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新たな幕開け

メアリーとロジックの闘いに決着が付いた少し先のころ。リュートたちのいる場所から遠く離れたとある場所に、彼らはいた。


薄気味悪い霧が辺り一帯を包み、周囲は森で囲まれた、閉ざされた古城。


年齢も性別もばらつきがある彼らは、その場所にいるとおり、やはり普通ではなかった。全員の体から発せられるのは、強烈にして濃厚な“殺気”。


しかし誰もそれを不思議に思わず、恐怖にも打ち震えず。まるで当たり前のようにその場にいた。





その中の一人が口を開く。


「なあ、なんで俺らが集まったんだ?今日は集会の日じゃねえはずだぞ」


少し口の悪い、盗賊のような顔の男は、両手に黒い手甲をつけていた。男が訪ねたその先には、眉目秀麗の一言が似合う、美しい青年がいた。


「あーそれ、あたしも聞きたいなー。正直めんどくさいんだよねー」


今度はまだ若い、少女とも言えそうな女が尋ねる。そんな彼女の腰には、黒い一冊の本がかけられていた。


現在話しているのは、主にこの二人だ。美しい青年の他、残りの二人はただじっと佇んでいる。話す気はないということだろうか。


「そういや、ロジックの野郎がいねえな。なんだ、死んだのか?」

「あ、それホントなら嬉しいかもー。あたし、あのキザ野郎嫌いなんだよねー。弱いくせになんか偉そうでさー」


二人とも冗談めいた口調で言う。そんな彼らに、ようやく青年が口を開いた。


「そのロジックですが、つい先ほど死んだらしいのです」

「ほッ!?」

「へぇー、……え、マジで?」


突然告げられた事実に、静観していた二人を含めた4人全員が驚きの表情を浮かべる。


いくら本人が実力的に弱いとはいえ、一応竜滅の神器ドラゴンスレイヤー)に選ばれた男だ。彼が得た力は属性竜ですら打ち倒せるほどの力なのである。そんな彼が負けただけでなく、死んだとまで言われた。


驚くなというのが無理だろう。


「……おいおい、まさか集まった理由はそれか?」

「いえ、今回の集まりは別件の予定でした。しかしつい今しがた、ロジックの死亡が確認されたのです。さらに言えば、【カドモスの槍】も破壊されたそうですよ」

「へー、だれがやったのー?」

「へッ、俺らを殺せるやつなんて、六皇竜にきまってんだろうが。そんなこともわかんねえのかよ、このクソガキは」

「カッチーン……頭きた。あんた、今ここで死ぬから。もうほんと、肉塊の塊にしてあげるから」

「あ゛あ゛ッ!?逆にてめーをミンチにしてやんよ!」


何故か口喧嘩へと変わり、さらに二人が互いの武器を手に構える。その瞬間、彼らの体から発せられる殺気がさらに膨れ上がった。先ほどまでの殺気も、やはり本気ではなかったのだろう。


今にも殺し合いが始まり出しそうな雰囲気の中、青年が止めに入った。


「二人とも、ここで殺し合いなんてやめてください。さもないと――――――殺しますよ?」


二人とは比べ物にならないほどの殺気が放たれる。それは殺し合いを始めようと殺気立っていた二人を狂気にも似た戦意からそらせる程であった。


「……っち」

「やだなー、ほんとにするわけないじゃんー」


大人しく武器を下げる野獣の男と少女。それを視界の端に留めた青年は、ため息を一つ付き、話を再開する。


「まったく……。まあいいでしょう。それよりロジックのことです。先ほどこれが飛んできまして。何よりの証拠になるでしょう」


そう言って、青年が懐からあるものを取り出し、机の上に置く。それは、リュートたちの元から飛んで消え去った、風の文字が刻まれた水晶である。


「……おいおい、マジかよ」


髪をかきむしり、面倒そうに呟く男。


「今、竜滅の神器(ドラゴンスレイヤー)が欠けることはなるべく防ぎたいのです。ですので、新たな適合者を探さねばなりません」

「えー?けどさー、ロジックでさえぎりぎり適合できた程度でしょー?うちの組織にあいつ以上に使い物になるやつなんていたっけー?」

「はんッ、ほんと間抜けだよな、お前ってよ」

「なによー?」

「そんなもん、無理やりそのレベルまで造ればいいじゃねえか。それが無理なら、どこかから素質のある奴を攫って洗脳すればいいだけのことだろうが」


興味なさげに言う男だが、言っていることはかなり非道い。しかし、少女は「なるほどー」と納得顔だ。


「それでは、その役はあなたに頼みます。今度はちゃんと使い物になる奴をお願いしますね」

「げッ、俺かよ」


これでこの話は終わり、と会話を切る青年。次に彼が見たのは、椅子の上で腕を組みつつ、瞑想中の男だ。


少し歳のいった、初老の男。顔には大きな傷があり、無事のような雰囲気である。彼の背には、大きな黒い()。この世界では珍しいその刀には、刀身と柄の間に、水晶が埋まっていた。


「ムジャルタ、あなたの方はどうなっていますか?」

「……何も問題はない。すべて、準備は順調に進んでおるわい」


厳かに口を開くムジャルタと呼ばれた初老の男。


「帝国には儂の部下十数人をつけてある。例のものも既に完成しておる。何も心配はいらんわい」

「そうですか、それはよかった。帝国は三大国の一つと言われていますが、実際は軍事力、経済力、属国数においてトップなのは間違いありません」


これが現状の世界情勢だ。シュベリア王国とその同盟国やエメリア教国は大国であるためまだ表立って責められることはないが、裏では色々とあるらしい。小国のほとんどは帝国の属国となっているのである。


「奴らの国で、以前何者かが侵入したらしいですね。そのせいでかなりの被害を受けただけでなく、“ガルガント”も破壊されたらしいですが、そのへんも?」

「何度も言わせるな。すべて、滞りなく進んでいると言っておろうが!」

「すみませんでした。それでは、準備が終わり次第、計画を進めてください」

「……わかっておる」


ムジャルタがどれほど殺気を膨れ上がらせようが、青年は顔色を変えず、淡々と話を続けた。それを受けてか、ムジャルタも気を落ち着かせ、厳格な態度となる。


青年は一度間を切り、全員を見渡して言う。


「ほかの人たちも各々与えられた計画に沿って行動してください。それと、部下たちの育成もお願いします。弱者はいりません。多くの弱者よりも、少数の強者を選んでください。そのための手段は一切問いません」

「相変わらず、言ってることは結構えげつねえなオイ」

「当然です。我々の目的は、“あの方”の復活と竜どもの殲滅なのですから。生半可な者は邪魔でしかありません」


そこで一度区切る。次に青年が口を開いた時、彼の目には冷静な冷たい目ではなく、爛々と輝く狂気の瞳のみが写っていた。


「――これは、“あの方”と我々、そして龍神たちとの(いにしえ)より続く聖戦なのです。“あの方”に勝利をお与えするため、我々は貪欲に力を求めることが求められます。どんな手を使っても。






全ては、我らの新たなる世界の為に」




「「「「全ては、我らの新たなる世界の為に」」」」


青年が言い、ほかの4人が復唱する。その声には先ほどまで声を荒げたり、のんびりとした口調はなく、巨大な意志を持った、力のある声であった。


「それでは解散してください。貴方がたの頭に、新たな任務と次の計画の内容を送っておきました。本日は以上です」


そう言うと同時に、4人の額の部分が淡く光った。どんな手段化はわからないが、どうやら彼には情報をこのようにして伝える手段があるらしい。


光が収まると、それぞれが部屋を出ていく。それぞれがこれまでいた場所、これから向かう場所へと行くのである。







――一人の男が城の外に出た。決して晴れぬ薄暗い雲のした、霧がかかった薄暗いその場所で、男は空を見上げる。


彼は野獣のような男だった。青年から竜滅の神器(ドラゴンスレイヤー)・風の適合者を探すよう頼まれていた者である。


彼は悩んでいた。ロジックは彼ら6人の中では最弱であったが、あのレベルの男もそうそういないのも事実なのだ。


「部下の中から数人選んで竜の巣にでも放り込むかあ?生き残れたら適合する可能性がありそうなんだけどなあ」


めんどくさそうにガリガリと頭をかきむしる男。見た目のとおり、彼は頭を使うのは苦手らしい。


そうしてしばらく考えた後、ハッとして顔を上げる。


「軍事力NO,1の……帝国……か――。そういや、なかなか面白そうな奴がいた気がすんなぁ……」


そのことが頭に浮かび上がった時、彼は獰猛な笑みを浮かべていた。


不気味な風が吹き、木の葉が舞う。次の瞬間には、男の姿は既にそこになかった――。












 ***


――シュベリア王国執務室。


現在そこでは、この国の王が書類整理に追われたいた。そんな国王の顔は、どこか浮かない表情である。


「はあ、セディックよ、娘が親離れしてしまった。なんとも悲しいことだ」

「陛下、それはいつか来るとわかっておられたはずです。それに、あの方ならば安心して任せて置ける、そう申したのは陛下ご自身ではありませんか」

「確かに、リュート殿のそばに居れば、そこより安全な場所等どこにもないだろう。しかし、父親としてはやはり、寂しいものは寂しいのだよ」

「はあ、気持ちはわからないでもありませんが……」


宰相セディックとしても、ユスティは他の王子たちと同じく、彼らが幼いころから面倒を見てきた者たちのひとりだ。彼としても若干の寂しさはあるが、どちらかというと龍神の妻となるユスティに賞賛を送っているのである。それは間違いなく、歴史に名を残すこととなるからだ。




そんな風に、国王と宰相が愚痴りながらも着々と仕事を終わらせる、平和な日々が続いていた。


――――この日までは。



突然、部屋の扉が叩かれる。ノックの音だが、どこか激しい音だった。


「王立騎士団副団長、レイディ・マクガーデンです。至急、陛下にご報告したいことがあります!」


どこか焦りや緊張の声色なため、部屋の中で警護にあたっていた騎士団長が国王を見やり、首をこくりと頷かせる。それを見たガルドは、「入れ!」と入室を促した。


「失礼します!」


中に入り、素晴らしい直立の姿勢とともに敬礼を取る副団長。


「それで、一体どうしたのだ?報告とはいったいなんだ?」

「はッ、先日、帝国に放っていた諜報員計10人のうち、9人との連絡が途絶えました」

「ッ!?ついに帝国に動きがあったというのか!」

「そのようです。最後の一人が情報を伝えたあと、その者は力尽きました」


命からがら、情報を持ち帰った諜報員。その者が持っていた情報は、なんとも信じがたいことであった。


「それで、その者はなんと言っていたのですか?」


宰相が尋ねる。彼の表情にもまた、緊張の色が読み取れる。


「帝国が――……」


その場の者たちが、ごくりとつばを飲み込み、副団長の次の言葉を待った。そして伝えられる、平和にひびを入れる知らせ。








「……――大軍を率いて、この国への進軍を開始したそうです」





お待ちくださった読者の皆様、遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。言い訳をさせてもらうと、ここ最近、休日がないのが主な原因です。


受験生でもないにもかかわらず、土日は模試で埋まっておりまして。もう2週間は休んでおりません。そして、来週もまたあります。その次はようやく日曜が休みですね。


今更ながら、なんでこの高校をえらんだのかと泣きたくなってくる今日このごろです。



ですが、更新停止などは絶対にしませんので。これからもよろしくお願いします!

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