ご挨拶
遅くなって申し訳ありません!
side ウンディーネ
リュートがこの森を去ってから、もう一年近くたっているはず。なのに、私はにとってはもう10年近くは立っているように思われるから不思議ね。
「キュゥ?」
リュートの可愛がっていた動物たちだけど、私にも懐いてくれてよかったわ。おかげで私の言うことは聞いてくれるから守って上げやすいし、なによりこんなに可愛いんだもの。リュートが言っていたけど、これがあにまるせらぴーってやつなのかしらね。悲しい気持ちも吹っ飛んじゃう
このキツネは鼻先を撫でられるのが好き。リスちゃんは尻尾のところ。最近ではどんどん増えてきている気がするわね。いつの間にか私の湖が、動物たちの楽園になっちゃった。リュートが帰ってきたら、きっと驚くでしょうね。
魔法の練習もしてるわ。やっぱり長く生きてるんだもの。まだまだ生まれて数年のリュートに負けたくないわ。今度は絶対勝ってやるんだから!
「あら、どうしたの?」
そこに、小さな光が飛んできた。私の部下……かしらね。この湖で私に仕えてる中級精霊。まだまだ光の玉みたいな姿だけど、この子ならいつか上級まで上がれるかもしれないわね。
『――――――――』
「あら、この森に侵入者?え、違うの?」
そう言えば、確かに気配がするわね。それも三人。ヒトが一人と……この魔力は……まさか皇竜!?で、でも皇竜がヒトと一緒にいるわけないし……。
そこまで焦って、私は気付いた。この子も、動物たちも、全然慌てていない。むしろ、どこか嬉しそうだわ。それに、森がざわめいている。これは……喜び?
「………もう一人は……これってもしかして」
この森でここまで喜びに満ちた気配が生まれるのは私以外では一人しかいないわね。それにもう一人の気配、大きいようで小さい、そんなあやふやなのは一人しか知らないわ。あの子ったら、また何かしたのかしら?
でも……
「そっか、帰ってきたのね……!」
嬉しい。嬉しい。嬉しい。帰って来た、私の家族。
永い時を生きてきた私の生の中で、たった数年を濃密なものにしてくれたあの子が、帰って来た。
気配が近づいてくる。動物も、この湖や森の精霊たちも、みんなそわそわしてる。って、それは私も同じね。
そうだ、最初の言葉は何がいいかしら。やっぱり、これが一番よね。シンプルだけど、一番心にしっくりくる言葉。
お目当ての人が、三人の影が、木々の間から姿を現す。私は誰よりもその場を離れ、彼に向かって手を伸ばす。
優しいこの子は、笑顔で両手を広げ、私をその大きく成長した腕の中に包み込んでくれた。
「ただいま、姉さん」
見上げれば、もう見慣れた、でも、いつまで見ていても飽きない綺麗な笑顔。だから、私もできうる限りの最高の笑顔で返してやるわ。
「お帰り、リュート」
――――お帰りなさい、私の最愛の弟。
side end
***
「あなたが結婚?それ本当?」
「もちろんだよ。次に会いに戻るときは、いいヒトを連れてきなさいっていったのはウンディーネじゃないか。と言う訳で紹介するね。こっちがユスティ。シュベリア王国の王女様」
「は、初めましてウンディーネ様!」
緊張しているのか、妙に力が入りすぎているユスティ。しかし、水の精霊王を相手にいきなり紹介されたのだから仕方がないだろう。人間としては普通の反応だ。
「あら、すぐそこの国じゃない。その国のお姫様なんて、やるわねリュート。フフッ、可愛らしいわ」
ウンディーネからの印象も良いようで安心したリュートは、その隣に座る少女を紹介する。
「そしてこっちが――――」
「黒皇竜メアリー・レイド。シュベリア王国で守護竜のようなことをしているって聞いたるわ。そうか、だから皇竜と人間が一緒だったのね」
「あれ、知ってるの?」
「当然よ。人間の国に居着く皇竜って、彼女が初めてだもの。ほら、皇竜ってみんな好きに生きてるじゃない?だから、かなり自由に世界を回ってるのがほとんどなのよね」
言われてメアリーを見ると、ツンとそっぽを向いていた。
「その、リュート様にお義姉さまがいらして、その方が精霊王だということにも驚いたのですが……今のリュート様の状態の方がもっと驚きです。毛むくじゃらですけど、大丈夫ですか?」
リュートは現在、動物たちによって全身を包まれていた。肩に乗り、膝に乗り、頭の上にも乗っている。久しぶりにリュートが帰って来て、動物たちもはしゃいでいるようだ。盛大なスキンシップである。
身動きが全くできないが、リュートとしては幸せで一杯だ。
「いや~みんな僕を覚えていてくれてよかったよ。忘れられてたらどうしようかと」
「そんなわけないでしょう。この子達ったら、よくあなたが出ていった方向を見てるのよ。きっと、帰ってくるのを今か今かと待ちわびていたはずね」
微笑ましげに告げる彼女だが、それはウンディーネも同じだということは告げない。もし言ったりしたら、恥ずかしさで蒼い肌が真っ赤になるだろうから。
「みんな、お姉さんたちと遊んであげて。この子たちもみんなと遊びたいってさ」
「……リュート様何を……」
動物たちが一斉にリュートから降り、ユスティとメアリーの下に向かう。しかし、すぐに上へと昇るでもなく、匂いを嗅いでいるようだ。
メアリーがおそるおそる、指先を近くにいるシマリスに近付ける。少し警戒するような素振りを見せたシマリスだが、スンスンとその匂いを嗅ぐと、頭をこすりつけてきた。
「可愛い……ッ!」
ユスティも可愛さに負けたようで、顔が盛大にだらけている。ほにゃぁと言いそうだ。
それはメアリーも同じであり、いや、リュートやウンディーネに近い存在であるから、むしろユスティよりも懐かれているようだ。
その光景を見ているリュートとしても、非常に和む。
「あの二人、あなたの匂いがこびりついているわよ?ずいぶん御盛んなようね。龍神とはいえ、あなたも十分立派な男の子ね」
「あはは……いやぁ……」
ばっちりわかっているようで、リュートは頭をかいて誤魔化す。動物たちがすぐに警戒を解いたのも、リュートの匂いがしたからだ。その匂いが普段から性交しているからだと断定され、それは当たっているためになんとも言えないのである。
「そうだ。結婚の報告だけじゃないんだよ。お土産ももってきたんだ」
そう言ってリュートはアイテムリングからあるものを取り出す。それは、先日買ったばかりのスノードームのような置物だった。
「……キレイ」
幻想的な風景が小さなガラス級に閉じ込められ、ウンディーネに感嘆の息をはかせる。太陽にかざしてみれば、光がガラスや水に反射してキラキラと輝き、より一層その魅力を引き出してくる。
「ありがとうリュート。こんなに綺麗なお土産だなんて……一生の宝ものにするわね」
胸に抱き、本当にうれしそうに微笑むウンディーネは、精霊王と言うよりも、贈り物をもらって喜ぶ少女の顔そのもの。その心がダイレクトに伝わってくるようで、リュートも同じように笑う。
「喜んでもらえてよかったよ。それでなんだけど、ウンディーネに頼みがあるんだ」
「あら、そっちが本命かしら?」
「こっちも本命だよ。実は、僕たちの結婚式はここで、この湖で行いたいんだ。ウンディーネにはその式を進める役を受け持ってほしい」
まさかのお願いをされ、ウンディーネとしても一瞬わけがわからなかった。内容を咀嚼し、ゆっくりと理解していく。
「……なるほど、結婚式は故郷であるこの湖で行いたいと」
「ウンディーネに執り行ってもらいたいってのも理由の一つだよ」
「それは嬉しいんだけど……彼女、ユスティちゃんのほうはどうなの?一国の姫なら、相応の形式があると思うんだけど……それに私、結婚式なんて見たこともないし。やり方がわからないわ……」
もっともな疑問に、リュートは絶対的な自信をもって大丈夫だと伝える。
「その辺は大丈夫。ガルドさんにはちゃんと伝えるし、むしろ歴史に残るような、超盛大な式にするから」
「何か考えがあるのね?」
「まあね。それと、やっぱりウンディーネにしてほしいんだ。一番近くで、見届けてほしい。手順は僕が教えるからさ」
“一番近くで”――――それは、リュートの彼女への愛情からくる願いだ。それを言われて嬉しくない者などいないだろう。そのため、ウンディーネも最終的には首を縦に振ってくれた。
「ありがとう、ウンディーネ」
「いいのよ。これもあなたのためだからね」
それから二人他愛もない話に興じる。途中からはユスティやメアリーも混ざり、これまでの事などを大いに語った。
帝国との戦いや、怪盗に変身して侵入したあたりなど、ウンディーネは声を出して笑っていた。
「さてと、今日はもう行くよ」
「あら、もう?もっとゆっくりしていけばいいじゃない」
「そう言う訳にはいかないんだ。他にもいかなきゃいけない所があるからね」
「そう……」
本当に残念そうに、わかりやすい程落ち込むウンディーネ。その雰囲気を察してか、動物たちも行かないでと言わんばかりに鳴きだした。
「大丈夫だよ。また近いうちに来るから。ウンディーネに式の段取りを教えなきゃだし、他にもいろいろとゆっくりしたいからね」
安心させるように笑って見せるリュート。反応は劇的で、ウンディーネは一気に輝かんばかりの笑みを浮かべた。
「なら、待ってるわね!絶対に帰って来なさいよ」
リュートは大きく頷いた。
そしていざ、帰るとなったとき、リュートは大声で伝える。
「ウンディーネ。僕には家族ができた。この二人以外にも家族がいる。だけど、一番最初に家族になってくれたのはウンディーネだ。ウンディーネが僕の大切な姉さんだっていうことは、変わらないからね!」
伝えるだけ伝えて、そのまま木々の向こうに消えていく。メアリーも続き、ユスティはぺこりと礼をした後、二人の背中を追った。
家族ができた。ウンディーネとは別の家族が。だが、リュートからすれば姉はウンディーネただ一人。大切な家族の一人だということに変わりはない。
三人の影が完全に見えなくなった時、ウンディーネはようやく、ぽつりとこぼした。
「……あの子はホントに、バカなんだから……。そんなこと、言わなくなってわかってるわよ、もう……」
――――でも、ありがとう。
一筋だけ、頬に流れる水を拭う。嬉しそうで、幸せそうに笑う彼女の胸には、リュートのお土産が、大切そうに抱きしめられてた。
「さてと……結婚式かぁ。……よし、みんな、ちょっといいかしら?」
空気を一変させ、何かを思案した後、ウンディーネは数体の中級精霊を呼ぶ。光の玉が集まると、何かを告げ、その通りに中級精霊たちは空へと飛び去っていった。
「さて、何人が集まってくれるのかしらね」
***
時は少し経ち、ここは精霊火山。そこにいるのは炎の精霊王と赤皇竜の二人。
「あなた、どうやら龍神様がご結婚なさるようよ。話からして、どうやら例の人間と黒皇竜とのようね」
「メアリー・レイドが龍神様の……?では、おれはこれからあいつを妃様として接しなければいけないのか!?」
「え、そこなの?」
予想外の反応に思わず突っ込んでしまうサラマンディアだが、アイギスからすれば悔しいことこの上ない。
だが、そこは赤皇竜。素直に龍神の結婚と言う報告には喜びを示す。
「しかし、我が王がついに結婚なさるか……」
「式はウンディーネの、水の精霊王の所で行うって話だから、私たちも行ってみましょうか」
「そうだな。となれば……」
精霊王と言えど、一日も聖域から離れられないわけではない。2・3日くらいなら余裕で余所に出ていける。
アイギスも当然参加するつもりだが、せっかくの龍神の結婚式だ。ただ参加するだけでは盛り上がりに欠けるのでは、などと考えている。
少し思案した後、何かを思いついたように顔を上げる。
「声をかけてみるか……。とはいえ数百年。何人見つけられることやら」
今日はもう一話投稿いたします。




