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白皇竜の寝所

お待たせしました!ついに更新できました~!

赤焼けの空をを悠々と飛ぶ、一匹の白いドラゴン。翼を大きく広げ、時折過ぎ去る雲を切り裂くその姿は正しく空の皇。


その背には三人の人影があった。リュート、メアリー、ユスティの三人だ。


彼らは皆、空の旅を楽しんでいた。リュートを中心に前にはメアリー、後ろにユスティを置いている。


リュートも男だ、華奢ながら柔らかく抱き心地の良いメアリーを胸いっぱいに感じ、背中にはユスティのふくよかな二つの膨らみが押し付けられているという現状に口元がニヤつくのを押さえられないでいる。


2人ともリュートの顔を覗き込めない体勢でいるので、「このスケベ!」とツッコめる者はいなかった。


メアリーはメアリーで自分の意思以外で跳ぶという感覚を楽しみ、ユスティも眼下の光景と、時折横を過ぎ去る雲の欠片に手を添えてその不思議な感覚に笑みを零す。


そんな時、ホルトヴァイスが声をかけてきた。


『ねえねえ王様~』

『二人も~』


『『何かご不便なところはありませんか~?』』


意外にも気遣いができるのかと内心驚きつつ、三人とも優しく微笑んだ。


「そんなことない、すごく快適だよ。ねッ、2人とも?」

「……ん。楽しい。満足」

「ハイ!何も不便なことはございませんよ」


首元を撫でながら答えると、ホルトヴァイスも嬉しそうに告げる。


『えへへ~』

『それじゃーね~』


『『もうすぐアクエリウムに着くからね~!』』


やはりドラゴンの速さは馬車に比べてもケタ違いだ。朝に出れば、馬車で数日はかかる道のりを半日で終わることが出来る。


“送迎竜車”なんてのを始めたら、物珍しさと桁違いの時間短縮能力から大儲けできそうだな――などと空想を浮かべつつ、リュートは前方を見る。


残念ながら未だ山と森しか見えないが、そのうち大きな都市が見えるのだろうと思うと胸も躍った。


しかし、それは意外な形で裏切られた。眼下に巨大な湖が見えたとき、突然ホルトヴァイスが降下し始めたのだ。


『それじゃあ王様~』

『そろそろ潜るから~』


『『魔力結界ハッといた方がいいかもだよ~?』』


何のことかは、言われてすぐにわかった。あの湖の中に潜るつもりなのだろう。ということは、自分たちがずぶぬれになってしまうという事。


理由は分からずとも、リュートはホルトヴァイスを信じてすぐさま三人を囲む結界を造った。


それと同時にホルトヴァイスの身体は大きな水しぶきを上げて湖の中に潜る。


日はすでに沈みかかけており、湖の中は思っていたよりも暗い。だが、気をきかせてくれたのか、ホルトヴァイスは全身を淡い光で包んだ。


彼ら自身がライトとなったおかげで、水中の中でも周囲がはっきりと見えたのだった。


色とりどりの魚がホルトヴァイスを避けるように、またはホルトヴァイスの流れに従って横で泳いだり、遠くでは大きな魚のようで明らかに魚ではない生物が蠢いていたり、真下では四本のはさみを持つカニが墨を吐いていたりと、リュートも見たことのない光景がそこにはあった。


空を飛んでいるときの風を切る感覚とはまた異なり、水の中を優雅に進んでいく感覚は味わった者にしかわからないだろう。


ホルトヴァイスも時折翼を動かして方向を変えているので、言うならば、水中を“泳ぐ”というよりは水中を“飛ぶ”という感覚に近いかもしれない。


「まるで水中水族館みたいだ……」


水の中の光景に圧倒されていたなかで、ふと、リュートが小さく漏らした。他の二人のもそれは聞こえており、不思議に思って尋ねる。


「リュート様、その、“水族館”とは何ですの?」

「ああ、えっと……釣った魚なんかを観賞用に大きな透明のケースに入れて、それでお客さんに披露する娯楽の一種、かな?説明が難しいんだけど、とりあえずそんな感じ」


かいつまんで説明すると、メアリーもユスティも首を傾げた。


「釣った魚を食用ではなく観賞用に、ですか?」

「……変なの。そんなので、お客さんくる……?」


それも当然だろう。日本ほど食生活が豊かではないこの世界で、魚が観賞だけに終わるなど考えられないはずだ。そんなことをするなら市場に出した方がいいという声の方が多いに決まっている。


こういった世界・文化の違いには、リュートも苦笑するしかなかった。



暫らく水中観賞を楽しんだら、ホルトヴァイスはついに浮上を始めた。潜るときのように勢いをつけるのではなく、今度はゆっくりと、水面に頭を覗かせるホルトヴァイス。


次第に全身が水上に現れ、リュートたちも上の世界が見えた。


「うわぁ……」

「……キレイ」

「わたくし、こんなに美しい光景を見たのは初めてですわ……」


そこは、まさしく御伽噺の世界だった。


彼らがいたのは大きな洞窟の中、いわゆる“地底湖”という場所なのだろう。天上からは氷柱のようにじて岩盤が降り落ち、周囲には淡いライトグリーンの妖しくも美しい光を放つ植物が至る所に生えていた。


リュートはその植物に見覚えがあった。


「アレ、前にアイギスたちに案内してもらった洞窟でも見た植物だ。ここにも自生してたんだ……」


宝石探しの折に探検した洞窟にも生えていた名も知らぬ植物。前回は結晶石にその光を反射させ、こことはまた違った美しさを醸し出していたのを思い出す。


ここではその光がホルトヴァイスの美しい白鱗や、湖を照らしており、まるで湖全体が光を発しているかのようだった。


皆がその光景に見惚れていると、メアリーがあることに気づく。


「……水面に、何かいる」


言われてみれば、ホルトヴァイスを囲むようにして泳いでいる何かの影が複数見えた。


「ホントですわね。一体何なのでしょうか?」

「これは……ドラゴンの気配だね」


水の中を泳ぐドラゴン――まず先に思いつくのは、たった一つ。


その影が姿を現すと、予想通り、青い鱗と他のドラゴンに比べて細く長い体躯のドラゴン――水の属性竜の群れだった。


水竜の特徴は、細長い体躯と後ろに向けて伸びる二本の角、そして翼が二対四枚あるということ。翼を除けば、リュートの思い描く日本の“青龍”に最も近いかもしれない、そういう印象を持った。


『おお~!』

『みんな久しぶり~』


『『ホルトヴァイスが帰ってきたよ~!』』


ホルトヴァイスも嬉しそうに鳴き声を上げる。それにつられて周囲の水竜たちも声を上げる。どうやら彼らの仲は良好らしい。


やがて岸に着き、リュートたちもようやく地面に降りる。それを見てホルトヴァイスは彼らから少し離れた場所に上がり、身体を震わせる。犬のようにブルブルとさせ、水飛沫を掃う。


「うぉッ」


飛んでくる水飛沫に、慌てて魔力結界を張って二人を守るリュート。犬なら可愛いものだが、ドラゴンの巨体ともなると水飛沫の量も勢いもケタ違いだった。


『ありゃ?』

『王様ゴメンね~?』


ホルトヴァイスの二つの顔がグリンとこちらを見る。のっしのっしとリュートたちの方へと歩いてくると、顔を寄せる。


『それでさ、それでさ』

『到着したわけなんだけどさ』


『『空と水の旅はどうだった~?』』


目を爛々を輝かせるホルトヴァイス。ドラゴンのハズなのに、子供らしい振る舞いにフッとした笑みがこみ上げてくる。


「……すごく良かった。こんなの初めて」

「そうですね。わたくし、一生の思い出になりましたわ」

「これだけでも、今日ここに来たかいがあったよ、ありがとね」


三者三様に感想を伝えると、ホルトヴァイスも嬉しそうに目を細める。そして、顔を洞窟の奥の方へと向けた。リュートたちもつられて見ると、そこには祭壇のようなものがあった。


『あれは昔、ヒトが水の爺様のために造ったものだよ』

『水の爺様のお気に入りなんだって』


『『今は僕らの寝床だよ~』』


再びのっしのっしと歩いていき、その祭壇に寝そべる。翼をたたみ、首を丸めてこちらを見る姿は、祭壇の装飾の豪華さもあわせて確かにため息をつくような神々しさが感じられる。


ドラゴンは見た目と中身が伴わないということが、改めて再確認できた瞬間だった。


『そう言えば王様たちはさ~』

『今日はどこで寝るの~?』


『『外はもう暗いよ?』』


言われてみれば、確かに日はもう沈んでいる頃だろう。今からアクエリウムに向かっても、もう宿をとるのは難しいかもしれない。


どうしようかと三人で話し合っていると、ホルトヴァイスが首を伸ばしてきた。


『ここで提案!』

『今日はここに寝るといいよ~』


『『明日の朝、この奥の階段を昇ればアクエリウムに着くからさ!』』


「えッ、この上ってもうアクエリウムなの?」


『そうそう』

『だから明日の朝早くで大丈夫~』


提案というよりは、むしろお願いに近い。ホルトヴァイスも、せっかくだからもう少し一緒に騒ぎたいという子供らしい感情があるのかもしれない。


そう考えると、一日くらいはいいかもしれない。それに、白皇竜、もとい先代蒼皇竜とヒトが共存していた場所というのもかなり貴重だろう。もう少し、見学してみたいという気持ちもあった。


メアリーやユスティの意見を聞こうと振り返ってみると、2人とも笑みを浮かべて頷いてくれた。


「……私は、別にかまわない」

「わたくしもですわ。もう少し、ホルトヴァイス様ともお話してみたいと思ってましたの」


快い返事に、リュートもホルトヴァイスも嬉しそうに笑みを浮かべる。というよりも、ホルトヴァイスは感情が現れやすいのか、首をフリフリと激しく上下させている。これが彼らの最大の感情表現なのだろう。


幸い、リュートは以前も使用したテントをアイテムリングに収納している。この美しいライトグリーンの天井を見上げながら寝るのも旅の醍醐味かもしれない。


「それじゃあお願いするね」


ニコリと笑うと、ホルトヴァイスも嬉しそうに「グルルゥッ!」と一声鳴いて、“人身変幻”を使う。


光の粒子が発生し、その下に見覚えのある双子が現れた。


「やったやった!」

「それじゃあ秘蔵のお酒を持ってくるね~!」


幼い子供の姿でも、酒好きは変わっていないようだ。正直あの姿で酒豪だと言われても、現代の日本を経験しているリュートからすれば違和感でしかない。


「ふう……まぁいいや。それじゃあ二人とも、今のうちにテントを張ろうか。それと同時に夕食も作ろう」

「……ん。料理なら任せて。愛妻料理はバッチリ」

「あぅ……わたくしは料理はまだまだなので、テントの方をお手伝いしますわ」


フンスッと意気込むメアリーに比べて、ユスティは少し落ち込んでしまった。“愛妻料理”とうワードに、未だ料理がうまくできない彼女は少し引け目を感じているらしい。


そんな彼女の俯きがちな頭を、リュートはポンポンと軽く触れる。


「料理は今度、三人で一緒に作ろうか。僕の知っているレシピを教えるよ」

「……ハイ!」


花が咲いたような笑顔を見せるユスティ。


こうして、三人で夜の準備をしていると、奥からホールとヴァイスが自分の身長の倍以上ある酒樽を持ってきた。


さすがに大きすぎたので、リュートもびっくりして思わず尋ねる。


「二人とも、そんなに大きいのどこで買ったのさ?」


ホールとヴァイスは顔を見合わせる。


「えっとねー、もちろんアクエリウムで買ったんだよ~」

「神酒らしいんだけど、鱗とか抜け毛とかと交換でもらえるんだ~」


確かに、ここは白皇竜や水の属性竜たちの剥がれ落ちた鱗がたくさんある。ヒトからすれば宝の山だ。


2人曰く、ヒトの姿で密かに取引している商人がいるらしい。彼らの鱗などドラゴンの素材を渡す代わりに、大量の酒を受け取っているようだ。


「この樽に頭を突っ込みながら飲むのが~」

「僕らの最近のお気に入り~」


……なんとも豪快な飲み方である。ドラゴンの姿なら納得できるが、もしこの子供の姿でなら少々引いてしまう。考えるのを放棄した三人だった。


「グルルゥ」

「グル?」


水竜たちも岸に上がってきた。匂いに引きつられてきたらしい。


「リュート様、この子達にも何か上げてもいいでしょうか?」


つぶらな瞳(?)にやられたユスティが、頬を染めてリュートを振り返る。ここまでドラゴンに親しんでくれたのも龍神として嬉しい限りなので、宴の際に残っていた肉を焼いて御馳走することにした。


その後、水竜たちが焼き上げた肉に齧り付くのを観賞しつつ、五人で夕食を頂く。


メニューはポテトサラダに厚切りベーコンをふんだんに使ったシチュー、燻製肉とチーズをのせたパンである。


野外での食事としては、かなり豪華な方だろう。


「うわぁ、すっごく美味しいね!」

「黒皇竜のお姉ちゃんは料理が上手だね~!」


ホールとヴァイスの二人がメアリーを絶賛する。彼女も料理の腕を褒められて心なしか嬉しそうだ。口角が少し上がっているのは、喜んでいる証拠だとリュートもユスティも知っていた。


食事が終われば、酒を片手にみんなで談笑である。


楽しそうな雰囲気に釣られてか、水竜たちも彼らの円の間に顔を覗かせてきた。


鼻の上あたりを掻いてやると、嬉しそうに目を細める。口元に酒を注いでやると、頬づりまでしてくれる。


その反応が嬉しかったのか、ユスティなどは大興奮だ。メアリーたちも懐かれるのはやはり嬉しいのだろう。酒も入っているお陰か、いつもよりは表情が豊かだった。


彼女たちがドラゴンと戯れる姿を見て、リュートもある考えが再度(・・)思い浮かぶ。


「王様どうしたの~?」

「何か悩み事?」


ホールとヴァイスが顔を覗き込んでくる。


「いや、こうしてみるとさ。ヒトとドラゴンの共存も可能だって改めて認識できたんだ。家には僕やメアリー、それに玉妃もいるし、いろいろできるんじゃないかなぁ~って」


頬をかくリュート。まだはっきりと考えたわけではないが、本人的には「いけるかも!」と結構前向きのようだ。


「う~ん……なんだかよくわからないけど」

「ホールもヴァースも、王様が困っていたらスグに助けに行くからね~」


無邪気な笑顔で寄ってくる二人に、リュートも破顔する。


「ありがとう2人とも。その時は是非とも頼らせてもらうよ」


そう言うと、二人はニッと笑う。内心、二人はすでにかなり酒臭く鼻を押さえそうになったが、気合で笑顔を作ったのはご愛敬。


「それじゃあもう寝ようか」


リュートの一声で、五人は寝る支度をする。その際体を綺麗にすることも忘れない。リュートやホール・ヴァイスの力があればそれくらい簡単な事だった。


ホールとヴァイスのたっての願いで、五人で点との中で寝ることに。彼らも興味津々でテントを見ていたので、好奇心を考えれば考えられることだった。


弟のように懐いてくれる彼らに、嫌な顔をするものは誰一人としていなかった。




「それじゃあみんな、おやすみなさい」




内容を忘れてしまった方もいるかもしれませんが……どうでしたか?


リハビリも兼ねて、ダーッと書いてみました。ご指摘・感想のほどあれば、頂けると嬉しいです。

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