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火山に住む者

翌朝、リュートたちは食堂で朝食をとっていた。食堂にはラーニャだけでなく、彼女の両親もいた。三人とも、その顔には輝くばかりの笑顔が見える。


リュートは無理せず休んでいることを伝えたが、彼女は体は大丈夫だと言い張り、恩人には相応の礼をしたいと言って聞かなかったのだ。そのため、宿の宿泊料をタダにし、食事も大盤振る舞いをしてくれた。


リュートとしては流石にそこまでしてもらおうとは思っていなかったので、半額という形にしてもらった。


そのまま夜を過ごし、現在に至るのである。



食事の最中、リュートは唐突にあることを訪ねた。昨日からずっと気になっていたことである。


「そういえば、昨日言っていた“黒い生物”はなんでこの村から去っていったの?話では不自然な行動をとったって言っていたけど」


それに答えたのは父親の方である。


「いや、それがよぉ、そいつ、いきなり何かに気づいたような素振りを見せたんだよ。ハッとして振り向いたって感じだな。そんでよ、振り向いた方向に向かって行ったんだよ」

「その場所って、どこかわかりますか?」

「う~ん……場所はわからんが……あの方向には『精霊火山』っていう山があるんだ」

「それってどういう場所なんですか?」

「なんでも、その火山には火を司る精霊様がいるって話だぜ。まあ、火山に近づいてまで見に行こうって奴はいないだろうから、ホントかどうかはわからねえけどな。ああ、そういやその火山に属性竜が住み着いたって話もあるな。冒険者たちがこぞって集まってきやがるのもそのせいらしいぜ」



リュートは考える。その精霊というのは炎の精霊王の可能性があるからだ。その精霊王に会うためにここまで来たので、むしろ会いたいのである。


「悪いことは言わねえ。近づかねえ方がいいぜ?その火山の周辺って、何故だか魔獣たちが集まってくるんだ。旦那たちはほとんどが女子供だけじゃねえか。危険だと思うぞ」


彼が言うことはもっともだろう。端から見れば、リュートたちはただの一般人にしか見えない、とまではいかないが、闘いが得意だというふうには見えないのだから。


彼の心配する気持ちを嬉しく思うリュートたちだが、力強く、彼に伝える。


「大丈夫ですよ。僕らなら心配ありませんから」

「いや、でもよ――」

「大丈夫です」


尚も言い募ろうとしたラーニャの父親。それでもリュートの気持ちは変わらない。


「……そうか、そうかもな。旦那が言うと、どうにも嘘だと感じなくなるから不思議だぜ」


ラーニャの父親はふっと、表情を緩める。どうやら昨日の一件は、彼の信頼を得るに値するものだったらしい。


リュートはメアリーたちを見回し、笑顔でこう言う。


「それじゃあみんな、目的の火山の場所もわかったことだし、今日はそこに行ってみよう!」












 ***


「さて、問題はどうやってそこまで行くかなんだよね~。さすがにここで元の姿に戻るわけにはいかないしなあ」


村から件の火山までの道はない。なぜなら、その火山は村から歩いて二日程かかる場所に存在するからである。いつものリュートなら龍神に戻ってひとっ飛び、と考えるのだが、今回は村の中であることと、その火山に向かおうとしている冒険者たちが大勢いるからである。


ここで戻ってしまえば、大騒ぎになるのは確実なのだ。


「と、いうわけで皆、どうする?僕としては別に二日かけて歩いて行ってもいいけど」

「私も、別に構わない……けど……」


メアリーとリュートは特に問題ないだろう。ウルやイレーナも、こういったことには慣れていると言う。問題は、まだ幼い玉妃とカレン、王族ゆえに全く経験のないユスティである。たった二日とはいえ、森の中を歩き続けるのは辛いはずだ。


さて、どうしたものかと考えるリュートたち。


考えた末、メアリーが進言する。


「……私が、元に戻る」

「メアリーが?でも、それなら――」

「私なら、結構知られているから、龍神様よりは騒ぎにならない……と思う。大丈夫、森の中で変幻解くから」

「んん~……なら、お願いしようかな?」

「ん……頼まれた……」


ちょっと嬉しそうに顔を綻ばすメアリー。そして、目にも止まらぬと言えるほどの速さで森へと入っていった。


待つこと数分。上空に影がさし、村にいた多くのヒトが、それを見た。


漆黒に輝く、巨大な竜。属性竜などとは比べ物にもならない程の圧倒的な威圧感を与え、特に、尾に連なる大きな棘がヒトの目を引くことだろう。


メアリー・レイドの本来の姿、黒皇竜が、そこにはいた。


リュートとメアリーは互いに目で確認すると、軽く頷き、そしてユスティたちへと伝える。


「それじゃあみんな、メアリーの背中に乗って。メアリーが運んでくれるらしいから、これで数十分で行けるよ」


リュートがそう言うなり、メアリーがゆっくりとその凶悪にも思えそうなほど大きな手をおろしてきた。乗れということだろう。


昨日龍神の背に一度乗っているため、昨日ほど躊躇することはない。しかし、やはり乗れと言われてはい分かりました、というわけにもいかない。なにせ、相手は黒皇竜なのだから。そのため、全員が一度お礼を言い、頭を下げてから手に乗っていく。


リュート以外の全員が乗ったことを確認すると、リュートも飛行魔法を発動、空へと浮かび上がる。その様子をメアリーが不満そうな目で見てくるが、リュートは苦笑しながら説得する。


「昨日も行ったけど、やっぱり女の子の背中に乗るのはどうかと思うんだ。それに、こうすれば二人並んで空中散歩みたいなのができるでしょ?」

『……わかった』


しぶしぶ、といった様子で頷くと、メアリーはゆっくりと上昇していく。それに合わせてリュートも上昇していく。


一人と一体は、突如現れた黒皇竜に腰を抜かして呆然と見上げている下の者たちの視線を置き去りに、目的の火山まで飛んでいった。











  ***


『……見えた、あの火山』

「あ、ホントだ。それじゃあメアリー、少し止まってくれる?やっておくことがあるから」


飛行を始めて数十分程たち、件の山が見えてきたその時、リュートが止まるように言った。何故かと疑問を抱くが、言われた通りにその場で停滞するメアリー。


リュートはメアリーの手の上に乗っているユスティたちのもとまで行くと、魔法をかけた。


「少しじっとしてて。――付与魔法(エンチャント)・クーラー」


この魔法をかけることで、ユスティたちのような普通のヒトたちでも大抵の暑さに耐えられるようになるのである。これはもちろんリュートが創った魔法であり、今のところ彼以外には使えないのだ。


「絶対に溶岩とかには近づかないでね。これはあくまでも『熱』を防げるってだけなんだから」


いくらリュートでも、ヒトをマグマの中でも平気にすることは不可能である。そのことをしっかり伝えた上で、一行は火山の上空へと向かう。


火山は活火山のようであり、火口にはマグマが溜まっている。煙も上がっているため、普通なら近づくことは不可能だろう。


数度、火口付近を旋回していた時、メアリーが何かを発見した。


『……あそこ、大きな淵の部分……何かある』

「……ホントだ。一体なんだ……ろ……はあっ!?」


メアリーが示した場所、そこにあったのは、いや、居たのは、なんとヒトだった。その()は、マグマの中であるにも関わらず、まるで風呂に入っているかのように平然としている。


そして、更に驚くべきことが。マグマの中に居たのは彼だけでなく、女もいたのだ。彼女もまた、平然としながらまるで湖いでもいるかのように泳いでいた。


呆然としてその二人を見ていると、突然、その二人はリュートたちの方を見た。さすがに大きな黒竜が周りを飛んでいれば、気づくのも当然である。


二人は互いに軽く頷き合い、マグマの中から出る。二人とも素っ裸であったが、距離としてはそれなりに離れているため、ユスティたち普通のヒトには見えていないようである。


彼らにマグマが渦のようにしてまとわりつく。それが取れ、何故か服を着ていた。リュートが一瞬で怪盗の衣装に着替えるのと同じ原理なのかもしれない。


二人はそのまま、スーーッとリュートたちの元まで上昇してきた。


男の方は野性味溢れた端正な顔立ちで、真紅の髪をオールバックにしている。背丈はリュートよりも高く、手足もスラッとしていて長い。鋭い眼光がこちらを見据えており、少し威圧感を与えくる。


女の方は妖艶な美女といった感じで、蠱惑的な笑みを常に浮かべている。こちらも真紅な髪であり、足元まで届きそうなその髪を紐でくくっている。ユスティ程ではないが巨乳であり、スタイルも抜群である。



二人のうち、男のほうが口を開く。


「なんで貴様がいるんだ?黒皇竜 メアリー・レイドよ」

『……いちゃ悪いの?赤皇竜 アイギス・イグドーラ』

「えっ、赤皇竜なの!?」


どうやら男の方は、メアリーと同格である六皇竜の一人らしい。そのことに驚く一同。


「ていうかメアリー、知り合いなの?」

『……少し。以前、勝負したことがある』


声音からして、悔しそうな響きが聞こえる気がする。おそらく、負けたのだろう。


(メアリーより強いって、一体どれくらいなんだろう……?)


そのことを考えていると、リュートの中の何かがうずき出した。おそらく、今のリュートは笑っているだろう。


『赤皇竜、そっちの女性(ヒト)は、誰?』


メアリーがアイギスの横にいる妖艶な美女のことを問う。それは全員が気になっていたことであり、全員が彼女に視線を向ける。


視線を向けられた彼女は色っぽい笑みを浮かべると、アイギスへと腕を絡ませてこう言った。


「初めまして、皆さん。私、この(ヒト)の妻の、炎の精霊王・サラマンディアですの」



……一瞬時が止まったような錯覚がした。そして、再び動きが再開された時――



「「「「「「はああああああああああっ!!??」」」」」」」


「精霊王だと!?」

「こんな綺麗なヒトがですか!?」

「っていうか、妻ぁあ!?」


腹の底から出したというほどの叫び声が、雄大な自然の中に響き渡る。炎の精霊王と赤皇竜の夫婦とは、またすごい組み合わせである。驚くのも無理はない。


その大声量に顔をしかめつつ、アイギスはずっと、リュートの方を見ていた。そのことに気づいたリュートも、仮面越しに視線を合わす。


(ありゃ……これはばれたかな?)


アイギスは「まさか……いやしかし……」などとブツブツつぶやいており、サラマンディアが不思議そうに見上げている。


そして、何かを決めたかのように顔を上げると、リュートへと指を指してこう言ってきた。


「そこの仮面の男、俺と勝負しろ!」

「喜んでお受けします」

「リュート様!?」


簡単に勝負を受け入れたリュートに、ユスティが慌てて振り向く。そしてぎょっとする。今のリュートは、口を釣り上げて笑っていたからだ。


『……ユスティ、多分止められない。リュート様も、竜の本能である、戦闘欲が湧き出ていると思うから』


メアリーの話を聞き、はあっと肩を落とすユスティ。他の者たちは龍神VS赤皇竜という戦いに興味津々のようだ。


「あなた、どうしたの?急に戦えだなんて……」

「少し確かめたいことがあってな。それに、最近暇だったからな」

「まあ、あなただけずるいわね」

『……リュート様、赤皇竜は、闘いなると性格が変わる。あいつ、かなりの戦闘狂だから……』

「それは楽しみだね!」

『・・・・・・』


相手も相手だが、リュートも大概だと思う。結局、竜という種族は大抵が戦闘狂ということなのだろう。


「それじゃあ、さっそく始めようか」

「リョーカイです」



リュートとアイギスが、火山の真上で相対する。二人とも好戦的な笑みを浮かべており、早く戦いを始めたそうにウズウズしている。


「おい、黒皇竜。なるべく離れていな。それと周囲への対処も頼むぞ」

『……注文が多い』

「お願い、メアリー」

『わかった』

「……おいてめえ……!」

『・・・・・・』


気を取り直して、二人は改めて相対する。開始を告げるのは、精霊王・サラマンディアとなった。


「それじゃあ二人とも、準備はいい?」


リュートもアイギスも頷くのを確認すると、サラマンディアは告げる。


「それじゃあ……開始!」



ようやくここまでこれました!


次回は(私が)待ちに待った、「龍神VS赤皇竜」です。しかし、それだけではありませんよ?


次回をお楽しみに!

感想、お待ちしております。

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