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シュスティン・・・ざまあ(笑)

ようやく更新できました!

・・・間に合ってよかった!

多くの女性の熱い視線を集めるその男、シュスティン・R・パルジアは、貴公子然とした笑顔を周囲に振りまきながらユスティのもとへと向かってくる。


彼の背後には複数の美しい女性がついており、彼女たちは皆、服装からかなり高貴な身分だという事がわかる。


と、その時、横からシュスティンを呼ぶ声がした。


「これシュスティン!今までどこに行っておった!?」


初老を迎え、立派なあごヒゲが目立つ男性。彼もまた、ガルドと似たような、王の雰囲気をもっている。彼こそ、パルシア王国の現国王にして、シュスティンの実の父親、ラフドレル・R・パルジアである。


彼のシュスティンを呼ぶ声には、怒りが感じられた。


「申し訳ありません、父上。なにせ、街の娘たちが私を離してくださらなかったもので」

「なっ!?そなた、舞踏会の前だというのに街の娘たちと遊んでおったのか!?」

「ああ、ご安心ください。ちゃんと変装はしていましたから」

「そういうわけでは――!!」


片や怒りの表情で、片や涼しげな表情で話をしている。どうにも噛み合っていない彼らの会話は、はたしてシュスティンがわざと行なっているのか、それとも素なのか。どちらにせよ、シュスティンは王族にも関わらず、本来ありえないことをしていたのだ。


「申し訳ありません、父上。お話はまた後ほど」


むりやり話を終わらせ、再び歩を進めるシュスティン。ラフドレルも今この場で騒ぎ立てるのはまずいと思ったのか、苦虫を噛み潰したかのような表情で引き下がる。


シュスティンはガルドの前まで来ると、慣れた仕草で腰を折り、挨拶をする。


「お久しぶりでございます、ガルド国王陛下。此度の舞踏会の開催の件、心より感謝いたします」

「……相変わらずのようだな」

「お褒めにいただき、ありがとうございます」


おそらくは皮肉だろうガルドの言葉をさらりとかわすシュスティン。その笑顔は微動だにしない。


「それでは、これにて失礼させていただきます。私も未来の花嫁と話がしたいもので」


彼の一言にピクリと反応するガルド。しかし、彼は何を言うでもなく、沈黙を保った。その沈黙を了承と受け取ったのか、シュスティンは再度腰を曲げ、歩き出す。


今や彼は会場すべての視線を集めている。先ほどまで美しいハーモニーを奏でていた音楽家の者たちも、今は手を止めている。雰囲気的にそんな状況ではないと判断したらしい。


そしてシュスティンは、心から嬉しそうな笑みを浮かべて目的の人・ユスティのもとまで向かう。


「やあユスティ!ようやく会えたね。相変わらず君は、世界の誰よりも美しいよ!」


両手を広げ、歯が浮くようなセリフを述べるシュスティン。それに対して若干鳥肌がたったユスティだが、我慢して挨拶する。


「お久しぶりですわ、シュスティン様。今日はいつにも増して輝いておられますわね」


この言葉の意味は、シュスティンの服装を指す。彼の服装はたしかに王族が着るそれなのだが、金の装飾がふんだんに使われていて、はっきり言って趣味が悪い。それを指摘したようなものなのだが、それが理解できたのは果たして何人いるのか。


「ありがとう、ユスティ。実は今日、君に返事を聞きたいと思って来たんだ」

「返事……ですか」

「そうだよ。以前からずっと手紙で送っているのに、全く返事がこないからね。来るのは世間話のようなものばかり。心の広い私も、さすがに待ちきれなくなっちゃってね」


さあ、返事を聞かせてくれるかい?と催促してくるシュスティンに、どう答えたものかと考えるユスティ。しかし、結局は正直に答えることに決めた。


「申し訳ありません、シュスティン様。(わたくし)はあなたの元へ嫁ぐことはできません」


その瞬間、シュスティンの、そして彼の取り巻きたちの表情が固まった。彼の取り巻きたちからすれば、シュスティンからの求婚を断ることなど理解不能なのだろう。しかし、そんな彼女たちの表情を見ても、逆に彼女たちが理解不能なユスティである。


「――――どうしてか理由を聞いても?」

「その前に、ひとつ質問させてくださいませ。あなたの周囲におられる彼女たちは、あなたにとってどんな存在なのでしょうか?」


なんとか笑顔は崩さずに、理由を問いただすシュスティン。ユスティが彼に逆に質問すると、シュスティンはまたもや甘ったるいような笑顔を作って話す。


「それはもちろん、彼女たちとは火遊びするだけの関係さ。まあ、これからどうなるかは分からないけどね。それでも、私にとっては君が一番だよ」


最後のセリフはユスティの手を取り、顔を近づけて最上の笑顔とともにくりだした。これまで、これらの動作で数多くの女性を落としてきた口説き文句だ。これでユスティは自分のものに、と内心考えていた。ユスティもさらに笑顔を深める。シュスティンがやっぱり!と考えていると、


「やっぱり、あなたとは結婚できませんわ」


再度、拒否の言葉が発せられた。何を言われたのか一瞬理解できず、頭がまたもやフリーズするシュスティン。


「――な、なぜだい!?この私以上に君に釣り合う男が存在するわけがないじゃないか!!」

「まずその考え方ですわ。シュスティン様はご自分が世界一と考えておられるように感じます。後ろの方々はどうかはわかりませんが、(わたくし)には合いませんわね。そして、女性に対してのあなたの姿勢ですわ。あなたは先ほど後ろの女性の皆様を、『ただの火遊びだけの関係』とおっしゃいましたね?他にも、あなたは女性関係の噂があまりにも多すぎます。そんな軽薄な態度のあなたを、一人の女として信用することができません」


次々に語られるシュスティンへのダメ出しに、周囲の者たちはなるほど、と思う。しかし、それでもシュスティンは諦めない。


「そんな、私以上に美しい男がいるわけないじゃないか!!」


(……あれほど典型的な男も、見てる分には面白いな)


外から見てて、ひどく滑稽に見えるのは気のせいではないだろう。最初は彼の貴公子然とした美しさに賞賛を送っていた周囲の者たちも、暴かれ始めた彼の本性に呆れを見せ始めている。


「……はあ、もういいですわ。やっぱりきちんと申し上げたほうがよろしいようですね」

「な、なんのことだい?やっぱり私との結婚を考え直してくれたのかな?」

「いえ、そうではありませんわ」


背を向け、シュスティンを置いて歩き出すユスティ。その向かう先は……。


(あれ?ユスティ、こっちに来てない?)


そう、ユスティはリュートの方へと向かっていた。彼女の浮かべる笑みに、何故か少しばかり冷や汗をかくリュート。


そして、ユスティはリュートの前で立ち止まると、少し緊張した素振りを見せながら横に回る。ゆっくりとリュートの右腕に両手を絡ませて、こう言う。


「シュスティン様、(わたくし)実はここにおられるお方、リュート様と婚約しておりますの。ですから、私のことはきっぱり諦めてくださいな」


語尾にハートマークでもつきそうな、そんな朗らかな声だった。それを聞いて会場中が一瞬の間を開け、そして、


「「「「「「「ええええええええッ!!??」」」」」」」


満場一致で驚きの声が上がった。シュスティンなどは、口を大きく開けて呆けている。しかし、一番驚いているのはやはりこの人だろう。


(えええええッ!?き、聞いてないよそんなの!え、これってドッキリ!?カメラどこ!?」


仮面の効果もあってか、リュートは表面的にはいつも通りでいる。しかし、内心では誰よりも驚いていた。動揺のあまり、馬鹿なことをぬかすぐらいに。


「……本気なんだな?ユスティよ」


いち早く平静を取り戻したガルドが、娘に尋ねる。それに対して、ユスティは真剣な表情となって自分がいかに本気なのかを伝える。


「もちろんですわ、お父様。(わたくし)、王族を辞す覚悟ですの」


それはつまり、家族の縁を切るも同然のこと。それを告げた以上、ユスティの気持ちは本物なのだろう。それを感じたガルドは破顔し、家族共に喜ぶ。


「そうか、それならいいだろう!リュート殿よ、娘をよろしく頼みまする!」

「まあ、これはお祝いしなければなりませんわね!おめでとう、ユスティ!」

「まさか、妹に先を越されるとは思わなかったな……。しかし、喜ばしいことだ。リュート殿、どうか妹をよろしくお願いいたします!」


まるで測ったかのようなタイミングでお祝いコールをしてくるユスティの家族たち。実際、彼らもそうなればいいなと考えていただけに、今回のことは喜ばしいことであるのだ。


(そ、外堀から埋められた……!?)


こんなに大勢の場で、これだけ言われたのだ。今更断ることなどできないと悟ったのか、リュートも「お任せください……」と言ってしまった。


別に、ユスティとの結婚が嫌というわけではない。むしろ、ユスティほど魅力的な女性との結婚はとても嬉しく思う。しかし、何分急すぎであるし、恋人から一足飛び越えて婚約である。もと日本人として戸惑わないわけがない。


しかし、これで終わらなかったのだ。こんな時、あの人が黙っているわけがない。その者は空いているリュートの左腕に手を絡ませ、ユスティに負けじとこう言う。


「ユスティだけずるい……。私も、リュート様と結婚、する」


少し頬を膨らませて言う黒の象徴である彼女は、メアリーであった。


「メ、メアリー!?」

「私も、リュート様の婚約者、だから」


上目遣いで言われ、リュートも「どうんでもなれ!!」とやけくそ気分で了承する。ユスティとメアリーは嬉しそうに微笑んだ。その顔がとても美しかったため、まあ、いいかと前向きに考えるようにするリュート。


「……なぜだ。なぜ、貴様のような男が!!仮面を付けて舞踏会に来るような恥知らずな男に、なぜユスティ姫と黒皇竜様が!!」


ありえない、とばかりに喚き散らすシュスティンに、メアリーが無表情のまま伝える。


「あなた……しつこいし、うざい」

「なあッ!?」


その美しさと権力に物を言わせ、これまで周囲からおだてられて自由勝手に生きてきたシュスティン。女性には不足するようなことはなく、これまで出会ってきた全ての女性が自分の虜となった彼にとって、超絶美少女なメアリーにはっきりと言われ、精神的ダメージが半端じゃない。


そして、さらにトドメを刺されることになる。


「それに、さっきから顔のこと、言い過ぎ……。顔の勝負なら、リュート様のほうが圧倒的勝利」

「あ、ちょ、メアリー!?」


メアリーがリュートの顔に手を伸ばし、彼の顔上半分を被っている銀の仮面を奪い取る。そして露になる、リュートの仮面の裏側。



現れたのは、天使といえそうな、まさしく『美』そのもの。


神の寵愛を受けた存在だと錯覚しそうなほど、完璧に整ったその造形美は、会場中の男女を性別に関係なく見惚れさせた。


先ほどまでシュスティンにうっとりしていた取り巻きの女性たちも、今ではリュートに視線が釘付けである。


そして、シュスティン本人はというと……。


「・・・・・・」


両膝が地面につき、完全に放心状態である。言葉も発することができないようだ。


「メアリー、そろそろ仮面、返してくれない」

「ごめん、リュート様」

「いや、別にいいけどね」


苦笑し、仮面をつけなおすリュート。この雰囲気には慣れているため、特に驚いたりはしない。


10秒にも1分にも思えるような沈黙が会場中を包む。やがて、一人の男が前に出てきた。パルジア王国の国王、ラフドレルだ。


「……もうそこまでにしておけ、シュスティンよ……衛兵!」

「ち、父上!?」


ラフドレルが護衛として部屋の端に待機していた衛兵を呼ぶと、二人が向かってきた。


「これ以上、王家の者が恥を晒すことはゆるさん。お前たちは、シュスティンを部屋を連れてゆけ。部屋から出すでないぞ!」

「「かしこまりました!」」


命令を受けた衛兵二人は、座り込んでいるシュスティンの腕を担いで部屋を出ていく。


「は、離せ貴様ら!私が誰かわかっているのか!!」

「申し訳ありません、シュスティン様」

「しかし、これは王命なのです。どうか、お聞き入れください」


未だにわめきたてるシュスティンは、これまで以上に惨めに見えた。


ラフドレルがリュートたちのもとまで来ると、深くお辞儀をした。


「ラフドレル様!?」

「リュート殿、ユスティ姫、黒皇竜様。愚息がお騒がせしてしまい、本当に申し訳ない。ガルド王よ、せっかくの舞踏会にこのようなことを起こしてしまい、本当になんと言っていいやら……」


悲観にくれる彼の表情には、後悔の念が見えていた。


自分の息子がああなる前に止めれなかった、親としての責任を果たせなかった自分を嘆いているのだ。


「もうよい、ラフドレル王よ。今回のことは、逆にこちらとしても喜ばしいこととなったのだ。むしろ、礼を言わせてもらうぞ」


ガルドはリュートたちの方へと視線を向けながら、嬉しそうに言う。彼の言葉に、ラフドレルも少しは気持ちが軽くなったようである。



しかし、リュートは思い出す。先ほど連れ出されていくときの、シュスティンのあの憎悪に満ちた目を。


そして、その表情は完全にリュートとユスティへと向けられていたことを。


リュートは知っていた。


色恋における嫉妬は、時に相手を殺してしまうことを。


プライドが高く甘やかして育てられてきた人間が、それを壊された時の狂気ともいえる復讐心を。



シュスティンは今回、多くのものを失った。


ユスティからは振られ、周囲の人間や多くの貴族たち、果ては父王にまで見限られた。そして、自分を超える圧倒的な“美”の出現。


プライドも信頼も、多くのものを一度に失ったあの男が、これから先何をするのかは分からない。しかし、何か事を起こすだろうというのは彼の目を見ればすぐわかる。


(あのシュスティンって人、少し注意が必要かな……?)


彼の今後に少し気をつけてみることを心に決めたリュートであった。








この時、リュートは未だに感じている両腕の大小二つの柔らかな感触を、密かに堪能していたことは秘密である……。




は、シュスティンが消えましたw

ホントはもっとコテンパンな感じでしたかったんですが、それはまたの機会ということで。


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