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ゲットだぜ!

お待たせしました!約一か月ぶりの投稿です!


それではどうぞ!

帝国軍に鉄槌を下し、その後の戦勝パーティーを終えてからすでに一週間がたつ。


たった一日の、歴史に語り継がれそうなほどの戦いだったにも関わらず、シュベリア王国の国民たちは変わらない喧騒と平和の毎日を過ごしていた。


それはリュートたちであっても変わらない。皆、リュートとイチャついたり、のんびり買い物に行ったり、訓練を行ったりと、それぞれが楽しく過ごしている。


そんな時だ。またしてもリュートの気まぐれ発言が飛び出たのは。


「あ、そうだ。僕は今日、一日出かけてくるから。帰りはもしかしたら遅くなるかもしれないし、下手したら明日になるかもしれない」

「どこに行かれるのですか?」


ユスティが尋ねてくる。そんな彼女に、リュートは満面の笑みで答える。


「内緒♪」


久方ぶりの満面の、それでいて悪戯っ子の笑み。どれだけ一緒にいようと、一生この笑みには慣れることはないのだろう。ここにいる全員がそう思いながらも、真っ赤な顔でそれ以上何も言えなかった。


昼前になって、リュートは家を出て行った。









 ***


リュートは家を出てすぐに、転移魔法を使用する。淡い光が彼を包み、視点が瞬きをしたと同時に別の景色に変わっていた。その場所とは、


「やあアイギス、サラマンディア。今日はよろしく」

「お待ちしておりました我が王よ。今日は、この俺にお任せください」

「ウフフッ。絶好のポイントは既に分かっています。ご安心くださいね」


炎夫婦の住まう火山。そして、リュートを迎えたのはキリッとした美丈夫のアイギスと、相変わらず露出の多い衣を身に纏ったサラマンディアの二人だった。


数日前に、リュートはこの二人にある相談をしていた。『いい宝石が手に入らないか』と。


買えばいいだけの話だし、実際、純度の高い宝石を買うぐらいの金を持っている。だが、どう言う訳か、リュートは自分で採りたいと言ったのだ。


宝石採掘と言えば、やはり火山がメジャーだろう。それがリュートの考えである。故に、この二人が最適な人物だと思ったのだ。この分だと、その考えは当たっていたらしい。


「それでは案内しますので、ついて来てくださいな」

「よろしく~」


早速三人は山を下り、採掘場へと向かう。意気揚々とした雰囲気は、まるでピクニックにでも向かっているかのよう。


アイギスは、敬愛する王の役に立てている喜びから。


リュートは初めての経験に子供のように興奮している。


サラマンディアは、ただいつもの日常と違った日を楽しんでいるだけ。


三者三様ではあるが、確かに楽しそうだった。



三人が向かったのは、精霊火山から山を二つほど超えた場所。三人の身体能力からすれば、この程度の山越えなど朝飯前である。そこには、辺り一面の木々の森の中にポツンと穴が開いていた。ポツンと、というのは森全体から見ればであって、傍で見れば直径15mほどはある。


「この下は空洞になっております。もちろん酸素はありますし、有毒なガスも存在していません。安心して宝石採掘に集中できます」

「凄いね。下に光が届いていないんじゃない?暗くてよく見えないや」


真下に見えるのは、まるで星一つない夜空のような暗さ。リュートの目をもってしても、はっきりとは底が見えないのである。


「ここは、確か深度40m程でしたね。真下には、少々変わった植物が自生しているのです」

「植物?」

「はい、それは――」

「ちょっと待って。ここで全部言っちゃったらつまらないじゃない。それは龍神様ご本人が確認された方がいいと思うわ」

「……それもそうだな。では王よ、早速行きましょう」


どうやら後のお楽しみ、というやつらしい。その後、真っ先にアイギスが下に飛び降り、続いてサラマンディア、リュートの順に降下する。


降下時間は体感10数秒くらいだろうか。暗いせいでよくわからなかったが、おそらくそれくらいだろう。


「ん~……底はそんなに暗くはない……のかな?意外と明るいね」

「そうでしょう?それにまわりを見てくださいな」

「まわり?」


リュートは周りを見渡した。そこかしこに確かに植物のような、見ようによっては只の雑草でしかないものがある。


「これがさっき言ってたやつ?特に変わった植物には見えないけど……」

「ま、答えはさらに先ですわ。こっちです」


フフン、と意味ありげに笑う夫婦に、リュートは首を傾げる。こっちと言われて何のことかわからなかったが、よくよく見てみれば端の方、そこに横に向かって広がる大きめの洞窟があった。


「わっ、気付かなかった」

「ここは150年ほど昔、一匹の火竜が住み着いていた場所なんです。その火竜は我々に敵対してきたので撃退してやりまして、そしたら別の棲み処に逃げていきました」

「そっか……まあいいや、早く入ろう」


アイギスが先導し、三人は中に入っていく。はじめはまさしく真っ暗な洞窟。感覚が普通ではないリュートたちでなければ、不安定な地面に足を滑らせたり、転んでいたりしていたことだろう。


そんな道も、少し進めば一変した。


「これは…………すごいや」


目の前にある景色は、地上では日の光が満ちる地上では決して見れないもの。


天上や壁、地面にまで、場所に関係なく生えているのは、先ほど見たのと同じ雑草のような植物。


しかし、ここのは少々違った。それらは全て、淡いライトグリーンの光を放っていたのだ。ランプのように淡く、優しげな光。それが照らすのは洞窟の中いっぱいである為、それなりに明るい。


また、洞窟の中には石英などでできた結晶石が飛び出しているところが時たま目に留まる。そららは光を反射し、キラキラと輝きを放っている。


それは間違いなく、美しき幻想の世界。


リュートたちが魔力を操り、魔法で作り上げる人工的な美しさではなく、自然の環境が生み出した芸術品。


感嘆のため息と共に見惚れていると、その反応に気を良くしたのか、横から説明が入る。


「実はこの植物、外にあったものと根が全て繋がっているのです」

「外にあったのは雄株で、これが雌株。雄株が光を吸収しながら呼吸を行い、根を通して雌株に伝わります。そして光を放ちながら、雌株は光合成によって酸素を放出し続けるのですわ」

「ですので、ここは外よりも酸素濃度が高いです。リラックスしたいときなんかはおすすめの場所ですね」


交互に説明が終わると、二人もリュート同様、言葉を発さなくなり、この光景に視線をくぎ付けする。



「――――さッ!早く始めましょう!時間は限られているんですからね」


気持ちを切り替えるように、パンッと手を叩き、声を張り上げるサラマンディア。それを切っ掛けに、二人も意識が戻った。


「そ、そうだね。早速始めようか」

「では、手順を説明いたしますね」


いろいろ説明されたが、要はとにかく掘って、原石を見つけたら判別するから見せてほしいとのことだった。


地球にはもっと簡単に採掘するよう色々方法が挙げられるが、さすがにこちらでは最も原始的な方法しかないらしい。


だが、それこそがリュートのやりたかったことなので、むしろよっしゃ来い!的な意気込みであった。


「本来はピッケルなどを使うのですが……」

「持ってきてないや。失念してたな……。でもまぁ、大丈夫大丈夫。手で掘るから」


疑問を浮かべる二人の前で、リュートは両腕に魔力を集める。


「両腕・解除(リレイズ)


光と共に、彼の腕は銀の鱗と鋭い爪を持った、龍神の腕へと変化していた。ライトグリーンの光を反射し、普段とは少し変わった輝きを放つその腕を見て、アイギスたちは唖然とする。


「……身体の一部のみに“変幻解除(リレイズ)”を掛けるとは……信じられないな。そんなことが可能だとは……」

「流石は龍神様……常識破りのスペシャリストね、ホント……」


これまでの彼らからすれば、本態か人間体のどちらかだけというのが普通だった。それをまるで当然のようにぶち壊したリュートだが、それはいまさらと言う他ない。


リュートは手を壁につける。


アイギス曰く、自分たちが掘ったらどこまでも際限なく掘り進める可能性もあるから、最も手っ取り早く、失敗の少ない方法でするとのこと。


それが、魔力放射による「ソナー」である。


波のように魔力を放出し、その先にある物質に反射して返ってきたら大きさや大体の距離がわかるというもの。物質が何かはわからないが、何もないところを掘り進めるよりは正確性が上がってマシだろう。


実際に(おこな)ってみる。近くには何もないようで、何も反応がない。少しばかり辛抱して待つと、ようやく反応があった。


「う~ん……多分、これは違うかな。大きすぎるし。――――――――これも違うかな?……………ん?」


探り探りでゆっくり波を広げていくと、一つだけ、不思議な形のものを探知した。それは、おおよそではあるが明らかに石ではない形をしている。


「どうかされたのですか?」

「うん、まぁ……なんか変わった形のものを見つけちゃってさ」


気になったらとりあえず行動に移す。手で細かく掘っていくと、まるで砂の山にトンネルをつくるかのごとき抵抗の無さ。


掘れば掘るほど後ろに土は溜まっていき、代わりにどんどん先へと向かっていく。3,4mほど掘り進めるのに1分掛かったか掛かっていないか。どれだけ異常なのかを自覚しないまま掘り進めた先には、泥団子があった。


泥団子と言っても、幼児がすっぽり埋まるぐらいとかなり大きい。


手に取るとやはり重く、まるで鉄球を持ち上げているかのような感触。アイギスたちも不思議そうに見てくる。


「地中深くに泥団子ですか……何ともおかしなものですね」

「だよねぇ。おかしいよねぇ」


泥ゆえか、かなり滑りやすかったその団子は、リュートの手からつるりと落ちてしまう。地面に落ちると、それなりの音と共に縦に真っ二つに割れてしまった。


「パッカ~ン……」

「何を言っていらっしゃるのかしら?」

「ゴメンなんでもないよ。忘れて」


思わず口から漏れ出てしまって少々恥ずかしくなったが、まさしくその表現通りの割れ方だった。地面に落ちれば不格好に割れるのが普通だが、この泥団子は鋭い太刀筋で真っ二つにされたかのような滑らかな切り口なのだ。不自然にもほどがある。


そして、中から出てきたのは――


「竜の銅像……?」


最近目にしたばかりの、竜の銅像だった。しかし、形は少々異なり、これは四肢を地につけ、口を大きく広げた姿。まるで、竜の息吹(ドラゴン・ブレス)を放っている最中のような迫力ある精巧さ。


「似たような竜の銅像が、二つも?」

「これ以外にも見たことがあるのですか?見たところ、かなり巧みに造られているようですが」

「まあね。というか僕が持ってる」

「まあ、銅像なら似たようなものを造った人がいても不思議じゃないわね。問題は、これが地下40mに埋まっていたということ。つまり、かなり昔に造られたものであることは確かね」


つまり、この銅像が置かれた場所、もしくは埋められた場所から40m近く土が積もったということだ。どれほどの歳月が必要なのか、計算するのも億劫になる。


「まあ、僕の持っているのと何かしら関係はあるというのは間違いないしね。とりあえず持って帰ろう」


リュートは相当重いはずの銅像を片手で持ち上げ、上に掲げる。そして、あの一言を高らかに告げる。


「竜の銅像、ゲットだぜ!」


言いきってやったぜ。そんなやり切った感が伝わってくる。しかし、当然アイギスたちにはただの宣言を突然大声で言っただけなので、その行動の理由を理解できるわけがない。結果、リュートが突然おかしい行動をとっただけとなった。これもまあ、今更ではあるのだが。



「収納~」


そう言い、左手を銅像に触れさせて指輪に収納する。マジッックリングの性能の良さに、少々羨ましげな表情を浮かべるアイギスたち。


「さて、気を取り直して再度、レッツ採掘!」


若干微妙な空気になっていたところで、リュートは気にせずソナーを飛ばす。今度はそれなりの数の反応があった。どうやら巨大泥団子の後ろ、リュートからすれば死角にあったらしい。


「これどう?」


「残念、これは石英です。宝石ではないですね」

「これは化石よ」

「これは溶岩ですね」

「こっちは骨ね」

「これも結晶石です」

「残念ながら、これは石ころだわ」


etc(他にも)……etc(他にも)……


リュートが何かを発見するたびに二人に見せるのだが、残念ながら宝石でないものから、明らかに石ですらないものまで。様々なものが見つかった。


原石も一応は見つかったのだが、リュートの求める大きさではなかったとのことで、勿体ないことに捨ててしまった。どうやら目的に合わない大きさだといらないらしい。庶民が聞いたら卒倒しそうな話だ。



そして、探しては堀り、探しては掘りを繰り返し、ようやく、


「これです!これは間違いなく、我が王の求める大きさ、質の原石です!」


ようやく見つけたのは、ピンポン玉ほどの大きさのルビー。


原石の状態でありながらも透き通る美しさ。真っ赤な情熱の色は、宝石の中でも人気が高く、メジャーなことで有名である。


「ようやく見つけられましたね!おめでとうございます!」

「ありがとう、二人のお陰だよ!二人がいなかったら、きっと見つけられなかった!」


心の底からの感謝。純粋度100%の感謝というのは、こんなにも心の奥を暖かにするのかと、二人は今、実感した。


リュートが仮面をつけたままでよかったと心の底から思う。もし外した状態で今の彼を見ると、その笑顔にあてられ、まともな会話が出来なくなっていたのは必至。


そんな二人の気も知らず、リュートは再度、感謝を伝えるのだった。




「二人とも、本当にありがとう!」






外に出ると、もう既に夕方になっていた。地下深くであったために時間の感覚が狂っていたらしく、また、楽しいが故に時間を忘れていたというのもあるのだろう。


だが、リュートの顔にあるのは楽しいことが終わってしまった悲しさやつまらなさではなく、満足したという表情のみ。


目的を手に入れられたこと。偶然とはいえ、不思議な銅像を新たに手に入れられたこと。自然の神秘を目にした事。


これらすべて、アイギスとサラマンディアの配慮があったからこそ。この二人には今度、何かお礼をしようと固く決心するリュート。


「それじゃあ今日はありがとう。今度、ちゃんとしたお礼を持ってくるよ」

「そんな。俺は我が王に満足していただけで十分です。これに勝る喜びなど」

「あら、龍神様がわざわざお礼をくださるのよ?いただいちゃいなさい」


そんなやり取りの後、そろそろ、とリュートは帰ろうとする。その時ふと、何かを思い出したように二人に振り返る。


「そうそう、お礼ってわけじゃないんだけど、これを渡そうと思ってたんだ」


リュートはアイテムリングからあるものを取り出す。それは、赤い木の額縁に入れられた絵のようなものだった。


サラマンディアに渡す。


「なんです?絵でしょうか?」

「いや。アイギスの黒歴史、かな?」

「――――まさかッ!?」


しかし、リュートは既に転移し、その場から消えてしまった。最後に見せた、悪戯っ子のような笑みがひどく印象的だった。


サラマンディアが声を押さえて笑っている。慌てて見てみると、そこには怪盗ルージュ仮面が帝国軍の前に姿を現した時の、ポーズを決めた写真が入れられていた。


「なッ、ちょ、うわああああああああッ!?」


今すぐにでも燃やしてしまいたいが、敬愛する王からもらった物。そう言う訳にはいかない。よって、これはそのまま保管しなければいけない。



頑張って記憶を消そうと努力したが、哀れアイギス。記憶は形となって永遠に残ってしまうのだった……





勉強の合間にですが、ようやく投稿できました。


少し謎を交えながらの、ほのぼの回です。アイギスどんまい('ω')ノ的な感じで終わりました。続きは来月ですが、何とか頑張ります。


感想等、よろしくお願いします!

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