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銀の魔法

外に出た2体は、まずは当然、魔力の操作から始める。


「まずは魔力を操れるようになること。それが出来なきゃ話にならないわ。いい?私が魔法を使うところをよく見ててね」


ウンディーネは見本として、先ほどと同じように水を発現させる。見惚れそうになるが、せっかく見本としてやってくれているのだ。ちゃんと観察しなければならないと思い、真剣な眼差しになるリュート。


そんな折、あることに気付いた。


「……なんか、胸のとこから光が流れているように感じるんだけど……」

「あら、もうわかったの?そう、魔力は胸の位置から流れるのよ。生物なら心臓の位置からね」

「へぇ……よし、魔力は心臓の位置、光が流れるイメージで……」


目を瞑り、全神経を集中させていく。風の音、動物の鳴き声、林のざわめき。様々な音が聞こえてくる。少し離れた水の音すら聞こえている。


ウンディーネが見守る中、リュートは何かを感じ取った。


「……なんか、光る球、みたいなのがある。これを、えっと……」

「……え?」


リュートの言った言葉に少し遅れて反応すると、次の瞬間には、リュートの顔の前に炎が現れていた。


「……え?」

「やったぁぁああッ!僕も魔法が使えた!なにこれ凄く嬉しいんですけど!」


開始数分で、いとも簡単に魔法を扱えてしまったことに呆然としてしまうウンディーネ。対照に、リュートの方は大喜びだ。翼を広げ、足を踏み鳴らし、全身で喜びを表現している。


「……と、ととりあえず、火の属性はあるようね……」

「よし!次は――」


ウンディーネがどもったように告げると、リュートはまたしても目を瞑り、集中し始めた。先ほどよりも早く、今度は水を生み出した。


「え……?」


またもや驚くウンディーネ。先ほどから「え?」しか言っていない。再度目を瞑り、コツをつかんだのか、さらに早く魔法を発現させる。今度はつむじ風だった。



その後も回数を重ね、結果わかったのは、龍神には六属性全てが扱えているということだった。


「さすが龍神、チート万歳!」

「……言っておくけど、普通じゃないんだからね、それ。属性には“反性”というのがあって、火と水、風と土、光と闇は対の属性なの。互いが互いを消し合うから、本来“反性”が一つの肉体に流れることはないわ。そうでなきゃ、魔法の発動時に体内で反属性同士がぶつかり合って、確実に死んじゃうのよ」

「でも、実際に使えたよ?」

「……だから、ありえないのよ。まったく、生命体としてどうなの、それ……?」


生命体であるかどうかを疑われてしまった。疲れたように説明する彼女に対してリュートが思ったことは、すごいことなんだな、ただそれだけだった。リュートの言葉で言えば、「チート」で済ませられるからだ。


そんな事を考えていると、ある一つのことに思い当たる。


「……そう言えばさ、光の玉から魔力を流すというよりも、光の玉から魔力を千切るイメージでやってたんだけど……これって人それぞれなの?」

「確かに人それぞれだけど、千切るイメージなんてしないわよ?魔力は体内にある魔力回路を通って全身にいきわたるんだから。つまり、一つの“流れ”があるのよ」


首をかしげる二体。またしてもリュートは、普通ではないことを行っていたらしい。というわけで、今度はちゃんと「千切る」ではなく「流れる」イメージで挑戦してみる。


何故だかいい予感がしなかったため、ウンディーネは少しリュートから距離をとる。


「流れるイメージ、流れるイメージ、流れるイメージ…………きたッ」


きた、そう思った瞬間、リュートは自身の中をものすごい勢いで流れていく、これまでとは違った()()の魔力を感じた。


そして、この魔力を使うにあたり、体が勝手に動いたように感じる。まるで、元々知っていたかのように、ごく自然に。


魔力を集めるのは手元ではなく口元。凝縮・圧縮させた魔力は()の輝きを放ち、空気を震わす魔力量を持っていた。


「ちょッ!?ま、待ちなさ――――ッ!?」


その異常性に気付いたウンディーネは、慌てて止めようとする。しかし、時、すでに遅し。圧縮された銀の魔力は、放たれてしまった。




――――“竜の息吹(ドラゴン・ブレス)




竜の必殺技として最も知られている魔法。


まるでレーザー砲の如く突き進む銀の光は、目の前の森を、山を、偶然その直線状にいた魔獣たちを、音もなく、跡形もなく、消し去ってしまった。


まばゆいばかりの光に思わず目を瞑りそうになる。


「……銀の、柱……二光のうち、終わりの象徴……」


呆然とその光景を見、それが、伝承に在った通りのものだと実感する。間違いなく、二光が一柱、龍神の力なのだと。


やがてブレスは小さくなり、魔力の途切れとともに消える。光が収まった先の光景を、リュートとウンディーネは目にした。そして、言葉を失った。



銀のブレスが当たった箇所は全て、キレイさっぱり無くなっていた。マグマや炎のが当たったように焼き焦げた跡でもなく、風や土でえぐったような跡でもない。最初からそこには何もなかったかのように、森は消え去り、山に穴が開き、大地が凹んでいた。



“消滅”――それが、龍神の魔力【混沌(カオス)】の特性。すべての終わりを告げると言われる所以である、銀光の力。


「あ~~うん……わかったよ」

「……一応聞くけど、何かしら……?」

「これが、僕本来の魔力の属性。全六属性を混ぜ合わせ、打ち消し合った反性が現れた魔力の集合体。だからこそ、混沌(カオス)から切り離した魔力はそれぞれの属性に変化する」

「何故そこまでわかるの?まるで、最初から知ってたみたいに……」

「さあね。自然と頭の中に浮かび上がってくるんだ」


リュート本人が一番不可解な表情をしている。それを見て、逆にウンディーネの方が落ち着いてきたほどに。


「まったく、あなたはついさっき生まれたばかりなのよ?それが、生まれてすぐに魔力を扱うようになって、自分の魔力の特性すら知ってる……伝承って普通、遜色がつくものだけれど、龍神に関しちゃ全く遜色ないわね」

「あはは~……」


リュート自身が驚いているのだ。ウンディーネが呆れるのも仕方がない。しかし、世界をどうこうできる力を持つとすら言われているのだから、普通であるはずがないのはわかりきっていたことである。


「もういいわ、あなたのすることで一々驚いていたらキリがないもの。こっちが慣れた方がはやそうね」


人はそれを、諦めという。どこか遠い目をしているのもそのせいだろう。




「魔力検証も終わったし、あなたこれからどうするの?」


それは、ここで生きていくのか、それとも外の世界に行くのかということだろう。リュート本人としては外の世界に興味があるが、それでもファンタジーな世界だからと浮かれてばかりはいられないのだ。


「いや、僕はここにいるよ。ここでもっと力をつけて、強くなって。そしたら外の世界にいこと思う。せっかくのチート、いろいろ試したいこともあるしね」

「あなたなら、際限なく強くなっていきそうね……。まあいいわ、そういうことなら、私がいろいろ教えてあげる」

「いいの?僕としてはありがたいんだけど……」


知らない土地に来た以上、知識が最も重要なものとなった。そんな中で協力してくれる者がいるのは、とても心強い。確認してみると、ウンディーネからは笑顔で「もちろん!」と返って来た。


「それじゃあよろしくね、ウンディーネ」

「ええ、久しぶりに相手ができて私も嬉しいもの。これからよろしくね、龍神さ……リュート」


リュートが諦めと共に死した後、新たに生まれ変わったのは“龍神”という存在。そこで出会った最初の友、ウンディーネ。


前世では味わったことのない昂揚感に、リュートは今生こそ、楽しく生きていこうと決意を秘めた。





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