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魔力コントロール

リュートが生まれて二週間がたった。


ウンディーネとも何度か会い、話を聞いたり魔法の練習に付き合ってもらったりした。今日もまた、彼女が魔法について教えてくれることになっている。


「リュート、いる?」

「いるよ~?」


洞窟の中から声が帰ってくる。それはリュートが生まれた場所。彼はここを住処と決めたようだ。生まれた場所だからというわけではないだろうが、ここがひどく落ち着けるのである。


なかなか出てこないので、中に入ってみることにしたウンディーネ。リュートは洞窟の奥で丸くなり、眠っていたようだ。何故出てこないかのかと思っていると、リュートとは別の影を見つけた。


「どうしたの?」

「いや~~……動物たちに木の実を与えてたらさ、なんか懐かれちゃって……寝てたら一緒に寝てて、身動きが取れません」


竜の上に小動物たちが乗っかり、同じように丸まって寝ているという、なんとも心温まる光景が出来上がっていた。


この世界で小動物たちの生存確率は限りなく少ない。魔獣というモンスターがはびこるこの世界で、生き残るのは困難というもの。


リュートには食欲はあるものの、空腹はない。それは、竜種は基本、食事を必要としない生物だからだ。自然魔力を摂取することが食事と言い換えてもいい。そのため、肉を食わなくても生きていけるリュートは、むやみに小動物を食べることはなかった。可愛さに負けたのである。


リュートが森の散策中に見つけた果物を小動物にあげたところ、小動物はリュートを無害な存在と認識した。加えて、リュートの魔力を感じる魔獣たちは恐れて近づいてこない為、彼の近くが最も安全だと認識したのだ。


リュートも孤独でなくなり、心の癒しを与えてくれる小動物たちがそばにいることを許した。彼らはそういう関係なのである。



「動物たちもよく、あなたを見て逃げなかったわね」

「そこはほら、僕の全身からにじみ出る……竜徳がわかったからじゃない?」

「竜徳って、何よそれ……」


二体の会話に反応したのか、動物たちが目を覚ました。しかし、精霊王であるウンディーネなため、動物たちは恐れることはない。リュートの体から降り、それぞれの行動をとった。


「ふう、これで動けるや。よし、さっそくやろう!」

「そうだったわね、今日はあなたに魔法を教えるために来てたんだったわ。早速行きましょう」


二体は洞窟を出、そして、フワリと飛んだ。ウンディーネは空中に浮かび上がるように。リュートは翼を広げ、ゆっくりとはためかせて、優雅に上昇していく。


「……あなた、いつの間に飛べるようになったの?」

「少し練習したら飛べた」

「相変わらず非常識ね……」



二体は森の林冠の少し上を飛行し、練習に最適な場所へ向かっている。以前の練習の際もまた、森の一部を消し飛ばしてしまったのである。このままでは森そのものが無くなりそうなので、今回を場所を変えることにしたのだ。



「今日はここでするわよ」

「湖?ってことは……」

「そう、私の聖域、いわば住処ね」


そこには、美しく広大な湖が広がっていた。太陽の光が素面にキラキラと反射し、それがなんとも幻想的な美しさを作り上げている。その水面に浮かぶウンディイーネ。さぞかし絵になることだろう。


「今日まであなたは散々森を壊してきました。中位精霊たちがなんとか修復してはいますが、それ以上にあなたが壊すせいで全然進んでいません」

「あ、あはは~~……」


事実であるため、笑ってごまかすことにする。


「笑い事じゃないわよ、もう!なので、今日はあなたに魔力の精密コントロールをマスターしてもらいます。どうせあなたのことだから、すぐに習得しちゃうんでしょうけどね」

「まあ……多分そうだろうね」


リュートも自分の体のことがだいたいわかって来た。龍神の体は相当なスペックの高さを誇り、やりたいと思ったことが簡単にできるようになってしまうのだ。リュートのイメージに、体が合わさっていく感覚である。


よくゲームで「チート補正」というように、リュートはこの身体のスペックの高さ来る万能感を、「龍神補正」とひとくくりにして考えることにした。


「ちなみに、魔力コントロールが完璧になると、こんなことまでできるようになるわよ」


ウンディーネは祈るように両手を合わせ、集中する。


湖全体に魔力が浸透していくのがわかる。そして次の瞬間、水が渦を巻いて天へと立ち昇り、かなりの高さまで届いたところで、今度は下に落ちてくる。


それは、まるで巨大な大木と、大きな滝。落ちた拍子に水しぶきが舞い、霧が吹き、虹が大きなアーチをがいて、一つの風景へとなる。


これで終わりというわけでなく、中心に穴が開き、空洞ができる。そこには、水で出来たクリスタルのようなものが浮かび上がっており、上から太陽の光が届いているらしく、美しく煌めいていた。


ただただ、それは圧倒的だった。


「名づけるなら、『聖樹』といったところかしらね。どう?私って結構芸術肌じゃない?」

「…………うん…………」


言葉も出ない様子のリュート。目の前の光景以外のことに、意識が向かないのだ。



もういいかと、ウンディーネは水をゆっくりと戻す。その際に津波となって押し寄せてくることなく、静かに、ゆっくりと、元の穏やかな湖に戻っていった。ここでも、彼女の魔力制御の高さがうかがえる。


「……それでは、リュートにはこれからあれと同じものを造ってもらいます」

「あれと!?」

「ええ、大丈夫。あなたならすぐにできるわよ」

「わかったよ……」


難しい顔をしながら、リュートは魔力を湖に流す。


「ああ、あまり湖を荒らさないで頂戴ね?ここは私の聖域なんだから」


その際、ウンディーネは釘をさすのも忘れない。リュートは思う、あの精霊(ヒト)鬼教師だ、と。


最初を魔力を流し過ぎないよう、慎重に、ゆっくりと流していく。


「……ありゃ」


突然、水面が大きく跳ねた。間違えて一度に流し過ぎたのである。


「最初は同じ速度で、同じ量を流さなきゃだめよ。速さを変えるのは、慣れてからね」

「も、もう一回!」


再度挑戦。先ほどよりはうまくできたものの、それでも波が激しく揺らいでいる。


三回目の正直ということで、もう一度やってみた。本当にうまくいったようで、波はまったく揺らぐことはなかった。


「……ほら、やっぱりすぐできたじゃない」


ウンディーネは乾いた笑いしか出てこない。


「次は、これを中心に向けて集めて、竜巻を造るイメージで……」


イメージはできた、が……結果は竜巻というより台風だった。


「ありゃりゃ~……」

「ちょ、やりすぎやりすぎッ!」


慌ててウンディーネが押さえつける。リュートはやっちゃた、という顔で振り返る。


「何でもすぐできちゃうあなたでも、これは意外と苦手なのかしら?」


意外な表情で告げるウンディーネ。それも仕方がないだろう。リュートも、まさかここまでできないとは思いもしなかったのだから。


「実はさ……僕って魔力無限じゃん?だから、使っても減らないから上限がわからなくてさ。これくらいならと思ったものがとんでもない魔力量だったりするんだよね」

「そう……でも、それは龍神という種である以上、仕方がないのよね。どうすればいいのかしら?」


考え込む二体。突然、リュートは何かを閃いたような顔をする。


「何か考えがあるの?」

「うん、まあね。ただ、少し難しそうだから時間をくれない?そうだな……四日ぐらい」

「そんなに?……わかったわ。じゃあ、また四日後にね」

「うん。ごめんね」


リュートは空へと昇り、どこかに飛び去って行った。


「ホントに大丈夫かしら……?」


心配そうにその背中を見つめるウンディーネを残しながら。








 ***


――四日後


「……う、そ……」


ウンディーネの目の前には、題名『聖樹』と全く同じものが出来上がっていた。その前にはドや顔らしき表情のリュートが、胸を張っている。


「どういうことかしら、これは……?なぜ、こんな急にできるようになったの?」


四日前まであれほど苦戦していた魔力制御。四日の間に何が起こったのか。その問いに、リュートは胸を張って答える。


「簡単だよ、上限がないんだったら、上限を作ればいいんだ。てなわけで、頑張って魔力に入れ物と蓋を作ってみました。これで、自由に大きさを調整できるね!」

「……へ?魔力に、蓋……?」


理解できないという表情の彼女を傍目に、リュートはさらに続ける。


「いや~、苦労したよホント。光の玉みたいなのが感じ取れるんなら、それをどうにかすればいいのかと考えたんだよね。でもさ、やっぱり非物質をどうこうするのって想像以上に難しくて。それで、光の玉を取り囲むようにして、流れ出る場所に穴をふさいだらどうかって考えたんだよね。そしたらうまくいったよ」

「ちょっとちょっと!それってあなた……自分の体内の魔力回路に、新しく別のものを造ったってこと……!?」

「まあ、そういうこと」


ますますありえないことをしていくリュートに、さすがに慣れてきたウンディーネも驚きを隠せない。自分の体の中に新しく別のものをつくるなど、常人ならまず思いつかないだろうし、思いついたとしてもやらないだろう。それを、抵抗もなくやり、そして成功させていることそのものが異常なのだ。


「てなわけで、魔力制御はこれで完璧だね!」

「ええ、そうね……」


疲れた表情をするウンディーネ。こうしてまた、リュートは異常性を増しながら成長したのだった。






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