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その日の夜

「リュート様、遅いですわね……」

「こんなに遅くなるの、初めて。珍しい」

「ですわねえ……」


リュートがウェスペリア帝国で好き勝手していた頃、屋敷には既に、全員が帰ってきていた。時間はもう8時を回る頃であり、夕食の準備等も既に終わっているため、あとはリュートの帰りを待つだけなのだ。しかし、そのリュートがまだ帰ってきていない。


「お兄ちゃん、今日は依頼を受けるって言ってたよね。何かあったのかな?」

「ご主人様に限ってそれはないと思うのですが……」

「イヤ、ご主人なら自分から進んで面倒ごとに突っ込んでいくな。それも、鼻唄でも歌いながら」

「フフッ。確かにそうですね」


皆、それぞれでリュートの心配を口にしているが、リュートなら大丈夫だろうと安心している……ように見せている。リュートは彼女たちの中心的存在であり、居ないとやはり心配するのだ。


「――!!」


メアリーが何かに気づき、パッと玄関の方を向く。それを見たユスティが、思わずといった感じでメアリーに尋ねる。


「――?メアリー様、どうされたのですか?」

「外に、誰かいる……」

「もしかして、リュート様でしょうか!?」


ホッとした表情になるユスティたち。しかし、メアリーは不可解な、といった表情のままだ。


「どうされたんですか?まだ何か……?」

「気配があるのは、二人」


今度は驚きの表情を浮かべるユスティたち。もしかしたら、侵入者かもしれないと、緊張が走る。


「……安心して。一人はリュート様だから。もう一人はわからないけど……」

「お兄ちゃん!?よかったあ、無事だったんだぁ!」


カレンが喜びを露わにする。ほかの者たちも口では言わないが、皆嬉しそうな表情だ。


(でも、もう一人の子……あの魔力は一体……?)


不思議な魔力を感じていることに疑問を抱くが、みんなと玄関に向かう。帰ってきた屋敷の主人を出迎えるのだ。


やげて、玄関の大きな扉が二回ノックされ、開かれた。そこから、人影が入ってくる。


「お帰りな……さい……ませ……」

「え、えっと……」

「はあっ……?」

「と、とりあえず……」




「「「「「「誰っ!!??」」」」」」



扉の向こうから現れたのは、銀の仮面、白のマントとシルクハットを身につけた、奇抜な青年だった。








 ***


「と、いうわけで、この子が今日から新しい家族になる、玉妃だ」

「よ、よろしくじゃ……」


なんとかみんなを落ち着かせ、これまでの経緯を説明したリュート。


聞いていた者たちは、新しい家族ができたと喜べばいいのか、とんでもないことをしていたのかと驚けばいいのかわからない様子だ。


どちらかと言えば、呆れの様子が強いようである。


「そんなことをしてたのかよ……相変わらずとんでもねえご主人だな」

「それで、その格好だったんですね?」

「そうだよ。中々カッコいいでしょ?」


そう言って、みんなの目の前で決めポーズするリュート。よほど気に入っているらしい。


「すごくかっこいいよ!お兄ちゃん!!」


カレンだけが大はしゃぎである。キラキラとした目で見られているため、リュートとしても非常に気分がいい。


「それにしても、国のものをそれだけ盗むなんて、第一級の犯罪ですわよ?大丈夫なんですの?」

「へーきへーき。僕はそんなの気にしないから」

「気にしてくださいな……」


はあ、と諦めの息をつくユスティ。リュートなら大丈夫だろうと考えたのだ。話を聞く限り、人的被害はないとうのもある。


そんな中、メアリーは一人、玉妃をずっと見ている。首をかしげながら、しかしずっと見ているため、玉妃も少し怯えているようだ。


「どうしたの?メアリー」

「彼女の魔力……」

「あ、気づいた?」


頷くメアリー。しかし、ほかの者たちにはどういうことかわからないため、代表してユスティが聞いてきた。


「どういうことなんですの?教えてくださいまし」

「この子、玉妃は『龍神の巫女』って言われていることは話したよね。玉妃には、竜種特有の魔力が混ざっているんだ」

「竜種特有の、ですか?」


ここで、メアリーが代わって説明する。


「竜種には、人種とは少し異なる魔力が流れている。人種は魔法を発動するとき、普通の魔力から属性魔力へと変化させなきゃいけない。だから、人種は魔法の呪文詠唱がないと発動が難しいし、効率も悪い。それに対して、竜種は元々属性に変換された魔力が流れてるから、発動のタイムラグが少ない。それに、魔力濃度からして、人種よりも髙いから、威力も違う。これが、竜種が最強と言われてる所以でもある。」


ほかの者たちは、メアリーからの説明に驚いていたが、リュートは別のことに驚きを示していた。


(メアリー、こんなに長く話せたんだ……!)


そんな彼の心中を知らず、メアリーはさらに説明を続ける。


「私たち六皇竜は『人身変幻』すると人種同様、魔力の変換が必要となる。魔力の濃度や量も人形に収まる程度まで下がるから、その分詠唱が必要な魔法もあるし、威力も落ちる」

「リュート様はどうなんです?落ちていないように思えますが……」

「リュート様もちゃんと弱くなってる。元々が普通じゃないから、そう見えるだけ」

「そ、そうですか……」


あれでか……。


そんな、呆れにも似た気持ちが満ちたが、当の本人はのんきに紅茶を飲んでいた。みんなの視線に気づいたのか、リュートは話を戻す。


「まあ、メアリーが言ったとおり、人種と竜種では魔力が少し違うんだ。にもかかわらず、玉妃には竜種の魔力が流れている。これが、彼女が龍神の巫女である理由だね」

「よくわかんねえけど、お前スゲエんだな。ドラゴンと会話できるとか、少し羨ましいよ」


ニカッと笑い、玉妃の頭を撫でるウル。姉であるため、妹と同じくらいの年齢の少女に同じように接してくれるだろう。


「ボクはカレンっていうの。これからよろしくね!」


カレンが嬉しそうに握手を求めてくる。妹ができて嬉しいらしい。おずおずとその握手に答える玉妃はどこか恥ずかしそうだ。


「それなら、私はターナリアっていいます。これからよろしくお願いしますね」

(わたくし)はユスティと申します。仲良くしてくださいね」

「……メアリー。よろしく」


ターナリアが慈母のような笑顔で言い、ユスティがロイヤルなオーラと共に握手を求め、メアリーが相変わらずの短い口調で挨拶する。


続いてイレーナが自己紹介にと前に出ると、玉妃は反応を見せた。


「ひゃっ……!」


怯え始めたのだ。顔を青くさせ、リュートの腕にくっつく玉妃。いきなり怯え始めた彼女に首をかしげるイレーナだが、リュートは何か納得がいったかのように話し始める。


「あ、そっか!玉妃は帝国の軍人たちにひどいことをされてたから、軍人気質なイレーナにも怯えちゃうのかも」

「む、そうか……それはすまないな。しかし、私はどうすればいいのだろうか?」

「う~ん、イレーナが悪いわけじゃないんだしなあ」


みんな、何かしら思案するが、一向に思いつかない、とりあえず、イレーナは怖い存在ではないことを伝えようとするリュート。


腕にしがみついたまま離れない玉妃の頭を撫でながら、リュートは優しく伝える。


「玉妃、イレーナは僕らの家族なんだ。玉妃にひどいことはしないよ」

「ほ、ホントかの……?」

「ああ、約束しよう」

「……わかったのじゃ」


まだ若干震えてはいるが、なんとかイレーナと握手する玉妃。その瞬間、みんなが笑顔になる。


やがて、みんなとの会話が弾むようになり、最初はおどおどしていた玉妃もだんだんと笑顔が増えてきた。


だが、時折見せる照れたような表情が気になった。


「どうしたの?玉妃」

「うむ……その、こんなに温かな雰囲気は初めてなのでな。少し……照れくさいのじゃ」


はにかんだように話す玉妃に、みんなの優しい笑顔が一層深まる。


リュートはここにいる全員に向けて、最上の笑顔とともに繰り出す。


「ここにいるのは玉妃の兄であり姉だよ。だから、本当の家族のように思いっきり甘えてもいいからね!」










 ***


その頃、リュートが去ったあとの帝国では、まだ騒ぎが収まっていなかった。


「おのれ、怪盗シルバー仮面め!この屈辱、いつか必ず晴らしてみせるわ!!」


将軍の一人、バグダットは怒りを露わにする。彼は姫騎士と共にリュートへと魔法を放った人物であり、無傷で逃げられたことが彼のプライドを傷つけていた。


「落ち着け、バグダット殿。今は負けたという現実を受け入れなければならない」

「ですが姫様!」

「バグダット、黙れ]

「――!?」


皇帝であるザンドルフは、威圧で騒いでいるバグダットを黙らせる。この辺、さすがは一国の頂点といったところか。


「も、申し訳ありません」


その鋭い眼光と膨大な魔力の前に、いくら将軍とはいえ、落ち着かざるを得なかった。


「現在の被害状況を報告しろ。奴がほかに何を盗んでいったのかを調べるんだ」


とその時、城の中から一人の兵士と研究員らしき男が一人、慌てて向かってきた。彼らは将軍たちが集まっている場所に近づいただけで青ざめており、ただの一般兵だろうことがわかる。


「どうした」

「はっ!それが……その……」

「どうした?さっさと言わぬかっ!!」

「ひいい!!その、ガルガントが、破壊されていますう!!」


言いにくそうにどもっていた兵士に対して、ザンドルフは一喝する。怯えあがった彼らは今にも気絶しそうな顔で報告した。帝国の者としては信じたくない内容を。


「何!?それは本当か!?」

「ほ、本当です!」

「っく!貴様ら、地下研究所へ急ぐぞ!」


「「「「はっ!!」」」」


皇帝とすべての将軍たちは、顔に焦りの表情を浮かべて走り出す。やはり彼らの速さは普通ではなく、目にも止まらぬ速さで駆け抜けていく。


バンッ!という乱暴な開け方で地下研究所を開け、全員が中へと入る。


そこで彼らが見た光景は、やはり、外れて欲しいと思っていたものだった。


「な、なんと……」

「くそっ!あのやろう!!」



ガルガントは細く細かく切られており、料理でいうと「千切り状態」だった。そのどれもがスッとなめらかな太刀筋であり、余程の名剣で切ったのだろうと思われる。本人も相当な実力なのだろう。


帝国の期待の、そして最強の兵器ともいえるガルガントのあまりにも無残な姿に、もはや声さえ出ない様子だ。


「へ、陛下、上をご覧ください」


研究所の中で悲しみにくれていた研究員たちの一人が、ザンドルフに言いにくそうに報告する。


呆気にとられていた皇帝たちは、何も言わずに上を見上げる。そして、固まった。ピシっと石化したかのように、一瞬で固まったのだ。


天井には、炎の焼け跡で書いたと思われる文が書かれていた。ここはガルガントを収納していたこともあって、高さは15mはある。そんな高さにどうやって書いたのかが疑問ではあるが、問題はそこではない。その文の内容そのものが問題だった。





『帝国の皆様、本日はお騒がせして申し訳ない。しかし、貴方がたの巫女への仕打ち、許せるものではありません。また、危険なものであると判断したため、嫌がらせの意味も含めてそこの大きな兵器を破壊しておきました。運が無かった、と諦めてください。


最後に、一言伝えます。




  ざまぁ☆


 by 怪盗シルバー仮面』





その人をイラつかせるような最後の一言と文は、確かに彼らをイラつかせていた。いや、切れさせていた。



「おのれ~~!!何が『ざまぁ☆』だ!!」

「ふざけおってええ!!」

「絶対に許さんぞ!」


各々があまりの怒りに暴言を吐いている中、姫騎士はじっと、その文を見ていた。何か思うところがあるらしい。と、その時だ。




ブチィッ!



「「「へッ?」」」



その何かが切れたかのような音は、ザンドルフからのようだ。


見てみると、彼は顔を真っ赤にし、顔中に血管が浮き出ており、歯もギリリと食いしばっている。体中から怒りのオーラとも言える圧倒的な魔力が室内に吹き溢れており、完全にキレたようだ。



「あんのクソ野郎!俺様の国をかき回していったあげく、こんなふざけたことまでしやがって!な~にが『ざまぁ☆』だ!ザケンな!ゼッテー殺す!とにかく殺す!このガルガントにやったように、細切れ(こまぎれ)にしてやる!覚えてろ、この、クソがあああああああ!!」


今までの落ち着きぶりが嘘かと思えるほどの、暴言の大パレード。しかし、これが本来のザンドルフなのだ。彼は元々気性が荒く、一度頭に血が上れば手に負えないような人物だった。しかし、一国の王を受け継いだため、、最近はおとなしくなっていた、かのように見えていた。


先ほどまでも、内心では怒り爆発だったのを、なんとか抑えていた状態だったりする。


「おい、てめーら!!あの『怪盗シルバー仮面』とかいうふざけた野郎を絶対に探し出せ!見つけ出して俺の前まで連れてくるんだ!いいな!わかったらさっさと行け!!」


「「「「「りょ、了解!!」」」」」


ザンドルフの怒りの形相に、一斉に敬礼し、去っていく将軍たち。この後リュートは、いや、怪盗シルバー仮面は指名手配の大犯罪者となったのだ。


研究員たちは彼の体からあふれる膨大な魔力に耐え切れず、全員気絶している。


残ったのはザンドルフ一人であった。


「がああああああああああああああッッ!!!」



獣のような咆哮を上げ、リュートへの殺意でいっぱいになるザンドルフ。


しかし、彼は知らない。彼が狙う相手は、この世で最も敵に回してはいけない人物だということに。

久しぶりにユスティたちを書いたので、口調とかいろいろ忘れていて書くのが大変でした。しかし、なんとか書き終わりました。


最後までおちょくっていたリュートでしたが、いかがだったでしょうか?


感想、お待ちしております。

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