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これが、貴族の世界

「こちらでございます」


メイドに連れられてたどり着いたのは、豪華な扉の前。その向こうから軽やかな音楽が流れていることから、すでにパーティーは始まっているのだろう。


「じゃあ入るよ」


後ろの女性陣に言い、リュートたちは扉を開ける。



「――――すごいな……」


扉のむこうの空間は、なんともきらびやかな世界だった。豪華な服に身を包み、ダンスの相方であろう紳士淑女を連れて話に興じる貴族たち。部屋の隅には見たことのない食事が置いてあり、奥にはステージがある。その横では宮廷音楽家たちが美しいハーモニーを奏でている。


「これが、貴族のパーティーかよ……」

「綺麗だねえ……」


ウルとカレンが呆然としている。ほかの者たちも同様だ。ここは、本来平民たちには想像することしかできない空間。当然の反応だろう。


「ぼーっとしてないで、みんな。ほら行くよ」


いち早く戻ったリュートが、ほかの者たちを引っ張っていく。


ここで、中にいた貴族たちもリュートたちに気づく。


「あれはどこの貴族です?仮面をつけていてはわかりませんな」

「後ろの者たちは美しい女性ばかりですな。ぜひダンスのお相手を願いたいものです」

「彼女はダークエルフですか?初めて見ましたが、いやはや、なんとも妖美なもので」

「む、彼女たちは奴隷なのか……あとで譲ってもらいたいものだな」


リュートたちに好奇な視線が向けられるが、その半数以上が女性陣に向けられている。リュートの仮面よりも、色気に興味がいったようだ。


会場の中には、奴隷の首輪をつけた者たちがちらほらと存在している。皆侍女服に身を包んではいるが、どれもそこらの女よりも美しいものたちばかりだ。


貴族たちの中には美しい奴隷を一種のステータスのように扱う風潮があると聞く。どれほど美しい奴隷を、どれだけの数持っているのか。それが、その貴族の経済的な力を示しているのだ。彼女たちも、貴族たちが自分という存在を周りにアピールするために連れて来られてきたのだろう。



(まあ、うちの()たちの方が綺麗で可愛いけどねっ!!)


それについては譲れないリュートである。あながち間違いでもないため、今回は何も言わないでおこう。


「それじゃあまずは……あれ?カレンと玉妃、それにウルは?」


振り返ってみれば、三人がいない。どこに行ったのかを尋ねると、


「ウルたちならあそこに行きました……」


そう言って、ターナリアが指を指して教えてくれた。その方向を見てみると、ウルたちはすでに豪華な食事を食べていた。それも豪快に。


「……離れないでって言ったら、うんって言ってなかった?」

「……言いいました」

「早速破ってんじゃん……」


盛大なため息をつくリュート。まさか入って早々、約束が破られるとは思ってなかったのだ。


「……私が見てる。リュート様は、気にしないで」

「いいの?ありがとう、メアリー」

「……ん」


どうやらメアリーがウルたちに付いていてくれるらしい。シュベリア王国では黒皇竜の名は有名なため、彼女がついていてくれれば安心だ。


メアリーはウルたちの元へと向かう。彼女の美しさはウルたちの中でも飛びぬけており、また、漆黒の体から発せられる怪しい魅力は凄まじい。よって、男たちの視線を奪いながらも無視して進むのである。



と、その時、ステージの方から音が鳴った。全員が注目すると、正装をした男が立っていた。以前にもあった、確かこの国の宰相だったなと記憶をたどるリュート。


「皆様、お待たせしました。まもなくシュベリア王国国王陛下、並びにペルセア王国国王陛下が御入来されます」


宰相の言葉に反応し、会場にいる者たちが一斉に跪く。メアリーとリュートは立ったままであるが……。


複数の足音がと共に、ステージの袖から姿を現す華美な服装の者たち。リュートの周辺にいる者たちとは明らかに違う雰囲気を纏った彼らは、階下で跪く者たちを一瞥する。すると、そんな中で立っているリュートとメアリーは目立つため、当然目がいってしまう。


(あ、ユスティもいる。やっぱりドレスが似合うよな~)


ユスティは純白のドレスに身を包んでおり、手を前で軽く組んで佇むその姿に、思わずリュートは見惚れてしまう。そして、改めて再確認した。ユスティは国のトップ・王族なのだと。


そのユスティ本人は、リュートと目を合わせると嬉しそうに微笑んだ。


(王妃も王子もやっぱり美形だよなぁ――。……うん。まちがいなくユスティは母親譲りだね)


何のことかは、リュートの視線が仮面越しにユスティと王妃の胸元にいっていることで察しはつくだろう。


王妃はまさにユスティの母親というように似ており、清楚なグラマー美人。逆に王子は父親似であり、真面目そうなイケメンだ。


ペルセア王国の王族たちは立ったままの二人に何かを言おうとするが、ガルド国王が手で静止したため、何も言わずにとどまった。


「皆の者、今日は無礼講だ。立つがよい」


ガルド国王の許しを得たため、皆が次々に立ち上がる。そして、彼らの視線は男はユスティら女性陣へ、女はイケメンな男性陣へと目を向けてしまうのは仕方がないだろう。特に男は。


「本日は我がシュベリア王国と、同盟国であるペルセア王国との親睦を深めるために開かれた舞踏会が無事に開催されたことを、心より嬉しく思う。先ほども申したとおり、本日は無礼講だ、楽しむがよい」


ガルド国王からの短い挨拶とともに、本格的に舞踏会は開始される。王族の者たちも壇上へと下り、会に参加する。すると、当然王族と関わりを持とうとする地位の高い貴族たちが彼らを取り囲む。


「うわあ~。めんどくさそう……」

「でも流石ですね。笑顔を絶やさず、全員の話を聞いています」


王子、王女といった未婚の王族に集まっているようだ。彼らと結婚できればもれなく王族の一員となるし、次期国王となる王子との結婚が決まれば、その者は次期王妃である。このチャンスを逃すまいと、こぞって自分を、しいては自分の娘息子をアピールしてくる貴族たち。


「ユスティたちは、ああいうのに慣れてる。心配いらない」

「あ、メアリー。戻ってきたんだ」


いつの間にか、横にはメアリーがいた。と、いうことは、ほかの三人もいるのである。


「さて、と。三人とも、僕は最初に離れるなって言わなかったっけ?」

「う……いや、それがさ……ほら、あたしたちって獣人じゃん?鼻が旨そうな匂いを嗅ぎ取っちまってさ……」

「そうなの!だから、仕方が……」

「仕方がない――?」

「いえ、その……」


珍しくリュートが強めに言う。自分たちに非があるのは分かっているため、これ以上言い訳できないウルたちは、大人しくリュートに謝る。


「わ、わるかった……」

「ごめんなさい……」

「リュート、ごめんなのじゃ……」


しゅん、と獣耳をタレ下げて謝るウルたちに内心ときめいたが、ここはちゃんと言わなければと心を鬼にするリュート。


「いい?みんなは貴族と何かトラブルを起こしたらどうこう言えないんだよ?立場的には奴隷でしかないんだから。だから、僕から離れないで欲しい。みんなをトラブルなんかにあわせたくないからね」


リュートの真剣な注意に、ウルたちは再度、謝罪する。彼女たちの心からの謝罪を聞き、ようやく笑顔になるリュート。


「まあ、僕も竜だからおいしそうな匂いがしたのはよくわかるけどね。ここの料理は美味しかったかい?」

「うむ、初めて味わったものばかりじゃったぞ!」

「でも、メアリー様やターナリアの料理の方がうまかったな……」

「あ、それボクも思った!!」

「へえ、そうなんだ?」


こうして聞くと、ターナリアやメアリーがどれほど料理が上手なのかがわかる。それか、家庭の味が一番というやつなのかもしれない。褒められた二人はとても嬉しそうだ。


「それよりリュートよ。ユスティの方はいいのかの?何やら大変そうじゃが」

「え?」


見てみると、ユスティは未だに囲まれていた。あれほどの人数に囲まれてずっと話を聞かされ、笑顔を続けるというのはさすがにきついはずだ。


「――そうだね、そろそろ行ってみようかな?今日の僕は虫除けの役目もあることだしね」


少し心配になったのか、リュートはその群れへと向かう。後ろにはメアリーたちもついてきた。すると、向かってくるリュートたちに気づいたのか、ユスティは作り笑いではなく心からの笑顔となる。


「リュート様!」


ユスティの嬉しそうな声に釣られ、周囲の男たちはリュートへと視線を向ける。そこにいたのは、何かと目立つ集団。


先頭に立っている仮面の男が腰を折り、丁寧な口調で話しかけてくる。


「話の途中、申し訳ありません。ですが、そこまでにしておいたほうがいいと思われますが?男が女性を囲んで質問をあびせるばかりというのは、紳士としてどうかと思うのですが」


丁寧な口調にも関わらす、リュートからは妙な迫力が出ていた。それについ気押される若い貴族たち。しかし、不躾に話を切ってしまったリュートに不満を抱いた彼らは、


「な、なんだい君は!?」

「いったいどこの者かね?爵位は?」

「我々の会話を中断して、これがどういうことか分かっているのかね!?」


口々に文句を言ってくる彼らに、リュートは首をひねって答える。


「爵位といいますか……僕は貴族じゃありませんよ?強いて言うなら、平民みたいなものですかね」

「――――はあっ!?」

「な、何故平民がこの場にいるのかね!?ここには我々高貴な者たちしか招待されていないはずだ!」

「下賎な者が来ていい場ではない!!」


後ろでユスティの頬がひくついているとも知らず、リュートに罵詈雑言を浴びせる若い貴族たち。しかし、リュートはなんの反応も見せない。この程度の反応は予想通りなため、別に気にするほどでもないのだ。


そんな時、一人の男がある事に気づく。


「お、おお……あなた様はもしや、黒皇竜メアリー様ではございませんか」

「何?おお、なんと……。メアリー様が本当におられるとは……」

「なんという神秘的な美しさ……。まさしく皇たる御方……」

「後ろの者たちも皆美しい者たち……。もしや、メアリー様の従者ですかな?いやさすがでございます」


貴族たちはリュートの横を通りすぎ、今度はメアリーたちを囲む彼らは、ユスティに対して失礼な行動ということがわからないのだろうか。リュートもさすがにこれには無視できず、彼らに何かを言おうとする。しかし、先に行動したのはメアリーだった。


メアリーは我先にと話しかけてくる男たちには目もくれず、ただ一言発する。


「……どいて」


小さな、しかし力のこもった声で伝えるメアリーに、体の奥底が恐怖し、道を開けてしまう男たち。メアリーが彼らの横を通り抜けようとしたその瞬間、メアリーは立ち止まり、彼らにさらに伝える。


「……私は、リュート様のもの。後ろの()たちもいっしょ。だから、リュート様以外の男が、私たちに触れないで……」


そして再び歩み出すメアリーたち。奴隷であるはずのウルたちも当たり前のように通っており、普段の彼らなら怒るところだろう。しかし、今はそんなことはどうでもいいほどに驚いていた。それは、周囲で黒皇竜を一目見ようと集まっていた他の者たちも同じだった。



「リュート様とはいったい誰のことだ……?」

「まさか、あの方が誰かのものだとおっしゃるだなんて……」

「そんな、メアリー様……」


メアリーの向かった先から考えて、“リュート様”というのが仮面の男だというのは予測できる。しかし、黒皇竜をして様扱いされるあの男は一体何者なのか。それが周囲を取り囲んでいる貴族たちの頭から離れない。


しかし、驚きはこれでは終わらない。


「おまたせユスティ。大変だったね」

「いえ、これくらい慣れてますから」


なんと、仮面の男は平民にも関わらず、王族に気軽に話しかけているのだ。ユスティの方もそれを当然のようにして答えている。これがおかしいと言わずにんんと言おうか。そんな気持ちだろう。


さらに、


「やあ、リュート殿。本日はよく来てくださったな。心より感謝しよう」

「ああ、どうもガルドさん。今日はどうも」


「リュート……殿!?」

「ガルドさんって……ええっ!?」


現れた一国の王に対してさん付け、しかもかなり気軽に会話している。王であるガルドにしても、平民のはずの男に対して“殿”をつけ、敬った話し方をしている。


「か、彼は本当に……一体何者なんだ……」


周囲からある種の恐れにも似た視線を向けられながら、しかしまったく動じることなく会話は続く。


「お久しぶりですわ、リュート様。こうして話をするのは初めてですわね。(わたくし)の名前はミレイナ・R・シュベリアですわ」

「私はリーベウス・R・シュベリア。ユスティの兄に当たるものです。あなた様に会えるなんて、光栄です」

「それじゃあこちらも、僕はリュート・カンザキ。一応平民なので、そんなに形式ばった話し方じゃなくていいですよ」


リュートは二人と軽く挨拶し、握手を交わす。


「ところで、ユスティはみなさんに迷惑をかけて等おりませんか?」

「たしかに、あの子は昔から、少しおっちょこちょいなところがありましたからね。その辺、兄として少し心配です」

「お母様!?お兄様まで!!」

「大丈夫ですよ。おっちょこちょいなユスティも可愛いので、迷惑なんかじゃなありません」

「うあ……うう……」


ついにはユスティも赤面して黙ってしまう。そして、それを見て笑う3人。確信犯である。




と、その時、扉の方で黄色い悲鳴が聞こえてきた。


「やあ、淑女の皆さん。またせてごめんよ」


現れたのは、複数の女性を引き連れて歩いている金髪の男。シュスティンだった。

 続きを楽しみにしてくださっている読者の皆様、更新が遅れてしまい、本当に申し訳ありません。と、いうのも、木曜から日曜までテスト続きだったもので・・・。

 ですが、これからは以前通りに更新していきます。どうか、これからもよろしくお願いします_(._.)_

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