表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/82

バカが絡んで来ました

「今日はBランクの依頼を受けてみようかな~」


リュートは今日も、ギルドへと向かっていた。この日は誰も連れてはいないため、気兼ねなく高ランクの依頼を受けられるのだ。


ギルドへと到着し、大きな扉を開けて中へと入る。


しかし、中の様子がいつもとちがった。いつもより騒がしいうえに、人も多い気がするのだ。彼らは皆、リュートを見ながらヒソヒソと話をしている。


(なんだ?僕になにかついているのかな?)


などとおかしくは思いつつも、リュートは依頼板へと向かう。向かったのはやはり、Bランクの依頼書が貼ってある場所だ。


「や、やっぱりランクが上がったのか!?」

「ていうかBランクだと!?上がりすぎじゃねえのか!?」

「いや、あいつが大会のとき通りの実力なら、あながち間違いじゃねえかも……」

「ありえねえ……あいつなにものなんだ?」


その途端に一気に騒がしくなるギルド内。リュートのランクアップというのが、これほどまでに広がっていたのだ。


事実、FランクからBランクへの昇級など前代未聞である。


自分が話の中心だと知ったリュートは、メンドクサイと思いながらも依頼を選んでいる。やがて、ひとつの依頼書に目がとまった。


『オーガの集落の壊滅:Bランク   報酬:金貨10枚』


オーガとは、人間の二倍ほどの大きさを持つ鬼のような魔獣だ。丸太を片手で握りつぶすほどの筋力を持ち、俊敏性もそれなりにある。肉が好物であるため、度々村に現れては人を襲って喰らうため、恐れられているのだ。


しかし、知能は低いため単体ではDランクであるが、群れをつくると一気にBランクへと跳ね上がる。基本的に1体で行動しているため、群れができるのは統括できるもの、すなわちジェネラルオーガいる可能性が高いのだ。


ジェネラルオーガはオーガに比べてすべての能力が高く、知能も高い。武器も操れるため、危険な魔獣として認識されている。


「ジェネラルオーガか……戦ったことがないし、これにしようかな?」


受ける依頼を決めたリュートは、依頼書をはがして受付へと向かう。今日はミーナは見当たらないため、カナへと渡す。


「おはよう、カナさん。久しぶりだね」

「おはよ~う!ランクアップおめでとー!すごいねえ、スピード出世だ!」

「あはは、今日はこれに行ってくるよ」


挨拶を交わし、リュートは依頼書を渡す。渡されたカナは、目を見開いて驚く。


「こ、これを受けるの?リュートくん」

「もちろん受けるよ。それがどうかした?」

「だってこれ、普通はパーティーで受けるような依頼だよ?リュートくんはソロだから、これはちょっと厳しいんじゃ……」


高ランクの依頼となると、多くはパーティーで受ける冒険者が多い。討伐ランクがグン、と上がるため、ソロでは厳しいからだ。さらに、リュートが受けようとしているのはジェネラルオーガが率いている可能性のある集落である。普通は一人で受けることはないのだ。


しかし、リュートはいつもの仮面付きの笑顔で言い切る。


「大丈夫。僕一人でも達成できるよ!」


それは揺るぎない自信からくる言葉だった。リュートは考えを変えないだろうと悟ったカナは、溜息を一つ吐き、諦めて依頼に印を押した。


「でも、気をつけてね?何があるかわからないんだから」

「心配してくれてありがとう、カナさん。大丈夫だよ」


心配そうな表情のカナに、礼を言ってギルドを出ようとするリュート。しかし、それを遮る者たちがいた。


大柄な男が3人。いずれも筋肉をこれみよがしに見せていて、正直、暑苦しいというのがリュートの気持ちだ。


3人はニヤニヤと笑いながら、リュートに話しかけてきた。


「よう、お前、Bランクになったんだって?どんな汚い手を使ったんだ?」

「……は?」

「は?じゃねえよ。お前みてえなチビで弱そうな男が、Bランクなんてなれるわけねえだろ!なにか卑怯な手を使ったに決まってんだろうが!」

「…………はぁ」


何を言っているのだろうか。リュートにはこの男が話している言葉の意味がわからない。しかし、両側にいる男たちも真ん中の男の言葉に同意見なようで、ニヤニヤしたまま何も言ってこない。


「おい、あいつ誰だ?」

「なんか、一昨日この国に来たばっかの余所者らしいぞ。たしか、剛拳のバッカスとか言ってたな、自称だけど」

「聞いたことねえな……。あいつ、ランクは?」

「Cって言ってたわよ?」

「マジかよ!意外と高えのな、あいつ」

「他の二人は?」

「さあ?」


周囲が聞こえるか聞こえないかの声量で話している。しかし、五感が異常なリュートにはバッチリ聞こえていた。


(なるほど。でも、Cランクであれって、大丈夫なのかな?とてもそうは見えないけど)


3人は見た感じ、馬鹿っぽいというのがしっくりくる。ただの脳筋のような気がするのだ。


「俺様はCランクのバッカスだ!剛拳のバッカス、覚えといて損はねえぜ?」

「それで、その剛拳のバッカスさんは、なんで僕が卑怯な手でランクが上がったと思うんですか?普通に実力という考えはないんですか?」

「さっきも言っただろうが!てめえみてえなのがBランクになれるんなら、俺様はSランクにだってなれるぜ!」

「さあ、さっさとはきな!」


他の二人は名乗ってこないので、モブ1、モブ2と呼ぶことにしたリュート。面倒くささの表れである名付けだ。


バッカスとモブ2が話せと言ってくるが、リュートは実力でなったのだ。二人の言い分は明らかに言いがかりなため、ため息しか出てこない。


リュートが何度も卑怯な手など使っていないと訴えるが、バッカスら3人は自分たちが正しいとでも言うかのように、取り合おうとはしない。


「なあ、あいつらってこないだの大会を見てないのかな?」

「そうなんじゃない?じゃなきゃ、あんな大口叩けるわけないって」

「それもそうだな」


周囲はすでに野次馬として見ているだけだ。助けはないらしい。


しかし、そこでリュートにとっては女神ともいえる助けが来た。


「は~い、そこまで!そこの大きなおじさんたち、リュートくんは、ちゃ~んと実力を証明してBランクになったんだよ。あなたたちが言ってるような事実は一切ないから!」


受付嬢として先ほどリュートと会話をしていたカナであった。騒ぎを聞きつけたカナは、人垣をこえてリュートの加勢に来てくれたのだ。


「あん?そうか……ここのギルドは基準がユルいんだな!」

「そうっすよ、アニキ!こんなモヤシがBなんてありえねえっすからね!」

「モヤ……!?」


モヤシと言われて少しショックを受けたリュートだが、周囲は完全に呆れている。ここはシュベリア王国のギルドだ。生半可な選定基準ではやっていけない所なのである。


カナも、3人のあまりの間抜けっぷりに、ため息を吐くことしかできない。


「よう嬢ちゃん。俺と付き合わないかい?俺様はいずれ、Sランクになる男だからな!」


ガハハと笑うバッカス。リュートからすれば、今のバッカスがいずれSランクになれるような男には見えない。強者特有の雰囲気も感じられないのだ。


(この人、いろいろ大丈夫なのかな?)


思わず心配したくなるレベルの三人は、ふと思いついたかのようにリュートに話し始めた。


「そうだ!いいこと考えたぜ!おい、モヤシ!てめえ、これから俺様と勝負しな!」

「……は?」

「てめえがBランクにふさわしくねえってことを、周囲に認めさせてやんよ!それとも、自分の弱さが露見するのが怖いのか?」


挑発のつもりだろうか?だとしたら、低レベルにも程がある。


話を聞く意味がないと考えたリュートは、きっぱり断ってさっさと依頼をはじめようと考えた。しかし、バッカスがある一言を言い放った。


「そう言えば、てめえ昨日、めちゃくちゃかわいいガキ連れてたよな?しかも奴隷の。俺が勝ったら、そのガキは俺たちがもらうぜ。代わりに、こっちは俺様愛用の魔剣をくれてやるよ」


そう言って、バッカスは腰から2対の双剣をとり、周囲に見せつけるように掲げた。


「まじかよ!?」

「あれ、本物か?」

「え゛、あいつって本当に強いのか?」


周囲が騒ぎ出す。


魔剣とは、剣を作る際に特殊な素材と方法で魔力をのせた剣であり、強力な効果を得られるのだ。


魔力の上昇や属性魔法が放てる剣など、得られる効果は鍛治師と素材次第で変わる。しかし、魔剣を作れる鍛冶師は圧倒的に少ないため、魔剣は希少であり値段も普通の剣とは比べ物にならない程に高い。そのため、魔剣を持っているだけでステータスとなる。


バッカスが見せたのは、間違いなく本物の魔剣であるとリュートは思った。感じ取れる魔力がかなり高いのだ。よほど腕のいい鍛冶師が作ったのだろう。


しかし、今のリュートにとって、そんなことはどうでもいい。バッカスは、リュートに言ってはならないことを笑いながら言い放ったのだ。


「カレンを、もらうって?」


殺気さえ含まれていそうな声で、リュートは一言返す。


リュートは「家族」というものに異常に反応してしまう。彼の前世での生い立ち故に、「家族」を心底大事に思っているのだ。


そんなリュートの「家族」をバッカスが勝負の景品としてよこせと言ってきた。まるで、カレンがただの物であるかのように。


「あなた、ふざけてるんですか?カレンは僕の大切な家族ですよ?差し出せと言われて、差し出すわけないじゃないですか」


声音は静かに、しかし、怒りに燃えた声で否定するリュート。そんなリュートに、バッカスは大笑いして再度、言い放つ。


「ガッハッハッ!てめえ、奴隷が家族だと?なら、俺様に勝てばいいじゃねえか!それとも、やっぱり負けて取られるのが怖いのか?ああっ!?」

「っ!?いいでしょう。その挑戦、受けてやりますよ」

「へっ。それでいいんだよ。そんじゃあ、俺様についてきな。裏の練習場でやろうぜ」


ここまで言われて黙っていられるはずもないリュートは、バッカスの挑発に乗ってしまう。これに慌てるのはカナだ。


「ちょ、リュートくん!?いいの!?」

「大丈夫。あんな人に負けるわけないよ」


絶対的な自信と闘志を秘めて、リュートはバッカスら3人の後ろへ続く。


「どうする……?」

「もちろん見に行くぜ!」

「そうだな!あのバッカスとかいう野郎、とんでもなくムカつくやつだ!」

「ああ、ぜひともリュートには、奴をぶちかまして欲しいな」


周囲で喧騒の様子を見ていた冒険者たちは、バッカスにイラついたらしい。リュートによってボコボコにされることを願って、そして、半分暇つぶしの野次馬としてついて行く。


しかし、カナやその他の受付嬢たちは仕事であるため、持ち場を離れるわけにはいかない。なんともモヤモヤした気持ちの彼女らは、ジャンケンで一人が残る、ということにしたのだ。


どのみち、この時間帯、本来依頼を受けに来る冒険者は皆無に等しいのだ。ギルド内も閑散とした様子であるため、一人で対処可能と判断したのである。


「じゃあ、いくよ~!じゃ~んけ~ん」


「「「「ぽんっ!」」」」


4人のうち、グーが3人。チョキが1人。見事に一回できまってしまった。そして、居残りが決定したものは


「なんでよ~~~~っ!?」


カナだった。目に涙をいっぱいためて、本気で悔しがっている。


「じゃあね~!」

「お仕事、がんばってねぇ!」

「あなたの分まで、しっかり見てきてあげるから!」


3人はニヤニヤと、カナからすればムカつくような笑みでカナによろしく言い、急いで集団に追いつく。


ギルド内には、カナ一人がぽつんと残っていた。

はい、出ましたバカが。 次回はリュートvsバッカスです。


お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ