戦勝パーティー
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「それでは我が王よ、俺はここで失礼します」
「うん、今日はありがとう。また呼ぶかもしれないから、その時までにはこの衣装を直しておくね」
「そ、それは勘弁願いたいですね……はは……」
若干口を引き攣らせながら、アイギスは夜空の彼方へと消えていった。遠くで赤く輝き、一瞬大きな影が見えたので、おそらく竜の姿に戻ったのだろう。
怪盗衣装はリュートが持っている。アイギスの解放されて喜ぶ姿が目に浮かんで、リュートも少し笑いを抑えきれない。
「いや~、アイギスの恥ずかしがる感じもなかなか面白かったね。呼んだかいがあったよ」
「……まさか、それがホントの目的?」
「え?いや~まさか~」
アハハと笑ってはいるが、メアリーからすれば誤魔化しているようにしか見えない。あまり仲の良いわけではないが、アイギスに少し同情してしまうメアリー。
リュートが転移で送っていこうと思ったのだが、アイギスは主の手を煩わせるわけにはいかないとのことで、自分で飛んで帰るといったのだ。
そういうわけで手を振って別れた後、二人も帰ることにする。メアリーがリュートの手を握り、リュートもそれを確認した後、魔法を発動させる。
二人は銀色の光を周囲に露散させた後、その場から一瞬で消えていた。後に残ったのは、無残に凍った兵士たちのみ。
***
「むッ、リュートの匂いがするぞ」
「あ、ホントだ!」
「……っち、やっと帰ってきやがったか」
獣の血を引く三人が唐突に、この家の主の匂いをかぎ分けた。ぶっきらぼうに言う者や、喜びを隠さない者など。しかし、彼女たち全員が一斉に扉の目の前に走り向かう。
「ただいま!」
「……ただいま」
扉を開けると、そこには思った通りの二人がいた。
「おかえり、お兄ちゃん!」
「お帰りなのじゃッ!」
子ども組二人が一斉に飛び掛る。首元に抱き付き、さっそくじゃれる姿は無邪気で可愛らしい。
「メアリー様も、お帰りなさいませ」
「御無事でよかったです」
イレーナやユスティがメアリーにあいさつに向かう。帰ったら暖かい声がかかる、それがなんとも気恥ずかしく、照れた様子を見せるメアリーがひどく印象的だ。
「みんな、とりあえず中に入ろう。少し落ち着きたいしね」
「では、私がお茶を入れますね」
「私も手伝おう」
イレーナとターナリアが台所に向かう。残りのみんなはリビングに向かった。
「――――とまあ、こんなことがあったわけで」
リュートはこれまでのコトを細かく説明した。聞き終わってからのみんなの反応と言えば、全員が唖然としていた。
「そんなことをなさっていたのですね……敵国ながら、帝国の兵たちには同情してしまいますわ」
ユスティが今なお凍りついている者たちに同情の念を送る。
「氷魔法って、そんなの聞いたこともねえよ。恐ろしい魔法を造ったなあ、ご主人も」
「まったくだ。それにしても帝国の魔導技術はやはりすさまじいな。竜の魔力を再現……いや、取り込むなど、普通ではない」
イレーナとウルが呆れと若干の怖れを見せる。
「良かったね、玉妃ちゃん!玉妃ちゃんにひどいことをした人たちは、お兄ちゃんが懲らしめてくれたよッ!」
「う、うむ!ありがとなのじゃ、リュートよ!」
下から満面の笑みで見上げてくる二人に、リュートは癒される。つい先ほどまで死闘……とは言えないまでも、それなりに真面目に戦いを演じてきたのだ。それとのギャップでいつも以上に二人に癒され、和んでしまう。
リュートは現在、獣人っ娘の尻尾や耳でアニマルセラピー中であった。
「ああ、そうそう、実は面白いお土産があるんだ」
リュートはそう言って二人をソファにおろし、広い空間に向かう。全員が面白いお土産と聞いて目を輝かせるが、リュートがアイテムリングから出したのは、巨大な銅像だった。今にも咆えそうなほど凝った意匠の竜の銅像。リュートが盗んできたものの一つだ。
「これは一体……?」
ユスティが代表して尋ねる。
「皇帝の魔導具コレクションの一つだと思うんだけど……魔導回路はあるし、魔導具だと思うんだ。でも、使用方法はわからないし、なんかデザインがカッコいいから持って帰ってきちゃった。これ、玄関前に置かない?」
リュートは楽しそうに言うが、これに興味を示したのはウル、玉妃、カレンの三人のみだった。残りのみんなは残念ながら琴線に触れなかったらしい。
ウルたちがペタペタと銅像に触れる間、イレーナたちはメアリーとの会話で盛り上がっていた。やはり一家の中心がいると気分も上がり、家の中も明るくなる。夜が更けるまで、それぞれが語り合った。
「それじゃあもう寝ようか。あまり夜が遅いと、肌が荒れるらしいよ」
リュートの一言で、みんなが寝る準備とテーブルの片づけを始める。そろそろ日が変わる時間帯だ。
メアリーがユスティに近寄り、さりげなく伝える。
「メアリー様?」
「……この数日、私がリュート様独占した。だから、今日はユスティとリュート様が二人になれるようにする。……がんばって」
「にゃ、にゃにを言って……ッ!?」
一瞬で顔を真っ赤にするユスティ。メアリーはそのまま開いている寝室に向かい、中に入っていく。その夜のリュートとユスティの情事については、語るまでもない。
「ほら、玉妃。もう寝ますよ」
ターナリアが玉妃に声をかける。竜の銅像を一番気に入ったのは玉紀のようで、ずっと上に乗っていた。惜しむように銅像から降りる。
すると突然、竜の眼が赤く輝いた……かのように見えた。驚き、まじまじと見てみるが、特に変わっているところもなく、目も光ってはいない。振り返ってみるが、どうやらターナリアは気付いていないらしい。
「ほら、早くしなさい」
「わ、わかってるのじゃ~」
急かされ、玉妃は急ぎ、その部屋から出ていく。気のせいだったと思い、すぐに忘れるようなことだった。
それ以来、この銅像はリュートの屋敷、その玄関口に置かれるようになった。
***
それから三日後の夜。リュートたち全員は、ドレスアップした状態で王城にいた。というのも、リュートがガルドに帝国との戦いを報告し、その結果を説明したのだ。するとガルドが、戦勝パーティーを開こうとそれはすごい喜びようで言ってきた。せっかくとのことで、リュートもそれを承諾したのだ。
「みんな以前も参加したことあるでしょ?あれよりは規模も小さいし、そんなに緊張しなくてもいいんじゃない?」
「そんなこと言ったってよぉご主人、今回来るのは国の重鎮の中でもごく一部、しかもかなり偉い人たちばっかり来るんだろぉ?緊張すんなってのが無理な話だぜ?」
ウルが相変わらずの露出高めのドレスで緊張している。そう、今回のパーティーは帝国対王国ではなく、帝国対リュートの戦勝パーティー。そのため、リュートの正体を知っており、なおかつ口も堅く国王の信頼も厚い者たちだけで行われるパーティーだ。
「大丈夫大丈夫、前みたいに勝手に食事に向かったりしなけりゃへーきだって」
ちなみに、以前勝手に食事にがっついていたウル・カレン・玉妃の三人には厳重に注意しておいたので、今回はおそらく大丈夫だろう。
扉の先、中では国王ガルドが既にパーティーの挨拶をしてり、今回のパーティーの旨を改めて説明している。打ち合わせ通りなら、そろそろ出番だろう。
『――――それでは御紹介しよう。今回、敵国ウェスペリア帝国に大きな痛手を与えてくださった御仁。龍神、リュート・カンザキ殿だ』
「呼ばれたようだね、さあ、行こうか」
リュートが扉の取っ手に手をかける。ゆっくり開けていくと同時に漏れ出てくる煌びやかな光。
――――パーティーの始まりだ
リュートたちの紹介が終わった後、いよいよ本格的にパーティーが始まった。色とりどりの食材が宮廷料理人によって仕立て上げられ、この上なく高級感あふれる料理となって机の上に並んでいる。今回はかなり極秘のパーティーなので王直下の侍女や給仕が来賓の対応をしているが、やはり数が少ない為忙しそうだ。
周りを見渡せば高級感そうな衣装を全く違和感なく着こなしている男性たち。立ち居振る舞いも隙が無く、ガルドが信頼に置くだけのことはあると感心してしまう。
ウルやカレン、玉妃に交じってターナリアまでもが、リュートの許可をもらったとたん料理の席へと飛んでいった。今回はリュートのことを好意的に見る者たちばかりなので、彼女たちの突飛な行動も笑って見られていたのでホッと安心するリュート。
ウルは最初の緊張がどうしたと言わんばかりに頬に食材を詰め込んでいた。美人でスタイルもよく、今はドレスアップまでしているだけに、今の彼女が残念に思ってしまうリュートはおかしくないはずだ。
そしてリュートは現在、やはり貴族の者たちに囲まれていた。
「お話できて光栄です、龍神様」
「今度、是非とも我が屋敷にいらしてください。最高級のワインを用意しておきますゆえ」
「それなら是非とも我が屋敷にも!」
みんな伝説の存在と会話が出来ていることが嬉しいようで、まるで少年のように興奮している。リュートとしても自分の存在を知って尚、ここまで好意的に受け入れられていることに嬉しい気持ちもあるが、男ばかりが密集していることに若干の残念さもあるという複雑な感情に苛まれている。
「皆の者、そう一気にまくし立てるでない。リュート殿も困っているぞ」
その一言に、取り巻いていた彼らが一歩引く。そんなことが出来るのはやはり彼、ガルドだった。彼は王妃と次期国王を引き連れ、会話に参加してきた。
「ああ、ガルドさん。それに他の皆さんも」
「リュート殿、実はリーベウスが話を聞きたいというのだが、良いですかな?」
「ハイ、別にかまいませんよ。何でもお答えします」
そういうと、背後に立っていた相変わらずのイケメンであるリーベウスが、目を輝かして前に出た。
「それではお言葉に甘えさせていただきます。実は私、あなた様の武勇伝を聞くのが大好きなのです。帝国兵たちに喝を入れ、大いなる光ですべての装備を消し飛ばすという話、なんとも胸の熱くなる思いでお聞きしておりました。それでですが、リュート殿が帝国の将軍たちをどのような魔法で仕留めたのかをお聞きしたいのです!」
まるで少年が英雄を見るような目で見てくるので、そんな王子の一面を見れてうれしくなったリュート。
「おお、それは我々もぜひお聞きしたいですぞ!」
「お聞かせいただけませんか、龍神様」
それに便乗する貴族たち。彼らも純粋に興味が出ているようで、そんな彼らを好ましく思ったリュートは、喜んで話すことにした。
「そうですね、帝国兵たちは訓練されていて精鋭ばかりでしたが、それらを一気に吹き飛ばすのは正直気持ちよかったです。ただ、あとからあとから湧き出てくるので面倒になりましたね。ザンドルフは自分の体の半分を魔導具に改造していて、正直あの強さは人間の域を超えていました」
「そうですか……まさかあの皇帝が、そこまでしていたとは……」
「そこまでの執念だったのですね」
王子、王妃の二人が悩ましげにつぶやく。そんな彼らだが、その後のリュートの言葉にさらに驚かされる。
「ですけど、最終的には帝国軍全員を氷魔法で凍らせました」
「「「…………」」」
――音が、消えた……
誰もが予想外の答えに唖然とする。
「ああ、言葉だけじゃわかりませんよね。映像に残したんで、ご覧になってください」
「え、あ、ああ……」
リュートがアイテムリングから映像魔導具を取り出す。周りの者たちはリュートがアイテムリングを持ってることにも驚いたが、それ以上に映像の内容に声も出なくなるほど驚いた。
大地は一面が凍りつき、そこかしこには氷柱が出来上がっている。よく目を凝らしてみれば、中には人間たちが、凍らされた時のままで固まっていた。
「か、彼らは死んだのですか……」
誰かが聞く。その声は震えているが、リュートはあっけからんとした様子で答える。
「いえ、彼らは冬眠についているだけです。氷が溶ければ意識を取り戻しますよ。まあ、自然解凍なら10年単位で溶けないでしょうけど、帝国なら冒険者もいるでしょうし、もしかしたらSランカーを雇うかもしれません。そんなに長くないかもしれませんよ。その時帝国がどうなっているかはわかりませんけど」
間違いなく大騒ぎになっているであろう帝国を思い浮かべ、貴族たちは少し顔を青くする。目が覚めてみればよその国に侵略されており、子供が自分と同じ年齢になっているかもしれないと考えると、自分の身に置き換えてみるとこの上なく恐ろしい。
ある意味、殺しよりも残酷な方法でリュートは裁きを下したのだ。
「す、すごいです、さすがはリュート殿ッ!感服いたしました!」
「リーベウスさんはわかってくれるんですね!」
「はい!私の手で、ぜひ後世に語り継がせていただきたいのです。その許可をいただけませんか!是非ッ」
「いやぁ、そんな」
すごく話が合っている二人に周囲もさらに唖然とする。だが、その存在が今は味方であり、また、この国の王族ともここまで親しいことを考え、安心した様子の貴族たち。ガルドも時期国王である息子の意外な一面に苦笑するしかない。
「そうだ、実は、皆さんに余興を用意させていただきました。僕たちみんなで練習したんです。みんな、始めるよッ!」
リュートは輪の中から抜け、家族全員に呼びかける。それに応じ、食事や会話を止め、リュートのもとに集まってくるユスティたち。みんなが見目麗しい麗人・淑女の姿であり、リュートからもらった装飾品も身に着けてその美しさを惜しみなく披露している。貴族の男たちも思わず感嘆の息を漏らすほどに、今の彼女たちは美しかった。
リュートがアイテムリングから楽器を取り出し、それをメアリーやカレンたちに渡す。
メアリーとターナリアが金管の楽器を。ウルとカレン、玉妃がタンバリンに似た小さな太鼓のようなものを持つ。リュートはヴァイオリンだ。何も持っていないのはユスティとイレーナである。
「みんな、今日のために一生懸命練習してきました。どうぞ、暖かな目でお聞きください!我らが歌姫、ユスティ&イレーナです!」
まるで幼稚園のお遊戯会で先生が言いそうな言葉。事実、リュートとメアリー以外の全員が緊張している。
「それではお聞きください!オリジナル曲“PLEASANT DAYS《心地よい日々》”!」
この日の為にわざわざ作ったオリジナルソング。メアリーやユスティといろいろ相談し、みんなで楽しく歌えるような曲がいいということで作られた歌詞。それに合わせ、テンポよくリズミカルな楽譜を考え、よく約出来たのがこれだ。
因みにこれを造るために、リュートとメアリーはこの三日間、一睡もしていない。竜であるためその程度全く問題ないが、気分だけで言えばすごく疲れている。
リュートがこの世界に来て、家族を得てからの楽しい日々を基に作った歌。彼自身の心からできた歌だ。
メアリーがその華奢な見た目からは想像できないほど豪快に吹き、それに頑張ってついて行こうとするターナリア。
見事な旋律を奏で、その姿は王宮音楽史も見惚れるほどの演奏をするリュート。それらの間を取り持つのは、以外にもタンバリンを持ったウルたちだった。心地よく、調子のいい音を鳴らす彼女たちは、次第に笑顔になり、より一層魅力的な演奏となる。
そしてメインでもあるユスティの甘く優しい声と、イレーナの力強く、だが優雅な声による二重奏。これらは互いの音を壊すことはなく、一つの音となって観客たちの耳に染み込んでいく。
つたないながらも全力で、そして楽しそうに歌い、奏でるリュートたちの音楽は、この世界からすれば異質のもの。しかし、どうしてだろうか、胸の奥に、耳の奥に綺麗にとおり、馴染んでいく。
1人、また1人と、音楽に合わせて手拍子を始める観客たち。気分が高揚し、カレンたちも次第に歌いだす。
王宮での歌としては少々稚拙だったが、それでも、観客たちの心に深い感動と高揚を与え、演奏会は幕を閉じた。終わってみれば、拍手喝采の嵐。
「御静聴、誠にありがとうございましたッ!」
最後はリュートの挨拶で終わりを迎えたのだった。
いかがでしたか?次回は二話連続で、とある二人の人物に焦点を置いた閑話をかきたいと思います。二人の日常について、意外な一面を見れると思いますので、是非ともお楽しみに!
感想等、お待ちしております!




