現れた“敵”
三週間ぶりの投稿です。
お待たせして申し訳ありませんでした!
世界を照らすかのような光が収まり、視界は良好となってくる。
やがて、ユスティたちの目に映ったのは、無傷で威厳と壮厳さを醸し出している龍神と虹龍。そして、満身創痍で今にも地面へと落ちそうな炎夫婦。
勝負の決着はついたのだ。
それを理解してか、虹龍は頭を龍神にこすりつけるという本物の生物のような仕草をした後、光の粒子となって消え去った。それを見届けたあと、リュートはサラマンディアたちのもとまで向かうと、回復魔法をかけた。
柔らかな光とともに、疲れや傷が尋常ではないスピードで回復していき、数秒で元気な状態となった。
『……回復までしていただき、ありがとうございます』
「ありがとうございます」
礼を言う2人だが、その顔はやはり悔しそうである。勝者からかける言葉はないため、リュートは何も言わずに“人身変幻”を発動し、ヒト型に戻る。そのほうが話しやすいからだ。それを見て、炎夫婦もヒト型へと変幻する。
「ふう……それじゃあ、みんなのところに行こうかな。二人も来てもらえる?話を聞きたいし」
「もちろんでございます。我らが王の命とあらば」
「あはは……そんなに畏まらなくてもいいのに」
苦笑し、そのままメアリーたちのもとまで向かう3人。少し力を出しすぎたと思い、メアリーたちが心配だったリュート。しかし、見てみれば黒皇竜状態のメアリーが耐えていてくれたらしく、全員無事だ。まあ、ほとんどが腰を抜かしているだけなので、一応無事と言えるだろう。
「みんな、大丈夫?」
それでも一応、声はかけておくリュート。
「まあ、無事だけどよ……」
「相変わらずの戦いぶりですね。以前メアリー様と闘った時よりも凄まじさを感じました」
「リュートはすごいんじゃな!!」
「お兄ちゃん凄い!!」
みんなが声を返してくれるが、それにギョッとしたのはアイギスである。全ての生物の頂点である龍神にたいして、ただのヒトがあたかも友のように、家族のように話しかけている。それが信じられないのだ。
「貴様ら!!我が王に対して無礼な――」
「――アイギス」
「ッ!?」
アイギスが咄嗟に威圧し、彼女たちを咎めようとする。彼からすればホンの少し威圧しただけだが、ただのヒト種である彼女たちにはそうはいかない。一気に顔を青ざめるほどだ。
それを遮るように、リュートが一度、赤皇竜の名を呼んだ。アイギスにだけ感じられるように、彼以上の威圧をぶつけてである。よって、今度はアイギスが青ざめることとなった。
「彼女たちはみんな、僕の大切な家族なんだ。これが普通なの。いいかな?」
「……申し訳、ありませんでした。ご無礼をお許しください」
彼がこれまで味わったこともないような、恐怖とも言えぬなにかが彼を襲った。よって、すぐさま謝罪する。
『リュート様、私も、変幻したい』
「ああ、ごめん。1回どこかに降りようか。そのほうが話しやすいしね」
メアリーが一人だけ竜形態であることにのけ者のように感じたのか、少々拗たように告げる。
リュートは苦笑し、下へと降りていく。地面はリュートたちの闘いの余波で更地になっていたり、木々が焼け倒れていたりするので、座る場所はすぐ見つかった。
リュートが地面を土属性の魔法で綺麗に整え、そこに他の面々も降り立つ。ユスティたちを地面に下ろすと、メアリーも人身変幻を使い、ヒト型になるとリュートのそばへと降り立つ。
「さて、と……。アイギスさんたちに聞きたいことっていうのは、数年前に近くのトルタ村ってところに、黒い化け物が現れたことについてなんだけど……」
「黒い化け物……?」
「それってあれじゃない?私たちに襲いかかってきた、生き物と呼べるかもわからなかったヤツ」
「ああ、あれか」
少し思案する夫婦だったが、サラマンディアが何かを思い出し、そしてアイギスも思い至ったようだ。
「知ってるの?」
「ええ、まあ。三年前に我々が住み着いていた火山に突然やってきて、我々に襲いかかってきたのです」
「まあ、私たちの敵じゃなかったけどねえ」
――この二人にかかれば、たいていのものは敵になりえないのでは?
そんな疑問が湧き出るユスティたちだが、今は口を挟まず、彼らの話に耳を傾ける。
「そいつのことについて、話を聞いてもいいかな?」
「もちろんでございます。ヤツは――――ッ!?」
アイギスからこれから話そうとしたその瞬間、リュート、アイギス、メアリー、サラマンディアの四人が血相を変えて空を見た。
リュートが手を挙げ、彼ら全員を覆うほどの結界を張る。それと同時に、大きな何かが結界を襲った。
「きゃああああッ!」
「うわあッ!なんだぁッ!?」
突然のことに悲鳴をあげる少女たち。
衝撃の後、数十秒ほど訪れた沈黙。やがて煙が晴れ、周りがよく見えるようになる。その先、茂みの向こうへと、何かの気配を感じたらしいリュートが声をかける。
「……あなたは誰だ」
静かな、怒りのこもった声。しかし、そんなリュートの問いには答えず、茂みのむこうから軽快な声と共に、人影が現れた。
「いや~あははっ。さすがは竜皇様方。この程度の攻撃をものともしないとは。いや、流石にワタクシ、傷つきましたよ~」
全くそんな風には思えないほど、軽そうな雰囲気を与える襲撃者。その者は、糸目の若い男で、右頬には黒い環が彫られていた。黒い肩までの髪と、地球のマジシャンのような奇天烈な格好をしているその男、口調とは裏腹に、体中から滲み出る殺気は尋常ではなかった。
しかし、それ以上に気になることがあった。
「貴様、我々が竜皇であることがわかるのか?」
竜皇といえど、ヒト型の状態では魔力も気配も抑えているし、普通ならわかるはずがない。しかし、この男は、アイギスたちが竜皇であることを断定したのだ。
それを男は、さも当然のように答える。
「だってあなたたち、竜特有の魔力を感じるんですもん。ここに来たのは偶然近くを通りかかった時に、複数の竜の魔力を感じたからですし。でも変なんですよね~。間違いなく二人は黒皇竜と赤皇竜だ。しかし、そこの少女とあなたからも竜の魔力を感じる。はて、なぜでしょう?」
こてん、と首を傾ける男。まったくもって可愛くない。
「竜の魔力を持つ、九尾の獣人の少女……ああ、そうか!その子が『龍神の巫女』なんですね!で、そっちの銀髪のお美しい御方が『龍神』様だ!!」
「「「――ッ!?」」」
スッキリした!とでも言いそうなこの男。龍神や龍神の巫女の存在を知っているということは、この男は一般人ではないことが確定した。
「あなたは何者ですか?何故僕たちのことを知っている?何故、竜の魔力を感じ取れる?」
リュートが矢継ぎ早に質問する。男は少し考えて、口元をニコッとさせ、こう言った。
「今は秘密です☆」
その笑顔は、リュートたちを盛大にイラつかせた。アイギスなど、今にも飛びかかりそうなのをなんとか自制しているくらいだ。
「それよりも、まさかこんな所でこれほどの存在たちに出会えるとは。ワタクシも運がいい。――狩りがいがありそうだ」
その瞬間、男の体からさらに殺気が膨れ上がった。瞬時に警戒するアイギスたち。
男はどこからともなしに槍を取り出した。黒く塗りつぶされており、戦闘の邪魔をしない程度に装飾が施された、見事な槍だ。見るものが見れば、虜にしてしまうだろう。しかし、リュート、アイギス、メアリーはその槍が現れたとたん、顔をしかめた。
「リュート様、あれ……」
「うん……なんだか嫌な感じのする槍だね……」
何故かはわからない。しかし、その槍が現れた瞬間、三人は本能でその槍に対する忌避感を感じたのだ。
男たちはそんなリュートたちを見やると、ニヤリ、と嫌な笑みを浮かべた。そして、その槍を地面に突き刺し、呪文を唱える。
「“死霊召喚”」
その言葉とともに、槍から黒い光が溢れ、それは周囲の地面へと広がっていく。そこから次々と現れる、“黒い何か”。やがてそれらは明確なヒト型へとなっていく。
数は全部で5体。いずれも、メアリーたちの使う魔法で生まれる闇・影とは何か違う存在感を与えてくる。
「あれはッ!?」
「うそッ!」
それらを見て、驚きの声を上げる炎夫婦。
「二人とも、どうしたの?」
「さきほど申し上げた、黒い異形の化け物です。まさしくアレなのです」
リュートが尋ねると、先ほど話題の中心となっていた、トルタ村を襲った怪物、それと同じ雰囲気を感じるというのだ。これに驚くリュートたち。
「おや、以前偵察として使わした死霊、あなたがたが倒されたんですか?あの子は所詮偵察として生み出したやつですし、大した強さでもありませんでしたしね。途中でくたばったのかと思っていたんですけどね~」
いや~あはは、と笑っているこの男、やはり不気味である。
「まあこいつらとは別に、まずはこの攻撃を受けてみてくださいよ」
そう言い、腰を落として槍を構える男。その槍には、人間としては異常なほどの魔力が集まっている。それに対してアイギスが前に出た。
「おかしなものを感じるが、所詮は人間の武器。わざわざ我が王のお手を煩わせる必要はありません。ここは俺が参ります」
「あなた~がんばって~」
アイギスは今にも怒りが爆発しそうな表情だ。しかし、自分が赤皇竜であることへのプライドからか、自分から攻撃を仕掛けることはしなかった。ただ、相手の出方を待つのみである。
「それじゃあ、いきマース!――“ジョルト”!!」
極限にまで引き絞られた腕、回転しながら放たれる強烈な突き。それと同時に黒い風が生まれ、竜巻のように渦を産んでアイギスへと直進する。
「――ッ!?やはりこの魔力、普通ではないな。ではこちらも、それ相応にいかせてもらう!」
アイギスも顔を引き締め、右手を前に向ける。そこから放たれた炎は巨大な壁となり、男の攻撃に備える。
そしてぶつかる、黒い風と炎の壁。だが、拮抗することはなかった。
アイギスが込めた魔力は人間に向けて使う量とは比にならないほどだ。しかし、それでも黒い風が炎の壁を貫通し、アイギスへと襲いかかる。
アイギスもただ受けるのではなく、炎を手に纏い、全力で振り払った。その時、黒い風は消え去ったものの、アイギスの手に傷を負わせる。
「嘘でしょ……アイギスの手に傷を負わせるなんて……」
サラマンディアが信じられない、というように驚きの声を上げる。サラマンディアは精霊であるため、男の武器は普通の魔剣レベルの武器にしか感じられないのだ。そのため、アイギスの魔法を打ち破り、ヒト型で各段に弱くなっているとはいえ竜皇クラスに傷を与えた。それが信じられないのである。
アイギスは自分の手をじっと見つめていた。傷から血が止まらないのだ。
「あなた、今わざと受けましたね?何考えてるんですか~?」
「傷の治りが遅い……どころか、血が止まらない。なるほどな、今、確信がいった」
「へえ、確信とはいったいなんでしょうか?」
「貴様のその槍、それは竜滅の神器だろう?」
その言葉に驚いたのは、リュートたちの方だった。どうやらメアリーは聞いたことがないようだが、リュートはもちろん知らない。しかし、その名前はゲームなどでよく聞くものだ。想像するのは容易い。
「おや?竜滅の神器のことを御存知でしたか」
「最近、人間たちの間で噂になっている。最強種である竜を狩る集団。そいつらは黒い武器を持ち、一人で属性竜をも打ち倒せるらしく、一部の者共の間では英雄視されているとな」
「おやおや、英雄とは恥ずかしいですねえ。我々としてはドラゴンを殺せれば、ほかはどうでもいいんですがね!」
なんてことないように答える男。その表情は先ほどと変わらない。
「しかしまあ、そこまで分かってらっしゃるのでしたら、教えてあげてもいいですかねえ……。赤皇竜さんの言うとおり、ワタクシは“ウロボロス”の幹部の一人、6つの竜滅の神器の一つ“カドモスの槍”に選ばれた者、名をロジックと申します。いずれあなた方を殺す者の名ですので、覚えてくださいね☆」
ふざけた挨拶とともに繰り出された驚きの事実。その中に一つ、リュートが知る名前があった。
「ウロボロス……」
それは以前、馬鹿な貴族の手助けをした組織の名前。いつか制裁を加えようと心に決めていた名前だ。
(まさか、こんなところで出会えるとはね……!)
今のリュートの口元が、自然とつり上がっていた。リュートが前に出ようとしたその時、リュートより先に前に出たものがいた。
「私が、いく」
メアリーだった。
「さっきはみんな、暴れてた。次は、私の番……!」
「……やっぱり我慢してたんですのね」
ユスティが苦笑する。リュートもメアリーの言い分も理解できるので、ここはメアリーに譲る。
「わかったよ。でも気をつけて、あいつの出した死霊とかいうの、不気味だから」
「わかってる……」
メアリーはやる気十分、今にも飛び出していきそうだ。男は殺気を変わらず発したまま、嬉しそうに言う。
「おお、ようやく戦ってくれるのですね!ワタクシの子たちも、さっきからウズウズして待ってたもので。それじゃあいきましょうか!」
「いく……!!」
目をぎらつかせ、嬉しそうにその場から飛び出すメアリー。
竜の天敵であるウロボロスと、黒皇竜の戦いが始まった――。
まさかの急展開で驚いた方も多いと思いますが、ようやく明確な敵を出せました。
これからどういう感じで進んでいくのか、お楽しみ頂けたらと思います。
感想、よろしくお願いします!




