表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/82

戦争参加の決意

リュートが皆を連れて、王城の謁見の間に戻る。しかし思った通り誰もいないので、ユスティに頼んで王がいるであろう場所に連れて行ってもらうことにした。


ユスティが足早に、しかし優雅さは決して損なわないという器用な歩き方を披露し、残りの者たちはそれについて行く。縄で縛られている男たちは汚いうえに泣き言も言っているので、正直持ち上げる気はない。


というより、リュートはこの男たちに慈悲はないのだ。


なので、引きずっている。はたから見ればかなり異様な光景だ。途中で出会った城の者たちは、足を止めて呆然としていた。


「やっぱりというか、城の中も騒然としているね」

「……文官たちが忙しそう」


「つきましたわ!」


ユスティが向かっていたのは、王の執務室。扉を守っている護衛に一言かけ、中に入っていく。



「お父様!」

「ユスティ!帰っておったのか!」


驚きと喜びの感情を全面的に滲ませるガルド。とりあえず無事だということがわかり、一安心のリュートたち。


執務室にはガルドの他、宰相と文官たち、そして数名の騎士がいた。


「ガルドさん。裏切り者とその仲間を捕まえました。牢に入れておいてください」

「その者は……ワルベリアではないか!なぜ此処に……?というよりも、何故そんな無残な姿に?」

「帰りの道中で偶然出会ったので、懲らしめついでに捕獲しました。どうやら帝国に亡命するつもりだったそうですよ?」


懲らしめると言うほど生易しい状態じゃないのだが、深く聞かないガルドたち。あまりにも無残な状態だった為、聞くのが怖かったのだ。間近で見てたターナリアたちとしても、いまだに冷や汗が止まらないのである。


「感謝する。――お前たち、この者たちを牢へぶち込んでおけ!後ほど、ゆっくり吐いてもらう!」

「「はッ‼」」


ワルベリアたちは数人の騎士たちによって連れていかれた。これであいつらとも会うことはないだろうと気持ちを切り替えるリュート。


「それで、帝国との戦争について、現状を教えてください」

「うむ……実はすでに開戦していてな。やはりというか、我々は押されている。同盟国からも戦力を回してもらっているのだが、如何せん、帝国は軍事力もさることながら、魔導兵器を数多く投入しているのだ」


これを見てほしいと言われ、ガルドはリュートたちに映像魔導具を見せる。全員が覗き込むようにしてみると、そこには戦場の風景が映っていた。



「戦場をリアルタイムで見れるようにしてある。この通り、我らは現在負けておるも同然なのだ」

「……この奥、浮いている何かをズームで映せます?」

「もちろんですとも。おい」

「かしこまりました」


ガルドが宰相に指示し、映像が変わっていく。そこに映し出されたものに、皆が驚愕した。


「これは……船が浮いている!?」

「先端についているのはもしや、魔導砲?だとしたらかなりヤバイですね……」

「イレーナは知ってたのか?」

「まあな。軍にいたころ、聞いたことがあっただけだが……」


イレーナたちは初めて見たという驚きだったが、リュートだけは違った。それもそのはず、その浮かんでいたものは――




「――――ガルガント……?」




以前リュートが壊した魔導収束砲に酷似していたのだから。


「いやでも、ありえない」

「……リュート様、どうかした?」


リュートの異変に気付いたメアリーが、不思議そうに尋ねる。


「僕が以前帝国に侵入して、いろいろ暴れまわったというか、かぎまわった時なんだけどさ」

「……リュート殿は何をしておられるのだ……」


ガルドが呆れた声を出していた。


「ほっといてください。それでなんだけど、その時僕は、あの魔法収束砲に似た船を一度見てるんだよ。姿かたちがそっくりなやつをね」

「では、あれがそうだと言うのですか?」

「いや、それはありえない。ありえないんだよ。だって、僕はあの時、ガルガントの設計図や取扱書は盗んでいるし、当のガルガントそのものも細切れにしてきたんだから。いくらなんでも、あれを設計図なしでもう一度組み立てるなんて不可能だ」


リュートは眉をよせ、不可解なものを考える表情だ。しかし、他の者たちはそれとは関係なしに、口を引き攣らせていた。


(あの大きさを細切れって……)


映像で見ただけでも、相当な大きさだというのがわかる。それをどうやって細切れにしたのか。今更突っ込む気はないが、やはりリュートは普通じゃないなと再度認識を改める。


映像を見る限り、問題なのは魔導収束砲だけではない。他にも魔導兵器はいくつも見受けられるし、なにより帝国の中には将軍クラスの者たちもおり、圧倒的な強さを見せつけてくる。はっきりいって、このままではあと半日もしないうちに負けるだろう。



考えるリュート。しかし、それほど時間はかからなかった。


「……ガルドさん、僕もこの戦い、参戦してもいいですか?というか参戦しますね」

「いや、それはこちらとしてはもちろん嬉しいが、本当によろしいのか?」

「参戦というのは少し間違っているかもしれません。僕は、『龍神』としていこうと思います」


驚愕するガルド。それは他の者たちも同じだ。


「僕って帝国じゃ少しやらかしてるんで、後々、この国に迷惑がかかるかもしれないからという理由が一つ。この国はメアリーが守護竜的な認識があるので、そこに龍神もこの国を守ってくれるという認識が加わったら今後、周囲の国々がいろいろと質問してきそうなので、めんどくさいという理由が一つ。一応は他にもあるんですけど、大きな理由としてはこれぐらいですね。なので、僕は偶然通りかかったとかそんな感じで行ってみようと思います」



どちらの理由も一番被害を被るのはガルドだが、リュート自身も無関係とは言えなくなる。既に貴族たちの中では知っている者も多いのだから、連日屋敷に訪問に来るということになれば、リュートは対応に追われることになるだろう。


それだけは絶対に避けたかった。主に自分の精神的疲れを回避するために。


「……それじゃあ、最初に私が行く。リュート様が、動きやすいようにしておくね」


リュートの意をくんだメアリーが、いつもよりやる気を出して答えた。そしてリュートに向き直る。


「それでリュート様。リュート様には、お願いがある」

「ん?どうしたの?」

「リュート様には、それ相応の態度で向かってほしい。……正直、今のリュート様だと、少し威厳が足りない」


申し訳なさそうに、しかしはっきり言うメアリー。そんな彼女も可愛いなと場違いな感情を抱くリュート。


「……うん、まあ自覚あるしね。わかった、やってみるよ」

「……がんばって、ね?」

「それにしても、威厳か。威厳……とにかく、出来る範囲でやるしかないな」



考えているうちに、メアリーが「影転移」によってその場から消えた。リュートも予定の位置へと転移しようとすると、ユスティが袖をつかんできた。


「……どうしたの?」


心配そうな表情のユスティ。本当なら行って欲しくない、でも、リュートが行ってくれれば、この戦いは無事に終わる。相反する気持ちがユスティの中で葛藤を生む。それは彼女だけでなく、イレーナやターナリア、カレンたちも同じだ。


だが、ユスティたちは少し強引に笑顔を作り、リュートを信じて言った。




「「「「「――――行ってらっしゃい」」」」



彼女たちの優しさからくるこの一言に、リュートも笑顔で返す。



「――――行ってきます」







「あ、ガルドさん。装備なんかが結構被害出ると思うけど、命に別条はないので勘弁してくださいね」

「なぬっ!?」


――――最後に別の意味で心配させる一言を残し、今度こそその場から消えた。










 ***


「隊長!もうここは持ちません!」

「持ちこたえろ!何としてもここで食い止めよ!」


戦場は混沌と化していた。すでに何人もの兵士が、冒険者が死んでいる。それはお互い様なのだが、数でいえば明らかにシュベリアとその同盟国側なのだ。


将軍クラス率いる大軍隊。未知にして強大な破壊力を誇る魔導兵器。そして、極めつけは空に浮かぶ巨大魔導収束砲『ガルガント』


開戦と同時に放たれたアレは、こちらの兵士を蹴散らし、地面を抉るだけでなく、兵士たちの戦意そのものを根こそぎ奪っていくほどのものだった。


それでもなんとか未だに持ちこたえていられるのは、兵士の数が圧倒的にこちらが上だったからというだけ。同盟国から回された戦力がなければ、もうすでに突破されていたことだろう。

 


「隊長ぉッ‼」

「くッ……撤退、撤退だーーーッ!」


ついに持ちこたえられなくなった防衛ラインの隊長は、ここでいたずらに兵士を死なせるのは得策ではないと考えた。いや、それ以外の選択肢がなかったというのが正しいだろう。


「ふん……今がチャンス!一気に蹴散らし、進めぇーーーーッ‼」


1人の男の言葉に、帝国軍は地鳴りのような叫びと共に進軍を始める。



――――我ら帝国の覇道の前に、敵は無し。



まさにその言葉が似合うほど、今の帝国軍は無敵だった。もうこの軍を止められない――そう思ってしまうほどに、シュベリア側の兵士たちの心は折れかかっていた。


そしてまた交戦になろうとしたとき、地面の影が広がり、その場にいる兵士・冒険者たちを見境なく飲み込んでいった。



突然の事態に、両軍から悲鳴の声が上がる。



人が、武器が、軍馬が次々と影に飲み込まれていく様ははっきり言って恐怖でしかなく、帝国もシュベリア側も足を止めてしまった。


しかし、隊長と呼ばれていた男はこの光景に見覚えがあった。それは、シュベリアを常に守護していてくれた、敬愛するべき御方の魔法――――



「……お待たせ」



シュベリア王国の守護竜・メアリーの魔法だった。



「……キャッチ&リリ~ス」



兵士たちを飲み込んだ影は空中で巨大すぎる球体となり、二つに分かれてそれぞれの軍の頭上に向かっていった。そして中から放出されるのは、先ほど取り込まれていった者たち。


「……メアリー様だ……」

「――メアリー様……シュベリアの……偉大なる守護竜さま!」



シュベリア側に大きな歓声が湧き起る。世界最強の一角にして、シュベリアを何十年にもわたって守ってきてくれていた竜の登場。それは、折れかかっていた戦意を再び持ち直させる。



反対に、帝国軍は顔をしかめる。面倒な敵がきた――と。本来なら面倒な敵程度で済むわけがないのだが、何故だか帝国は黒皇竜相手でも戦意が堕ちるといったことはなかった。



帝国の兵士たちは思う――我らには、アレ(・・)があるのだ――と……。



そしてそのまま、戦いは振出しに戻ったかのような状況の中、再び交戦が始まろうとしていた。



――――その時。



メアリーの魔法によってできていた帝国とシュベリア軍との間に、大きな雷が幾筋の光と轟音と共に落ちた。



あまりにも正確な位置に落ちたため、両陣は再び足を止める。そんな中、メアリーだけは、小さな笑顔を浮かべ、空を見上げていた。




この時この場にいた全員、対して強くない下級兵士ですら感じ取れる暴力的なまでの存在感と威圧感、誰もが跪きそうになるほどの神々しさ。



空には、(いにしえ)より語り継がれてきた世界の王者。銀の鱗と黄金の瞳を輝かせるドラゴン。







――“龍神”が、威風堂々と佇んでいた――――……。




久しぶりに投稿できました。本当に良かった……。


いよいよ戦争に参加したリュートですが、この参加の仕方は予想できましたか?


次話は一週間以内には投稿しますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ