カドモスの槍
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!
(遅くなってすみません)
一瞬で黒い化け物の一体と距離を詰めるメアリー。
「グアアオガがアアあッ!!」
理性を感じさせない叫びを上げ、黒い化け物もメアリーへと襲いかかる。巨体に見合わぬスピードでこちらもメアリーへと詰め寄り、大きな異形の腕を小さなメアリーへと振り下ろす。
メアリーも負けじと腕に黒いオーラのようなものを纏い、敵の腕へとぶつける。拮抗することはなく、メアリーが勝った。そしてそのままその巨体を吹っ飛ばす。
「危ないッ、メアリー様!!」
ユスティが叫ぶ。その視線の先には、メアリーの後方から狙っている他の黒い化け物。ユスティが叫ぶと同時に、その化け物の両手が幾重にも分裂し、メアリーへと襲いかかった。
「……この程度ッ!」
メアリーは振り向きざまに手を向け、軽く振り払う仕草をする。
それと同時にメアリーの影がまっすぐに伸び、やがて地面から離れていくつもの大きなトゲへと変化する。それらはメアリーへと向かって襲いかかる敵の攻撃を貫き、切り裂いた。
「グガォォッ!?」
「ゲギャガがグガッ!!?」
反撃に驚き、一瞬体勢を崩す化け物たち。その隙を見逃すメアリーではなく、一瞬で背後を取り、頭部と思われる部分を掴む。そのまま全力で地面へと叩きつけた。
凄まじい衝撃に大地が揺れる。地面が粉砕され、その化け物たちは「どざえもん」のように地面に埋まっていた。
今の一撃は魔力を帯びない、完全な腕力のみによるものだ。にもかかわらず、地面に叩きつけただけでこれほどの威力。これが、竜皇クラスの力なのである。
しかし、まるで傍観者のようにしてメアリーと自分が生み出した化け物たちとの戦いを見ていたロジックは、相変わらずの胡散臭い笑顔と共に拍手をしていた。
「さすがは黒皇竜!私の手駒の中でも選りすぐりを召喚したのですが、あなたにかかればこのざまですか!いや~お見事デスッ!!」
「……この程度で私たちの相手をするなんて、ふざけすぎ」
「ですが、あなたにもダメージはあったはずですよ?最後の一撃のときに」
言われてメアリーは、自分の両手のひらを見る。その手は火傷のようになっており、少量の魔力がまとわりついていた。その魔力は、トルタ村でラーニャの母親から感じたものと同じだった。
「……その黒い化け物たち。私は、禁術によるものだと思ってた」
「禁術?そんな生易しいものじゃありませんよ」
ロジックは若干、見下すようにして言い放つ。それに対してムッと顔をしかめるメアリー。
「6つの竜滅の神器にはそれぞれ違った能力がありましてねぇ。この“カドモスの槍”の能力は、この槍で殺したドラゴンの魂と感情を捕らえ、操るものなんですよ。だから、さっきからあなたが戦っている化け物共は、かつてワタクシがこの槍で殺したドラゴンたちの魂なんですよね~」
殺したドラゴンの魂を捕らえ、自分の従順な操り人形へと造り変える能力。だからこそ、この技は“死霊召喚”という。そして、奴らの根源は、殺されたことによる怒りや憎悪といった負の感情である。それらが純粋な“力”となり、触れるものに呪いを与えるのだ。
そんな恐ろしいことを、なんてことないように話すロジック。
「ひどいですわ……」
「あいつ、やっぱおかしいだろ……いろいろと……」
「あの野郎!?今すぐ燃えカスにしてやろうか、ああッ!?」
「ええ、それがいいわね!今すぐ燃やしちゃいましょう!」
後方でいろいろと騒いでいる者たちがいるが、ロジックは聞こえていないのか、さらに続ける。
「この槍であなたを殺し、ワタクシの従順な下僕と変える。その力はこれまでのモノたちに比べて強大であることは明白。……ああ、考えただけでもゾクゾクします!!」
その言葉が決定的だった。
メアリーの後方で突如、膨大な魔力の爆発が起こったのである。魔力の量からして、振り返らなくても誰だかわかる。
リュートだ。
銀色の魔力が渦巻き、少し長めのリュートの顔がバサバサと揺らいでいる。その顔は笑っているのが、何故かとんでもない威圧感を与えてくる。彼の魔力に耐え切れず、足元の地面に徐々に亀裂が入っていた。
「あはは……そこのクズ野郎を消しとばしちゃってもいいよね?」
それを聞き、見た者たちは瞬時に理解する。
――あ……殺る気だ――と
体中から冷や汗をかきながら黙って見ていると、リュートは足を踏み出そうとした。その時、リュートに待ったをかける声がする。
「リュート様、これは私の戦い……。私に、戦わせて?」
息を飲むような美しい微笑みと共に、リュートに告げるメアリー。それは、絶対に負けないという自身の表れである。二人はしばし視線を重ねる。
そしてリュートも微笑んだ。
「そうだね。メアリーが負けるわけない。アイギスさんとサラマンディアさんも、手出し無用でお願いしますね」
「了解しました」
「わかったわ」
二人もメアリーの意思が伝わったようで、先ほどまでの怒りを押さえ、了承した。
「よかったんですか~?協力してもらったほうがいいと思うんですけど」
ロジックが馬鹿にしたように言ってくる。
「……あの死霊たちは、私の敵じゃない。あとは、あなただけ」
「何か勘違いしているようですが、この子達は死霊。あなたの攻撃は全くダメージとして残っていませんよ?この子達はほぼ不死のような存在なのですから」
そう言うと共に、黒い化け物たち――死霊たちはゆっくりとロジックのもとに集まる。先ほどメアリーが叩きつけた二体も、何事も無かったかのように起き上がり、歩きだした。
その様子を若干驚いた表情で見るメアリー。
「まあ、今の状態じゃ勝つこともできないというのはわかったので、こいつらにも全力で戦ってもらいますよ」
そう言い、近くの一体に“カドモスの槍”を突き刺す。刺された死霊は次第に原型を留めなくなり、その体から4本の触手のようなものを他の死霊に繋げた。触手に引っ張られるようにして一体の死霊に集まり、5体全てが合体していった。
それは徐々に大きさを増していき、やがて山程の大きさにまでなった。
「ゴギャアアアォォおガガおアアぁアッッ!!!」
野太い咆哮を上げる巨大な死霊。その声は大気を震わし、不快なノイズとなってリュートたちの耳に届いた。威圧感も禍々しさもこれまでとは比べ物にならないほどであり、これを見れば先ほどまでの5体など、まさしく雑魚である。
巨大な死霊は腕を振り上げ、メアリーへと振り下ろす。速さも大きさも最初とは桁違いなため、メアリーは空中に避ける。
それと同時に地面が爆発した。
大きな石礫が周囲に降りかかり、土煙が津波のようにしてリュートたちに襲い掛かる。メアリーは心配してリュートたちを見るが、リュートが全員を結界で覆っていたため、被害は無かった。
ホッと息を付き、改めて巨大な敵を見る。
「……的が大きいなら、新しい魔法の標的」
メアリーは空中で両手を突き出す。そして一瞬目を閉じ、頭で思い浮かべる。やがてイメージは固まり、それらを現実に具象化していく。
「――……黒き世界の始まり」
生まれ出たのは、40もの黒い巨大な大剣。かつてリュートから教わり、その後一人で特訓していた魔法である。
「この数になると、操作が難しい。でも、的が大きいから、やりやすい……!」
メアリーがキッと視線を向けると同時に、全ての大剣の切っ先が巨大な死霊へと向けられる。
「――いけ……!」
その声とともに、全ての大剣が一斉に放たれる。それらは縦横無尽に飛び、そして死霊の体のあらゆる箇所に深く刺さった。
40もの大きな剣が体中に刺さっている姿は見ていて痛々しく、ふつうなら既に絶命しているはずである。しかし、この敵は普通ではないのだ。
「ですから、さっきも言ったでしょう?こいつにそういった攻撃はききませんよ。斬ってもすぐに元に戻りますから」
聞き分けのない子供に言い聞かすかのように、首を横に振りながら言うロジック。事実、巨大な死霊に突き刺さっていた大剣たちは徐々に崩れていった。そして残るのは、何事も無かったかのように立っている死霊のみ。
「そろそろ、死んでくれませんかねぇッ!!」
ロジックが叫ぶ。それに応えるように、死霊の頭部が大きく開き、そこに魔力が集まっていく。それはまるで――。
「――竜の息吹――……!?」
それはまるで、リュートやメアリーたちが使う竜の息吹にソックリだった。これには流石にメアリーも驚きの表情を隠せない。
「何を驚いているんですか?こいつはドラゴンの魂から作られているんです。別にブレスができたっておかしくないでしょう?――さあ、殺りなさいッ!!」
「グウウガアアガガア!!!」
黒い魔力が集まり、それが一気に放たれる。それはまさしく極太のレーザー砲のようだ。メアリーは凄まじい速さで放たれたそれを、横に移動することで間一髪、避けることができた。標的を失ったそのブレスは地面を一直線に走り、遥か先の火山の一つに直撃した。
その火山は膨らみ、そして大爆発を起こす。爆発によって吹き出したマグマや溶岩が広範囲に飛び散り、空が真っ赤に染まる。
それだけじゃない。ブレスが走った地面はなぎ倒され、周囲の木々も枯れていった。
「このブレスはいわば、死霊の呪いの集大成です。当たれば命を吸い取られるか、呪いで一生動くことができなくなります。ですので、当たってくださいよ☆」
楽しそうなロジック。しかしメアリーはそのことに全く動じてはいない。しばらく今も噴火し続ける火山を見ると、真剣な顔になる。
「……次で終わらせる。呪いなんか、関係ないから」
「……その強がりも、大概にして欲しいですねぇッ!!」
メアリーの一言にイラついたのか、先ほどまでの胡散臭い笑みを消し、鬼のような形相で叫ぶロジック。その叫び声に応えるように、先ほど以上に魔力を貯める死霊。対してメアリーは何をするでもなく、ただ空中に立っているだけだ。
「――暗闇の終焉――……」
不意に、メアリーが右手を上げる。そこにできたのは、二つの大きな黒い球体。いつもの魔法のように周囲を圧倒するほどの威圧感も、大気を震わすほどの荒々しさも感じず、ただそこにある、というように作り出されたその球体。
それは徐々に細く長く形状を変え、やがて二本のランスのようになる。
「これが、私の究極魔法」
「今更何をしても、これで終わりですよ!さあ、やってしまいなさいッ!!」
「ガガぁアぁゴゴオオアガッッ!!!」
二度目のブレスが放たれた。やはり一度目よりも大きく、感じる力もはるかに強大である。それをじっと見るメアリー。視界がブレスでいっぱいになった時、メアリーも動いた。
「――飲み込め……」
上げている右腕を、ブレスめがけて、いや、死霊めがけて放たれた闇を具現化したようなランスは、一直線に向かって行った。
そしてぶつかる、呪いの集大成のブレスとメアリーの究極魔法。
普通なら、どちらかが相手の魔法に蹴散らされて終わりになるだろう。しかし、今回は違った。
大きさでは小さいメアリーの魔法が、死霊のブレスを吸収していきながら変わらぬ速さで進んでいくのだ。それだけでなく、吸収するに合わせて肥大化していく。
最初よりも2・3倍ほどの大きさとなったメアリーの魔法は、やがて死霊の中心に深く突き刺さった。
「――はっ!その程度の攻撃で私の死霊は倒せないと、何度言ったらわかるんです!?それで究極魔法などと、本当に笑わせてくれ――……え?」
途中で言葉が途切れたロジック。唇がワナワナと震えている。
彼の視線の先には、体に刺さる巨大なランスに侵食され、徐々に小さくなっていく死霊の姿が。ドス黒いからだを深い闇が飲み込んでいく様は、見ている者を恐怖させた。
「ゴギャアぁアGAOオオガアガッッッ!!!?」
悲鳴のような絶叫を吐き出す死霊。どうにかしてランスを抜こうとするも、ランスに触れたとたん、そこからさらに侵食されていった。
そして抜け出すことは出来ず、不死身に近い存在であったはずの死霊はあっけなく闇の中に消えていった。
「な……なんだ、なんなんだその魔法はッ!」
今までのなめくさったような態度が一変し、取り乱したように叫ぶロジック。無理もないだろう、自分の切り札とも言える死霊、その集合体があっけなくやられたのだから。
そんな彼を尻目に、メアリーは無表情で告げる。
「……闇は、全てを飲み込む。肉体も、感情も、力も、――魂さえも。全てを無に帰してしまう」
一度取り込まれてしまえば、二度と光の世界には戻って来れず、永遠に闇に囚われることになる、これが、メアリーの究極の魔法だ。ロジックの死霊は確かに何度でも再生できる能力を持つが、メアリーとは相性が悪かったのである。
メアリーは感情を写さない漆黒の瞳をロジックに向ける。
「あなたは、同胞の魂を弄んだ。私は、あなたを許さない。……あなたを、永遠の地獄に落とす」
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁッ!!」
逆上したロジックは、カドモスの槍を構えてメアリーめがけて突進してきた。
黒い風がカドモスの槍を纏い、やがてロジックの全身をも纏う。それは巨大な竜巻がメアリーに迫っているのと同じだ。竜巻と違うのは、それがメアリーにとっては天敵ともいえる力によって生み出されていることである。
「くたばれ、黒皇竜ぅぅぅぅぅうううっっ!!」
恐ろしい形相で向かてってくるロジック。その速さは確かに尋常でないほどであり、一気にメアリーへと迫った。
そしてメアリーに接触しようかという時、メアリーは横にずれて躱す。しかし、限界まで引きつけていたために躱すときに黒い風の刃が頬をかすめたらしく、頬から一筋の切れ痕とともに鮮血が噴き出した。
しかしロジックは仕留められなかったことにイラつきを見せる。一度停止し、再度力を貯めようとしている。
「くそっ!次こそ『ズンッ』……へッ?」
再度突進しようとしたロジックだが、突然腹に違和感を感じた。目を向けると、ロジックの腹には先程死霊を飲み込んだのと同じ、漆黒のランスが突き刺さっていた。
あまりにも突然であったためか、頭が理解に追いつかない様子のロジック。しかし、ランスが次第に自分の体を侵食していっていることでようやく今の状況を解したらしい。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!?」
完全に冷静さを失ったロジックは、手からカドモスの槍を離してしまう。
「……あなたは、武器の性能に頼りすぎ。武器はすごいのに、あなたははっきり言って雑魚。そんなので私に勝つだなんて、ふざけないで……ッ!」
メアリーの辛辣な言葉にしかし、ロジックは怒りと憎しみの表情を浮かべるのである。
「黙りなさい!この、トカゲごときがぁぁッ!!」
ひととおり罵詈雑言をメアリーに吐くロジック。もはや彼の体のほとんどが飲み込まれている。もう助からないことをようやく悟ったロジックは、歪んだ笑みを浮かべて龍神を見る。
「フフッ、龍神……あなたがのうのうと暮らしていられるのも……今のうちです……。此度の聖戦……我らの王、――……が、あなたを……殺……す……」
意味深なことを伝え、ロジックは完全に闇の世界へと飲まれた。
滅竜の神器・カドモスの槍
VS
六皇竜・黒皇竜
勝者――黒皇竜
大口叩いて出てきたロジックですが、やはりあっけなく負けました。
アレです。最初に出てきて負けたとたん、「俺は所詮あいつらの中でも雑魚。第二第三の~」とか言う感じのテンプレな弱敵です。
感想、よろしくお願いします!




