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彼女たちへのプレゼント

「う~ん。何かいいものがあればいいんだけどなあ……」

「おお~!何やら面白そうなものばかりじゃの!」


リュートは店を物色しては、モノを手にとって眺める。そして、これは違うな、と首を横に振っては元の位置に置き、別の商品を手に取る。


「……ん?あっちにあるのは服かな?」


リュートが見つけたのは、子供用の服屋だ。ちょうど良い、とばかりに玉妃を連れて入ってみる。


「む……ここは、服屋かの?」

「そうだよ。これから玉妃の服を買うんだ。気に入ったものがあったら言ってね」

「わ、妾のかの!?」


現在玉妃が着ているのは、ぶかぶかのT―シャツと短パンのようなものであり、全部カレンのお下がりだ。そろそろ玉妃専用の服を買わなければと思っていたリュートである。


好きに選んでいいとは言ったものの、玉妃は数多くの服にあわあわと慌てるのみだ。まさかと思い、尋ねてみるリュート。


「まさか玉妃……洋服とか買ったことがないの?」

「う、うむ……妾はいつも与えられた服しか着ておらんかったのじゃ……」


そう言えば、塔で会った時も、簡単な服だったと思い出すリュート。ならばと思い、選んであげることにしたリュート。


「う~ん……それじゃあ、こんなのとかどうかな?」

「こ、これかの?しかし、妾にはちと大きいと思うぞ」

「そっか、じゃあ、これは……」


そんな風に、玉妃の意見も聞きながら、彼女に合いそうな服を探していくリュート。


微笑みながら服を探すリュートと、それを照れながらも興味げに、それでいて嬉しそうに着る玉妃。


そんな二人の兄妹のような光景は、見ていた者たちすべての心を暖かくした。


「あ、あの、お客様……こちらなどいかがでしょうか?お嬢様のサイズにもぴったりですし、髪の色などにもあうと思うのですが……」


店の店員と思われる女性が、思い切って話しかけてきた。頬を紅くしながらも、両手で服を持っている。玉妃の赤く染まった髪に似合いそうな、淡い緑色のワンピース。シンプルなデザインではあるが、幼い玉妃にはたしかに似合うだろう。


「ああ、いいですね、それ。試着してもいいですか?」

「も、もちろんです!こちらへどうぞ!」


リュートの琴線にも触れたのか、さっそく玉妃に着てもらうことにするリュート。まだ戸惑っている玉妃を連れて、試着室へと連れて行く。


「こ、これでどうかのう……」


やがて出て来た玉妃は、とても可愛らしかった。色も非常に合っており、まるで人形のようである。もじもじと指を絡ませているのも、彼女の愛らしさをさらに際立たせている。


「うん、すごく似合ってる。とても可愛いよ!」

「ほ,ほんとかの……?こういった服は初めてなのじゃが、本当に妾に似合っておるのかの?」

「もちろんだよ!」


リュートに褒められ、ようやく玉妃も笑顔になる。そして、新しい服に喜んでいるのか、鏡を見てははしゃいでいる。こういうところを見ると、やはり子供らしいところがあるんだなあと改めて思う。


「そうだ、他にも何着か選んでくれませんか?彼女に似合うものであれば、特に指摘はありませんから」

「は、はい!喜んで!」


女性の店員に話すと、喜んで引き受けてくれた。顔中を真っ赤にしているところを見て思う。こういう時、この顔って便利だな、と……。


そうして、玉妃の服は計6着買うこととなった。他にも候補はそれなりに多かったのだが、リュートと玉妃が共に納得できたのは、これだけだったのだ。


「選んでくださり、ありがとうございます」

「い、いえ!こちらこそありがとうございます!またのご来店をお待ちしております!」

「ええ、それでは」


二人は店員に礼を言い、手をつないで再び歩き出す。ちなみに玉妃は新しい服を着たままであり、スキップでもしそうな雰囲気だ。


「喜んでくれたみたいで良かったよ」

「うむ、ありがとうなのじゃ!今日のことは絶対に忘れんぞ!」

「フフッ。そっか」


無邪気な笑顔を見ると、こちらまで嬉しくなる。本当にいい買い物をしたと、心の中で安堵するリュート。


それからもあちこちを見て回り、リュートも目的のモノをなんとか買うことができた。途中、長時間歩くことに慣れていない玉妃を負ぶさり、二人でゆったりと買い物を楽しむ。


そして気づけば、もうすでに夕暮れどきとなっていた。


「ありゃ、もうこんなに時間が経ってたんだ。そう言えば玉妃、さっきからおとなしいけど、どうかし……ああ、なるほど」


もう帰ろうか、そう伝えようと首を動かし、玉木の様子を見てみるリュート。すると、そこにはヨダレを垂らしてすやすやと眠る、愛らしい顔があった。


「流石に疲れちゃったか……。まあ、まだ外には慣れていないようだし、仕方ないか」


苦笑し、なるべく背中に振動を伝えないようゆっくり歩きながら帰るリュート。今日がとても充実した一日であったことは、玉妃の表情を見ればわかる。


リュートにとっても非常に楽しい一日であったことは、言うまでもないだろう――――。






ちなみに、服を返しに三日月亭に寄った時に聞いたのだが、今日の三日月亭の売り上げは、いつもの三倍にまで跳ね上がったらしい……。








 ***


「みんな、ちょっと集まってもらえる?」


リビングにて、みんなに集合をかけるリュート。それぞれの作業を一端止め、リュートの周囲に集まり、全員が高そうなソファに座る。


今はすでに夕食を済ました頃であり、各々自由にくつろいでいる。玉妃は起きなかったため、部屋ですでに寝かしてある。


「どうされたのですか?」

「うん、今日はみんなに渡したいものがあってね」

「私たちに……ですか?」


最初にユスティが反応し、首をかしげる。いいからいいから、と言い、左手につけている「アイテムリング」から、今日買った袋を取り出す。


「それじゃあまずは、メアリーから!」

「私……?」

「うん、メアリーにはこれをプレゼントするよ」


そう言ってリュートが取り出したのは、蝶をモチーフにした銀細工の髪飾りだ。それほど大きいものではなく、キラキラと光に反射して美しい。中心にはエメラルドの輝きを放つガラスが埋め込まれており、それがさらに美しさを引き立てている。


「これを……私に……?」

「そう、メアリーにぴったりだなって思ったんだけど、どうかな?」

「……嬉しい。ありがとう、リュート様……」


銀の髪飾りを宝物のように胸に抱く姿は本当に嬉しそうであり、リュートは一瞬ドキっとした。


「喜んでもらえてなにより!それじゃあ次は、ユスティだね」

(わたくし)ですか?なんだか照れちゃいますね」

「ユスティには……これ!」


次に取り出したのは、石がはめ込まれた指輪だった。蒼く輝く石は、見ていて吸い込まれそうな、不思議な魅力があった。王族である彼女なら、これより美しく、価値のある宝石をいくつも見てきたことだろう。


しかし、不思議なことに、この指輪は今まで見たどんな宝石よりも美しく感じたのだ。


「本当に、よろしいんですか……?」

「もちろんだよ。むしろ、ユスティにこれくらいのものはダメかとハラハラしているくらいさ」

「そんなことありませんわ!すごく嬉しいです!」

「そっか、よかった」


大きな声で否定するユスティの声は、彼女の喜びを表していた。それを感じたリュートは、心のそこから

安堵する。


「よし、それじゃあ次は、イレーナだ」

「わ、私にもあるのか!?」

「もちろん!全員分あるよ」


彼女へのプレゼントは、イヤリングだ。イレーナはダークエルフであるため、耳が一番の特徴である。髪をポニーテールにしているため、尖った耳はよく見えるのだ。


「イレーナって、女性としてのお洒落とかしないじゃん?だから、よかったらこれを付けてくれると嬉しいんだけど」

「わ、私にこんな綺麗なもの……似合うわけが……」


女ではなく、軍人として生きてきたためか、イレーナはオシャレといったものに少し奥手のようだ。しょうがないとばかりにため息をつき、イレーナの前に膝をつく。


「りゅ、リュート殿!?」

「ちょっと動かないでね」


リュートはイレーナの両耳に一つずつイヤリングをつけていく。イレーナ本人は目の前にリュートの素顔があるため、緊張して動けないでいる。


「よし、これでオッケー。ほら、やっぱりイレーナに似合ってるよ!」


そこにいたのは、いつものキリっとしたカッコイイ女性ではなく、顔を赤く染めてうつむいている、非常に可愛らしい女性だった。今のイレーナははっきり言って……萌える。


「よくお似合いですわよ」

「スゲーじゃん!」

「おねーちゃん可愛いー!」


みんなが口々に褒めてくれるが、毎日部下には厳しく当たり、自他ともに認める堅物として生きてきたイレーナにとって、なんだかこそばゆい。


そのため、言葉にできないでいる。そんな中、リュートがじーっとイレーナの顔を見ている。視線を感じたイレーナは、つい聞いてしまう。


「や、やはり私には似合わないだろう……?」

「いや?いつものキリっとしたイレーナもいいけど、今の恥ずかしそうなイレーナもいいなって思って。これがギャップ萌ってやつなんだね。すごく可愛いよ」

「――――ッ!?」


一瞬でゆでダコのようになり、固まってしまうイレーナ。確認したところ、どうやら気絶したようだ。


「あれ?さすがにやりすぎたかな……?」


どうやらトドメを指してしまったらしいリュートは、のほほんとしている。数分後には目を覚ましたため、次に行くことにするリュート。イレーナの顔のほてりは、いっとき覚めることは無かった。


「今度はターナリアね」

「フフッ。何がいただけるんでしょうか」


いつものように穏やかな笑みを浮かべ、何がもらえるのかを楽しみにするターナリア。そんな彼女に渡すプレゼントは、銀のネックレスだ。


それほど華美な装飾は施されていないが、一つ一つが非常に丁寧に作られているものであることがよく分かり、全体的に美しい。


「すごくきれいですね。本当にありがとうございます、ご主人様」

「どういたしまして!」


満足してくれたようでなによりである。


「そんじゃ最後、ウルとカレンにだ」


リュートが取り出したものは、同じ意匠が彫り込まれたブローチだった。色は違うものの、同じ作品であることは一目瞭然である。


「これは……?」

「すごくキレイ……!」

「こっちの水色のブローチはウルの、こっちの紅いブローチはカレンのだよ。二人の髪色にあってたからってのと、二人は血の繋がった姉妹だからね」


ウルとカレンは試しに胸につけてみる。こうして見ると、まるでペアルックだ。


カレンは全身で喜びを表し、ウルは興味なさそうにしているものの、若干口がニヤけている。男勝りな彼女でも、やはりこういったものは嬉しいのだろうか。


「ありがとう、お兄ちゃん!ボク、絶対に大切にするよ!」

「ふ、ふん!とりあえず、礼は言っとくよ……」


素直に礼を言ってくれるカレンと違い、ウルはそっぽをむいて礼を言う。しかし、尻尾はブンブン揺れており、顔も赤い。そのことに気づいたリュートは、いつものようにからかう。


「素直じゃないなあ、ウルお姉ちゃんは♪」

「――!?お、お姉ちゃん言うなアアアア!!」


瞬時に反応したウルは、大声で叫ぶ。いつものように、賑やかなみんなに戻った。


そんな彼女たちの表情は、心の底から喜びで溢れていた。





そして、ようやく落ち着きが戻った頃、リュートはあることに気づいた。ユスティがなにやら難しそうな顔でこちらを見ているのだ。


「どうかしたの?ユスティ」


リュートの問いに、ほかの者たちも振り向く。まだ考え込んでいる様子のユスティだったが、ついに決心したのか、真剣な表情でリュートを見る。


「リュート様、4日後、何かご用事がありますでしょうか?」

「いや、特にないけど……」

「で、では……」


ユスティは少し恥ずかしそうに、リュートにお願いをする。


「わ、私と、“舞踏会”に出ていただけませんか!」




これが、リュートの人生(竜生?)に大きな転換をもたらすことを、このときのリュートは思ってもみなかっただろう……。


更新しました!今回はいかがでしょうか?


最初あたりの話も少し改稿したので、よければそちらの感想もよろしくお願いします。

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