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ググノー、しでかす

晴れてユスティ・メアリーと恋人となり、テラスで楽しいひと時を過ごしたリュートたち。そろそろパーティーも終盤に近づいてきたため、中へと入ることにする。


「おお、リュート殿よ、戻られたか。楽しそうでしたな」

「見てる方も暖かな気持ちになれましたわ。よかったですね、ユスティ」


中へ入るとすぐに、ガルド夫妻が話しかけてきた。彼らは人払いをしていてくれたこともあり、その礼を伝えるリュート。


少しばかり話をすると、リュートは彼らと離れた。結構外で踊ったり話をしたりしていたため、女性陣が喉を乾かせているだろうと思ってのことだ。近くを通りかかったメイドを止め、飲み物を持ってくるようお願いする。もちろん仮面は付けているため、相手が赤面して話が進まない、等ということはない。


飲み物がくるまでの間、リュートたちは話に興じていた。周囲ではなんとかリュートとコネを作りたいあらゆる地位の貴族たちがいるが、リュートから妙な迫力が出ているため、また、お互いに牽制しあっているため、近づくに近づけない状況なのである。今はチラチラとこちらを見ているだけだ。


と、そんな時、彼らに近づいてくるひとりの男の姿があった。


脂ぎった顔とでっぷりと肥太ったお腹。近くにいるだけで汗臭そうなイメージを持ってしまうその男は、シュベリア王国のググノー・A・ピグル伯爵であった。


彼は胡散臭い笑顔でリュートたちに近づくと、恭しくお辞儀をした。


「お久しぶりでございます、ユスティ様、メアリー様。この度は、ご婚約の件、誠におめでとうございます。相も変わらず、ユスティ様は本当にお美しいですな。まるで女神のようです」

「まあ、ググノー伯爵、ありがとうございます」


ユスティは見事な作り笑いで対応する。同じような臭いセリフでも、リュートとググノー、二人が言うとどれほど違うか、今となっては理由ははっきりしている。今のユスティは、数多の男に賛美され、高価な贈り物をされても、リュートから『可愛いよ』と言われ、綺麗な花をひと房もらえる方が歓喜するのだ。


リュートはつい、隣にいるメアリーに尋ねる。もちろん小声で。


「メアリー、彼はどなた?彼は君のことを知ってるみたいだけど」


しかし、メアリーは首をかしげる。どうやら見覚えがないらしい。ちょうどいいタイミングで、ユスティが紹介してくれた。


「リュート様、こちら、我が国のハンセン領の領主を任されておられる、ググノー伯爵ですわ。ググノー伯爵、こちらはリュート様ですわ。先ほどもおっしゃいました通り、(わたくし)のこ、恋人、ですわ……」


ユスティは顔を赤らめ、照れた様子でリュートを紹介する。その笑顔は本当に嬉しそうで、周囲からの嫉妬が半端じゃない。しかし、嫉妬という感情を大きく超えた視線を感じるリュート。その視線の主を探すと、なんと、目の前にいるこの男だった。


(うわぁ……これほどあからさまに憎しみを向けられるとかえって清々しいな……。まるで親の敵みたいに睨んでくる……)


憎しみで人が殺せるなら、すでに10回は殺しているだろうその視線。しかし、すぐに元の胡散臭い笑みへと戻すと、リュートに対して深々とお辞儀をする。このあたり、彼も貴族の端くれだというところか。


少しばかり話をすると、ググノーはそろそろ失礼します、と言って戻ろうとした。しかし、何かを思い出したとばかりに足を止め、ユスティへと向き直る。


「そうでした、そうでした。ユスティ様、今夜はあなた様にと思いまして、特別に商人から取り寄せたものがあるのです」


それがこちらです、と言って懐から取り出したのは、青い箱。その箱を開けると、中には綺麗な指輪が入っていた。金の指輪に多くのダイヤが付けられており、金額は相当なものであろうことがよくわかった。それを見た瞬間、リュートは眉をひそめる。


「まあ、すごく綺麗な指輪ですね。本当にいただいても?」

「もちろんでございます。どうぞ、お収めください」


そう言い、今度こそググノーは踵を返して去っていく。彼が去ったのを見ると、リュートはユスティに顔を近づけ、小声で話す。


「ユスティ、その指輪、後で貸してくれないかな?それと、絶対に付けないで欲しい」

「もちろんいいですわよ。ですが……フフッ。リュート様、嫉妬ですか?」

「まあね、ユスティには僕があげた指輪があるから、そっちをつけていて欲しいな」


実際は嫉妬というわけではないのだが、ごまかすためにもそう言っておくリュート。まあ、嫉妬があるというもの少しは当たっているのだが。


(この指輪、ごくわずかだけど魔力を感じる。これ、間違いなく魔法具だよね。しかも、魔力の気持ち悪さからして呪いの魔法具じゃん……あのググノーって人、知っててこれを渡したのかな?いやでも……)


呪いの魔法具。数は少ないが、恐ろしい効力を持つと言われている魔法具だ。その危険性ゆえ、多くの国で使用はおろか、所持するだけで違法となる代物である。しかし、その多くが普通の魔法具と見た目は変わらない上、効力も使うまでわからないため、知らずに使ってしまう場合がある。ググノーは気づかずに送ったのかもしれないと思うことにしたリュートは、とりあえず預かっておくことにした。


ようやく飲み物が届いた。その人数分の飲み物を見て、リュートはまたもや眉をしかめる。その飲み物からは、酒とは違う匂いがしたのだ。その匂いは獣人であるウルたちや竜のメアリーにも嗅ぎとれたらしく、皆、首をひねっている。


人数分の酒のうち、最も匂いの強い酒を、メイドはリュートに渡してきた。


それを飲む前に、リュートはメイドに聞いてみる。


「すみません、ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょうか?」

「この酒、誰に持っていくよう頼まれましたか?」

「ああ、それはですね……あれ?えっと、どなただったのでしょうか……?頼まれたのは覚えているんですけど……」

「……なるほど、ありがとうございました。では、頂きますね」


疑問を浮かべているメイドを尻目に、リュートはぐいっと一気に飲み干す。そして、目をかっと見開く。


(これ、バルヂーナっていう猛毒じゃないか!?たしか、即効性の致死毒だったはずだよ!?)


バルヂーナとは、深い森の奥に生えている毒草だ。その根から抽出される液体には毒の成分が多く含まれ、それを口に入れたものは一瞬で脳や心臓に異常をきたし、そのまま死んでしまうという恐ろしい猛毒なのである。


(うわ~……。これ、僕が飲んでてよかったあ……)


そんな猛毒を飲んでもケロっとしているリュート。理由は、リュートに毒が効かないからである。味を知っているのも、小さい頃に森で見つけて食したことがあるからだ。


即効性の猛毒を飲んでもなんともないリュートを見て、驚いたような声を上げる者がいた。その声の主は、先ほどまで話をしていた男・ググノーであった。彼はリュートを見て、ありえないとでも言うかのような表情を浮かべている。


(あの反応、間違いなく犯人は彼だね。ってことは、さっきの呪いの魔法具は知ってて渡したってことか……)


彼の顔をしっかりと記憶したリュートは、とりあえず他の飲み物に“解毒魔法”をかけておく。この解毒魔法というもの、実はこの世界には存在しない。リュートのオリジナルである。体系的には回復魔法に近く、実は混沌魔法と回復魔法を合成した魔法なのだ。回復魔法で毒成分を抽出し、混沌魔法で完全に消滅させるのである。


解毒した安全な飲み物を、リュートはみんなに配る。ウルたち嗅覚の鋭い者は匂いを嗅ぎ、無臭なのを確認するとリュートの方へと向く。リュートも笑顔で頷いたため、彼女たちも安心して飲む。


「うわ、うめえ!久しぶりに飲んだな、こんな旨い酒は!」

「お姉ちゃん、少し落ち着いてよ……」

「むう、これが酒というものか……甘くてジュースみたいじゃな!」


この世界では、酒の規制は結構ゆるい。そのため、子供でも飲めるのだ。また、今回もってこられた酒はシュベリア王国の特産品でもある酒であり、アルコール度数はそれほど高くなく、どちらかというと果汁ジュースに近い。とろけるような果物の甘味と、芳醇な香りが大人気なのだ。


その後、彼らはリュートの牽制のためか、誰にも邪魔されることなく、終了の合図があるまで楽しいひと時を過ごした。最後に両国王の挨拶があり、舞踏会は無事、幕を終えた。参加者である貴族の者たちは、城の近くにある貴族専用のホテルのような場所へと向かう。


リュートたちは王国内に屋敷があるため、着替えを済ませるとそのまま屋敷まで帰った。



こうして、問題あり、ラブコメありの舞踏会は終わったのだった……。









 ***


「まあ、これで終わりじゃないんだけどね」


リュートは今、大きな建物の屋根の上にいる。彼の視線の先には、一つの豪華すぎる、はっきり言って趣味の悪い馬車が走っていた。その馬車は、帰宅途中であるググノー伯爵のものである。


「呪いの魔法具に毒薬――。僕の恋人にこれだけやって、タダで済ますわけないよね。彼には少し、痛い目にあってもらおうかな」


そんなリュートの今の姿は、白いマントとシルクハットを付けた、怪盗姿である。


リュートは国王から、ググノーはこの国に別宅を構えているとの話を聞いた。彼が別宅に帰るのを待っているのである。リュートは馬車を追い、屋根から屋根へと飛び移っていく。


「それじゃあ、ググノー伯爵宅までごあんな~い!」








 ***


「くそっ!どういうことだ!何故あの男は生きているというのだ!」


荒々しく息を吐きながら、薄暗い部屋の中で喚き散らす男・ググノー。彼は苛立たしげに部屋の中を歩き回っては、部屋の中にある置物などにイライラをぶつけている。


「旦那様!?どうされましたか!?」


ちょうどその時、扉から初老の執事が入ってきた。ググノーは彼を見るなり、側にあった飾りの皿を投げつける。その皿は執事に当たるなり、大きなおと共に砕け散る。


「おい、どういうことだ!?ちゃんと毒を入れたんだろうな!?」

「もちろんでございます!!奴らには相応の金額を払っておりますし、仕事には忠実でございます。失敗するようなことはありません!」

「なら、何故あの男は生きておるのだ!」

「それは私にも……。あの毒は致死性が非常に高い猛毒。一口でも飲んでしまえば、その場で死んでしまう量を入れさせたのですが……」

「――ちっ!くそ、まあいい。まだ指輪の方が残っておる。ユスティ姫は私の送った指輪を気に入っていたからな。彼女が私のものとなるのも時間の問題だ!」


まだ希望が残っていると喜ぶググノー。執事も彼の嬉しそうな雰囲気に乗っかり、大げさに喜ぶ。ググノーは安心したとばかりに椅子に座る。ボスッっという大きな音がし、彼の大きな体が椅子へと沈む。そしてふと机を見てみると。そこにはあるはずのないものがあった。


「こ、これは……私がユスティ姫に差し上げた指輪じゃないか!!??」


何故、送ったはずのものがここにあるのか。冷たい汗がが背筋を震わす。慌てて部屋の中を見回すが、やはり、いるのはググノーと執事のみだ。


疑問と得体の知れない恐怖が頭の中を占めた時、どこからか声がした――。


「僕からのプレゼント、気に入っていただけましたか?」


はっとして後ろを振り返ると、そこには今まで居なかったはずの奇抜な格好の男がいた。その男は笑顔にも関わらず、何故か近寄りがたい怒気のようなものを発していた。その迫力に気圧され、震えながらもググノーは問う。


「だ、誰だ貴様……!」

「僕は怪盗シルバー仮面と言います。あなたに――……」


一度区切ると、白の男は一瞬でググノーの目の前まで移動し、彼の顔を鷲掴みにして言う。




「――――裁きの鉄槌を与える者ですよ」

すみません、予想外に長くなったので、ググノーへの制裁は次回になります。

ググノーがしたことについて「えっ!?」と思われる方もいるかもしれませんが、それだけググノーが馬鹿である、ということを言いたいわけです、ハイ。


感想、よろしくお願いします<m(__)m>

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