を振るが気づく。

この手にコントローラは持っていない。

メニュー画面すら出すことが出来ない。

現状で戦争情報を把握するのは不可能。

「なら合流しないと…」

だがどうするか…!フレンドというだけなら地図に場所を特定出来ないし、弓手系統の職業でなければ広域の敵をサーチすることも出来ない!

だがもたもたしていれば間違いなくアニは命を落とすだろう。

あてもなくさまよって敵に発見されれば戦闘をしなくてはならない。

何か…何かないのか…!

「あっ…!」ハリスは閃いた。

しかし…この方法は…いや…

迷ってる暇なんてないっ!!

全力でハリスはあることを魔法メールで叫んだ。

『は…はいっ!?』

明らかにアニは動揺している…。

『今の場所が知りたいんだ!一刻を争う事態だよ!状況が分からない以上、死ぬのはまずい気がする!お願いだ!』

ちょっとした間を開けて、マップに彼女の場所が表示された。

「よしっ…!うまくいったぁ!」

…後のことは、後で考えよう…

持ち前の敵に見つからないよいにフィールドを走り抜ける技術で敵地を抜け、ハリスはポイントまで全力で走る。

…モンスターの挙動はゲームのままか。

だが何にせよ助かった。

「今は君らの相手してるわけにはいかないからな。」

目標地点にはまだアニのマークがついている。つまりまだ無事だということだ。

「うわあっ!」

地図を見ながら走っていたので、ハリスは樹の幹に足を引っかけて転んでしまう。

地面に体から突っ込み、露出している根で腕を擦りむいた。

「う…って…!?」

頭の中に意識できる数値があった。

■HP65761/65770

「転んだ程度で…そんな…」

でも止まっている訳にもいかない。

早く行かないと。

HPという概念は存在しているらしい…

でも…アニの今の状況を知る指針にはなりそうだ。

『アニ!HPはいくつ残ってる?』

『HPなんて…いや、考えれば出てくるみたいね。今は…45909でMAXよ』

とりあえずは胸を撫で下ろした。

『すぐ行くから待ってて』『ええ』

あともう少しでアニの所だ。

ハリスは刀身に紋様の刻まれた細身の剣を抜き放つ。左にすぐに魔法結界を張れるよう構え、そのまま突っ込んだ。

「アニ!無事かい!?」

「遅かったじゃない!」

近くの木陰から少女が飛び出してきた。

胸当てのついた簡素な服と膝丈のスカートを身につけ、その上から白衣を着た藍色の長髪の少女…アニだ。

実際の彼女の声は思ったよりソプラノで、大人なイメージを綺麗に壊してくれた。

…良い意味で。

「よかった…無事みたいだね」

「目の前にいきなり戦闘値1500のモンスターが出たときは焦った、焦ったわ。」

「そいつは今どこに!?」

「なんとか撒いたわ。あなたの場所を目指して私も少しは移動したから…それと…あの…どうやったら解除できるの…?」

アニが言っているのは…先刻アニの居場所を見つけるために叫んだ台詞…

『僕と結婚してくれ!』

「いや…もっと考えれば別の方法があったかもしれなかった…ごめん!」

「や…別に嫌って訳でもないわ…そうね、これから同行していく訳だから、この方がやり易いのかもね…」

こう簡単にいくとは思わなかったが、

説明すると【両者の精神的に迷いの無い合意の意志】があれば結婚が発動する。

結婚すると、戦闘値が高い方に修正され、夫婦で同じ戦闘値を共有する事になる。

他にもアイテムの共有、エリア情報、居場所の特定、様々な特典があり…

それらを知った上で【四六時中居場所を補足され続けるのは監視されている気がして嫌な人もいるのではないだろうか?】

双方が迷いなく合意すれば、場所を問わず結婚することが可能だ。

まぁアニとハリスの場合、結婚しなければ死んでしまう!という危機的状況での双方同意だったため、かなりイレギュラーな結婚だったわけだが…。

「後で教会に言って離婚しようか…?」

「いや、いいわ。せっかくレベルも上がったみたいだものね…そうだ、ちょっと周り見ててくれる?」

アニは目をつぶって暫く黙っている。

「…具合悪いの?」

「あら、貴方は気づかなかったのね。ゲームの時に開けたメニューって、目を閉じたら開けるみたいよ?」

「あぁ…だからメールを送信出来たんだ…そんな単純なことだったとは…」

「まぁ、このままじっとしていても襲われるだけよ。私がスキル振り終わったら移動するわよ」

「分かった」

こうしてハリスの物語は、始まった。

【続く】


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