発見、ガルガント
「それじゃあ、ここで待っててくれるかな?必ず迎えに来るから」
リュートは少女に向けて優しい笑みを向けながら、この部屋で待つように頼む。
今はもう日暮。そろそろ兵士たちの訓練も終わるであろう時刻だ。
リュートはこれから城の中へ潜入するつもりだ。この国には気になることが多過ぎる。そのため、潜入して何をしているのかを調べ上げるつもりなのだ。
(せっかく怪盗コスチュームも着たんだし、怪盗らしいこともしたいよね!)
欲望も多少混じっているようだ。そんな彼の心を知ってか知らないでか、玉妃は少し心配気味な表情をしている。
「や、約束じゃぞ!必ず、妾を迎えに来るのじゃぞ!?」
玉妃が見つけたたった一つの希望。なればこそ、リュートは約束を破るわけにはいかない。というよりもーー。
「大丈夫、泥棒は嘘をつかないよ」
嘘をついたら泥棒の始まり?違う。それはただのコソ泥である。リュートがこれからなりきるのは誇りとプライドを持った泥棒であり、怪盗なのだ。嘘をつくわけがない。
そのことをゆっくりと、優しい声で伝える。頭を撫でることも忘れない。
「――うむ、わかったのじゃ!」
分かってくれたのか、元気な声で返事をくれる。そのことに内心ホッとし、リュートはマントをひるがえし、窓から外に出る。
「それでは、行かせていただきます!!」
その言葉とともに、リュートはその場から消えた。
***
「とは言ったものの、さて、どこから行こうかな」
勢い良く出ていったはいいものの、リュートはまったくのノープラン。どこから見れば良いのかなど、まったく考えていない。
「とりあえず、中に入ってみれば何か分かるでしょ」
軽い考えのリュートだが、その足取りは素早く、全く足音を立てていない。気配も完全に消しており、準備は万全だ。
今のリュートなら、余程の強者でない限り下の兵士たちに見られることはないだろう。さらに、今は日が暮れているため、尚更である。
「と、いうわけで……お邪魔しま~す!」
塔に侵入した時と同じように、屋根から屋根へと飛び移り、『消滅』の魔法で穴を開ける。もちろん、下の様子を確認することも忘れない。
「ここは……なんだろう?」
リュートが侵入した場所には、豪華な机や装飾のついた椅子、そして、強固そうな黄金の鎧などが置いてあった。一見すると、なんの部屋かはわからない。
「ん……?机に何か置いてある。ちょっと見てみようかな?」
豪華な机の上には資料のようなものがあった。こんな豪華な部屋に置いてあるのだ。おそらく大事な資料なのだろう。そんな軽い気持ちで手に取り、読んでみるリュートだったが、次第に口が引きつっていく。
「え~……。これってどうなんだろ……。面白そうではあるけど、使い方次第じゃかなり危険なものじゃない?」
数秒ほど考えるが、とりあえずもらっておくリュート。以前、ウンディーネに餞別としてもらった「アイテムリング」によって、異空間倉庫へと収納したのだ。「アイテムリング」は左手の中指につけているため、左手で触れなければ収納できない。
「さて、それじゃあこの問題の物を見に行ってみるか」
厄介なものであることは間違いない。しかし、リュートはどこか楽しそうだ。
「あんな物があるとしたら、広い空間が必要だ。城を見た感じでは、上にはそんな空間はなかったしなあ。となると……地下かな」
ここは周囲の国を支配下に置く、強大な軍事国家なのだ。地下に大きな空間を持っていてもおかしくはないだろう。
扉を開け、廊下へと出る。そこはやはり豪華なレッドカーペットが敷いてあり、やはりこの部屋は地位の高い者の部屋なのだと確信させる。
「とりあえずは下を目指そう。地下へと続く階段なんかがあるはずだ」
リュートは疾風のごとき速さで走り出す。
右へ左へ、階段を見つけては下へと降り、入り組んだ迷路のような城の中を走り回る。人の気配を感じれば、すぐに物陰や影そのものに隠れ、未だに誰にも見つからずに進むことはできている。
しかし、ここは全く知らない城の中であるため、道が全くわからないのだ。
結果どうなるかというと……。
「……ここ、どこだろう……?」
現在、迷子である。
「くそ~。こういう時、ル○ンやキ○ドなら変装とかしてどうにかするんだけどな~。変装マスクとかないし、どうしよう」
考えるが、何も解決策が思いつかないリュート。いっそのこと、ここから下まで消滅で一気に穴を開けようか、などと考える始末だ。
「……うん、そうしよう。考えてみれば、別にバレても構わないんだよね。それはそれで面白そうだし。決まれば早速、消滅!」
右手を真下の地面へとつけ、魔法を発動する。リュートの手に銀の魔力が纏うと同時に、その場が直径2mほどの円状の穴となる。
下の地面についても魔法を発動させ続け、何度も穴を開けては下へと落ちていく。
「キャッ!?な、何?」
「何か、何か白いものが通っていきましわ……」
「ああ、上に穴が!?」
途中、貴婦人たちが集まる部屋を通ったが、リュートは無視してさらに落ち続ける。
意外と深くまで落ちたリュートは、ようやく目的の地下へとついた。途中で何人かの兵士たちにも見られたため、上では騒ぎが起きていることだろう。
「さてと、あれはどこにあるのかな~。……ん?これは……機械音?」
地下へ着いてまず聞こえてきたのは、機械音だった。微かではあるものの、リュートの耳は確かにその音を捉えた。
目的の物は近いと考え、すぐさま音のする方へと向かうリュート。
地下は一本道となっており、音のする部屋の入口まではすぐについた。「関係者以外立ち入り禁止」の紙が貼っており、明らかに怪しい。リュートは中の様子を魔力感知で確認し、そっと、中へと入る。
そして、中の様子を見たリュートは、驚きに目を見開く。
中には、白衣を着た研究員らしき男女の他、何かに使うのだろう機械の部品のようなもの、そして、中央には大きな船があった。
ガレオン船、と言えばわかり易いだろうか。しかし、外側を覆うのは木ではなく鉄、しかも、魔力を帯びた「魔錬鋼」という特殊な鉄をふんだんに使っている。帆が無いことから、この船は風によって動くものではないことがわかる。
そして、一番の問題は、船の先端から出ている巨大な大筒だ。ざっと見、全長20mはあるだろう。
「あれが資料に書いてあった魔導収束砲、『ガルガント』か……。確か、威力は街一つを消し飛ばすほど、だったっけ。それに、あの船自体もただの船じゃなくて、空飛ぶ飛行船だっていうんだもんねえ……」
空を自在に移動し、街一つを焦土と化すことのできる魔導収束砲。もしあれが戦争で投入されれば……シャレにならない。さらに、帝国は竜兵団なるものも持っている。普通の国なら勝ち目はまずないだろう。
リュートや六皇竜などといった化け物クラスがいない限りは……。
飛行船を遠めに見ていたとき、リュートはある二人を見つけた。周囲は白衣の研究員だらけに対して、その二人は華美な服装をしている。
一人は壮年の男性で、神官服のようなものを着ている。彼は龍神教の神官なのだろう。もう一人は神官の男より少し若く、メガネをかけて真面目そうな表情の男だ。ただし、頭の上が綺麗にハゲており、カッパを連想してしまう。
その頭を見た瞬間、リュートは声をあげて笑ってしまいそうになったのは余談である。
「何を話してるんだろう?近づいてみよう。――『属性変幻・闇』」
最近よく使うようになった魔法を発動し、周囲の影と同化するリュート。そのまま影から影へと移り、やがて、神官の男の影に入る。
ここに帝国の将軍クラスの戦士がいれば、リュートが影から影へ移る一瞬の気配を感じただろう。しかし、残念ながらこの場には研究員と神官とハゲた文官風の男のみ。それもまさか、侵入者が自分の影に入るなど考えもしないだろう。そのため、侵入者を発見することができなかった。
(さてと~。何を話してるのかな?まあ、よからぬ事なんだろうけど)
影の中から男二人の会話を盗みぎくリュート。そんなこととは知らずに会話を続ける二人。
「いつ見ても素晴らしいな。この『ガルガント』というのは」
「ええ、そうでしょう。これさえあれば、戦争も簡単に勝利できるのですから。これをくらえば、あの六皇竜でさえただでは済まないでしょう」
それを聞いて、神官と同じくリュートも驚く。もし、この魔導収束砲が六皇竜にも効果があるというのなら、この世界でも究極的な力ということだからだ。これは、もう少し話を聞く必要があるかもしれないと考えるリュート。
少し焦るリュートとは対照に、神官の男は笑いを浮かべる。
「ほう!それほどか。しかしそれだけの魔力、どうやって充填するというのだ?」
それはリュートも気になっていたことだ。六皇竜にも効果があるほどの魔力と言うならば、少なくとも一般の人族の魔法使い、約6000人ほどは必要だろう。それだけの魔力、一体どこから集めるのか?
「それには心配及びません。あの船には3年かけて将軍、大隊長クラスの方々が魔力を貯め続けた『魔力タンク』がつまれるのです。計算では、『ガルガント』は6発ほど発射できると思われます」
(6発も撃てるのか……。その将軍クラスっての人たちの魔力って、一体どれくらいなんだ?……ちょっと戦ってみたいかも)
その時、勢い良く扉が開かれた。この場にいた全員がパッと扉の方を向く。そこには息を切らした兵士がいた。その兵士は一直線に神官たち二人の元へ来た。
「どうした、何かあったのか?」
「はっ!それが、場内に侵入者が出た模様です。侵入者は白いマントのようなものを着ており、未だ発見できておりません!」
侵入者と聞き、全員に緊張が走る。しかし、ただ一人、笑いをあげる者がいた。文官風の男だ。
「ハッハッハッ!!これは面白い!まさか、この城に侵入とはな。現在この城には、全将軍が集まっているのだ。どうせ直ぐに捕まるか、殺されるに決まっておる。何も心配はいらん。さっさと戻れ!」
「はっ!失礼します!」
やりとりはすぐに終わり、兵士は去っていった。文官風の男は笑みを浮かべて振り返り、神官の男へ向けて言う。
「さあ、クリブ司祭殿。もうそろそろ時間となります。将軍の皆様もお集まりになる頃だと思いますので、行きましょう」
「う、うむ」
文官の男は神官の男・グリブ司祭を連れて、会議室へと向かう。当然、影の中にいるリュートもついて行く。
(捕まるわけないよ。僕を見つけられるかどうかも怪しいのに)
ちなみにそのリュートは、影の中で笑っていた。絶対に捕まらないという自信と共に。
遅れてすみませんm(__)m
パソコンがおかしくなってしまいまして・・・。
次は明日、明後日ぐらいには投稿したいと思います。
感想等、よろしくお願いします。




