トルタ村
リュートはとにかくすごかった。
最初はメアリーが相手をした。体力的に、人間であるユスティは少し無理があると判断したからだ。その分メアリーは黒皇竜であるため、体力的な問題はない……ハズだった。
リュートも初めてだったため、初めて感じる女体の柔らかさに、普段と違う甘い声に、扇情的な姿に、我慢が出来なかった。そのためか、最初はまるで獣のように荒々しい行為となってしまった。その凄まじさにメアリーは最初で既に息も絶え絶えの状態となり、一度落ち着く頃にはぐったりとしてしまった。
次はもちろんユスティだ。目の前で行われた行為の凄まじさに、少し気圧されてしまったユスティ。しかし、リュートが少し強引にリードすると、後はメアリーと同じ状態である。
一人一回ずつ終わった頃にはようやく落ち着くことができたリュート。しかし、さすがは龍神、全く疲れてはいなかった。メアリーとユスティに回復魔法をかけてある程度休憩させ、第二ラウンドへと入る。
そこからは、最初とは大違いにゆっくり、優しいものとなった。お互いの愛を、心を確かめ合うかのような、そんな甘い恋人たちの夜。
休憩を挟みながら、3人の行為は日の出近くまで続いた――。
***
「う~ん……なんか、久しぶりに寝たなあ」
もう既に太陽が真上に来ている頃、リュートは目を覚ました。隣を見れば、生まれたままの姿で眠る、二人の恋人たち。スースーと可愛らしい寝息を立て、あどけない寝顔を見せる二人に、リュートは暖かい笑みを浮かべる。
メアリーなどの頬に指をつんつんと突いてみると、「むぎゅう……」などと可愛らしい声まで聞こえてきた。もっといじりたいという欲求が湧きでるも、起こすのもどうかと思い、そのままにすることにした。
二人を起こさないようにゆっくりとベットから抜けると、リュートはリビングへと向かう。リビングからはいい香りがした。
「みんな、おはよう」
「お、おはようございます……」
「うう……」
リュートが入ってきたとたん、リビング内はおかしな空気になった。大人組が顔を赤くして背けるのだ。獣人の子供二人には、同じく獣人のウルが鼻を塞ぐ。
不思議に思ったリュートは、首をかしげて問う。
「どうしたの?なにかおかしいかな?」
「いや、その……」
言いにくそうなウルたち。どうしようかと視線を彷徨わせている彼女たちの中から、ウルが代表して口火を切る。
「今のご主人さ……なんというか、オスとメスの匂いが強すぎんだよ……あと、夜中すごいうるさかった……」
その言葉で、彼女たちの様子のワケを理解した。リュートは目を覚ましてから、すぐにこの場所へと向かった。つまり、水浴びや入浴をしていないのだ。そのため、リュートの体からは昨晩の匂いがこびりついているのである。また、防音もしていなかったため、どうやら声が聞こえていたようだ。
「なんというか、その……ごめん」
「いや、うん……」
なんとも言えない空気となってしまった。ターナリアが少し咎めるように、昨晩の様子を伝える。
「カレンと玉妃は舞踏会で疲れていたようで、起きるとこはありませんでした。でも、私たちには丸聞こえだったんですよ?」
「そうだな。そう言えば、途中、ウルが荒い息のまま部屋を出ていってしばらく戻ってこなかったな。しばらくするとスッキリした顔で戻ってきたが、あれはなんだったのだ?」
「え!?いや、あれは、その……」
何も知らないようで、イレーナが真顔で爆弾を落としてきた。その意味がわかったリュートとターナリアは若干頬を染め、気まずげにウルから目をそらす。それを見、聞いたウル本人は、顔をこれでもかというほど真っ赤にして悶絶している。
「と、とりあえず僕は風呂にでも入ってくるよ!」
この場から離れるため、風呂へと逃げたリュートであった。
***
「突然ですが、明日からみんなで旅行に行こうと思います」
その日の夜、リュートは唐突にそう切り出した。食事の最中だった他の者たちは、ポカンと口を開けてリュートを見る。
「ほ、本当に突然ですわね……。急にどうされたのですか?」
「それがさ、昼間にギルドへ行ってみたんだ。すると中である噂を聞いたんだよ」
「噂って?」
首をかしげて聞いてくるウル。気になってきたのか、他の者たちも興味深そうに耳を傾けている。
「なんでも、トルタ村ってところの近くにある火山に、火竜が住み着いたってものらしいよ」
「でも、火を操る火竜が火山に住み着くなんて、別に珍しくはない」
「問題はその山らしいんだ。なんかその火山、火の精霊王がいるらしいよ」
その一言に驚くメアリーたち。ただの属性竜にすぎない竜が、わざわざ格上の精霊王の住処に住み着くだろうか。普通は、その膨大な魔力の塊に圧倒されて離れていくはずである。
「それが本当なら……少し変」
「だよね~。と、いうわけで、明日からみんなで行ってみよう!」
「だからなんでそーなんだよ!?」
「だってさ、みんなで王都を出てどこかに行ったこと無いじゃん。せっかくだし、旅行にでも行こうかなって」
意外とまともな理由に、ウルも口を閉じる。カレンと玉妃は嬉しそうにはしゃいでいるので、彼女たちは賛成だろう。
「私は構いませんわ。特に何も用事はありませんし。お父様には手紙を出しておきます」
「私も、大丈夫」
「私もですね」
「興味があるな。私も行こう」
ウル以外の全員が同行を決めた。それを見てウルも、「じゃ、じゃあ、あたしも行くよ!」と慌てて参加を決めた。リュートは笑い、そして告げる。
「トルタ村は王都から馬車で4日ほどかかるらしいから、明日の朝早くから行こうか。みんな、出かける用意をしておいて」
***
翌日。
日が登り始め、そろそろ市が賑やかになってくる頃だろう朝方。リュートたちは王都の外にいた。
リュートを除いた全員が私服ではなく、旅人のような格好をしている。
「それじゃあみんな、準備はいい?」
「準備はいいのですが、リュート様……どうやって行くのですか?」
リュートはトルタ村までは馬車で4日かかると言っていた。しかし、自分たちの周囲には馬車などない。では、まさか歩いていくのかと少し不安になるユスティたち。
「大丈夫だよ。空を飛んでいくから」
「へッ……?」
リュートはユスティたちから少し離れ、誰もいないことを確認してから「解除」と一言呟く。その瞬間、銀色の光が彼を包み込み、やがて巨大なドラゴンへと形を変えていく。
ヒトとしての仮の姿を解除し、本来の姿である龍神へと戻ったのだ。リュートがヒトの出入りが無い朝方を選んだのは、このためでもある。
「ああ……」
「すげえ……」
全員が目の前で起きたことにただただ呆然とするのみ。突然目の前に神が降臨すると、こんな感じなのだろう。龍神は神ではないが、そう感じさせるだけの圧倒的な存在感をさらけ出していた。
リュートは顔をユスティたちへと近づけ、優しげな声で彼女たちの頭へと話しかける。
『僕に乗って。そのほうが早いからさ』
驚愕するユスティたち。一向に乗ろうとしない彼女たちに、リュートはどうしたのかと聞く。
「そんな恐れ多いこと、私たちにはできません!!」
他の者たちも何度も頷き、同意を示している。さすがに龍神を乗り物扱いはできないようだ。
『別に家族を乗せるぐらい、どうってことはないさ。まあ、知らない人を乗せるのは嫌だけど』」
「……じゃあ、私が竜になる。私のほうが大きい」
『さすがに女の子の上に乗るわけにはいかないよ。僕も男だからね』
「……むう。竜の姿を、女の子扱いされた……」
少し照れた様子を見せるメアリー。リュートは穏やかに笑い、再度彼女たちを急かす。
『気にせず乗って。ほら、玉妃は既に背中ではしゃいでいるよ?』
言われて見ると、いつの間にか玉妃がリュートの背中に乗っていた。きゃっきゃと嬉しそうにはしゃいでは、楽しげにリュートの体を触っている。それを見てようやく決心したのか、彼女たちはリュートの下ろした翼を恐る恐る伝っていく。
全員が背中に乗ったことを確認したリュートは、翼を大きくはためかせ、ゆっくりと上昇していく。やがて雲の上にまで上がってくると、あらかじめ聞いていたトルタ村の方角へと飛んでいく。
最初は空を飛ぶという初めての経験に慄いていた彼女たちも、だんだんと慣れてきたのか、周囲の景色を楽しめるぐらいには余裕が出てきたようだ。リュートが魔法で熱を操作しているため、遥か上空にも関わらずユスティたちは寒くはないのである。
朝日に照らされ、銀の鱗がキラキラと輝く美しいドラゴン。その背には楽しそうに、笑う美しき乙女たち。
非常に絵になる光景を作り出している彼らは、優雅な遊覧飛行を楽しみながら目的地へと向かう。
***
空を飛び始めて半日ほどたったころ、ようやく目的地が見えてきた。馬車で四日のところをわずか半日で、しかも本人的にはゆっくり飛んできたのだ。本気で飛べば1時間ほどで着くのである。
さすがに村の近くに降りるのはまずい為、少し離れた森の中へと降下する。背中の者たちに負担がかからないようゆっくり降りると、ユスティたちを降ろす。そして“人身変幻”を使い、ヒトとしてのリュートの姿となる。
「やっぱりそっちのほうが落ち着くな~」
「確かにな。私としても、龍神の姿には圧倒されるだけだ」
「む?妾はさっきの姿の方がかっこよくて好きじゃぞ。なんだか、心の奥がポワァってなるのじゃ」
それは、玉妃が龍神の巫女だからかもしれない。いつかそのことについて調べたほうがいいかもと、内心思ったリュート。
「それじゃあみんな、行こうか。少し歩くから、急ごう。そろそろ夕暮れになるからね」
ずっと飛び続けて少し疲れている彼女たちは、ゆっくりと進みながらトルタ村へと向かう。
トルタ村――。
人口は200人ほどであり、村としてもそれなりに栄えている。数ある隣国との中継地点のひとつでもあるため、冒険者や商人たちが宿泊目的で集まる場所でもあるのだ。
結果、どういうことかというと――。
「ヒト、かなり多くない……?」
予想以上に多くの冒険者たちが集まっていたのだ。それも、かなりの猛者と思える者たちまでいる。火山の上に住み着いたという火竜を討伐しようという者たちかもしれない。冒険者というのは基本的に、荒っぽい者たちがなることが多い。そんな冒険者たちがこんなにも村という小さな領域に集まっているのだ。そこにユスティたちといった見目麗しい者たちが泊まるというのは……なんとも不安なものである。
「……みんな、この村にいる間は、絶対に僕のそばを離れないでね。特にウルとカレンと玉妃、3人は以前勝手に離れたんだから、今回はちゃんと守ってよ!」
そう言うと、3人は視線を彷徨わせて頷いた。その反応に少し不安を持ったが、まあいいかと自分を納得させる。まずしたことは、、今日の夜を過ごすための宿だ。しかし、もう既に夕暮れに入りかけている。ほとんどの宿は、冒険者たちによって満員なのだ。さてどうするかと思案顔のリュート。
「あ、あの……!」
「……ん?」
そんな時、急に声をかけられた。振り向いてみると、そこには長い髪を三つ編みにした、そばかすがかわいい女の子がいた。服装からどうやらこの村の娘らしい。彼女は俯きがちに言う。
「もしかして、今夜の宿をお探しですか……?」
最初の方、ちゃんと表現できていたでしょうか?少し不安です。
そして後半の方、新展開となってきました。予想がついた方もおられるかもしれませんね。
次回もお楽しみに!!




