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白と蒼

10か月ぶりの更新……になるんですかね。

遅れて申し訳ない。何とか一話、更新させていただきます。


人類史に残るであろう、異例にして盛大な結婚式を終えてまる三日が経った。


この三日間、飲めや踊れやのどんちゃん騒ぎを繰り返していた。――――――人外の者たちと。


今回の式に際し、集ってくれた面々


赤皇竜アイギスと、その妻サラマンディア。リュートの義姉であり祭司の役目を全うしてくれたウンディーネ。


そんな彼らが密かに声をかけてくれたという精霊王と六皇竜たち。


風の精霊王――シルフィーナ


光の精霊王――オルウィスプ


シルフィーナはヒト種の中でも子供ぐらいの、元気な笑顔が眩しい少女だ。全身が碧色に透き通り、いつも空を自由に飛び回っている。


オルウィスプは逆にリュートの倍近くの大きさの好青年だ。常に穏やかな微笑を浮かべ、聖衣を纏った姿は聖職者と言うよりも若き賢者に見える。


シルフィーナを落ち着かせようとしている姿をよく見かけたところを見ると、この二体は仲がいいのかもしれない。



白皇竜――――ホルトヴァイス


蒼皇竜――――メルクリウス



メルクリウスは立派な顎髭を生やしたダンディーなオジサマだった。海のように青い髪をオールバックで整え、紳士的な笑みを浮かべて物静かに佇む様子は、淑女のハートを一瞬で射止めてしまいそうなほどの大人の色気を放っている。


ホルトヴァイスは、正直意外だった。まず竜形態が、双頭のドラゴンというこれまでに見たことのないドラゴンだったのだ。


どうやら白竜は竜種でも珍しい双頭のドラゴンらしく、その皇である白皇竜が人身変幻を行えばどうなるのか興味津々だったリュート。


彼の前で見せてくれたホルトヴァイスのヒト型は――――


「ホールで~す」

「ヴァースで~す」


「「合わせてホルトヴァイスで~す」」


なんと、2人に分離していた。姿かたちはほとんど変わらず、髪の右側が長いのがホール、左側が長いのがヴァースらしい。二人が揃っているところを見れば、双子のようだ。ちなみに、見た目年齢はメアリーと同じくらいである。まぁ、竜に見た目通りの年齢の者などいないので実際は分からないのだが。


因みに性別は二人とも♂なのだが、一発でわかった人物は彼らの親竜以外に居ない。


2人とも顔の表情はあまり動かないのにテンションは高いので、少々行動が予測しづらかったりする。




とまぁ、こうして集ってくれた皇たちや属性竜・精霊たちと三日間酒を飲み交わしたわけだが、会場はもちろんウンディーネの聖域でありリュートの生まれ故郷であるあの湖だ。


リュートの屋敷は王都内にあるので招き入れるのは流石に無理があるので、広い場所を選んだのである。


本来ならユスティの関係者である、国王たちや国の重鎮である高位の貴族たちとの会席も行うべきだったが、誰もが精霊王・六皇竜たちとの宴を断ってまで行う必要はないと、畏れながらも言ってくれた。


やはり彼らの影響力はすさまじいと改めて実感しつつ、ガルドからの差し入れ――というにはあまりに多すぎる量だったが――やリュートが腐るほどある金にあかして買いまくった食料・酒で朝昼とわず飲み続けた。



もちろん、夜になればリュートたちやウルフルたち一般の者たちは抜け、睡眠をとってはいた。だが、翌朝戻ってきてみれば変わらず騒ぎ続けるドラゴンたち。


精霊の者たちは三日目の朝には帰ったが、ドラゴンたちは未だに残って酒を飲んでいた。


途中、上位種(シルフィーナ)に芸をやれと強制された数体の属性竜たちが慌てながらもなんとかやってみせたところを見て、元の世界での無茶振りする上司となんとかそれを叶える部下というサラリーマン社会を思い浮かんだリュートだった。






 ***


「それでさ、ホール、ヴァース、メルクリスさんたちは一体いつまでここにいるの?」


6日目の朝が来た。


さすがにこれは不味いと思ったリュートは、頬をヒクつかせながらもまだ飲み続ける三人に問いかける。


既に属性竜たちは酔いつぶれ、そのほとんどがになりながらも自分の巣へと帰っていった。フラフラになりながら飛んでいたので不安しか残らない。


もしドラゴンスレイヤー達に出くわせば、一瞬で狩られること間違いなしだろう。そうならないことを祈るしかない。


「ふむ、自分はいつまでもここに居れますよ。アイギスのように妻を持つでもなし、住処を持っているわけでもなし。自由気ままに空を飛び続けているだけの身でありますから」

「じゃ~ホールも~」

「ヴァースも~」


ここら一帯酒臭いのに、彼らに近付けばより鼻にクル。匂いに敏感なリュートたちや獣人種のウルたちにはとてもキツイ。


真っ赤な顔で笑いながら言う三人に、リュートは顔を引き攣らせながらどうしたものかと頭を悩ませる。その様子を見て、メルクリスがおや?と首を傾げる。


「我が王よ、なにか用事がおありで?」


流石に見かけナイスミドルな紳士だけあり、酒に酔っていても頭はちゃんと働いているようだ。


「実は、そろそろ“新婚旅行(ハネムーン)に行こうと思ってるんだけど……流石にこの面々を放って行くわけにはいかないからね」

「なんと、結婚の儀を済ませると次は旅行に行かねばならないのですか……申し訳ありません、自分、そういう事に関して一切無知なもので」

「いやいや!新婚旅行は僕の故郷と言うか、ある地域にあった風習みたいなものなんだ。今回僕が無理を言って旅行に行こうってことになっただけだから」


シュベリア王国には新婚旅行という風習はない。というよりも、魔獣がはびこるこの世界で気軽に旅行に行けるわけがない。もし国外に行くというなら、必ず護衛を雇う必要があるからだ。


日本では新婚夫婦が行っていたものであり、結婚式に伴ってリュートがやってみたかったことの一つ。今回ガルドにそれを話したところ、二つ返事で了承された。リュート自身よく了承してくれたなと言う思いがあるが、リュートとメアリーがいて危険な事があるものかと笑って言われた。


この信頼には絶対応えたいと思わせる心地よさがそこにはあった。


「ね~ね~王様~」

「王様~」


双子がリュートの周りにやってくる。見た目は幼い為に、赤ら顔でふらふらした足取りを見ると罪悪感のような不安が残るのは地球にいたころの名残だろうか。


「「旅行はどこいくの?」」


声をそろえて一斉に迫ってきた二人に、リュートも思わず体を引かせてしまう。無表情ながらに目をキラキラさせる様子に、メアリーとはまた違った雰囲気にまだ慣れていないのだ。


「え、え~っと……」


カレンや玉妃のように元気いっぱいでありながら、その力は皇竜のもの。気を抜けばそのまま押し倒されてしまいそうなのだ。


そんな二人の首根っこを掴み、子猫を持ち上げる親のような光景を見せたのはメアリーだった。


「……二人とも、少し落ち着いて」

「わ~お……」

「これ楽~」


背丈は同じくらいのメアリーとホール・ヴァースの三人。それでも持ち上げられるのは、流石は黒皇竜と言ったところか。


「……大丈夫、ダ、ダーリン?」

「ブフッ!“ダーリン”!?」


思わず吹き出してしまったリュート。メアリーの口から信じられない単語が出たために動揺してしまった。


「……この“ダーリン”って言葉、なんだか恥ずかしい……」


顔を赤くして照れた様子を見せるメアリーを見て「あ、可愛い……」と一瞬ホッコリしてしまったが、頭を振って聞き出す。


「い、いやいやいや!な、なんでメアリーがそれを知ってるのさ!?」

「……御姉様(ウンディーネ)が教えてくれた。妻は夫をそう呼ぶべきだと」


慌てて見てみると、ユスティがウンディーネの下で練習しているようだった。つまりながらも、なんとか「だ、ダーリン!……うう、難しいです」と言う恥ずかし気な声が聞こえた。


「ちょ、ウンディーネ!なんでその言葉を知って……というかなんで教えてるのさ!」


「フフンッ。リュート、私がどれだけ長いこと人間から情報を聞き出してきたと思ってるのよ。新婚夫婦はお互いを“ダーリン”“ハニー”って呼ぶことくらい知ってるんだから!」


「それは決して一般常識ではないことは聞き出せなかったの!?」



胸を張り、どや顔で自信満々に言い放つウンディーネに、リュートは口角がヒクつくのを押さえられない。


「はぁ……メアリーもユスティも、ウンディーネに騙されないでね。その呼び方は普通の家庭では使われてないから」

「そ、そうなのですか?わたくしてっきり、一般の皆様はこのような呼び方だとばかり……」

「……ヒトって不思議だなと思ったけど、やっぱり違った……」


危うく間違った知識を定着させるところだった。ウンディーネは少し口をとがらせていたが、普段からあのような呼ばれ方をしてはリュートの方が恥ずかしさに身悶えてしまう。やめてもらった方がいいのだ。


「ね~ね~」

「結局さ~」


「「旅行にはどこいくの~?」」


メアリーにつりさげられながら、双子は焦れたようにぶらぶらと揺れる。


「あっと、忘れてた。えっとね、僕たちは【エメリア教国】の都市の一つ、【水の都アクエリウム】に行こうと思ってるんだ。陸地にもかかわらず水が豊富で、美しい神殿都市だって聞いてね。観光にはいいかなって」


エメリア教国は宗教国家だ。国家の各都市には神殿が置かれており、神殿のトップ=都市のトップとなっている。


帝国に潜入した際に読み漁った本の中に書かれていたことだ。呼んで以来、ずっと行きたいと思っていた場所である。


それを聞いた双子は顔を見合わせて両手を上げる。


「すっごい偶然~」

「やったね、やったね」


「「【アクエリウム】はホルトヴァイスの棲み処だよ~」」


意外な一言に、リュートもメアリーたちも驚く。


「ええ、そうなの?」

「……知らなかった。ホルトヴァイスの棲み処は、ヒトの都市にあったんだ」

「それは、メアリー様のように共生しているということですの?」


メアリーは昔、当時の国王と守護竜として国を守る代わりに国に在住する権利を得た。彼らもそうなのかと尋ねると、それは違うと答える。


応えたのメルクリスだった。


「元々先代の蒼皇竜が暮らしていた場所に、ヒトが集まって蒼皇竜を崇める集団の町が形成されたのです。今ではエメリア教国の者たちが唯一神を崇める場所に変えてしまいましたが、先代蒼皇竜はとくに気にしてませんでした。そうしてできたのが、今の【アクエリウム】ですぞ」


「水の爺さまは何事にも無頓着~」

「戦うこと以外には一切興味なかったね~」


蒼皇竜を崇めて街を造ったヒトたちがいたことにも意外だが、その街を唯一神を崇める街に変えてしまったエメリア教国の手腕にも驚きだ。そして、今ので先代蒼皇竜の人物像が思い浮かんだ。


理由は分からないが、現蒼皇竜であるメルクリスはその住処を放棄し、代わりにホルトヴァイスが暮らしているらしい。


「ね~ね~王様~」

「王様たちは、移動手段はどうするつもり~?」


「「なんなら、ホルトヴァイスが送って行ってあげよ―か~?」」


「え、いいの?」


リュートは大いに喜んだ。以前のようにリュートが元の姿に戻って二人を乗せていくことを考えていた。しかし、今回は新婚旅行だ。


やっぱり、2人と同じ目線で、同じ光景を見ながら旅行を楽しみたい、そういう気持ちもどこかにあった。


「フム、では自分はどうするかな……特に目的もないのだし」


自由気ままな生活を送っているメルクリスは、この宴が終わればまた次の場所を見つけなければならない。どうするか悩んでいると、ウルが前に出てきた。


「あのぅ……それならうちの屋敷に泊まりますか?どーせご主人たちが家を出てる間、あたしらすることないし」

「ああ、それはいいね。どうかなメルクリス、ついでに彼女たちに戦い方を教えてくれると嬉しいんだけど。ずっと前から教わりたいって言われてたんだけど、ずっと機会がなかったからさ」

「……フム、それならば喜んで教授いたしましょう。自分もも、誰かに教えるというのは初めての経験です。それはおもしろそうですな」


快い答えを受け、ウルは嬉しそうだ。皇竜に戦い方を教わる機会などめったにないことだ。最近皇竜たちの常識を覆すような戦いをその目にし続けて以来、もっと強くなりたいという欲求が生まれたウル。その機会を得られて気合が入るというもの。


「よし、準備はもうできてるんだ。出発は明日の朝でいいかな?」

「それは当然~」

「ならもう少しだけお酒飲めるね~」


「「宴再開~」」


「よし、それでは自分も付き合おう」


とまあ、結局三人はまたしても酒を飲み始めた。まだ飲むのか、というその場にいる者たちの心のツッコみが聞こえてきそうだ。


「あぁ……私の聖域が、さらに酒臭く……」


この場を宴会場として貸し与えたことを、今更ながらに後悔する者もいたのだった……。




新キャラを増加しました。お楽しみいただけたでしょうか?


活動報告に手事情を説明させていただきますね。

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