シリアスブレイカー=リュート
お久しぶりです!
「――――いやはや、なんとも凄まじいな。あれほどの一撃を受けて、まったくダメージがないとは」
「さすがは世界最強の龍神様、というわけですわね……」
シュベリア国の執務室では、国王や宰相、ユスティたちが戦場の映像をしっかり見ていた。
その映像には、空を浮かぶ魔導船――ウルスラグナのはなった一撃を喰らってなお、堂々と空に留まっている龍神の姿が。
日光に照らされ、煌めく銀の竜の姿は、たとえ映像であってもその品格と存在を落とすものではなかったのだ。
『我が鱗に傷をつけたその魔力……そうか貴様ら、【竜滅の神器】の者たちとつながっているな?確かに奴らなら、竜を殺すことも可能だろう。その為の武器を持っているからな。
だが……――――――――我らを舐めるなッ‼この程度の威力で我を殺せるなどと、思い上がるでない‼』
龍神――リュートが咆えた。
映像の中で、それも敵側に向かって言っているとわかっているにもかかわらず、ガルドたちも身を震わせるほどに言葉の重みがあった。
この言葉は演技ではなく、おそらくリュート自身の感情が詰まっているのだろう。
「それにしてもご主人、ほんと、ノリノリだなぁ」
「まったくだ、リュート殿は意外とこういうのが向いているのかもしれんな」
龍神としての品格を見せつけるためにとメアリーに頼まれ、リュートはいつもと違う言葉を使っている。リュート自身が品格のある話し方と考えているのが、これだったためだ。元が日本人であり、アニメや漫画を一通り通っているため、この手の者は余裕なのである。
本人は気乗りしていないようだったが、見ている限り、かなりノっているようだ。
画面を見てみれば、人間から見ても美しいと感じるドラゴンの顔、正確には口元がニヤリとしている場面がアップで映っている。
これを見て、リュートをよく知る女たちは一同で理解する。
――――あ……何かする気だな……――――と……。
それは、これまでリュートの非常識さを目の前で見てきたからこそわかること。
彼女たちの予想通り、リュートは【龍神の息吹】を放ち、兵士たちを銀の光で包み込んだ。画面も光で溢れ、何も見えない状態が数秒ほど続いた。
ユスティたちは知っている。龍神の魔力――【混沌】は、すべてのものを消滅させる、理不尽な力であることを。
そんなものを戦場の中心に放てば、大量のヒトが消え去ることだろう。それは大量虐殺に他ならない。
「リュート様……」
「だ、大丈夫だよ。ご主人にも何か考えがあって、その……」
リュートを信じ、皆が画面を凝視する。そう、凝視してしまったのだ。
光が収まり、徐々に戦場の光景が見えてきた。そこに映っていたのは――――
――――画面を埋めつくす、男たちの裸体であった――――
「…………」
思考が停止する。考えることを、脳に目から入った情報を届けることを放棄しようとする。しかし、それは人体の構造上、不可能であった。
――頭が、再稼働してしまった。
「きゃあああああああああああああああッ!?」
最初に悲鳴を上げたのは誰か、知ることはできなかった。何故なら、今、部屋中で女性の悲鳴が響き渡っているのだから。皆、顔を真っ赤にし、両手で顔を覆い隠す。
それは玉紀も同じであり、小さくとも“女”であることを示すものだったのだが、誰も気づいていない。
「うわああああああああんんんッ!!」
「だあああああ、クソッ!ご主人め、なんてモノを見せるんだぁぁああッッ!?」
「あ、アレが……大量の、男の人のアレが……目に焼き付いてしまいました……」
「ああ……なんだか吐き気が……」
画面の向こうも、こちらも阿鼻叫喚となっている中、国王ガルドと宰相は少し笑っていた。
自国にあれだけ攻めたてていた帝国の屈強な兵士たちが、今ではあれほど無様な姿をさらしているのだ。笑わないわけがない。心がすっきりした気分だ。
そうこうしている内に、どうやら戦争は龍神の一人勝ちで終わったらしく、彼は優雅に空を飛び去って行った。
それと同時に、部屋の隅にある影から人影がニュッと現れた。目を瞑ったままのメアリーだ。
「……なにこれ」
彼女が部屋に来てまず見たものは、女性たちの悲鳴。
しかし、彼女たちが呟いているモノの内容を知り、納得した。ある意味で、彼女たちもリュートの被害者なのである。珍しく、小さな溜息を吐いたほどにメアリーも同情しているようだ。
そんな中、部屋の中心に光の粒子が現れた。
突然のことに、悲鳴を上げていたウルたちもその場を見る。
光の粒子の中で人型の輪郭ができ、徐々に色づいてくる。そこに現れたのは、もちろんリュートだった。
彼は仮面をとった状態で、笑顔だった。それは、老若男女問わず骨抜きにするであろう美しさだった。
そして言う――――
「――――あ~楽しかった!というかスッキリした!」
本当に、楽しそうな、ウルたちとしては腹立つ一言を。そして、不満が爆発した。
「お、お兄ちゃん!なんであんなものを見せるのさ!」
「戦争中にあんなものを放つとは、大量虐殺でもしたのかと思いましたよ」
「みんな何言って……あ、見てたんだ、アレ……」
いきなり詰め寄られ、いったい何のことなのかわからなかったリュートも、ガルドたちが笑っている横にある画面ですべてを理解した。彼女たちはあれを見てしまったのだ。
「あ~~~~~うん……なんかごめんね?ついテンションが上がっちゃって」
「『つい』じゃねーよッ!?」
ウルが掴み掛ってきた。その顔は真っ赤だ。それが怒りからくるものなのか、それとも照れからくるものなのか。おそらく両方だろうとリュートは推測する。
「あ、あ、あ、あたしは、男のアレを見るのは初めてだったんだぞッ。それをあんな大量に……!クソ、なんてもんを見せやがんだぁぁあああッ!」
始めて見たのが画面を埋めつくすほどの裸体だった……たしかにショッキングな経験かもしれない。少し反省したリュートは、真剣な顔でウルと目線を合わせ、胸ぐらをつかんでいるウルの手を両手で包み込んで言った。
「ゴメン、これは確かに僕が悪かった。だから…………一生かけて“責任”を取らせてもらうよ」
「――――ブフッ!?」
部屋中のヒトたちが吹いた。
ここだけ聞けば、確実に誤解させるだろう内容だ。それをリュートがキリッとした真面目な表情で言ったのだ。ウルもプルプル震えている。
「そ、そ、そんな風に言うなぁああッ。ひ、卑怯だぞチクショぉぉぉおおおおッ!」
ウルの全力の叫びが、城中に木霊した。
***
「みんな、落ち着いた?」
「ええ、まあ……」
「お陰様で……」
ひとまず騒ぎが収まり、全員が座れる場所、つまり会食場で一同は座っていた。ここは他国の重鎮などが訪れた際に、共に会食をすることを目的とした場所である。普通ならウルたちは入ることができないのだが、リュートの連れということで特別に入ることができるのである。
因みに、この場にガルドと宰相はいない。戦争の後始末をすることと、帰ってくる兵士たちを迎える準備をさせるためだ。シュベリア側の兵士の中にも、リュートの悪戯の被害にあったものは少なからずいるのである。
なので、この場にいるのはリュート’sファミリーのみである。
「はあ……さっきのご主人の顔と言葉が強烈過ぎて、あの映像のことが思い出さなくなったよ……」
「確かに、あれは強烈だったな」
「……まさか、ご主人様はそれを見通してわざと……?」
「……それはない」
「ないですわね。あれは完全に楽しんでる感じでしたわ」
「あ、あはは……」
恋人二人にはしっかりと見抜かれていたようだ。苦笑いしかできないリュート。
「でもさ、戦争なんて大きな出来事をあんな風に終わらせるなんて、普通はできないよ。さすがはお兄ちゃんだね!」
「もう、ご主人はこれから“シリアスブレイカー”って名乗れば?」
「リュートにはピッタリじゃな!」
口々に好き勝手なことを言うが、リュートとしても「それもいいかも……」などと意外と受け入れている。
ここで、ターナリアが疑問を口にする。
「それにしてもご主人様、なぜ、服や武器のみを消し飛ばすなんてことを?御主人様なら他のやり方でも圧倒できたと思うのですが……?」
「ああそれは簡単な理由だよ。みんなも見てたなら知ってるだろうけど、帝国の連中はドラゴンの本当の力を知らないまま、自分たちが最強だってほざいてたでしょ?だから、彼らにとって一番屈辱的なものって何かなって考えたら、アレだったんだ」
「リュート様、少し怒ってらしたものね……」
「……お気に入りの武器を失い、最終兵器を壊され、魔導兵器はお披露目機会がたいして無く、兵士も裸に。……哀れ、帝国」
メアリーが纏める。こう考えると、リュートの行ったことは帝国側からすれば悪魔の所業だろう。リュート以外のみんなが引き攣った笑みを浮かべる。
「フフフッ。まだまだ、この程度じゃ終わらせないよ。彼らには少し仕掛けも仕込んでるしね」
「……リュート様って、けっこう鬼畜……?」
「それほどでもないよ」
リュートが不敵な笑みを浮かべる。それを見た者は皆、敵国であるはずの帝国に、同情すら覚えてしまった。それほど、リュートは帝国に対して徹底していた。
「さ~て、帝国の行く末は、これからどうなるのかね~?」
楽しげに笑うリュートの笑顔が、ひどく印象的だった……。
久しぶりに投稿できました。お待たせしてすみません。
次回は帝国側を書きますね。




