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賑わう宴会

「アイギスたちは、これからどうするんです?僕たちと一緒に来ませんか?」


戦いは終わり、荒れ果てた森もリュートのチカラでなんとか平地にまでは戻せた。木や草はさすがに生命であるので、あとはこの土地の生命力に任せるしかない。


リュートはアイギスたちにこれからのことを尋ねた。せっかく会えた男の仲間だし、なによりこの夫婦はおもしろいと思ったのだ。


しかし、アイギスたちは申し訳なさそうに断った。


「何かあるの?」

「はい、私がというよりは、妻のサラマンディアがですが」

「さすがにこの土地を、今離れるわけにはいかないもの。これだけ派手に暴れたら地下まで影響が出ているだろうし、現に、地下のマグマの動きが活発になっているのが感じ取れるわ。だから、私がここで調整しなきゃ、ここら一帯が噴火で燃える大地に変わっちゃうのよ」

「俺も赤皇竜として手伝えますし、なにより彼女の元を離れてよそに住み着くというのは……」

「まあ、夫婦別離ってわけにはいかないしねぇ」


リュートは残念そうにため息をつく。逆に、メアリーは微妙に嬉しそうだ。アイギスと一緒に済むというのが嫌だということだろう。


いったい彼女とアイギスの間に何があったのだろうか?


それとは別に、サラマンディアは夫が自分の元を離れない宣言をしたことに感激し、お互いに


「あなた……♡」「ディア……」


と見つめ合っている。炎夫婦と言うとおり、この二人はアツアツらしい。


「それじゃあ、もう日もくれてきたし、僕たちはトルタ村に帰るよ」


そう言って、リュートは名残惜しそうに一枚の紙を渡す。


「これは……?」

「ここが今僕が住んでいる屋敷の場所。何かあったらいつでも来ていいから」

「ありがとうございます!我らが王の御屋敷とあらば、何かをお持ちしなければいけませんね」

「いや、そういう気遣いとかいいから。普通に遊びに来なよ」


リュートがそう言うものの、アイギスには聞こえていないらしい。難しい顔をして「やはり金銀財宝の類がいいだろうか……?それとも世界中の美酒……?いやいっそのこと、我が王の外敵駆除のために。“ウロボロス”とかいう組織の奴らの首をお持ちするか……?」等と恐ろしいことをブツブツ言っている。


耳のいい者たちには聞こえていたが、誰一人として突っ込まない。下手に関わりたくなかったからだ。それはリュート本人もである。


「え~……と、それじゃあ今度こそ。バイバイ、アイギスさん、サラマンディアさん」

「はい、それではまたいつか、お会いいたしましょう。黒皇竜、貴様、我が王をきちんとお守りいたせよ」

「……言われなくても、わかってる」

「バイバイ、みんな、また会いましょうね」


リュートが変幻を解き、再び美しい龍神の姿となる。今回も彼に乗ってトルタ村へと向かうのだ。全員未だ慣れておらず、恐る恐る背中に乗る。その時アイギスが仰天していたが、リュートが自らやったことなので口に出しかけた言葉を飲み込んだ。






大きな美しい銀竜は、夕焼けに照らされて女神もかくやというほどの幻想的な風景を作り出しながら、優雅に飛んでいった。


その後ろには、炎を司る頂点の者たちが、彼らが見えなくなるまで見守っていた――――。












 ***


リュートたちがトルタ村に着いた頃には、既に月が昇っていた。この時間帯ともなると、ほとんどの宿から既に賑わいが聞こえてくる。宿泊客が宴会でもやっているのだろう。それに比べて、ラーニャの宿は相変わらず、誰も客は来ていないようで全く賑わいがない。しかし、それでも光が扉の隙間から漏れており、リュートには何故かその光が暖かく感じた。


リュートたちは扉を開ける。すると、中からラーニャの元気な声が聞こえてきた。


「あっ!お帰りなさい、リュートさん。それに他のみなさんも!」


昨日の晩に会った時と比べて、彼女の声・表情は非常に明るい。それに思わず、リュートたちは柔らかな笑みが生まれる。もちろん、リュートは仮面装備だ。



「ただいまラーニャ。早速で悪いけど、晩御飯の用意頼めるかな?」

「はい、もちろんです!父ちゃんに言って、すぐに用意しますね」

「よろしくね」


ラーニャは急いで厨房へと向かう。元気な彼女は少し危なっかしく、リュートは苦笑気味だ。


全員が椅子へと座り、料理を待つ。それぞれが話に花を咲かせ、料理が出てくるのを待つ。こんな何気ないひと時が、リュートにはすごく楽しい。


「こうしてみると、やっぱり『家族』って感じがするなぁ……」


そのつぶやきを漏らすと、ふと、手に暖かな温もりを感じた。見てみると、両手の上に、ユスティとメアリーの手がそっと重ねられている。ハッとして周囲を見てみれば、みんなが優しい笑顔でリュートを見ていた。玉妃も背中に乗っかり、リュートに叱るように言う。


「なんじゃリュート、妾たちはもう『家族』しゃろが!」

「そうだぜご主人。第一、あたしたちを家族だって言ったのはご主人自身じゃないかよ!」

「フフッ、しっかりしてください、リュート殿」


そして、メアリーが言う。


「……私たちは、家族で恋人、だよ……?」


最後にユスティ。彼女は少しいたずらっぽく笑って言う。


「こんなにも多くの『家族』に囲まれているリュート様は、世界一幸せだと思っているのは、ワタクシたちだけなのでしょうか?」



なんだか無性に照れくさくなったリュートは、照れ隠しとばかりに仮面を外して、返事の代わりに最上の笑顔を向ける。カウンターをくらってしまった女性陣、顔が沸騰したように赤くなり、湯気を出したかのようにして撃沈。



ラーニャ家族三人が全員分の料理を持ってくるその時まで、リュートたちのテーブルには何やら奇妙な雰囲気が流れていた……。











 ***


「そう言えば、ライナさんたちはこれからどうするんですか?この村で宿を続けるんですか?」


食事も終わって一段落、といったころ、リュートが突然そう切り出した。いきなりそう言われて驚く三人だが、深刻な表情で父親――カイバが返す。


「……いや、俺たちはこの村から出ていくつもりだ。村の奴らはライナを見捨てただけじゃなく、この宿の悪評までたてまくってやがった。正直、こんな村にはもう厄介になりたくねえんでな。これは家族全員の総意だ」

「やっぱりそうですか……。まあ、予想はしていましたけどね。でも、行くあてはあるんですか?」

「それは……とりあえず、どこか近くの王都あたりにでも行ってみるつもりだ。この宿も売ればいくらかの金にはなるだろうし、なんとかなる……と思う……」


なんとも杜撰な計画なのだろうか。しかし、ライラの呪いを解いたのはまだ昨夜の話だ。まだ急すぎるし、ちゃんとした計画が立っていなくても仕方がないだろう。


「まあ、ここであったのも縁、ということで……どうです?僕たちシュベリア王国に暮らしているんですけど、そこで何か店を出すというのは」

「はっ!?いや、そんなこと――」

「もちろん、タダであげるわけじゃありませんよ。店の収益の何割かをうちに収めてもらいます。それさえ守ってもらえれば、土地代も店代も言い値の三割程度を払ってくれればいいです。どうですか?」

「いや、どうですかって言われてもよ……」


カイバは渋る。それも当然、リュートの出した条件は破格のものだ。あまりにもカイバたちに都合がよすぎるために、返答に困ってしまうのである。



「金の心配なら大丈夫ですよ?僕、こう見えてもかなり稼いでますから。というか金は腐るほどあるんですよ」


これは事実だ。大会で得た賞金もイレーナたちを買う以外では全くと言っていいほど手をつけていないし、ギルドの依頼や帝国に貰った(くすねた)モノも多い。一般人がかなり贅沢しながら暮らしても、一生分は持つだろう程度には持っている。


「これはただの気まぐれみたいなもんです。なので、カイバさんたちもラッキーくらいに思ってもらって構いません。まあ、簡単には決められないだろうし、そっちにもいろいろあると思うので、僕の住所渡しときますね。もしご決断されたなら、この家に来てくれれば大丈夫です」

「あ、ああ。すまねえな……」


カイバはリュートから住所の書かれた紙を受け取る。心なしか、その表情が若干やつれているように見えるのは気のせいではないだろう。


「リュートさん、ありがとうございます……!」

「本当に何から何まですみません……」

「いえ、本当に気にしないでください。僕、あなたたちのような素晴らしい『ご家族』を見たら、なんだか手伝ってあげたくなるんです。あなたたちには、これからは幸せに生きて欲しいですからね」


どこまでもお人好しなリュート。しかし、彼とて誰にでも優しくするわけではない。カイバたちには、リュートが理想とするような家族愛があった。それはリュートが前世より最も欲していたもの。


だからこそ、それを実現させているカイバたち一家が不幸な目にあっているところなど見たくないのだ。




「・・・・・・」

「・・・・・・」



全員が無言となり、部屋に静けさが満ちる。それは決して不快なものではないが、かと言って明るい、というようなものでもない。


なんとも形容しがたい雰囲気の中、空気を変えようとリュートがパンッ!と両手を叩く。


「よし、難しい話はここまでにしよう!カイバさん、ライナさん、テーブルや椅子、一旦回収しますね」

「回収?それってどういう――――」


リュートは返事を最後まで聞かず、食堂のテーブル・椅子をリュートたちの座っている席以外、すべてアイテムリングに収納していった。そうすることで、食堂はかなり広めのスペースができた。


「あの、リュート様?一体何をされるのですか?」


ユスティが当然の疑問を聞いてきた。他の者たちも素晴らしい疑問顔である。


リュートは「ちょっと待って」と言って、アイテムリングから何かを取り出す。それはよく冷えた酒と、地球で言うフルーツジュースのようなものだ。人数分のコップにそれらを入れ、子供にはジュース、大人には酒を配る。


「コホン、え~それでは、ライナさんの快気祝い、並びに僕たちの出会いの(えにし)を祝して……カンパーーーイ!!」


そこでようやく全員が納得したのか、笑顔で「乾杯!」と叫ぶ。


全員が美味しそうに一気飲みする。この世界では珍しい、冷えた飲み物。それは、彼女たちの心を大いに掴んだ。リュートはそんなみんなの表情を見て満足そうに頷き、またもや何かを取り出す。それはこの世界では見慣れないもの――『ギター』だった。


「ご主人、それはなんだい?おかしな形をしてるな」

「これはギターっていう楽器だよ。やっぱりBGMは必要かなって」

「びーじーえむ?」


リュートはフフッと笑い、ゆっくりと弦を弾き始める。その不思議にな音色に全員が注目する。



久しぶりに使用するが、リュートは歌が上手だ。それに、今回は声に意識して魔力をのせている。ドラゴンや魔獣といった、ヒト種以外にのみ可能な魔法の操り方。本来は威嚇として咆哮に使用するのだが、今回リュートは歌声に乗せたのだ。



――優しく、激しい弦の響き。


――甘く、切なく、とろけるような声。




その場にいた全員が目をつむり、部屋に反芻する静かな音に酔いしれる。


リィィン――というシメで一曲目を終えると、数秒の間を開けた後、今度は大きな拍手が響き渡る。


「すごい、すごいですリュート様!リュート様には音楽の才能があったのですね!」

「他、他にはないのかよ!もう一回聞きたいぜ!」

「お兄ちゃんカッコイイ!」



多くの賛美を受け、リュートもまんざらではなさそうだ。


「それじゃあ次は明るい曲にするから、みんな踊ってみてよ」

「え……私、踊れませんよ?」

「俺も無理だな。踊りとかそんな高尚なもん、やったこともねえや」


ライアもカイバも無理だと拒否する。どうやら貴族たちが踊るような“舞踊”あたりと勘違いしているようだ。


「あはは、そんな難しく考えないで、演奏のリズムにあわせて好きに体を動かせばいいんですよ。まあ言われても簡単にできるわけではないかもしれませんから、最初は見ていてください。玉妃、カレン、思いっきり踊ってね」


「まかせてよ!」

「好きにすればいいんじゃな!」


そうしてまた、リュートはギターを弾き始める。今度は先ほどとは違い、テンポも速く、軽やかなメロディーだ。


玉妃もカレンも、本当に楽しそうに踊る。彼女たちは子供らしく全身を使って伸び伸びと踊っており、観ているものとしても楽しくなってきた。


「よし、それじゃああたしも!ほら、イレーナも来るんだよ!」

「わ、私もか!?」

「フフ、一人で観ているだけというのもつまらないものですよ?」


二人の子供たちに影響を受けてか、ウルやイレーナ、ターナリアも前に出て踊り始める。イレーナが少し抵抗がありそうだったが、いざ踊り始めてみれば、案外楽しそうだ。


若く、美しい女たちが顔を上気させ、全身を使った軽やかな踊りは、男としては非常に嬉しい光景だ。ちらっと見てみると、カイバがライナに「……あなた?」「な、なんだよ」などと釘を刺されている場面があった。


二曲目が終わる。


「とまあ、こんな感じです。どうです?みんな楽しそうだったでしょ」

「そうだな、よし、いっちょやってみるか」


カイバがやる気になってくれた。それに釣られ、ライナもラーニャも席を立つ。


「ユスティもメアリーも行ってきなよ」

「そうですね、ワタクシも参加させていただきますわ。いきましょう、メアリー様」


しかし、メアリーは席を立とうとしない。じっとリュートを見ている。


「メアリー、どうかした?」

「……リュート様、笛、もってる?」

「メアリー、笛を吹けるの?」

「ん……。昔暇なとき、吹いてた」


それならばとリュートは、笛を取り出した。見た目としてはフルートを意識して作ったが、全てが木で作られている。音もフルートとは少し違う。


「これしかないけど……吹ける?」

「任せて……!」


そうなると、二人が一緒に演奏できる曲がいいだろう。しかし、リュートは日本で聴いていた曲しか弾いていないため、メアリーにはわからないはずだ。二人が共通で知っている歌など、シュベリア王国で歌われている歌しかない。


「よし、それじゃあユスティが歌ってよ。今日一日の歌姫だね」

「わ、私がですか?人前で歌うのは恥ずかしいのですけれど……せっかくなのでやってみますね」


そして三曲目が始まる。思いのほかユスティの歌声は見事の一言に尽き、思わずリュートも聞き惚れる。しかし、負けじと弦を弾く。




リュートが軽やかに弾き


メアリーが優しげに吹き


ユスティが可憐に歌う。


これら三つのメロディーがひとつとなって溶け合い、美しい調和(ハーモニー)を作り出す。それに合わせて他の者たちも踊りだし、この空間内が外とは別の次元にあるかのような、そんな印象を受ける。



みんなの心の底からの笑顔と笑い声、床を踏むステップの音、美しい音楽。それらは外まで聞こえ、周囲で騒いでいた者たちも何事かと、まるで光に誘われ群がってくる虫のように集まってきた。



この日、この村で最も賑やかな宴となったであろうこの宿では、夜遅くまで軽快な音楽が鳴り止まなかったという――――。

















ちなみに、今日頑張ったメアリーへのご褒美として二人で一緒に寝た。もちろん、そうなると何が起こるかは予想するのも簡単であり、メアリーが気絶するまで続けたらしい。


リュート曰く、「悶え、乱れるメアリー可愛すぎ」だそうだ――――――爆発すればいい――……。



久しぶりに出てきた設定ですが、リュートは演奏が得意です。


そろそろトルタ村あたりの話も終わりです。あと1,2話ぐらいですね。その次は戦争の話になります。



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