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仮面の怪盗たち

「陛下、そろそろ予告にあった刻限となります」

「わかってる。あのくそ野郎なら、おそらくはもう近くにいるはずだ。油断するんじゃねえぞッ」


日が落ちかけ、あと少しで予告に記された刻限となる。皇帝ザンドルフは、今にも暴れだしそうなほど腸が煮えくり返っているのを何とか抑え、努めて平静な声で指令を出す。


帰ってすぐに城内を探索したが、怪盗の痕跡はなかった。見たという者もいない。しかし、ザンドルフは知っていた。怪盗が確実に近くにいることを。


なぜなら――――……



(あのくそ野郎、俺の魔導具を全部盗んでいきやがった!それにあのメッセージもだ。どんだけこの俺をバカにすれば気が済むってんだクソがああぁぁぁあああああッ!!)


まさかと思い見てきた隠し部屋。そこにあったはずの魔導具がすべて消えていたのだ。こんなこと、以前侵入した怪盗シルバー仮面にしかできない芸当なのである。


(だが、わざわざ相手から出てきてくれるんだ。焦ることはねえ。俺には切り札が、最強の兵器がまだ残ってるんだからな!)


不敵に笑うザンドルフ。それは勝利しかありえないという、傲慢で自信に満ちた表情だった。そして、それはザンドルフの周囲にいる将軍たちも同じである。



「60秒前です!」

「よし、全員構えろッ!いつでも迎撃できるようにしとけ!ムジャルタ、貴様もだッ!」

「……わかっているわい」



難しい顔をしながらも、ムジャルタは真っ黒の刀――“滅竜の神器(ドラゴンスレイヤー)”を構える。



「―――――3……2……1」


どこかで、息をのむ音がする。静けさの中に、それはよく響いた。


「……ゼロッ!」




―――――不意に、空が暗くなった。


まだ日が沈み切っておらず、赤い夕焼けが見えていた空が、一瞬で月光すらない闇の空間の中に閉ざされてしまったのだ。あまりにもなタイミングに、その場にいた誰もが“来たッ”と思った。



またも突然に、城の上で銀色の輝きが目立った。それはまるでダイヤモンドダストのようにキラキラと降り注ぎ、幻想的な光景を生み出している。


その光の中心から、今度はいくつもの光の玉が打ち上げられ、花火を上げる。色とりどりの花が闇空に咲き誇り、最後には大きな一つの顔マークが。舌を出して小バカにしたような表情になんだか腹が立つ。


光の中から現れた人影は、シルクハットとマントを身につけた、奇怪な格好の男。怪盗シルバー仮面だった。


ババーンッという効果音が聞こえてきそうなほど派手に登場した彼は、最初に口上を述べる。


「LADIES & GENTLEMEN! 今宵は我が誘いに乗っていただき、誠にありがとうございます!ささやかなれど、幕開けは我が魔法によるパレードを行わせていただきました。お楽しみいただけましたでしょうか、帝国の皆様?」


いつものようにわざとらしい敬語で話すシルバー仮面に、さっそくザンドルフが叫ぶ。


「てんめぇええええええッ!この軍勢を前にしてその態度、ふざけんじゃねえぞぉおおおおおおおッ!」


ざっと、50万は集まっている兵士たち。もちろん、城の中や、それ以外の場所にいる者たちも含めてである。それに加え、先の戦争、その先遣隊たちにはなかった兵器もちらほら見える。


ザンドルフの叫びにつられ、兵の者たちも叫ぶ。怒号、鼓舞、挑発――様々なものが入り混じった叫びは、全てシルバー仮面に向けられたもので。しかし、当の本人はそれを楽しそうに見下ろしている。


「さすがは帝国の精鋭たち。一人一人が相当な実力者ですねぇ。これはさすがに怖くなっちゃいますので、今回は僕も味方を呼びました。あ、卑怯とか言わないでくださいね。こっちはそれだけ――――



――――あなたたちを叩きのめすつもりなんですから」


最後の一言は、これまでと打って変わってどこまでも冷たい声になっている。急な変化に驚きつつも、警戒をさらに強める帝国軍たち。


「それでは紹介しましょう、私の仲間たち(・・)を」


シルバー仮面の右手に、小さな黒い光が。左手に、小さな焔が灯る。


それぞれが手から離れ、闇は大きな渦に、焔はいくつも生まれ、集まり、大きく不規則に揺れる炎となった。


パチンッ、とシルバー仮面が指を鳴らした瞬間、それらが人型になり、そして派手に、一気に拡散する。


現れたのは、シルバー仮面によく似た、というよりはほぼ同じ恰好の二人組。色は、黒と紅。


「……怪盗ブラック仮面、参上……ッ」


黒が右手をピースで顔の横に、左手を腰に当て、全く抑揚のない声で言う。


「かッ、怪盗ルージュ仮面……参上ッ!」


紅が恥ずかしげに、少しやけくそ気味に叫ぶように言う。男だった。




「どッ……どこまでも舐め腐りやがってぇええ~~~~~~~!!」


噴火した――そんなイメージが湧くほど、ザンドルフの顔は真っ赤だった。


「フフッ、出だしは好調。それじゃあブラック仮面、よろしくね」

「……了解。――――“影転移”」


周囲を囲んでいた暗黒の空間が、一瞬で縮小し、その場にいた全員を何処かへと転移させた。何かを言う暇もなく、あっという間に。城には、そしてその周辺には、兵士の姿は一人たりとも存在しなかった。









 ***


帝国の都から数キロ離れた、近場の平地。そこに、突如として50万もの人影が地面から現れた。その様子を三人の影が、丘の上から見ていた。


「……シルバー仮面、一人、抵抗したのがいた」

「うん、あの魔力、間違いなく“滅竜の神器(ドラゴンスレイヤー)”だね。やっぱりいたんだ」

「……捕まえる?」

「――――――いや、今はいいよ。まずは帝国をどうにかする方が先だね」

「ん……」


怪盗三人組である。どうやら兵士たちとは別に転移したようだ。その背後から、影を背負った男が現れる。


「我らが主のたっての願いだと言われてきたものの、まさかこんな格好をさせられるとは……」

「シルバー仮面だよ、ルージュ仮面♪」

「……そうでしたね。それではシルバー仮面、なぜ、わざわざ城で登場したのですか?転移させるなら、初めからここに呼べばよかったのでは?」


何か意味があるのだろう、そう考え、赤皇竜改め、怪盗ルージュ仮面は尋ねる。しかし、その答えは予想を超えたものだった。


「だってさ、やっぱり登場は派手にしないと!そのためにも、お城って絶好のポジションだったんだよねぇ~。思った通り、なかなか派手にできたでしょ?」

「……それだけ、ですか……?」

「勿論それだけだよ?」


は~、と何故だかため息が出そうになるルージュ仮面。ブラック仮面は何となく察していたようで、何も言わなかった。


「いつか、六皇竜全員とやるのが夢なんだよね~」


楽しそうに言うが、ルージュ仮面としては、またこんなことにつき合わされるのかと愕然としている。本当にイヤイヤやっているようだ。


「……無駄話はそれまで。敵、そろそろ動く」


ブラック仮面が言う。見てみると、軍勢は陣形をとり、既にこちらへ向かってきていた。あまり慌てていないところを見ると、このようなことはある程度予測していたらしい。それにしても、見事な統率力である。伊達に、軍事国家の長をしているだけはある。


「さてと、僕は本命をやるから、二人はその周りの邪魔者をよろしくね。兵士たちは各々の行動に任せるよ。あと、兵器の方はなるべく壊しておいて。後々面倒にならない為にね」

「「了解」」


戦闘モード、とでも言えそうな状態になる三人。先ほどまでぶつぶつと文句を言っていたルージュ仮面も、今では獰猛な戦闘狂の笑みを浮かべている。


「さ~て、それじゃあ始めようか、最後の宴を。二人とも、存分に暴れてくるといいよ。戦という名の美酒に、酔いしれてきなよ」


その言葉に、にぃッ、と笑う二人。丘の端に足をかけ、今すぐにも飛び出しそうだ。


シルバー仮面が右手を上げる。そして、パチンッ、と鳴らす。


音が鳴ったか鳴っていないか、そんなタイミングで飛び出す二人。後に続くように、シルバー仮面も加わる。


三人は疾風のように大地を駆ける。







 ***

  

「奴らが来ました!」

「よし、第一陣、第二陣、迎撃開始!油断や加減は絶対にするな!全力で潰しにかかれぇッ!!」


大地が咆えたかのような怒号を上げながら、兵たちは迎撃を開始する。目標はもちろん、異常な速さでこちらへ向かってくる怪盗たち三人。


三人がある程度近づいてくると、新たな指揮が飛ぶ。


「魔法部隊、全力で足止めをしろ!右翼、左翼の兵たちはそのまま移動を続けろ!奴らを囲み、逃げ場を塞げぇッ!」


「「「「「「ファイアーボール!」」」」」」

「「「「「「ウォーターバースト!」」」」」

「「「「「「ウインドカッター!」」」」」

「「「「「「アースニードル!」」」」」

「「「レイ!」」」

「「「ダークランス!」」」


様々な魔法が一斉に放たれる。視界一杯が魔法で埋め尽くされ、それぞれに込められた魔力も一般人に比べ、桁違いの大きさだ。


その間、両翼は指示通りに動き、三人の横辺りにまで進軍していた。


「……私が」


ブラック仮面が前に出る。迫り来る魔法に向けて両手を向け、走りながらも魔法を発動させる。


「――“闇の吸引(ブラックホール)”」


生まれた靄のような黒い穴は、向かってくるすべての魔法を飲み込んだ。


放った魔法が次々に飲み込まれていく様は、術者を恐怖させる。


「……リリ~ス」


今度は、その黒い穴から先ほどの魔法がすべて、術者たちに向かって放たれる。闇の属性と、ブラック仮面の魔力を加えた状態で。


ズシャァァアアアアアアッという音と、多くの悲鳴。たったこれだけで、第一陣の魔法部隊は崩れた。


「くッ!囲め!物量で押し切れ!」


三人の後方にまで回っていた軍が、今度は内側に進む。徐々に範囲を狭めてくるが、それでも三人の疾走は止まらない。


「止めろおおおおおおおッ!!」


剣を抜き、万の軍勢が三人に襲い掛かる。しかし、三人は口元に笑みを浮かべていた。それを余裕と感じたのか、兵たちはいつも以上の力で切りかかる。実際は、戦場の空気に気分が高揚していただけなのだが。


怒りはあっても、そこは帝国の精鋭たち。太刀筋は見事というほかなく、鋭いものだった。



しかし、やはり――――



「邪ッ、魔ぁぁぁぁぁあああああああッ!!」



止まらない、止められない。



剣を振れば折られ、魔法を放てば素手で弾き返される。集団であってもそれは変わらず、兵たちは為す術もなく、ただ吹き飛んでいくのみ。


もはや一本の矢と化した三人は、近づく者全てを吹き飛ばし、その後には倒れ伏す男たちのみ。だが、不思議と誰一人として死んではいなかった。


……無事に生きている、という様子でもないが。



猪のような突進力――――生温い。


特急新幹線――――まだ足りない。


例えるなら、そう。まるで、ロケットのような突貫力。止めることなど、絶対に不可能――そう思わせるには、十分だった。


前に行けばいくほど次々と吹き飛ばされ、敗者となりゆく仲間たち。その光景は、兵士たちの心にすでにヒビを入れていた。



「そろそろいいかな……『散開』!」


その時、三人は三方向に分かれる。ここから、それぞれの本格的な戦いが始まるのだ。このような軍勢など、三人にとっては体を慣らすための、フルコースで言う前菜のようなもの。


ここからさらに、スープ、主食、デザートと続いていくのだ。





――――(たたかい)はまだ、始まったばかり。



思った以上に早くできちゃいました…自分でも驚いてみたり。


さて、ようやく始まりました。ここから怒涛の戦いに入っていきます。次回をお楽しみに!


感想など、よろしくお願いします!

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